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三番勝負
転校生は同居人
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※※※※※※※
てな感じで前置きが長くなっちゃったけど、再び現在。
「何処へやったんだ、閻魔帳。早く出せ」
「そ、そんなの知らないわよっ!」
「お前が来た日に無くなったんだぞ?お前しか考えられねぇ!」
「女とイチャイチャしてほったらかしてるから失うんでしょ!そんなの知るか」
「なんだと、このドブス!返さねぇならお前を地獄に送ってやる!」
「はあー??よくもそんなことが言えるわね!そしたら地獄で言いふらしてやる!閻魔大王は酒飲み過ぎて酔っ払った挙げ句に、女とヤりたいがために閻魔帳をほったらかしにして無くしましたとさ!」
ツン!と横を向いた私に、閻魔の歯軋りが聞こえた。
何も言い返してこないと言うことは、少しは焦ってたりして!頑張れ、私!
「いいのかなー!女にうつつを抜かして閻魔帳無くしちゃうなんて、死後の世界で示しがつかないんじゃないのぉっ!?それに、あの蘭って女の人、あんたのお父さんの恋人っぽかったよね!?だって、アンタのお父さんに抱きついて甘ったるい声出してたもの。そこまで見境ないタラシ男が閻魔大王だなんて、世界中の恥でしかないわ!」
言い終えて閻魔を見据えると、彼は端正な顔を歪ませ屈辱のあまり私を睨みつけた。
真っ黒だとばかり思っていた閻魔の瞳は黒に近い深みのある紫色で、私はその美しさにうっかり見惚れそうになるのを必死でこらえた。
負けないわよ、朱里のためだもの!
彼女には、夢がある。弁護士になって弱者を助けるって夢があるんだから!!
二十歳の若さで死ぬなんて、しかも地獄行きなんてありえないっつーの!!
閻魔は怒りに震えながら、私を睨み続ける。
私はというと、この嘘がいつバレちゃうのかと気が気じゃなかった。
閻魔帳を持って帰ろうと決心した時点で、こうなることは大体分かっていた。
無関係の私が言うのもなんだけど、閻魔帳がなかったら死者を審判出来ないだろうし。しかも相手は閻魔大王なのだ。
持って帰ってきた閻魔帳は、私の机の引き出しの中に教科書と一緒に放り込んである。
閻魔が魔法とか神通力とか使えるか知らないけど、使えないとしても探されたら速攻でバレるレベルだ。
だから、私のつまんない嘘なんてお見通しなんじゃないかって、怖かったの。
しかも盗んできた閻魔帳はまるで読めなかったし。
きったない字に加えて、字に意思があるかのように文字が紙の上を忙しなく動き回るのだ。
仁に見せてもまるでお手上げで、今のところ解読不可能だ。
だけど、目の前の閻魔は私のマシンガン攻撃になす術もなくなっている。
……という事は……。
コイツ、閻魔帳がなけりゃなんも出来ないんじゃないの?
お祖母ちゃんは閻魔様は何もかもお見通しだって言ってたけど……お見通しなのはコイツじゃなくて、閻魔帳だったりして。
だからつまり、閻魔帳自身が全ての人間を記憶しているのであって、閻魔はただ単に閻魔帳の所有者なだけで……。
絶対そうだわ。焦りまくりだし。
フッ、ダサ。
私は腕を組むと少し顎を上げ、勝ち誇った顔で閻魔を見つめた。
「さ、もう帰ったら?閻魔がいなきゃ死後の世界は大忙しでしょ。さよーなら」
言い終えてクルッと背を向けると、私は部屋のドアを開けて再び閻魔を見た。
「さ、帰って」
閻魔は浮くのをやめて床に降り立つと、私に近付きながらニヤリと笑った。
それからなんの躊躇もなく端正な顔を傾けると私の頬にまたしてもキスをして、至近距離から甘く瞳を光らせた。
その通った鼻筋と清潔そうな口元が、私の鼓動を跳ねさせた。
な、な、なにすんのーっ!!
「ぎゃあっ!へ、変態っ!勝手にキスするなっ!」
咄嗟に振り回した私の手首を難なく掴むと、閻魔は少し眉を上げた。
「なんだよ、照れてんのかよ」
言いながら長身を屈めて私の顔を覗き込むと、閻魔は更にニヤニヤと笑った。
「もう一回してやってもいいぜ、閻魔帳を返したらな」
ドキッとしたのは閻魔のキスのせいか、閻魔帳のせいなのか。
熱い顔をどうする事も出来ずに硬直した私に、閻魔はクスリと笑った。
「じゃあまたな、ルナ」
またな、じゃねーよっ!もう来るなっ!くそっ、ムカつく。閻魔にも、ドキドキした自分にも。
「絶対、諦めないんだから」
私は大きく息をつくと、机の引き出しを開けて閻魔帳に視線を落とした。
※※※※※
「ねえ、仁」
「ん?」
私は仁とベッドに寝転がってポツポツと口を開いた。
「誰か閻魔帳読める人いないかなぁ。朱里は死後の世界にはいないらしいの。となったら閻魔帳を読んで朱里の今後を知りたいの」
私がそう言うと仰向けだった仁が身体の向きを変えて、私の頭を撫でた。
「ごめんな、ルナ。俺が早とちりしたから」
仁は、私が幼い頃から姿が変わらない。
だから年々、年齢的には私が仁に近づいていってるけれど、私にその違和感は感じない。
本当のお兄ちゃんみたいに、いつも私に優しくしてくれるし、仁といたら、凄く安心する。
……彼は夢魔で、普通の人間には見えないけど。
私は仁の手首をつかんで彼の掌を自分の頬に密着させると、首を振った。
「仁は悪くないよ。私がちゃんと分かってなくて、説明が悪かっただけ。こっちこそせっかく協力してくれたのにごめんね」
私が少し笑うと、仁は赤い瞳に柔らかな光を浮かべて眉を少し下げた。
「それより身体は復活したか?俺が生気を吸っちまっただろ」
「平気だよ。気にしないで。それよりもう夢に戻って」
「……ああ」
仁は夢魔だから、人の夢の中が住み家だ。
あまり長く現実世界にいると、疲れるらしい。
「またな。ルナ」
「ん」
私は仁が帰っていくのを見届けた後、部屋を出るとバスルームへと向かった。
※※※※※
翌日。
朝のホームルームで、私は担任の浅谷先生の隣に立っている男子を見て硬直した。
「きゃあ、凄くかっこいい!」
「最高!」
同じクラスの亜子ちゃんがソッと私を振り返ると、眉を寄せて溜め息をついた。
私はといえば、亜子ちゃんに言葉を返す余裕もなく、ただただ黒板の前の男子生徒を張り付いたように凝視するしかなかった。
もう、信じられない。なんでコイツがここに!?
息の止まっている私を気にもとめず、先生はクラスを見回して口を開いた。
「今日から同じクラスになる石川君だ。卒業まであと半年を切ってしまったが、仲良くしてやってくれ。ちなみに石川君は中西ルナの親戚で、家庭の事情から中西の家から通う事になってる。石川君、自己紹介の後、中西の隣の席について」
は、はあー??ちょっと先生、そんな事あるわけないでしょ、しっかりしろっ!
私は思わず椅子を鳴らして立ち上がってしまったけれど先生は全くの素で、黒板に『石川円真』と書いた後、
「さ、石川君挨拶して」
なんで閻魔が?!って思ったのはほんの一瞬で、彼が閻魔帳を取り返すために現世に居座ろうとしているのが、すぐに分かった。
どうしよう、どうしよう!
その時、再び亜子ちゃんが私を振り返り、押し殺した声を出した。
「サプラーイズ、サプラーイズ」
怖い。亜子ちゃんの眼が怖い。
「いや、あのね亜子ちゃん!」
どう取り繕えばいいのか分からないまま私が焦って亜子ちゃんを見つめると、彼女はわざとらしく眼を細めて不満気に囁いた。
「……ルナ、後で話あるからね」
あ、亜子ちゃん……。
「中西。マネキンみたいに突っ立ってないでさっさと座れ」
ちょっと先生、マネキンより閻魔をどーにか……。
「よう、ルナ」
力なく席についた私の隣に腰を下ろしながら、挨拶を済ませた閻魔がニヤッと笑った。
「何しに来たのよっ!」
女子を中心に、クラスメイトが私達の会話に興味津々だというのに、私は言わずにはいられなかった。
そんな私に、閻魔はまるで動じる事がなかった。
「何考えてんの!?」
「そりゃあお前」
光に透けて、わずかに紫に見えるツンツンの黒髪を両手で撫で付けるように触れ、閻魔は斜めから私を見つめて甘く笑った。
「キスとやらをしに来たに決まってるだろ」
キ、キ、キス!!
目眩がした。
※※※※※※
なんとか一日の授業をこなし、わけの分からない言い訳でようやく亜子ちゃんをなだめ、やっと放課後になった頃、私は心身ともに疲れ果てていた。
……帰ろう。女子に狙われている閻魔が眼の端に映り、私は素早く帰り支度を始めた。
今のうちだわ。なにが、うちから通学するよ。冗談じゃないわ。それなのに、
「ねえ、石川君の円真って名前、珍しくない?」
クラスの女子数人が閻魔を囲み、キャッキャとまとわりついた。
すると閻魔は机に腰掛け、そう言った女子を見つめて微笑んだ。
「閻魔は有名だろ。なんてったってあの世の審判だからな。それより石川ってのがいいだろ?」
「え?」
たちまち囲み女子たちが首をかしげた。
閻魔はそんな彼女達を前に、昔を懐かしむように遠い眼をして続けた。
「俺がまだガキだった頃だ。確か文禄三年だったか……天下の大盗賊、石川五右衛門の地獄行きが決定してな。まあ、先代の閻魔……父上が言うには初江王(しょごうおう)がかなり強くヤツの地獄行きを押したもんで、石川五右衛門は地獄八種の中でも一番辛い阿鼻地獄行きになったんだ。あの時阿鼻地獄で、悲鳴ひとつ上げなかったアイツを思い出して名字を石川にしてみたんだがどうだ?円真と合ってるだろ」
全員ぽかーん……。
な、なに言ってんの、アホかっ!
ヤバイと思った時には既に遅く、閻魔を囲んで頬を染めていた女子達の動きが止まった。
「じゃあね、みんなバイバイッ!」
焦った私は彼女達をかき分けると閻魔のスクバを肩にかけ、ガシッと彼の腕を掴むと教室を飛び出した。
それから全速力で階段をかけ降り、校舎を飛び出したところでようやく私は閻魔の腕を離した。
「なんだよ、お前は騒々しい女だな」
私は呆れたようにこっちを見下ろした閻魔に、敢然と言い返した。
「バカか、あんたはっ!なにが文禄三年じゃ!それに石川五右衛門の死んだ時が子供の頃とか、引くに決まってるでしょ!」
鼻息も荒く私が閻魔を見上げてそう言うと、彼は首をかしげた。
「なんでだよ」
「なんでって、人はそんな長生き出来ないのっ。あんたが変に思われるんだよ?!」
私がそう言って睨むと、閻魔は驚いたように少し眉を上げた。
「……」
「……なによ」
「お前、俺が心配なのか?」
はあっ?!
長身を屈め、閻魔は黒に近い濃い紫の瞳で私を正面から捉える。
次第に心臓が激しく脈打ち、私は咄嗟に胸に手を当てた。
掌に、ドクンドクンと鼓動を感じる。……なんでこんなにドキドキすんのっ。
私は閻魔から眼をそらしてツンとそっぽを向いた。
「そんなわけないじゃん!」
「ふーん」
閻魔はニヤニヤと笑った。
私はそれを忌々しく思いながら、再び閻魔を見上げた。
「あんた、どんなセコい技使ったわけ?何が転校生よ」
「俺は閻魔だぜ。こんなの朝飯前だ。まあ、一種の神通力だな。簡単な術だ」
「もしかして本当に私の家に住み着く気じゃないでしょうね!?」
「閻魔帳が見つかりゃすぐに帰ってやるよ」
「し、知らないもん」
「あっそ。じゃあ帰るぞ」
言いながら閻魔が私の手を握った。
「カバンかせ。お前の分も」
そう言って閻魔が私の肩からスクバを取った
時、少し離れたところからキャアという女子の声が響いた。
見ると一、二年の女子の集団が閻魔を見て、ヒソヒソ何か話している。
閻魔もそれに気付いたらしく、形のよい唇に微笑みをたたえたまま彼女達に視線を投げた。
たちまち黄色いざわめきが生まれる。
「イイ男はどこでもモテモテで困るぜ」
自分で言うな!
私は、あからさまに閻魔を気に入ったというような彼女達を見ながら口を開いた。
「どーせなら、あの子達にも文禄三年の話聞かせて上げたら?!更にモテモテになるかもよ」
「おー、それもいいかもな。せっかくだからこの世の女も味見しとくか」
端正な顔で私を見下ろした閻魔が、なんかめちゃくちゃイラつく。
「そーすれば?じゃあね!」
そうよ。よく考えたら、閻魔に構ってる暇なんかない。
朱里の病院行かなきゃならないし、パパとママが来月末まで仕事の関係でいないから、買い物に行かなきゃならないし。
私はクルッと閻魔に背を向けると、彼をほったらかしたまま正門を目指して駆け出した。
※※※※※
「本当?!おばさん!」
「うん。今日の昼にね、意識が戻ったの」
朱里の意識が戻った……!
「何処に行ったの?会いたい」
私は、ベッドのなくなった朱里の部屋でおばさんに尋ねた。
「ICUに移ったのよ。だから今は会えないの」
朱里は今まで、お医者様が手を尽くしたけど意識が戻らなくて成す術が残っていなかった為に、脳外科病棟の個室にいた。
「そっか、意識が戻ったからICUに……」
「ルナちゃんありがとね。まだ朱里はなにも分かっていない状態で記憶もめちゃくちゃなの。でも意識が戻った事が奇跡だって先生が」
良かった!!良かった!!
「じゃあ、会えるようになったら知らせてね」
私は涙が出そうになるのをこらえながらおばさんに手を振って、家路についた。
※※※※※※
買い物を済まし、冷蔵庫に食材をしまうと、私はバスルームに直行して汗を流した。
あ。部屋から下着と部屋着を持ってくるの忘れた。……でもまあいいや。ひとりだし。
バスタオルを身体に巻き付け、二階の自室へと上がった私に、
「よう」
よう……。
よう、じゃねーよっ!
自分の部屋のドアを開けた私は、再びそれを勢いよく閉めて叫んだ。
「なにしてんのっ!?勝手に入んないでよっ!すぐ出てってっ!」
驚きのあまり廊下の壁にへばりついた私は、ガチャリと開いたドアに更におののく。
当然のごとく、部屋から出てきた閻魔と数十センチの距離で見つめ合うことになり、私は湯上がりに加えバスタオル一枚の自分を激しく後悔した。
「へえ……湯上がりか。イイ匂いだな」
閻魔は、自分の顎の辺りを撫でながら私を見下ろしてフウッと笑った。
「ガチャガチャ煩いだけの女かと思えば……以外と色っぽいな」
「バカッ!死ねっ!」
私は渾身の力で閻魔をドカッと押してドアから遠ざけると、素早くそれを開けて中に入った。
ドクンドクンと、鼓動が耳元でうるさい。私の部屋に鍵はない。早く服着なくちゃ!
「なー、そんなに怒んなよ。別に裸を見たわけじゃねーんだし」
「帰って!」
「閻魔帳返したらな」
……あ。そうだ。朱里の意識は回復したし、閻魔帳なんてもう必要ない。
私はニヤリと笑うと引き出しを開けた。
「閻魔、入ってきて」
私の声に、ガチャリとドアが開く。
「あ?」
「返す」
私の両手の中の閻魔帳を見下ろした後、閻魔はさほど驚かずに黙って私を見た。
男らしい頬をわずかに傾け、少し眼を細めた閻魔はとてもカッコよかった。
ああ、閻魔って、やっぱかっこいいんだな。
見つめれば見つめるほどそんなことをかんがえてしまうから、私は気分を変えるために小さく咳払いし、改めて口を開いた。
「閻魔。勝手に閻魔帳を持って帰っちゃってごめん。嘘ついて、本当にごめん」
やっぱり、私のしたことはダメな事だ。
最後くらいちゃんと謝らないとダメだ。
「閻魔。帰ったら……蘭さんに伝えて欲しいの。その……生意気言ってごめんって」
そう言った私を閻魔は暫く見つめていたけれど、やがて低い声を出した。
「……アッサリ返すんだな。どういう了見だ」
「朱里の意識が戻ったの。もう必要ない」
閻魔は私から閻魔帳を受けとると、それをパラパラと開いた後、呟くようにいった。
「話は変わるが……お前、取り憑かれてるぜ」
は?
「なんだって?」
閻魔はサラリと答えた。
「さっき、肩が見えた時に分かったんだ。お前は何かに取り憑かれてる」
「へっ、誰に?!」
閻魔は片手で閻魔帳を持つと、もう一方の手でパープルブラックの髪を撫で付けた。
「さあな」
……さあなって。
「なんで分かったの?」
「だからお前の肩に、印が」
肩……?私は、首を後ろに捻ると同時に肩を前方へ動かし、閻魔に言われた場所を見ようとした。
……なんだ。私はホッと息をついてまくりあげた半袖を元に戻した。
「これはね、アザよ。昔からあるの」
そう。昔からある星のようなアスタリスクのようにも見える、ごくごく薄いアザだ。
「昔っていつだ」
「忘れたよ」
「もっかい見せろ」
「やだ」
私は、こっちに腕を伸ばした閻魔にベエッと舌を出した。
その時、
「……きゃあっ!!」
右肩のアザの部分がズキッと痛んで、私は驚いて悲鳴を上げた。
「ルナ!」
痛みに驚いてグラリとよろけた私を閻魔が抱き止めて、
「おい、凄い汗だぞ」
なんか変だ。息が苦しい。
「閻魔……肩が痛いし気分悪い」
「おいルナ、しっかりしろ」
「閻魔、閻魔……」
どうしたらいいか分からず、私はただ閻魔を呼びながら彼の差し出した腕にしがみ付くしかなかった。
※※※※※※
誰かに髪を撫でられている感覚が、凄く気持ちいい。きっと、仁だ。
「仁……」
私は仁にすり寄りながら、いつものように彼の掌を頬に当てた。
「仁、気持ちいい」
「……ルナ」
…………?んっ?!
私を呼んだ声が仁の声じゃなくて、私はベッドの上でパチッと眼を開けた。
それから眼に飛び込んだ閻魔を見つけて、思わず悲鳴をあげる。
「ぎゃあっ!なにしてんのっ!」
勢いよく起き上がって距離をあけた私に、閻魔は眉を寄せた。
「平気か?」
「あ……うん、多分」
私を見る黒に近い紫の瞳が、なんか優しい。
……もしかして、私が倒れちゃったから帰るの遅れてるんじゃ……。
私は、起き上がってベッドの上で胡座をかいた閻魔に口を開いた。
「あの、ありがと」
「なにが」
「だから……ついててくれて」
私がそう言うと、閻魔は一瞬真顔になってから爽やかに笑った。
瞳を優しく光らせて、男らしい清潔そうな口元を少し引き上げて。
制服姿も手伝ってか、眼の前にいる閻魔はどこからどう見てもただのイケメン男子高校生で、とてもじゃないけど死者の国から来た閻魔大王だとは思えなかった。
……変な感じだ、凄く。
「わっ」
その時再び肩が疼いて、驚いて声をあげた私に閻魔が手を伸ばした。
ちょっとっ……。
引き寄せられた身体が傾いて、閻魔の胸に頬が当たる。
「うわっ」
閻魔の固い胸の感触にたちまち心臓がバクバクと響き出して、私は困った。
「や、閻魔、」
「やっぱ見せろ」
閻魔が私を胸に抱いた。な、んで。
好きな人も彼氏もいない私は、男の子にこんな風にされたことがない。
そんな私とは正反対で、閻魔は照れた様子もなく、私と密着していて……。
アタフタしている私を無視して、閻魔は私の半袖をまくりあげた。
「……」
暫く私の肩を凝視したあと、閻魔は低い声で私に問いかけた。
「お前、過去に人間以外と接触しただろ。このアザは、そういう人間に出来るアザだ」
私は袖を直した後閻魔から身を起こした。
「そんなのしょっ中だよ。私は昔から、普通の人間に見えないものが見えるんだもの。元に今だって、あんたみたいな不気味な男と……いひゃいじゃん!(痛いじゃん!)」
「無礼な奴だな。イイ男の間違いだろーが」
ムッとしたように眉を寄せた閻魔が、長い指で私の頬をグニッと捻った。
「とにかく」
閻魔はそこで一旦言葉を切ると、再び私を見て口を開いた。
「お前は魔物に狙われてる」
魔物?!嘘でしょ?そんなもんに狙われた覚えはまるでない。
「魔物って、アンタみたいな?」
「ケツぶっ叩くぞ」
……だって……。少し口を尖らせた私を忌々しそうに見た後、閻魔は唇をひきむすんだ。
「…………」
「…………」
なに、この沈黙。
「助けてやってもいいぜ」
「は?なんで?」
てゆーかさ。
「ねえ。帰らなくていいの?あんた閻魔でしょ?死者の審判は誰がするのよ」
「父上がやってる」
「あんたに代を譲ったんじゃないの?」
「口では譲るといってるが、元々審判は父上の天職だし、譲りたくなかったんだから喜んでやってるだろーよ」
「……ふーん。でも、閻魔帳私が持って帰っちゃったのに、仕事出来てたの?」
私がそう言うと、説明が面倒なのか閻魔はそっぽを向いた。……まあ、どーでもいいけどな。
それから閻魔は、なぜかイラついたように少し早口で言った。
「だから、お前は魔力の強いヤツに狙われてるんだよ。このままじゃ死ぬぞ。俺がそいつからお前を守ってやるって言ってんだよ」
だからなんでそーなるの。
閻魔にとったら私なんてとるに足らない存在だろうし、閻魔帳だって返したんだし骨折り損なんじゃないの?
閻魔帳持ってサッサと帰った方が楽じゃん。意味がわかんない、不気味。
「なんで?」
閻魔は訝しげに眉を寄せる私に、少し咳払いした後ニヤリと笑った。
「何故か?そんなの決まってるだろ」
閻魔は更に不敵な笑みを浮かべた。
「魔物を倒したとなると箔がつくだろ。ますます女にモテる」
どうしようもないな、コイツは。
「女と切り離して物事考えられないのか、あんたは」
私は呆れながら閻魔を睨んだ。
「死にたくなけりゃ、言うこと聞いとけ」
はいはい、信じてないけどな!
この時の私は自分が何かに取り憑かれてるなんて自覚がなかったし、閻魔の口からでまかせだと思っていた。
そう、閻魔の口からでまかせ。
すぐに帰るのもなんだからちょっとした旅行でもしようかと、その為の口実。
「はいはい」
閻魔は愛想のない私を愉快そうに見て、私の頭をクシャリと撫でると白い歯を見せて笑った。
※※※※※※
「仁、仁」
夕食後、私は自分の部屋に入ると、閻魔に気付かれないように仁を呼んだ。
ここのところ仁とは全く会ってなかったから、話がしたかったんだ。
「仁ー?」
何度か呼んだけど、彼は一向に現れない。仁、どうしちゃったんだろう。夢でなら……会えるだろうか。
ポスッと枕に顔を埋めてそう考えているうちに徐々に瞼が重くなり、私は次第に眠りに落ちていった。
「仁、仁、いないの?」
…………。
夢の中でも、私は仁に会えなかった。
※※※※※※
『その一、ルナの部屋に勝手に入らない』
『その二、料理も掃除も手伝うこと』
『その三、学校で変な話をしない』
思い浮かんだ項目を紙に書いて、私はリビングに貼り付けた。閻魔はそれを見ながら腰に手を当てていたけれど、
「なんだこりゃ」
キッチンへと移動する私の後を付いてきながら、彼はバカにしたようにそう言った。
「守らないなら出てって!私の家にいるなら、完全に人間の行動とってよ?中に浮いたり急に消えたり、イリュージョン禁止だからね!」
「ふん!チョロいわ」
「チョロいとか、誰に習ってんのよ」
私が眉を寄せて閻魔を見上げると、彼はニタニタと笑った。
「涼馬」
葛城涼馬か。
私はクラスメートで校内一のモテ男、涼馬の顔を思い浮かべて内心舌打ちした。
涼馬は『女子を喜ばせる為に俺は生まれた』が口癖のタラシ男で、何故かタラシと解りつつも女子達は涼馬が大好きだ。
「どーでもいーわ」
「お前が聞いたんだろ」
「今日の夕飯はピザだからね」
私が作り置きしていたピザの生地を冷凍庫から取り出しながらそう言うと、閻魔は眉を寄せた。
「ピザとは?」
ピザを知らないとは。
私は、冷蔵庫を開けようとした手を止めて閻魔を振り返った。
「ねえ。あんた普段なに食べてんの?」
私の質問に閻魔がニヤリと笑った。
「んー……女の手料理」
「あっそ。モテモテで良かったわね。だけど私の家にいるなら、これからは自分で作りなよね」
「なんだよ、守ってやるんだからお前がつくれ」
「知るか」
「腹へった」
私よりも大きくて逞しいくせに、拗ねたみたいにそう言った閻魔が幼い男の子みたいで、私は不覚にも彼を可愛く思って笑った。
「じゃあ、一緒に作るよ、ピザ」
「……っ」
なに。
私を驚いたように見た後、閻魔が気まずそうに眼をそらした。
「閻魔?」
「……」
変なの。
「ほら、ピーマン切って」
美味しくて感動するかもよ。
私は閻魔にピーマンを渡すと、ニッコリと笑った。
※※※※※※
何事も起こらないまま、平和に一週間が過ぎた。
閻魔はというとアッという間にクラスどころか学校にとけこみ、どこからどう見ても普通の男子高生といった感じだった。
校内では私が閻魔のイトコだという超間違った情報が瞬く間に広がり、そのお陰でやれ円真くんの誕生日はいつ?血液型はなに?好きな食べ物は?好きな女の子のタイプは?などなどの質問が私に寄せられて、もう本当に大迷惑だ。
「ちょっと閻魔っ」
私は教室の中央で男子達と盛り上がっている閻魔の腕を掴んで振り向かせた。
「なんだ?どうした?」
笑顔を残したまま私を振り返る閻魔は確かにイケメンだけど、私はそのせいで仕事が増えたようでムカつく。
「あのさ、あんたのファンが増えすぎて対処出来ないんだけど」
するとすかさず葛城涼馬以下三名が、私を見てニヤニヤと笑った。
「なんだよルナ。ヤキモチ焼いてんの」
はあ?!
「あ!そーいやさ、3組の高木海人が、ルナのLINEのID教えろって煩くてさ、教えといた」
「あんたバカかっ!勝手に教えないでよっ!」
本気でキレる私の頭をガシガシと撫でて、涼馬は続けた。
「いーじゃん。アイツ男前だし、いい奴だし。二年の時からルナ狙いだったんだぜ。近々、飯でも誘いたいってさ」
「ちょっと、やめてよ、涼馬っ」
焦る私に任せろ、と言わんばかりに涼馬が大きく頷いた。
「円真の事は任せとけって。女子の正しい扱い方をちゃんと伝授しておくから。近々、円真ファン集めて親睦会開く予定だしな」
なんなんだ、このタラシ集団は。もう知らんっ!
「あっそ!じゃあね!」
私は頭に置かれたままの涼馬の手をぶん投げるように放り出した。
踵を返す寸前、視線を感じて眼をあげると、真顔で私を見つめる閻魔と眼が合い、少し止まる。
なによその顔は。
ムッとしたように唇を引き結んで私を見ている閻魔が、理解不能だ。もしかして、
『魔物から守ってやってるんだから、俺のファンには神対応しろよな!』
なんて思ってるんじゃないでしょうね!?知らないからな、そんなの。
私はツン!と閻魔から顔を背けると、自分の席へと戻った。
※※※※※
「で、来たの?!高木海人から」
三時間目の休み時間、亜子ちゃんがキラキラした目で私のスマホを覗き込んだ。
「うん……」
そこには、
『中西さん、話があるんだ。放課後、三階の渡り廊下で待ってます』
「きゃー!!」
わざわざ高木海人からのLINEの文章を読み上げた挙げ句、亜子ちゃんが叫んだ。
「声がでかいっ」
咄嗟に私は彼女の口を手で塞ぎなから左隣の閻魔を見て、胸を撫で下ろした。
セ、セーフ……。
閻魔は机に力なく突っ伏してスースーと眠っている。
亜子ちゃんは閻魔をチラ見したあと私に向き直り小声で、
「コクられるな、こりゃ。で、どーすんの」
「いや、そんな。コクられると決まったわけじゃ」
「他に何があるってゆーのよ!告白以外にないわ!」
どーしよー……。私が困りきって亜子ちゃんを見つめていると、彼女はうんうんと頷いた。
「高木海人って、結構素敵だと思うよ。ルナも好きな人いないんだし、付き合えば?」
「そ、れは……ちょっと」
「なんで?!」
亜子ちゃんが眉間にシワを寄せて私を見た。
どうやら逃してくれそうにない亜子ちゃんの様子に、私は観念して口を開いた。
「ちゃんと好きになってから付き合いたい。相手の気持ち分かってるのに友達からとか、そういうのはなんかおんなじラインに立ってないみたいで嫌なの。
告白されたからとりあえず付き合ってみるとか、私には多分無理……」
「出逢いを無駄にしてるとしか思えないけど?もったいないじゃん」
私は困って、少し笑った。
「だよね。でも自分が好きになってから付き合いたい」
なぜか亜子ちゃんは呆れたようにワタシを見ていたけど、やがてニッコリと笑った。
「好きになれるよ。高木海人はカッコいいからさ」
※※※※
放課後。
三階にクラスはなく準備室や特別室の類いしかないために、渡り廊下にはあまり人がいない。放課後となると余計だ。
ただ静かで人が少ないから、座り込んでスマホをしたり読書をしたりする子たちはいるけど、だれも私と高木海人を気にする人はいなかった。
渡り廊下へとつながる重いガラスのドアを開けると、高木海人は先に来ていた。
彼は背の高いスラリとしたイケメンで、私の姿を見るなり少し照れたように自分の靴先に眼をやった。
「ごめんね、待った?」
「いや、俺こそ急にごめん。俺が無理矢理ID聞き出したんだ。だから涼馬を怒らないでやってほしいんだ」
真っ直ぐな眼差しと友人のフォローを忘れない彼の姿勢に、不覚にも私はキュンとしてしまった。
奥二重の涼しげな眼が綺麗。
「うん……」
もう怒りまくったけど、この爽やかな王子様を目の前にするとさすがに私もしおらしく頬を赤らめてしまった。だってカッコいいんだもん、頭よさそうだし。
「中西さん」
「はい」
小さく咳払いしたあと、高木君は私を見つめて静かな声で言った。
「俺、中西さんの事がずっと好きだったんだ。いつも笑顔で元気だし、困ってる子がいたら男女問わず助けてるだろ?凄く素敵な人だと思ってたんだけど、段々、それだけじゃなくなってきて。いつの間にか中西さんの姿ばかり探してしまうようになってて」
ボボボッと、顔が赤くなるのが自分でも分かった。誰かが私をこんな風に見てくれていたなんて信じられなかったし、凄く嬉しかった。
恥ずかしさのあまり俯いてしまった私に、彼は続けた。
「中西さんさえよかったら、付き合ってほしいんだ」
きたー……。
昼間教室で亜子に言った自分の言葉が脳裏によみがえる。
『ちゃんと好きになってから付き合いたい。相手の気持ち分かってるのに友達からとか、そういうのはなんか、おんなじラインに立ってないみたいで嫌なの。
告白されたからとりあえず付き合ってみるとか、私には多分無理』
この言葉は嘘じゃない。
けど、こんなイケメンがこんなに真っ直ぐ私を見つめて好きだって言ってくれているのに、断るって、なんか。
亜子ちゃんが言ってた。高木海人は素敵だからすぐに好きになれるって。
ホントに……すぐに好きになっちゃいそうだ。
ああ、でも……。どうしよう、どうしよう。
風が俯いた私の髪を乱して、更に気持ちがザワザワとした。
その時急に近くに足音を感じて、私は顔をあげた。次の瞬間、フワッと身体が浮いた。
「っきゃあっ!」
息を飲んでこっちを見つめる高木君が真っ先に視界に入って、それからすぐに私を荒々しく抱き上げた閻魔の顔が見えた。
至近距離からこちらを見下ろす閻魔の顔が不機嫌マックスで、私は混乱して硬直した。
なんで?!何で急に閻魔が来るわけ?!で、なんで私を抱き上げて怒ってんの?
張り付いたように見上げる私をしばらく閻魔は睨んでいたけれど、やがて小さく息をして目元を優しくした。
「心配させんな」
閻魔の甘い息と、髪に押し付けられた彼の唇。
やだ、うそ。
やがて閻魔は私の髪から唇を離すと、斜めに高木君を見てニヤリと笑った。
「悪いな。ルナは俺のもんなんだ」
「……っ!」
高木君が驚きの表情のまま、私を見た。
「ちょっと、閻魔っ」
「るせぇ、帰るぞ。帰ったらすぐ風呂」
ふ、ふ、風呂!
焦る私を見て、悪ノリした閻魔が精悍な頬を傾けてニヤリと笑った。
「一緒に入るか?」
なに言ってんのっ!
「バカッ!下ろして!」
バシバシと閻魔の胸を叩く私に、彼は甘く笑った。
「照れんなって。早く二人きりになろうぜ」
なんなんだ、コイツは。
私を抱き上げたまま渡り廊下を闊歩する閻魔が意味不明で、どっと疲れた。
閻魔は開け放たれたままの扉から校舎に入ると、すぐ左の階段をかけ降りた。
「早く下ろしてっ!」
「分かった分かった!あー重」
なんだとっ!?
階段の踊り場に下ろされた私は、閻魔を壁際に追いやり、彼の胸をボカッと殴った。
「重くて悪かったな!誰も抱っこなんか頼んでないわ!しかもなに!なんで来た?!私、高木海人に告白され中だったんだよ?!」
怒りのあまり私が叫ぶと、閻魔は唇を引き結んだ。
「…………」
「答えろっ!」
どうしてくれんの?!すっごいドキドキでキラキラした告白をされていたところなんだぞ!
あんなイケメンから、あんな素敵な告白をされることなんて、恐らく一生ないわっ!
なのになのに、急にしゃしゃり出やがってーっ!
急に現れた閻魔が、どうして高木海人の告白をぶち壊しにしたのかが知りたくて、私は閻魔を見つめた。
なのに閻魔ったら、私を見下ろしてチッと舌打ちしたあと、
「あー、うるせえ!」
「はあ?!なにそれ!」
「知るかよ」
閻魔はツン!と横を向き、手すりの上のガラス張りから見える校庭に眼をやると、スボンのポケットに両手を突っ込んだ。
なにその態度。
「あっそう!!もういいよ!」
閻魔様の気紛れってか?!クソッ!閻魔帳破り捨てるぞ、このやろーっ!
私は身を翻すと正面玄関を目指して残りの階段を駆け降りた。帰っても絶対、閻魔と口をきかないって誓いながら。
てな感じで前置きが長くなっちゃったけど、再び現在。
「何処へやったんだ、閻魔帳。早く出せ」
「そ、そんなの知らないわよっ!」
「お前が来た日に無くなったんだぞ?お前しか考えられねぇ!」
「女とイチャイチャしてほったらかしてるから失うんでしょ!そんなの知るか」
「なんだと、このドブス!返さねぇならお前を地獄に送ってやる!」
「はあー??よくもそんなことが言えるわね!そしたら地獄で言いふらしてやる!閻魔大王は酒飲み過ぎて酔っ払った挙げ句に、女とヤりたいがために閻魔帳をほったらかしにして無くしましたとさ!」
ツン!と横を向いた私に、閻魔の歯軋りが聞こえた。
何も言い返してこないと言うことは、少しは焦ってたりして!頑張れ、私!
「いいのかなー!女にうつつを抜かして閻魔帳無くしちゃうなんて、死後の世界で示しがつかないんじゃないのぉっ!?それに、あの蘭って女の人、あんたのお父さんの恋人っぽかったよね!?だって、アンタのお父さんに抱きついて甘ったるい声出してたもの。そこまで見境ないタラシ男が閻魔大王だなんて、世界中の恥でしかないわ!」
言い終えて閻魔を見据えると、彼は端正な顔を歪ませ屈辱のあまり私を睨みつけた。
真っ黒だとばかり思っていた閻魔の瞳は黒に近い深みのある紫色で、私はその美しさにうっかり見惚れそうになるのを必死でこらえた。
負けないわよ、朱里のためだもの!
彼女には、夢がある。弁護士になって弱者を助けるって夢があるんだから!!
二十歳の若さで死ぬなんて、しかも地獄行きなんてありえないっつーの!!
閻魔は怒りに震えながら、私を睨み続ける。
私はというと、この嘘がいつバレちゃうのかと気が気じゃなかった。
閻魔帳を持って帰ろうと決心した時点で、こうなることは大体分かっていた。
無関係の私が言うのもなんだけど、閻魔帳がなかったら死者を審判出来ないだろうし。しかも相手は閻魔大王なのだ。
持って帰ってきた閻魔帳は、私の机の引き出しの中に教科書と一緒に放り込んである。
閻魔が魔法とか神通力とか使えるか知らないけど、使えないとしても探されたら速攻でバレるレベルだ。
だから、私のつまんない嘘なんてお見通しなんじゃないかって、怖かったの。
しかも盗んできた閻魔帳はまるで読めなかったし。
きったない字に加えて、字に意思があるかのように文字が紙の上を忙しなく動き回るのだ。
仁に見せてもまるでお手上げで、今のところ解読不可能だ。
だけど、目の前の閻魔は私のマシンガン攻撃になす術もなくなっている。
……という事は……。
コイツ、閻魔帳がなけりゃなんも出来ないんじゃないの?
お祖母ちゃんは閻魔様は何もかもお見通しだって言ってたけど……お見通しなのはコイツじゃなくて、閻魔帳だったりして。
だからつまり、閻魔帳自身が全ての人間を記憶しているのであって、閻魔はただ単に閻魔帳の所有者なだけで……。
絶対そうだわ。焦りまくりだし。
フッ、ダサ。
私は腕を組むと少し顎を上げ、勝ち誇った顔で閻魔を見つめた。
「さ、もう帰ったら?閻魔がいなきゃ死後の世界は大忙しでしょ。さよーなら」
言い終えてクルッと背を向けると、私は部屋のドアを開けて再び閻魔を見た。
「さ、帰って」
閻魔は浮くのをやめて床に降り立つと、私に近付きながらニヤリと笑った。
それからなんの躊躇もなく端正な顔を傾けると私の頬にまたしてもキスをして、至近距離から甘く瞳を光らせた。
その通った鼻筋と清潔そうな口元が、私の鼓動を跳ねさせた。
な、な、なにすんのーっ!!
「ぎゃあっ!へ、変態っ!勝手にキスするなっ!」
咄嗟に振り回した私の手首を難なく掴むと、閻魔は少し眉を上げた。
「なんだよ、照れてんのかよ」
言いながら長身を屈めて私の顔を覗き込むと、閻魔は更にニヤニヤと笑った。
「もう一回してやってもいいぜ、閻魔帳を返したらな」
ドキッとしたのは閻魔のキスのせいか、閻魔帳のせいなのか。
熱い顔をどうする事も出来ずに硬直した私に、閻魔はクスリと笑った。
「じゃあまたな、ルナ」
またな、じゃねーよっ!もう来るなっ!くそっ、ムカつく。閻魔にも、ドキドキした自分にも。
「絶対、諦めないんだから」
私は大きく息をつくと、机の引き出しを開けて閻魔帳に視線を落とした。
※※※※※
「ねえ、仁」
「ん?」
私は仁とベッドに寝転がってポツポツと口を開いた。
「誰か閻魔帳読める人いないかなぁ。朱里は死後の世界にはいないらしいの。となったら閻魔帳を読んで朱里の今後を知りたいの」
私がそう言うと仰向けだった仁が身体の向きを変えて、私の頭を撫でた。
「ごめんな、ルナ。俺が早とちりしたから」
仁は、私が幼い頃から姿が変わらない。
だから年々、年齢的には私が仁に近づいていってるけれど、私にその違和感は感じない。
本当のお兄ちゃんみたいに、いつも私に優しくしてくれるし、仁といたら、凄く安心する。
……彼は夢魔で、普通の人間には見えないけど。
私は仁の手首をつかんで彼の掌を自分の頬に密着させると、首を振った。
「仁は悪くないよ。私がちゃんと分かってなくて、説明が悪かっただけ。こっちこそせっかく協力してくれたのにごめんね」
私が少し笑うと、仁は赤い瞳に柔らかな光を浮かべて眉を少し下げた。
「それより身体は復活したか?俺が生気を吸っちまっただろ」
「平気だよ。気にしないで。それよりもう夢に戻って」
「……ああ」
仁は夢魔だから、人の夢の中が住み家だ。
あまり長く現実世界にいると、疲れるらしい。
「またな。ルナ」
「ん」
私は仁が帰っていくのを見届けた後、部屋を出るとバスルームへと向かった。
※※※※※
翌日。
朝のホームルームで、私は担任の浅谷先生の隣に立っている男子を見て硬直した。
「きゃあ、凄くかっこいい!」
「最高!」
同じクラスの亜子ちゃんがソッと私を振り返ると、眉を寄せて溜め息をついた。
私はといえば、亜子ちゃんに言葉を返す余裕もなく、ただただ黒板の前の男子生徒を張り付いたように凝視するしかなかった。
もう、信じられない。なんでコイツがここに!?
息の止まっている私を気にもとめず、先生はクラスを見回して口を開いた。
「今日から同じクラスになる石川君だ。卒業まであと半年を切ってしまったが、仲良くしてやってくれ。ちなみに石川君は中西ルナの親戚で、家庭の事情から中西の家から通う事になってる。石川君、自己紹介の後、中西の隣の席について」
は、はあー??ちょっと先生、そんな事あるわけないでしょ、しっかりしろっ!
私は思わず椅子を鳴らして立ち上がってしまったけれど先生は全くの素で、黒板に『石川円真』と書いた後、
「さ、石川君挨拶して」
なんで閻魔が?!って思ったのはほんの一瞬で、彼が閻魔帳を取り返すために現世に居座ろうとしているのが、すぐに分かった。
どうしよう、どうしよう!
その時、再び亜子ちゃんが私を振り返り、押し殺した声を出した。
「サプラーイズ、サプラーイズ」
怖い。亜子ちゃんの眼が怖い。
「いや、あのね亜子ちゃん!」
どう取り繕えばいいのか分からないまま私が焦って亜子ちゃんを見つめると、彼女はわざとらしく眼を細めて不満気に囁いた。
「……ルナ、後で話あるからね」
あ、亜子ちゃん……。
「中西。マネキンみたいに突っ立ってないでさっさと座れ」
ちょっと先生、マネキンより閻魔をどーにか……。
「よう、ルナ」
力なく席についた私の隣に腰を下ろしながら、挨拶を済ませた閻魔がニヤッと笑った。
「何しに来たのよっ!」
女子を中心に、クラスメイトが私達の会話に興味津々だというのに、私は言わずにはいられなかった。
そんな私に、閻魔はまるで動じる事がなかった。
「何考えてんの!?」
「そりゃあお前」
光に透けて、わずかに紫に見えるツンツンの黒髪を両手で撫で付けるように触れ、閻魔は斜めから私を見つめて甘く笑った。
「キスとやらをしに来たに決まってるだろ」
キ、キ、キス!!
目眩がした。
※※※※※※
なんとか一日の授業をこなし、わけの分からない言い訳でようやく亜子ちゃんをなだめ、やっと放課後になった頃、私は心身ともに疲れ果てていた。
……帰ろう。女子に狙われている閻魔が眼の端に映り、私は素早く帰り支度を始めた。
今のうちだわ。なにが、うちから通学するよ。冗談じゃないわ。それなのに、
「ねえ、石川君の円真って名前、珍しくない?」
クラスの女子数人が閻魔を囲み、キャッキャとまとわりついた。
すると閻魔は机に腰掛け、そう言った女子を見つめて微笑んだ。
「閻魔は有名だろ。なんてったってあの世の審判だからな。それより石川ってのがいいだろ?」
「え?」
たちまち囲み女子たちが首をかしげた。
閻魔はそんな彼女達を前に、昔を懐かしむように遠い眼をして続けた。
「俺がまだガキだった頃だ。確か文禄三年だったか……天下の大盗賊、石川五右衛門の地獄行きが決定してな。まあ、先代の閻魔……父上が言うには初江王(しょごうおう)がかなり強くヤツの地獄行きを押したもんで、石川五右衛門は地獄八種の中でも一番辛い阿鼻地獄行きになったんだ。あの時阿鼻地獄で、悲鳴ひとつ上げなかったアイツを思い出して名字を石川にしてみたんだがどうだ?円真と合ってるだろ」
全員ぽかーん……。
な、なに言ってんの、アホかっ!
ヤバイと思った時には既に遅く、閻魔を囲んで頬を染めていた女子達の動きが止まった。
「じゃあね、みんなバイバイッ!」
焦った私は彼女達をかき分けると閻魔のスクバを肩にかけ、ガシッと彼の腕を掴むと教室を飛び出した。
それから全速力で階段をかけ降り、校舎を飛び出したところでようやく私は閻魔の腕を離した。
「なんだよ、お前は騒々しい女だな」
私は呆れたようにこっちを見下ろした閻魔に、敢然と言い返した。
「バカか、あんたはっ!なにが文禄三年じゃ!それに石川五右衛門の死んだ時が子供の頃とか、引くに決まってるでしょ!」
鼻息も荒く私が閻魔を見上げてそう言うと、彼は首をかしげた。
「なんでだよ」
「なんでって、人はそんな長生き出来ないのっ。あんたが変に思われるんだよ?!」
私がそう言って睨むと、閻魔は驚いたように少し眉を上げた。
「……」
「……なによ」
「お前、俺が心配なのか?」
はあっ?!
長身を屈め、閻魔は黒に近い濃い紫の瞳で私を正面から捉える。
次第に心臓が激しく脈打ち、私は咄嗟に胸に手を当てた。
掌に、ドクンドクンと鼓動を感じる。……なんでこんなにドキドキすんのっ。
私は閻魔から眼をそらしてツンとそっぽを向いた。
「そんなわけないじゃん!」
「ふーん」
閻魔はニヤニヤと笑った。
私はそれを忌々しく思いながら、再び閻魔を見上げた。
「あんた、どんなセコい技使ったわけ?何が転校生よ」
「俺は閻魔だぜ。こんなの朝飯前だ。まあ、一種の神通力だな。簡単な術だ」
「もしかして本当に私の家に住み着く気じゃないでしょうね!?」
「閻魔帳が見つかりゃすぐに帰ってやるよ」
「し、知らないもん」
「あっそ。じゃあ帰るぞ」
言いながら閻魔が私の手を握った。
「カバンかせ。お前の分も」
そう言って閻魔が私の肩からスクバを取った
時、少し離れたところからキャアという女子の声が響いた。
見ると一、二年の女子の集団が閻魔を見て、ヒソヒソ何か話している。
閻魔もそれに気付いたらしく、形のよい唇に微笑みをたたえたまま彼女達に視線を投げた。
たちまち黄色いざわめきが生まれる。
「イイ男はどこでもモテモテで困るぜ」
自分で言うな!
私は、あからさまに閻魔を気に入ったというような彼女達を見ながら口を開いた。
「どーせなら、あの子達にも文禄三年の話聞かせて上げたら?!更にモテモテになるかもよ」
「おー、それもいいかもな。せっかくだからこの世の女も味見しとくか」
端正な顔で私を見下ろした閻魔が、なんかめちゃくちゃイラつく。
「そーすれば?じゃあね!」
そうよ。よく考えたら、閻魔に構ってる暇なんかない。
朱里の病院行かなきゃならないし、パパとママが来月末まで仕事の関係でいないから、買い物に行かなきゃならないし。
私はクルッと閻魔に背を向けると、彼をほったらかしたまま正門を目指して駆け出した。
※※※※※
「本当?!おばさん!」
「うん。今日の昼にね、意識が戻ったの」
朱里の意識が戻った……!
「何処に行ったの?会いたい」
私は、ベッドのなくなった朱里の部屋でおばさんに尋ねた。
「ICUに移ったのよ。だから今は会えないの」
朱里は今まで、お医者様が手を尽くしたけど意識が戻らなくて成す術が残っていなかった為に、脳外科病棟の個室にいた。
「そっか、意識が戻ったからICUに……」
「ルナちゃんありがとね。まだ朱里はなにも分かっていない状態で記憶もめちゃくちゃなの。でも意識が戻った事が奇跡だって先生が」
良かった!!良かった!!
「じゃあ、会えるようになったら知らせてね」
私は涙が出そうになるのをこらえながらおばさんに手を振って、家路についた。
※※※※※※
買い物を済まし、冷蔵庫に食材をしまうと、私はバスルームに直行して汗を流した。
あ。部屋から下着と部屋着を持ってくるの忘れた。……でもまあいいや。ひとりだし。
バスタオルを身体に巻き付け、二階の自室へと上がった私に、
「よう」
よう……。
よう、じゃねーよっ!
自分の部屋のドアを開けた私は、再びそれを勢いよく閉めて叫んだ。
「なにしてんのっ!?勝手に入んないでよっ!すぐ出てってっ!」
驚きのあまり廊下の壁にへばりついた私は、ガチャリと開いたドアに更におののく。
当然のごとく、部屋から出てきた閻魔と数十センチの距離で見つめ合うことになり、私は湯上がりに加えバスタオル一枚の自分を激しく後悔した。
「へえ……湯上がりか。イイ匂いだな」
閻魔は、自分の顎の辺りを撫でながら私を見下ろしてフウッと笑った。
「ガチャガチャ煩いだけの女かと思えば……以外と色っぽいな」
「バカッ!死ねっ!」
私は渾身の力で閻魔をドカッと押してドアから遠ざけると、素早くそれを開けて中に入った。
ドクンドクンと、鼓動が耳元でうるさい。私の部屋に鍵はない。早く服着なくちゃ!
「なー、そんなに怒んなよ。別に裸を見たわけじゃねーんだし」
「帰って!」
「閻魔帳返したらな」
……あ。そうだ。朱里の意識は回復したし、閻魔帳なんてもう必要ない。
私はニヤリと笑うと引き出しを開けた。
「閻魔、入ってきて」
私の声に、ガチャリとドアが開く。
「あ?」
「返す」
私の両手の中の閻魔帳を見下ろした後、閻魔はさほど驚かずに黙って私を見た。
男らしい頬をわずかに傾け、少し眼を細めた閻魔はとてもカッコよかった。
ああ、閻魔って、やっぱかっこいいんだな。
見つめれば見つめるほどそんなことをかんがえてしまうから、私は気分を変えるために小さく咳払いし、改めて口を開いた。
「閻魔。勝手に閻魔帳を持って帰っちゃってごめん。嘘ついて、本当にごめん」
やっぱり、私のしたことはダメな事だ。
最後くらいちゃんと謝らないとダメだ。
「閻魔。帰ったら……蘭さんに伝えて欲しいの。その……生意気言ってごめんって」
そう言った私を閻魔は暫く見つめていたけれど、やがて低い声を出した。
「……アッサリ返すんだな。どういう了見だ」
「朱里の意識が戻ったの。もう必要ない」
閻魔は私から閻魔帳を受けとると、それをパラパラと開いた後、呟くようにいった。
「話は変わるが……お前、取り憑かれてるぜ」
は?
「なんだって?」
閻魔はサラリと答えた。
「さっき、肩が見えた時に分かったんだ。お前は何かに取り憑かれてる」
「へっ、誰に?!」
閻魔は片手で閻魔帳を持つと、もう一方の手でパープルブラックの髪を撫で付けた。
「さあな」
……さあなって。
「なんで分かったの?」
「だからお前の肩に、印が」
肩……?私は、首を後ろに捻ると同時に肩を前方へ動かし、閻魔に言われた場所を見ようとした。
……なんだ。私はホッと息をついてまくりあげた半袖を元に戻した。
「これはね、アザよ。昔からあるの」
そう。昔からある星のようなアスタリスクのようにも見える、ごくごく薄いアザだ。
「昔っていつだ」
「忘れたよ」
「もっかい見せろ」
「やだ」
私は、こっちに腕を伸ばした閻魔にベエッと舌を出した。
その時、
「……きゃあっ!!」
右肩のアザの部分がズキッと痛んで、私は驚いて悲鳴を上げた。
「ルナ!」
痛みに驚いてグラリとよろけた私を閻魔が抱き止めて、
「おい、凄い汗だぞ」
なんか変だ。息が苦しい。
「閻魔……肩が痛いし気分悪い」
「おいルナ、しっかりしろ」
「閻魔、閻魔……」
どうしたらいいか分からず、私はただ閻魔を呼びながら彼の差し出した腕にしがみ付くしかなかった。
※※※※※※
誰かに髪を撫でられている感覚が、凄く気持ちいい。きっと、仁だ。
「仁……」
私は仁にすり寄りながら、いつものように彼の掌を頬に当てた。
「仁、気持ちいい」
「……ルナ」
…………?んっ?!
私を呼んだ声が仁の声じゃなくて、私はベッドの上でパチッと眼を開けた。
それから眼に飛び込んだ閻魔を見つけて、思わず悲鳴をあげる。
「ぎゃあっ!なにしてんのっ!」
勢いよく起き上がって距離をあけた私に、閻魔は眉を寄せた。
「平気か?」
「あ……うん、多分」
私を見る黒に近い紫の瞳が、なんか優しい。
……もしかして、私が倒れちゃったから帰るの遅れてるんじゃ……。
私は、起き上がってベッドの上で胡座をかいた閻魔に口を開いた。
「あの、ありがと」
「なにが」
「だから……ついててくれて」
私がそう言うと、閻魔は一瞬真顔になってから爽やかに笑った。
瞳を優しく光らせて、男らしい清潔そうな口元を少し引き上げて。
制服姿も手伝ってか、眼の前にいる閻魔はどこからどう見てもただのイケメン男子高校生で、とてもじゃないけど死者の国から来た閻魔大王だとは思えなかった。
……変な感じだ、凄く。
「わっ」
その時再び肩が疼いて、驚いて声をあげた私に閻魔が手を伸ばした。
ちょっとっ……。
引き寄せられた身体が傾いて、閻魔の胸に頬が当たる。
「うわっ」
閻魔の固い胸の感触にたちまち心臓がバクバクと響き出して、私は困った。
「や、閻魔、」
「やっぱ見せろ」
閻魔が私を胸に抱いた。な、んで。
好きな人も彼氏もいない私は、男の子にこんな風にされたことがない。
そんな私とは正反対で、閻魔は照れた様子もなく、私と密着していて……。
アタフタしている私を無視して、閻魔は私の半袖をまくりあげた。
「……」
暫く私の肩を凝視したあと、閻魔は低い声で私に問いかけた。
「お前、過去に人間以外と接触しただろ。このアザは、そういう人間に出来るアザだ」
私は袖を直した後閻魔から身を起こした。
「そんなのしょっ中だよ。私は昔から、普通の人間に見えないものが見えるんだもの。元に今だって、あんたみたいな不気味な男と……いひゃいじゃん!(痛いじゃん!)」
「無礼な奴だな。イイ男の間違いだろーが」
ムッとしたように眉を寄せた閻魔が、長い指で私の頬をグニッと捻った。
「とにかく」
閻魔はそこで一旦言葉を切ると、再び私を見て口を開いた。
「お前は魔物に狙われてる」
魔物?!嘘でしょ?そんなもんに狙われた覚えはまるでない。
「魔物って、アンタみたいな?」
「ケツぶっ叩くぞ」
……だって……。少し口を尖らせた私を忌々しそうに見た後、閻魔は唇をひきむすんだ。
「…………」
「…………」
なに、この沈黙。
「助けてやってもいいぜ」
「は?なんで?」
てゆーかさ。
「ねえ。帰らなくていいの?あんた閻魔でしょ?死者の審判は誰がするのよ」
「父上がやってる」
「あんたに代を譲ったんじゃないの?」
「口では譲るといってるが、元々審判は父上の天職だし、譲りたくなかったんだから喜んでやってるだろーよ」
「……ふーん。でも、閻魔帳私が持って帰っちゃったのに、仕事出来てたの?」
私がそう言うと、説明が面倒なのか閻魔はそっぽを向いた。……まあ、どーでもいいけどな。
それから閻魔は、なぜかイラついたように少し早口で言った。
「だから、お前は魔力の強いヤツに狙われてるんだよ。このままじゃ死ぬぞ。俺がそいつからお前を守ってやるって言ってんだよ」
だからなんでそーなるの。
閻魔にとったら私なんてとるに足らない存在だろうし、閻魔帳だって返したんだし骨折り損なんじゃないの?
閻魔帳持ってサッサと帰った方が楽じゃん。意味がわかんない、不気味。
「なんで?」
閻魔は訝しげに眉を寄せる私に、少し咳払いした後ニヤリと笑った。
「何故か?そんなの決まってるだろ」
閻魔は更に不敵な笑みを浮かべた。
「魔物を倒したとなると箔がつくだろ。ますます女にモテる」
どうしようもないな、コイツは。
「女と切り離して物事考えられないのか、あんたは」
私は呆れながら閻魔を睨んだ。
「死にたくなけりゃ、言うこと聞いとけ」
はいはい、信じてないけどな!
この時の私は自分が何かに取り憑かれてるなんて自覚がなかったし、閻魔の口からでまかせだと思っていた。
そう、閻魔の口からでまかせ。
すぐに帰るのもなんだからちょっとした旅行でもしようかと、その為の口実。
「はいはい」
閻魔は愛想のない私を愉快そうに見て、私の頭をクシャリと撫でると白い歯を見せて笑った。
※※※※※※
「仁、仁」
夕食後、私は自分の部屋に入ると、閻魔に気付かれないように仁を呼んだ。
ここのところ仁とは全く会ってなかったから、話がしたかったんだ。
「仁ー?」
何度か呼んだけど、彼は一向に現れない。仁、どうしちゃったんだろう。夢でなら……会えるだろうか。
ポスッと枕に顔を埋めてそう考えているうちに徐々に瞼が重くなり、私は次第に眠りに落ちていった。
「仁、仁、いないの?」
…………。
夢の中でも、私は仁に会えなかった。
※※※※※※
『その一、ルナの部屋に勝手に入らない』
『その二、料理も掃除も手伝うこと』
『その三、学校で変な話をしない』
思い浮かんだ項目を紙に書いて、私はリビングに貼り付けた。閻魔はそれを見ながら腰に手を当てていたけれど、
「なんだこりゃ」
キッチンへと移動する私の後を付いてきながら、彼はバカにしたようにそう言った。
「守らないなら出てって!私の家にいるなら、完全に人間の行動とってよ?中に浮いたり急に消えたり、イリュージョン禁止だからね!」
「ふん!チョロいわ」
「チョロいとか、誰に習ってんのよ」
私が眉を寄せて閻魔を見上げると、彼はニタニタと笑った。
「涼馬」
葛城涼馬か。
私はクラスメートで校内一のモテ男、涼馬の顔を思い浮かべて内心舌打ちした。
涼馬は『女子を喜ばせる為に俺は生まれた』が口癖のタラシ男で、何故かタラシと解りつつも女子達は涼馬が大好きだ。
「どーでもいーわ」
「お前が聞いたんだろ」
「今日の夕飯はピザだからね」
私が作り置きしていたピザの生地を冷凍庫から取り出しながらそう言うと、閻魔は眉を寄せた。
「ピザとは?」
ピザを知らないとは。
私は、冷蔵庫を開けようとした手を止めて閻魔を振り返った。
「ねえ。あんた普段なに食べてんの?」
私の質問に閻魔がニヤリと笑った。
「んー……女の手料理」
「あっそ。モテモテで良かったわね。だけど私の家にいるなら、これからは自分で作りなよね」
「なんだよ、守ってやるんだからお前がつくれ」
「知るか」
「腹へった」
私よりも大きくて逞しいくせに、拗ねたみたいにそう言った閻魔が幼い男の子みたいで、私は不覚にも彼を可愛く思って笑った。
「じゃあ、一緒に作るよ、ピザ」
「……っ」
なに。
私を驚いたように見た後、閻魔が気まずそうに眼をそらした。
「閻魔?」
「……」
変なの。
「ほら、ピーマン切って」
美味しくて感動するかもよ。
私は閻魔にピーマンを渡すと、ニッコリと笑った。
※※※※※※
何事も起こらないまま、平和に一週間が過ぎた。
閻魔はというとアッという間にクラスどころか学校にとけこみ、どこからどう見ても普通の男子高生といった感じだった。
校内では私が閻魔のイトコだという超間違った情報が瞬く間に広がり、そのお陰でやれ円真くんの誕生日はいつ?血液型はなに?好きな食べ物は?好きな女の子のタイプは?などなどの質問が私に寄せられて、もう本当に大迷惑だ。
「ちょっと閻魔っ」
私は教室の中央で男子達と盛り上がっている閻魔の腕を掴んで振り向かせた。
「なんだ?どうした?」
笑顔を残したまま私を振り返る閻魔は確かにイケメンだけど、私はそのせいで仕事が増えたようでムカつく。
「あのさ、あんたのファンが増えすぎて対処出来ないんだけど」
するとすかさず葛城涼馬以下三名が、私を見てニヤニヤと笑った。
「なんだよルナ。ヤキモチ焼いてんの」
はあ?!
「あ!そーいやさ、3組の高木海人が、ルナのLINEのID教えろって煩くてさ、教えといた」
「あんたバカかっ!勝手に教えないでよっ!」
本気でキレる私の頭をガシガシと撫でて、涼馬は続けた。
「いーじゃん。アイツ男前だし、いい奴だし。二年の時からルナ狙いだったんだぜ。近々、飯でも誘いたいってさ」
「ちょっと、やめてよ、涼馬っ」
焦る私に任せろ、と言わんばかりに涼馬が大きく頷いた。
「円真の事は任せとけって。女子の正しい扱い方をちゃんと伝授しておくから。近々、円真ファン集めて親睦会開く予定だしな」
なんなんだ、このタラシ集団は。もう知らんっ!
「あっそ!じゃあね!」
私は頭に置かれたままの涼馬の手をぶん投げるように放り出した。
踵を返す寸前、視線を感じて眼をあげると、真顔で私を見つめる閻魔と眼が合い、少し止まる。
なによその顔は。
ムッとしたように唇を引き結んで私を見ている閻魔が、理解不能だ。もしかして、
『魔物から守ってやってるんだから、俺のファンには神対応しろよな!』
なんて思ってるんじゃないでしょうね!?知らないからな、そんなの。
私はツン!と閻魔から顔を背けると、自分の席へと戻った。
※※※※※
「で、来たの?!高木海人から」
三時間目の休み時間、亜子ちゃんがキラキラした目で私のスマホを覗き込んだ。
「うん……」
そこには、
『中西さん、話があるんだ。放課後、三階の渡り廊下で待ってます』
「きゃー!!」
わざわざ高木海人からのLINEの文章を読み上げた挙げ句、亜子ちゃんが叫んだ。
「声がでかいっ」
咄嗟に私は彼女の口を手で塞ぎなから左隣の閻魔を見て、胸を撫で下ろした。
セ、セーフ……。
閻魔は机に力なく突っ伏してスースーと眠っている。
亜子ちゃんは閻魔をチラ見したあと私に向き直り小声で、
「コクられるな、こりゃ。で、どーすんの」
「いや、そんな。コクられると決まったわけじゃ」
「他に何があるってゆーのよ!告白以外にないわ!」
どーしよー……。私が困りきって亜子ちゃんを見つめていると、彼女はうんうんと頷いた。
「高木海人って、結構素敵だと思うよ。ルナも好きな人いないんだし、付き合えば?」
「そ、れは……ちょっと」
「なんで?!」
亜子ちゃんが眉間にシワを寄せて私を見た。
どうやら逃してくれそうにない亜子ちゃんの様子に、私は観念して口を開いた。
「ちゃんと好きになってから付き合いたい。相手の気持ち分かってるのに友達からとか、そういうのはなんかおんなじラインに立ってないみたいで嫌なの。
告白されたからとりあえず付き合ってみるとか、私には多分無理……」
「出逢いを無駄にしてるとしか思えないけど?もったいないじゃん」
私は困って、少し笑った。
「だよね。でも自分が好きになってから付き合いたい」
なぜか亜子ちゃんは呆れたようにワタシを見ていたけど、やがてニッコリと笑った。
「好きになれるよ。高木海人はカッコいいからさ」
※※※※
放課後。
三階にクラスはなく準備室や特別室の類いしかないために、渡り廊下にはあまり人がいない。放課後となると余計だ。
ただ静かで人が少ないから、座り込んでスマホをしたり読書をしたりする子たちはいるけど、だれも私と高木海人を気にする人はいなかった。
渡り廊下へとつながる重いガラスのドアを開けると、高木海人は先に来ていた。
彼は背の高いスラリとしたイケメンで、私の姿を見るなり少し照れたように自分の靴先に眼をやった。
「ごめんね、待った?」
「いや、俺こそ急にごめん。俺が無理矢理ID聞き出したんだ。だから涼馬を怒らないでやってほしいんだ」
真っ直ぐな眼差しと友人のフォローを忘れない彼の姿勢に、不覚にも私はキュンとしてしまった。
奥二重の涼しげな眼が綺麗。
「うん……」
もう怒りまくったけど、この爽やかな王子様を目の前にするとさすがに私もしおらしく頬を赤らめてしまった。だってカッコいいんだもん、頭よさそうだし。
「中西さん」
「はい」
小さく咳払いしたあと、高木君は私を見つめて静かな声で言った。
「俺、中西さんの事がずっと好きだったんだ。いつも笑顔で元気だし、困ってる子がいたら男女問わず助けてるだろ?凄く素敵な人だと思ってたんだけど、段々、それだけじゃなくなってきて。いつの間にか中西さんの姿ばかり探してしまうようになってて」
ボボボッと、顔が赤くなるのが自分でも分かった。誰かが私をこんな風に見てくれていたなんて信じられなかったし、凄く嬉しかった。
恥ずかしさのあまり俯いてしまった私に、彼は続けた。
「中西さんさえよかったら、付き合ってほしいんだ」
きたー……。
昼間教室で亜子に言った自分の言葉が脳裏によみがえる。
『ちゃんと好きになってから付き合いたい。相手の気持ち分かってるのに友達からとか、そういうのはなんか、おんなじラインに立ってないみたいで嫌なの。
告白されたからとりあえず付き合ってみるとか、私には多分無理』
この言葉は嘘じゃない。
けど、こんなイケメンがこんなに真っ直ぐ私を見つめて好きだって言ってくれているのに、断るって、なんか。
亜子ちゃんが言ってた。高木海人は素敵だからすぐに好きになれるって。
ホントに……すぐに好きになっちゃいそうだ。
ああ、でも……。どうしよう、どうしよう。
風が俯いた私の髪を乱して、更に気持ちがザワザワとした。
その時急に近くに足音を感じて、私は顔をあげた。次の瞬間、フワッと身体が浮いた。
「っきゃあっ!」
息を飲んでこっちを見つめる高木君が真っ先に視界に入って、それからすぐに私を荒々しく抱き上げた閻魔の顔が見えた。
至近距離からこちらを見下ろす閻魔の顔が不機嫌マックスで、私は混乱して硬直した。
なんで?!何で急に閻魔が来るわけ?!で、なんで私を抱き上げて怒ってんの?
張り付いたように見上げる私をしばらく閻魔は睨んでいたけれど、やがて小さく息をして目元を優しくした。
「心配させんな」
閻魔の甘い息と、髪に押し付けられた彼の唇。
やだ、うそ。
やがて閻魔は私の髪から唇を離すと、斜めに高木君を見てニヤリと笑った。
「悪いな。ルナは俺のもんなんだ」
「……っ!」
高木君が驚きの表情のまま、私を見た。
「ちょっと、閻魔っ」
「るせぇ、帰るぞ。帰ったらすぐ風呂」
ふ、ふ、風呂!
焦る私を見て、悪ノリした閻魔が精悍な頬を傾けてニヤリと笑った。
「一緒に入るか?」
なに言ってんのっ!
「バカッ!下ろして!」
バシバシと閻魔の胸を叩く私に、彼は甘く笑った。
「照れんなって。早く二人きりになろうぜ」
なんなんだ、コイツは。
私を抱き上げたまま渡り廊下を闊歩する閻魔が意味不明で、どっと疲れた。
閻魔は開け放たれたままの扉から校舎に入ると、すぐ左の階段をかけ降りた。
「早く下ろしてっ!」
「分かった分かった!あー重」
なんだとっ!?
階段の踊り場に下ろされた私は、閻魔を壁際に追いやり、彼の胸をボカッと殴った。
「重くて悪かったな!誰も抱っこなんか頼んでないわ!しかもなに!なんで来た?!私、高木海人に告白され中だったんだよ?!」
怒りのあまり私が叫ぶと、閻魔は唇を引き結んだ。
「…………」
「答えろっ!」
どうしてくれんの?!すっごいドキドキでキラキラした告白をされていたところなんだぞ!
あんなイケメンから、あんな素敵な告白をされることなんて、恐らく一生ないわっ!
なのになのに、急にしゃしゃり出やがってーっ!
急に現れた閻魔が、どうして高木海人の告白をぶち壊しにしたのかが知りたくて、私は閻魔を見つめた。
なのに閻魔ったら、私を見下ろしてチッと舌打ちしたあと、
「あー、うるせえ!」
「はあ?!なにそれ!」
「知るかよ」
閻魔はツン!と横を向き、手すりの上のガラス張りから見える校庭に眼をやると、スボンのポケットに両手を突っ込んだ。
なにその態度。
「あっそう!!もういいよ!」
閻魔様の気紛れってか?!クソッ!閻魔帳破り捨てるぞ、このやろーっ!
私は身を翻すと正面玄関を目指して残りの階段を駆け降りた。帰っても絶対、閻魔と口をきかないって誓いながら。
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