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17.魔法測定
暖かな日差しが降り注ぐ、昼前の校庭。
そこには、私とルイを含む生徒達が集まっていた。
今から始める授業は、魔術実践だ。
普段は教室で魔術言語や魔法陣の理論を学ぶが、今日は実際に魔法陣に魔力を注ぎ、術を発動させる訓練を行う。
今回の実践課題は他クラスとの合同で行われるため、隣のクラスのマリアやアルフレッド等の姿もあった。
『あっ! キャシーちゃんだ!』
マリアはぱっと表情を明るくし、嬉しそうに手を振る。
だけど彼女は私に笑いかけるだけで、それ以上こちらへ来ようとはしなかった。
私の隣にルイがいるからか、アルフレッドに気を遣って近づけないのかもしれない。
一方、アルフレッドはというと、わずかに眉を寄せてルイを見つめている。
その視線に気づいたルイは、肩をこわばらせ、いつもよりぎこちない。
「大丈夫よ、ルイ。アルフレッドのことなんて気にしなくていいわ」
「……はい」
彼の返事は小さく、どこか上の空だった。
そんなやり取りをしていると、校庭の端から若い男性教師が現れた。
両腕いっぱいに魔道具を抱えていて、歩くたびに金属やガラスのぶつかる軽やかな音が響く。
「それでは、魔術実践の授業……の前に。今日は、魔法測定を行います」
教師はそう告げると、荷の中から魔法陣の描かれた大きなカーペットと、燭台に立てられた蝋燭、それから乳白色の水晶玉を取り出した。
水晶玉は陽の光を受けて、淡い光を返している。
「魔法……測定、ですか?」
ルイの声は震えていた。
その顔色が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「そういえば、マリアの魔法測定を近日中にやるって話題になってたわね。それが今日だったみたいね」
「魔法は……魔術と違うのですよね?」
「ええ、そうよ。魔法はその人自身が持つ力で、魔法陣を介さずに使える能力のこと。
一方、魔術は魔法陣に魔力を注げば誰でも発動できる、再現可能な技術よ」
「やはり、そうですよね。なのに、なぜ魔法を測定なんか……」
「魔法は個人差が大きくて授業で扱いづらいの。だから魔術の授業の枠でまとめて行うのよ」
私たちがそんな話をしているうちに、教師は魔道具の設置を終えたようだ。
魔法陣の描かれたカーペットの四隅には蝋燭が置かれ、淡い炎がゆらゆらと揺れている。
中央には乳白色の水晶玉を載せた台座が据えられ、まるで儀式の祭壇のような光景が広がっていた。
「お待たせしました。それでは魔法測定を始めます。ではまずは先日編入された聖女、マリア・クラウチ様からお願いいたします」
教師の言葉をアルフレッドが隣で通訳して伝えると、マリアは小さく「はい」と答えて前へと進んだ。
彼女がカーペットの上に立ち、水晶玉にそっと手を触れた、次の瞬間。
マリアの体が、まるで夜空に散る星々のように光を放ちはじめた。
金、蒼、紫、桃色……無数の輝きが、彼女の身体の様々な部位から現れる。
「す、すごい……!」
「流石、聖女様だ!」
その光景に、生徒たちはどよめき、教師までもが息を呑んだ。
マリア自身も『私、なにかやっちゃた?』と言わんばかりの困惑した表情を浮かべていた。
「キャサリン様、あの光が……魔法なのですか?」
「ええ。あの光ひとつひとつが、マリアの持つ魔法を可視化したもの。魔法の種類や能力によって、色や光の強さが異なるの。
あの光の多さと力強さからして、彼女は強力な魔法をいくつも宿しているのでしょうね」
教師は感心したように頷きながら、マリアの放つ光を凝視し、記録を取る。
「素晴らしいです、マリア様。SSS級が7個、S級が26個、A級が51個、B級が17個……合計で101個です!」
その測定結果に、ざわめきが広がった。
さすが『聖女様』ね。
魔法の数が百を超えるなど、S級冒険者でも滅多にいない。
SSS級の魔法だけでも、生徒平均である5個より多い。
「それでは次は、同じく編入生のルイ・クロスくん。お願いします」
名前を呼ばれた瞬間、ルイの肩がびくりと震えた。
その顔は、まるで処刑台へ連れて行かれる罪人のように蒼白で、指先までこわばっている。
「どうしたの、ルイ?」
「……どうしても、測定しなければいけないのでしょうか?」
教師に呼ばれても、ルイは一歩も動こうとしなかった。
その怯えようは、まるで何かに追い詰められているかのようだ。
「魔法測定は強制ではないから、嫌なら辞退してもいいのよ?」
「えっ、本当ですか?」
ぱっと表情が和らぐ。
さっきまで青ざめていた顔に、少しだけ血の気が戻った。
「でしたら……すみません、辞退します」
教師は少し残念そうに眉を下げ、「そうですか」と頷いた。
その様子を見て、生徒たちの間にざわめきが走る。
「まぁ、聖女様の後じゃ公開処刑みたいなもんよね」
「私でも嫌だわ。比べられたらたまったもんじゃない」
中には「どうせ元奴隷なんて、魔法なんか持ってないだろ」と鼻で笑う者もいたが、顔ぶれはいつも通りだ。
ルイは視線を伏せたまま、小さく息を吐いた。
「クロスさんが辞退ということなので……他に希望者はいませんか? いなければ魔術実践の授業に移ります」
教師が周囲を見回したが、誰一人として手を挙げなかった。
本来なら、王宮魔道士志望の生徒などが「前より魔法が増えているかも」と測定を志願するものだが、マリアの後となれば、笑い者になるのは目に見えている。
「先生。私も測定してみてもよろしいでしょうか?」
「はい、キャサリン・ベルモントさんですね。どうぞ」
私が前へ出ると、ざわめきがぴたりと止んだ。
少し前まで冒険者ごっこをしていたから、多少は増えているかもしれない。
カーペットの中央に立ち、乳白色の水晶玉にそっと手を置く。
すると、ひんやりとした感触が掌に伝わった。
そして魔力を流し込むと、私の身体全体から無数の光があふれ出した。
髪の先から足元までひとすじの隙間もなく、色とりどりの光の粒が、夜空の流星群のように煌めき周囲を満たす。
同時に、そのひとつひとつの魔法の効果が、まるで記憶を呼び戻すように脳裏に流れ込んできた。
──やはり、前より少しは増えたみたいね。
「こ、これは……! 本当に魔法の反応なのでしょうか!? も、もう数えきれません!」
あらら。
教師は唖然として、記録する手を止めてしまった。
仕方ないわね。
私が代わりに結果を教えてあげよう。
「先生。私の魔法は、SSS級が38個、S級が79個、A級が187個、B級が231個、C級が431個、D級が297個、E級が211個。合計で1474個です」
「せ、千……千個以上!? そ、そんな……信じられません……!」
信じられない、ねぇ…。
また『測定器の誤作動だ』とか『不正だ』とか言い出すのかしら。
以前も同じことを言われて、事実を証明するのに骨が折れたものだ。
いい加減、周囲の『流石キャサリン様だ』と言わんばかりの雰囲気から察してほしい。
「確認のため、魔法をひとつずつ実践しましょうか?」
「いえ……以前の記録と一致しています。納得できましたので、必要ありません」
教師は苦笑しながら頭を下げた。
話の分かる人で助かったわ。
測定を終えると、ルイが少し離れた場所で私を見ていた。
その瞳には、驚きと、ほんの少しの戸惑いが入り混じっている。
「どうしたの、ルイ?」
「え? あ、いえ……大したことではありません」
「そう? だったら教えて」
「その……キャサリン様が聖女様より多くの魔法をお持ちなのは、どうしてなのかと……」
ルイがその疑問を抱くのも仕方ないわね。
「理由は単純よ。使える魔法を増やしたの」
「魔法って……増やせるんですか?」
「ええ。魔法を宿すモンスターを倒したり、特定の条件を満たしたりすれば増えるわ」
「そんな方法で……?」
ルイは手を口に当て、半信半疑に眉間に皺を寄せた。
「だったら、魔法測定を拒む理由なんて……いや、でも……」
「なんて?」
「あっ、いえ! 何でもありません!」
ルイが何かを言いかけたような……気のせいかしら?
「まぁ、魔法持ちのモンスターを倒しても、必ず魔法が手に入るというわけじゃないの。でも私は生まれつき持っていた魔法を応用して、確実に取得できるようにしたの」
「そうだったのですね……。ちなみにキャサリン様がはじめに持っていた魔法って、いくつだったのですか?」
「SSS級が、たったの八個よ」
「SSS級が……八個!? ……キャサリン様は、その……本当に、色んな意味ですごい方ですね」
ルイは目を丸くして感心する。
そんな他愛もない会話を交わすうちに教師は魔法測定の道具を片付け、魔術実践の授業が始まろうとしていた。
そこには、私とルイを含む生徒達が集まっていた。
今から始める授業は、魔術実践だ。
普段は教室で魔術言語や魔法陣の理論を学ぶが、今日は実際に魔法陣に魔力を注ぎ、術を発動させる訓練を行う。
今回の実践課題は他クラスとの合同で行われるため、隣のクラスのマリアやアルフレッド等の姿もあった。
『あっ! キャシーちゃんだ!』
マリアはぱっと表情を明るくし、嬉しそうに手を振る。
だけど彼女は私に笑いかけるだけで、それ以上こちらへ来ようとはしなかった。
私の隣にルイがいるからか、アルフレッドに気を遣って近づけないのかもしれない。
一方、アルフレッドはというと、わずかに眉を寄せてルイを見つめている。
その視線に気づいたルイは、肩をこわばらせ、いつもよりぎこちない。
「大丈夫よ、ルイ。アルフレッドのことなんて気にしなくていいわ」
「……はい」
彼の返事は小さく、どこか上の空だった。
そんなやり取りをしていると、校庭の端から若い男性教師が現れた。
両腕いっぱいに魔道具を抱えていて、歩くたびに金属やガラスのぶつかる軽やかな音が響く。
「それでは、魔術実践の授業……の前に。今日は、魔法測定を行います」
教師はそう告げると、荷の中から魔法陣の描かれた大きなカーペットと、燭台に立てられた蝋燭、それから乳白色の水晶玉を取り出した。
水晶玉は陽の光を受けて、淡い光を返している。
「魔法……測定、ですか?」
ルイの声は震えていた。
その顔色が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「そういえば、マリアの魔法測定を近日中にやるって話題になってたわね。それが今日だったみたいね」
「魔法は……魔術と違うのですよね?」
「ええ、そうよ。魔法はその人自身が持つ力で、魔法陣を介さずに使える能力のこと。
一方、魔術は魔法陣に魔力を注げば誰でも発動できる、再現可能な技術よ」
「やはり、そうですよね。なのに、なぜ魔法を測定なんか……」
「魔法は個人差が大きくて授業で扱いづらいの。だから魔術の授業の枠でまとめて行うのよ」
私たちがそんな話をしているうちに、教師は魔道具の設置を終えたようだ。
魔法陣の描かれたカーペットの四隅には蝋燭が置かれ、淡い炎がゆらゆらと揺れている。
中央には乳白色の水晶玉を載せた台座が据えられ、まるで儀式の祭壇のような光景が広がっていた。
「お待たせしました。それでは魔法測定を始めます。ではまずは先日編入された聖女、マリア・クラウチ様からお願いいたします」
教師の言葉をアルフレッドが隣で通訳して伝えると、マリアは小さく「はい」と答えて前へと進んだ。
彼女がカーペットの上に立ち、水晶玉にそっと手を触れた、次の瞬間。
マリアの体が、まるで夜空に散る星々のように光を放ちはじめた。
金、蒼、紫、桃色……無数の輝きが、彼女の身体の様々な部位から現れる。
「す、すごい……!」
「流石、聖女様だ!」
その光景に、生徒たちはどよめき、教師までもが息を呑んだ。
マリア自身も『私、なにかやっちゃた?』と言わんばかりの困惑した表情を浮かべていた。
「キャサリン様、あの光が……魔法なのですか?」
「ええ。あの光ひとつひとつが、マリアの持つ魔法を可視化したもの。魔法の種類や能力によって、色や光の強さが異なるの。
あの光の多さと力強さからして、彼女は強力な魔法をいくつも宿しているのでしょうね」
教師は感心したように頷きながら、マリアの放つ光を凝視し、記録を取る。
「素晴らしいです、マリア様。SSS級が7個、S級が26個、A級が51個、B級が17個……合計で101個です!」
その測定結果に、ざわめきが広がった。
さすが『聖女様』ね。
魔法の数が百を超えるなど、S級冒険者でも滅多にいない。
SSS級の魔法だけでも、生徒平均である5個より多い。
「それでは次は、同じく編入生のルイ・クロスくん。お願いします」
名前を呼ばれた瞬間、ルイの肩がびくりと震えた。
その顔は、まるで処刑台へ連れて行かれる罪人のように蒼白で、指先までこわばっている。
「どうしたの、ルイ?」
「……どうしても、測定しなければいけないのでしょうか?」
教師に呼ばれても、ルイは一歩も動こうとしなかった。
その怯えようは、まるで何かに追い詰められているかのようだ。
「魔法測定は強制ではないから、嫌なら辞退してもいいのよ?」
「えっ、本当ですか?」
ぱっと表情が和らぐ。
さっきまで青ざめていた顔に、少しだけ血の気が戻った。
「でしたら……すみません、辞退します」
教師は少し残念そうに眉を下げ、「そうですか」と頷いた。
その様子を見て、生徒たちの間にざわめきが走る。
「まぁ、聖女様の後じゃ公開処刑みたいなもんよね」
「私でも嫌だわ。比べられたらたまったもんじゃない」
中には「どうせ元奴隷なんて、魔法なんか持ってないだろ」と鼻で笑う者もいたが、顔ぶれはいつも通りだ。
ルイは視線を伏せたまま、小さく息を吐いた。
「クロスさんが辞退ということなので……他に希望者はいませんか? いなければ魔術実践の授業に移ります」
教師が周囲を見回したが、誰一人として手を挙げなかった。
本来なら、王宮魔道士志望の生徒などが「前より魔法が増えているかも」と測定を志願するものだが、マリアの後となれば、笑い者になるのは目に見えている。
「先生。私も測定してみてもよろしいでしょうか?」
「はい、キャサリン・ベルモントさんですね。どうぞ」
私が前へ出ると、ざわめきがぴたりと止んだ。
少し前まで冒険者ごっこをしていたから、多少は増えているかもしれない。
カーペットの中央に立ち、乳白色の水晶玉にそっと手を置く。
すると、ひんやりとした感触が掌に伝わった。
そして魔力を流し込むと、私の身体全体から無数の光があふれ出した。
髪の先から足元までひとすじの隙間もなく、色とりどりの光の粒が、夜空の流星群のように煌めき周囲を満たす。
同時に、そのひとつひとつの魔法の効果が、まるで記憶を呼び戻すように脳裏に流れ込んできた。
──やはり、前より少しは増えたみたいね。
「こ、これは……! 本当に魔法の反応なのでしょうか!? も、もう数えきれません!」
あらら。
教師は唖然として、記録する手を止めてしまった。
仕方ないわね。
私が代わりに結果を教えてあげよう。
「先生。私の魔法は、SSS級が38個、S級が79個、A級が187個、B級が231個、C級が431個、D級が297個、E級が211個。合計で1474個です」
「せ、千……千個以上!? そ、そんな……信じられません……!」
信じられない、ねぇ…。
また『測定器の誤作動だ』とか『不正だ』とか言い出すのかしら。
以前も同じことを言われて、事実を証明するのに骨が折れたものだ。
いい加減、周囲の『流石キャサリン様だ』と言わんばかりの雰囲気から察してほしい。
「確認のため、魔法をひとつずつ実践しましょうか?」
「いえ……以前の記録と一致しています。納得できましたので、必要ありません」
教師は苦笑しながら頭を下げた。
話の分かる人で助かったわ。
測定を終えると、ルイが少し離れた場所で私を見ていた。
その瞳には、驚きと、ほんの少しの戸惑いが入り混じっている。
「どうしたの、ルイ?」
「え? あ、いえ……大したことではありません」
「そう? だったら教えて」
「その……キャサリン様が聖女様より多くの魔法をお持ちなのは、どうしてなのかと……」
ルイがその疑問を抱くのも仕方ないわね。
「理由は単純よ。使える魔法を増やしたの」
「魔法って……増やせるんですか?」
「ええ。魔法を宿すモンスターを倒したり、特定の条件を満たしたりすれば増えるわ」
「そんな方法で……?」
ルイは手を口に当て、半信半疑に眉間に皺を寄せた。
「だったら、魔法測定を拒む理由なんて……いや、でも……」
「なんて?」
「あっ、いえ! 何でもありません!」
ルイが何かを言いかけたような……気のせいかしら?
「まぁ、魔法持ちのモンスターを倒しても、必ず魔法が手に入るというわけじゃないの。でも私は生まれつき持っていた魔法を応用して、確実に取得できるようにしたの」
「そうだったのですね……。ちなみにキャサリン様がはじめに持っていた魔法って、いくつだったのですか?」
「SSS級が、たったの八個よ」
「SSS級が……八個!? ……キャサリン様は、その……本当に、色んな意味ですごい方ですね」
ルイは目を丸くして感心する。
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