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白黒ハッキリさせる?
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──ユミル殿下が、ウイン様。
その疑念で、私の頭の中はいっぱいになる。
「......仮に、ユミル殿下がウイン様であったとしても、いつも通りに接するだけです。」
私は、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
「いつも通り、ねぇ~。今ですら、そんなに意識しているのに、本人の前でいつも通りに振る舞えるの?」
アベル殿下は、揶揄うような意地の悪い笑顔を私に向ける。
「いっそのこと、白黒ハッキリさせてみるか? その方がスッキリするんじゃね?」
その提案に、一瞬、心が揺らぐ。
だけど駄目だ。
ユミル殿下がウイン様でなければ、まだいい。
でも仮に、本当にユミル殿下がウイン様だと確定した場合、ウイン様の正体が悪魔王にバレるリスクが高まる。
なぜなら私達が言いふらすつもりがなくとも、意図せずにバラしてしまう可能性がゼロではないからだ。
そしてバラした相手が、また他の誰かにバラして......そうやって噂が広がっていくと、最終的に悪魔王にバレる。
だからこそ正体は絶対に知ってはいけない。
知ってはいけない、けど......。
頭ごなしに『知ってはいけない』と自戒すればするほど、『知りたい』という欲求が沸々と込み上げる。
「『白黒ハッキリさせる』と言っても、具体的に何をなさるおつもりですか?」
「そうだなぁ~、とりあえずは...。」
アベル殿下が言いかけた時、唐突に教室の扉が勢いよく開く音が響いた。
扉の方を見ると、そこにはブーケの姿があった。
赤い髪に黒い服と瞳の、ブーケ。
その姿から、悪魔憑きなっているのは一目瞭然だ。
手には背丈と同じくらい大きくて細長いペンを持っている。
「ご機嫌よう、アベル殿下。ジュリー。」
「あぁ~...ご機嫌よう、ブーケちゃん?」
私も殿下も、苦笑いをしながらゆっくり後退りする。
だけどブーケは私達を睨みながら、1歩ずつ近づいてきた。
「ブーケちゃん、今日はなんで怒ってるのかなぁ~...?」
「もしかして、ロザリア様に何か言われたの?」
「えぇ、言われたわ。......ジュリーが!」
ブーケはその憎しみをぶつけるように、アベル殿下の頭に向かってペンを刺そうとした。
殿下は直前で頭を避け、ペン先を躱す。
「ちょ~と、ブーケちゃん冗談キツいって! ロザリアが憎いんだったら、俺達じゃなくてロザリアに攻撃してくれよ!」
間一髪で攻撃を躱したものの、アベル殿下の額からは冷や汗が流れていた。
「アベル殿下には申し訳ありませんが、ここで消えてもらいます!」
ブーケの狙いはアベル殿下のようだ。
大きなペンで殿下を殴ろうと、ペンを大きく振り翳し、殿下目掛けて勢いよく叩きつけた。
その攻撃を殿下が避けたため、床には大きな穴が空いた。
「なんで俺狙いなんだよ!!」
「すみません。悪魔王にとって、アベル殿下は邪魔者らしいのです。」
まずいわね。
きっと悪魔王の狙いは、悪魔祓い講習を無くして悪魔憑きにしやすい人を増やすことなのだろう。
そのためにアベル殿下を狙っているのだわ。
「駄目よブーケ! 目を覚まして!」
するとブーケは私の顔を見るや否や、大きなペンを振り回して空中に何かを書き始めた。
そしてひととおり何かを書き終えると、書いたものが紙となって、ひらりとゆっくり下に落ちた。
「ジュリーにはコレを貼ってあげる。」
ブーケは下に落ちた紙を拾うと、それを持って私に近づいてきた。
朗らかな顔で近づく彼女。
その表情からは害意は感じないけど、嫌な予感がする。
「ごめんね、ブーケ。遠慮するわ!」
ブーケに紙を貼られそうになった直前に、私は近くにあった椅子を持ち上げてガードした。
「あっ!」
紙は椅子に貼られたあと、椅子の中に溶けるように消えた。
「お願い、ジュリー。コレは悪いやつじゃないの。大人しくしていて。」
ブーケは先程の紙を用意するためか、また空中に何かを書き始める。
「ジュリー、逃げるぞ!」
「あっ! 待って!」
その隙をつくように、アベル殿下は私を担いで窓から飛び降りた。
3階にある教室から飛び降りたにも関わらず、殿下は骨折するどころか、無傷だった。
そして天に向かって駆けるように跳ぶと、アーチを描くように空へと舞い上がり、いとも簡単に4階建ての校舎の屋上へと着地した。
「あぁ~、おっかねえ女だ。」
私と殿下はしゃがむように物陰に身をひそめ、ブーケのいる教室を恐る恐る覗く。
ブーケは私達を見失ったようで、窓から頭を出して私達を探していた。
その様子に安堵した殿下は、気が抜けたようにその場で座り込んだ。
「殿下、先程はありがとうございます。」
「いいって、別に。気にすんな。」
改めてアベル殿下は凄いお方だと感じた。
3階から飛び降りたり、建物へ飛び移ったりするのは、賢者か悪魔憑きぐらいしかできない芸当だ。
アベル殿下がそのような事ができるのは、きっと魔法が使えることと関係しているのだろう。
「それよりジュリーちゃん、面白そうなのを見つけたんだけど、見てみるか?」
面白そうなもの?
この一大事に、悠長なことを言うわね。
アベル殿下含み笑いをしながら、ある方向を指差していた。
指の先には、生徒会室の窓があった。
窓から室内を見てみると、ユミル殿下の姿があった。
「面白そうなものとは、ユミル殿下のことですか?」
「そ! 悪魔憑きが出たって知ったら、アイツ変身するんじゃねぇか?」
アベル殿下の言葉に、私は一瞬、心臓が止まりそうになった。
このままユミル殿下を観察し続けたら、殿下がウイン様かどうかがわかってしまう。
私は無理矢理顔を背けて、見ないようにする。
だけど視線が、油断するとユミル殿下の方へと動いてしまう。
「アベル殿下、正体を探ろうとしてはいけません! 賢者様達の正体を探ることは、賢者様達を危険に晒す行為です。」
「ハハハ、ジュリーちゃんったら、頭が固いなぁ。俺とジュリーちゃんがウインの正体を知ったくらいで、アイツの正体が悪魔王にバレるわけないだろ。」
私の諫言はアベル殿下の心に全く響いていない。
このままだと、私が知らないようにしていてもアベル殿下がユミル殿下の正体を知ってしまう。
「......あっ!」
アベル殿下の気を逸らす方法を考えていると、殿下は突然、残念そうに舌打ちをした。
「どうかしましたか?」
「ユミルに気づかれた。」
再びユミル殿下のいた生徒会室を覗いてみると、すでに殿下の姿はなかった。
ユミル殿下が気づいてよかった。
そう思う反面、ウイン様かどうか確認できなくて残念に思う気持ちが、少しだけあった。
「やっぱ、アイツは怪しいな。普通、俺に見つかったからって隠れはしないだろ。」
「視線が不愉快だから隠れたのではないでしょうか? 普通は、理由もわからないのに覗かれていたら、いい気はしませんよ?」
「......そういうものか?」
納得がいかないのか、アベル殿下は眉間に皺を寄せて口角を下げた。
「ところで、アベル殿下はなぜウイン様の正体を知りたがっているのでしょうか?」
これ以上ウイン様の正体を探らないでくれ、という意味を込めて、皮肉っぽく質問する。
「なぜって、普通に賢者の正体って知りたくないか? 世間を騒がせる有名人の正体を、自分だけが知っているのって面白いだろ?」
「別に、面白いとは思いません。」
「あぁ、そうかよ。頑固な女だな。」
アベル殿下は呆れてため息をついたが、呆れたのは私も同じである。
「もしユミルがウインだったらアイツと結婚できるかも、とか考えないのかよ? 父親にユミルの派閥に入るよう説得すりゃ、簡単に結婚できるだろ。」
「私情でお父様にユミル殿下を支持してもらうなんて言語道断です。私はお父様の政治の邪魔をするつもりはございません。」
「そういうお固いところはユミルとそっくりだよな。ホント、お前らお似合いだよ。いい夫婦になるんじゃねえか?」
アベル殿下は皮肉を込めて言ったのかもしれないけど、ウイン様とお似合いと言われて少し嬉しくなった。
......いや、ユミル殿下がウイン様と決まったわけではないか。
ぬか喜びするのはやめよう。
それより、今はブーケをどうにかしないと。
アベル殿下と話してて忘れそうになったけど、早く変身して悪魔祓いしなければいけないのだった。
とはいえ、どうやってアベル殿下と離れよう?
今のままだと変身したくても変身できない。
どうしたものかと悩みながら呆然と中庭へと目を向けると、校舎からブーケが出てくるのが見えた。
彼女の後ろから、もう一人誰かが出てくる。
「えっ! 嘘......あれって...!」
「どうしたジュリーちゃん?」
「あそこ、見てください!」
私は、その人物を指差した。
ブーケと一緒に校舎から出てきた人物。
それは──フィーネだった。
その疑念で、私の頭の中はいっぱいになる。
「......仮に、ユミル殿下がウイン様であったとしても、いつも通りに接するだけです。」
私は、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
「いつも通り、ねぇ~。今ですら、そんなに意識しているのに、本人の前でいつも通りに振る舞えるの?」
アベル殿下は、揶揄うような意地の悪い笑顔を私に向ける。
「いっそのこと、白黒ハッキリさせてみるか? その方がスッキリするんじゃね?」
その提案に、一瞬、心が揺らぐ。
だけど駄目だ。
ユミル殿下がウイン様でなければ、まだいい。
でも仮に、本当にユミル殿下がウイン様だと確定した場合、ウイン様の正体が悪魔王にバレるリスクが高まる。
なぜなら私達が言いふらすつもりがなくとも、意図せずにバラしてしまう可能性がゼロではないからだ。
そしてバラした相手が、また他の誰かにバラして......そうやって噂が広がっていくと、最終的に悪魔王にバレる。
だからこそ正体は絶対に知ってはいけない。
知ってはいけない、けど......。
頭ごなしに『知ってはいけない』と自戒すればするほど、『知りたい』という欲求が沸々と込み上げる。
「『白黒ハッキリさせる』と言っても、具体的に何をなさるおつもりですか?」
「そうだなぁ~、とりあえずは...。」
アベル殿下が言いかけた時、唐突に教室の扉が勢いよく開く音が響いた。
扉の方を見ると、そこにはブーケの姿があった。
赤い髪に黒い服と瞳の、ブーケ。
その姿から、悪魔憑きなっているのは一目瞭然だ。
手には背丈と同じくらい大きくて細長いペンを持っている。
「ご機嫌よう、アベル殿下。ジュリー。」
「あぁ~...ご機嫌よう、ブーケちゃん?」
私も殿下も、苦笑いをしながらゆっくり後退りする。
だけどブーケは私達を睨みながら、1歩ずつ近づいてきた。
「ブーケちゃん、今日はなんで怒ってるのかなぁ~...?」
「もしかして、ロザリア様に何か言われたの?」
「えぇ、言われたわ。......ジュリーが!」
ブーケはその憎しみをぶつけるように、アベル殿下の頭に向かってペンを刺そうとした。
殿下は直前で頭を避け、ペン先を躱す。
「ちょ~と、ブーケちゃん冗談キツいって! ロザリアが憎いんだったら、俺達じゃなくてロザリアに攻撃してくれよ!」
間一髪で攻撃を躱したものの、アベル殿下の額からは冷や汗が流れていた。
「アベル殿下には申し訳ありませんが、ここで消えてもらいます!」
ブーケの狙いはアベル殿下のようだ。
大きなペンで殿下を殴ろうと、ペンを大きく振り翳し、殿下目掛けて勢いよく叩きつけた。
その攻撃を殿下が避けたため、床には大きな穴が空いた。
「なんで俺狙いなんだよ!!」
「すみません。悪魔王にとって、アベル殿下は邪魔者らしいのです。」
まずいわね。
きっと悪魔王の狙いは、悪魔祓い講習を無くして悪魔憑きにしやすい人を増やすことなのだろう。
そのためにアベル殿下を狙っているのだわ。
「駄目よブーケ! 目を覚まして!」
するとブーケは私の顔を見るや否や、大きなペンを振り回して空中に何かを書き始めた。
そしてひととおり何かを書き終えると、書いたものが紙となって、ひらりとゆっくり下に落ちた。
「ジュリーにはコレを貼ってあげる。」
ブーケは下に落ちた紙を拾うと、それを持って私に近づいてきた。
朗らかな顔で近づく彼女。
その表情からは害意は感じないけど、嫌な予感がする。
「ごめんね、ブーケ。遠慮するわ!」
ブーケに紙を貼られそうになった直前に、私は近くにあった椅子を持ち上げてガードした。
「あっ!」
紙は椅子に貼られたあと、椅子の中に溶けるように消えた。
「お願い、ジュリー。コレは悪いやつじゃないの。大人しくしていて。」
ブーケは先程の紙を用意するためか、また空中に何かを書き始める。
「ジュリー、逃げるぞ!」
「あっ! 待って!」
その隙をつくように、アベル殿下は私を担いで窓から飛び降りた。
3階にある教室から飛び降りたにも関わらず、殿下は骨折するどころか、無傷だった。
そして天に向かって駆けるように跳ぶと、アーチを描くように空へと舞い上がり、いとも簡単に4階建ての校舎の屋上へと着地した。
「あぁ~、おっかねえ女だ。」
私と殿下はしゃがむように物陰に身をひそめ、ブーケのいる教室を恐る恐る覗く。
ブーケは私達を見失ったようで、窓から頭を出して私達を探していた。
その様子に安堵した殿下は、気が抜けたようにその場で座り込んだ。
「殿下、先程はありがとうございます。」
「いいって、別に。気にすんな。」
改めてアベル殿下は凄いお方だと感じた。
3階から飛び降りたり、建物へ飛び移ったりするのは、賢者か悪魔憑きぐらいしかできない芸当だ。
アベル殿下がそのような事ができるのは、きっと魔法が使えることと関係しているのだろう。
「それよりジュリーちゃん、面白そうなのを見つけたんだけど、見てみるか?」
面白そうなもの?
この一大事に、悠長なことを言うわね。
アベル殿下含み笑いをしながら、ある方向を指差していた。
指の先には、生徒会室の窓があった。
窓から室内を見てみると、ユミル殿下の姿があった。
「面白そうなものとは、ユミル殿下のことですか?」
「そ! 悪魔憑きが出たって知ったら、アイツ変身するんじゃねぇか?」
アベル殿下の言葉に、私は一瞬、心臓が止まりそうになった。
このままユミル殿下を観察し続けたら、殿下がウイン様かどうかがわかってしまう。
私は無理矢理顔を背けて、見ないようにする。
だけど視線が、油断するとユミル殿下の方へと動いてしまう。
「アベル殿下、正体を探ろうとしてはいけません! 賢者様達の正体を探ることは、賢者様達を危険に晒す行為です。」
「ハハハ、ジュリーちゃんったら、頭が固いなぁ。俺とジュリーちゃんがウインの正体を知ったくらいで、アイツの正体が悪魔王にバレるわけないだろ。」
私の諫言はアベル殿下の心に全く響いていない。
このままだと、私が知らないようにしていてもアベル殿下がユミル殿下の正体を知ってしまう。
「......あっ!」
アベル殿下の気を逸らす方法を考えていると、殿下は突然、残念そうに舌打ちをした。
「どうかしましたか?」
「ユミルに気づかれた。」
再びユミル殿下のいた生徒会室を覗いてみると、すでに殿下の姿はなかった。
ユミル殿下が気づいてよかった。
そう思う反面、ウイン様かどうか確認できなくて残念に思う気持ちが、少しだけあった。
「やっぱ、アイツは怪しいな。普通、俺に見つかったからって隠れはしないだろ。」
「視線が不愉快だから隠れたのではないでしょうか? 普通は、理由もわからないのに覗かれていたら、いい気はしませんよ?」
「......そういうものか?」
納得がいかないのか、アベル殿下は眉間に皺を寄せて口角を下げた。
「ところで、アベル殿下はなぜウイン様の正体を知りたがっているのでしょうか?」
これ以上ウイン様の正体を探らないでくれ、という意味を込めて、皮肉っぽく質問する。
「なぜって、普通に賢者の正体って知りたくないか? 世間を騒がせる有名人の正体を、自分だけが知っているのって面白いだろ?」
「別に、面白いとは思いません。」
「あぁ、そうかよ。頑固な女だな。」
アベル殿下は呆れてため息をついたが、呆れたのは私も同じである。
「もしユミルがウインだったらアイツと結婚できるかも、とか考えないのかよ? 父親にユミルの派閥に入るよう説得すりゃ、簡単に結婚できるだろ。」
「私情でお父様にユミル殿下を支持してもらうなんて言語道断です。私はお父様の政治の邪魔をするつもりはございません。」
「そういうお固いところはユミルとそっくりだよな。ホント、お前らお似合いだよ。いい夫婦になるんじゃねえか?」
アベル殿下は皮肉を込めて言ったのかもしれないけど、ウイン様とお似合いと言われて少し嬉しくなった。
......いや、ユミル殿下がウイン様と決まったわけではないか。
ぬか喜びするのはやめよう。
それより、今はブーケをどうにかしないと。
アベル殿下と話してて忘れそうになったけど、早く変身して悪魔祓いしなければいけないのだった。
とはいえ、どうやってアベル殿下と離れよう?
今のままだと変身したくても変身できない。
どうしたものかと悩みながら呆然と中庭へと目を向けると、校舎からブーケが出てくるのが見えた。
彼女の後ろから、もう一人誰かが出てくる。
「えっ! 嘘......あれって...!」
「どうしたジュリーちゃん?」
「あそこ、見てください!」
私は、その人物を指差した。
ブーケと一緒に校舎から出てきた人物。
それは──フィーネだった。
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