のほほん異世界暮らし

みなと劉

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《夏季市》への準備が始まると、農場の空気もどこか高揚感を帯びたものになった。毎日同じようでいて、少しずつ違う。いつもの出荷作業にも、どこか「特別」が混じるようになってきた。

「にゃーん」

シャズナが僕の足元をすり抜けていき、空箱の山にぴょんと飛び乗る。そのまま尾を揺らしながら、こちらを見てにゃっと鳴いた。

「チェック係ですか?」

「にゃ」

返事がちゃんと返ってくるのが不思議と嬉しくなる。

荷造りされたジャガイモと玉ねぎの袋は、街での扱いを見越して丁寧に束ね直してある。トマトも冷暗保存を意識した木箱に詰めて、ルシファンが最後の点検をしていた。小さな黒い身体で木箱の縁に登り、じっと中を覗き込む姿は、まるで小さな監督官のようだ。

「リッキーはどこ?」

「ピッ」

背後の藁の間から顔を出したリッキーは、なぜかトウモロコシを一本くわえていた。尻尾の角が小さく光っていて、少しだけ魔力の余波が風に混じる。

「トウモロコシ、よく実ってきたなあ。これも《夏季市》に出してみる?」

カイルがしゃがんで一本を折り取り、皮をめくる。中にはびっしりと詰まった黄金色の粒。

「見てくれ。これはいけるな」

「試しに少し焼いて食べてみようか。味の確認もしないと」

火を起こし、香ばしい匂いが広がると、シャズナがすぐにやってきて僕の膝に飛び乗る。ルシファンも、リッキーも、それぞれの定位置に集合してきた。小さな宴のはじまりだ。

「うまい!」

カイルがかぶりついて、あっという間に芯だけになった。

「これも絶対持っていこう。焼きトウモロコシ用って看板も作るぞ」

僕は頷きながら、ふと空を見上げた。雲一つない青空。暑いけど、心地いい風が吹いていた。

――この夏は、忘れられない季節になる気がする。

そう思いながら、僕たちはまた次の畑に向かった。まだまだやることは山積みだ。でも、みんなでならきっと、何とかなる。

農場は今日も、笑い声と足音で満ちていた。

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