セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

23.話し合いました!

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お互いに服を身に付け共用リビングへと戻ってきた俺たちは、思わぬ長湯ですっかりカラカラに渇いてしまった喉を、颯真が用意してくれた飲み物で潤していた。

一息ついたところで隣に座っている颯真をチラリと見ると、完全に不機嫌さ丸出しの視線を俺に向けてきているのがよくわかる。


「さて、そろそろどういうことか俺にも説明してもらえるんだよな?」


さっき風紀委員の部屋で副委員長にも生徒会長に受けた嫌がらせもどきを説明をしたばかりなので、再び口に出して説明しなければならないことに対し、些かうんざりしてしまう。

しかしそう言ったところで納得してもらえるとも思わないので、俺は仕方なく副委員長にしたのとほぼ同じ内容を颯真にも説明することにした。



そして。


俺の話を聞いた颯真が風紀副委員長と同じく爆笑してくれるのかと密かに期待していたのだが。

残念ながら返ってきた反応は全く違うものだった。


「……厄介な事に巻き込まれやがって」


不機嫌そうに低く呟いた颯真に、俺は思わずムッとしてしまう。

俺だって望んでこうなった訳ではないのだ。


朝比奈に関することは俺の落ち度も無いとは言えないが、少なくとも生徒会長の件に関しては、俺は完全に被害者だ。

その証拠に俺は極力関わり合いにならないよう、半端でない存在感を醸し出していた会長をスルーしまくったのだから。


『君子危うきに近寄らず』


──俺は先人の教えを忠実に実践したはずだった。


絶対に目を合わせないよう注意していたにも関わらず、それをむこうが無視したという言いがかりとも思える言葉で非難した挙げ句、公衆の面前でキスを仕掛けてくるという嫌がらせまで行ってくれたのだから、明らかに俺のせいじゃないだろう。


「……俺のせいだって言いたいのかよ」


今度は俺が颯真に非難めいた視線を送りながらそう言うと、颯真はそんな俺を見て呆れたような顔をした。


「……あのなぁ、全部が光希のせいだとは言わないけど、もうちょっとやりようあったと思わねぇ?」


俺は返す言葉が見つからず、むっつりと黙り込む。


「もうこうなってしまった以上、何を言っても後の祭りだな。
──で、お前これからどうすんだ?」

「……どうもしねぇけど?」


俺が憮然と言い放つと、颯真は微妙に話の角度を変えてきた。


「風紀に呼ばれて何か言われたんじゃねぇのかよ」


なんでその事を颯真が知ってるのかと一瞬疑問に思ったが、よく考えてみればギャラリーが大勢いる中で風紀委員長サマに連行されたのだ。

あんな状況では確実に噂になっていただろうし、もしかしたら二階堂あたりから速攻で連絡がいったのかもしれない。


「『調子に乗るな、勘違いするな、大人しくしてろ』」


俺が不機嫌な態度を崩すことなく淡々とそう答えると、颯真は俺が下手に誤魔化そうとしているとでも思ったのか、怪訝そうな表情になった。


「……は?何だそれ?」

「風紀委員長サマにしつこく言われたことだけど?」

「……具体的な話はなかったのか?」


颯真が言いたいのはおそらく副委員長が話してくれた回避策のことだろうと察しはついたのだが、およそ受け入れがたい内容ばかりだったために、実行する気は全くない。

自分の親衛隊なんていらないし、誰かの親衛隊に入るのも御免だ。ましてやこの学校の男と付き合うなんて論外だ。

条件を思い出した俺は自然と嫌そうな表情になってしまう。


何で俺がヤツらの一過性の気紛れの為に、自分の学校生活を犠牲にしなきゃなんねぇんだ!?

考えただけでも業腹だ。


それに学食での一般生徒の反応から考えると、普段特別棟にいる連中とは普通に会えないからこそのあの異常なまでの狂乱ぶりなわけで、裏を返せばアイツらの生活圏内にさえ入らなければ遭遇する確率は限りなくゼロに近いと思われる。

ってことは、やりようによってはうまく回避出来るんじゃね?


「とにかく、生徒会長と役員たちは暇つぶしに毛色の変わった俺で遊ぶつもりなんだって聞いた。
だったら俺はアイツらに近寄らなきゃいいだけの話だろ?」


キッパリとそう言い切った俺に、颯真は急に心配そうな視線を向けてくる。


「そんな単純な話じゃねぇから心配なんだろうが。生徒会も厄介だけど、その親衛隊は更に厄介だぞ。そっちのほうこそ気をつけないと大変なことになるからな」

「制裁の話だろ? 二階堂や副委員長から聞いた。理不尽だよなー」


下らない思っていることが丸わかりの口調で、どこか他人事のようにそう言った俺に、颯真の顔付きが一気に険しくなった。


「お前は転校してきたばかりでピンときてないと思うけど、事態はお前が考えてるよりずっと深刻なんだよ」


確かにいくら説明されてもこの学校の独特な風習に馴染みのない俺には理解不能だ。

俺があえて何も言わずにいると、颯真はこれ以上話しても無駄だと思ったのか深いため息をついた。


「なんかあったらすぐに俺を呼べよ」


そう言われて、お互いの立ち位置をはっきりさせておかなければならないと思い立った俺は、きっぱりと颯真の申し出を断ることにした。


「気持ちだけもらっとく。
──最初に言っとくけど、この部屋出たら俺らは他人な。お前と繋がってるってバレるとそれも厄介だから。 お前も親衛隊持ちなんだろ?だったら俺はお前には頼れねぇよ」

「何で!?」

「お前の親衛隊に目の敵にされんのは御免だ」

「ちゃんと説明しとくから大丈夫だって。俺のとこの幹部は皆いい人ばっかりだし」


俺はつい颯真に生温かい目を向けてしまう。


そりゃ颯真の親衛隊なんだから颯真にとってはいい人だろう。

颯真に嫌われたくなければ、本人たちにとっては不本意なお願いでも表面上は聞いておくしかない。

でもおそらく実態はそんなお人好し集団ではないだろう。

でなければ颯真の事を『サル』呼ばわりした俺に、二階堂が『制裁』という言葉を出して釘を刺したりしないはずだ。


心配してくれているのだということはわかるが、下手に颯真に関わられて敵が増えてもかなわない。


「俺はここに人生静かにやり直すために来たんだよ。心配してくれんのはありがたいけど、これ以上悪目立ちするつもりはねぇんだ」


俺がそれ以上何も言うなというつもりで鋭い視線を送ると、颯真はあきらかに納得していない表情で口を噤んだ。


「いざとなったら颯真に一番に言うから、とりあえず俺の言うとおりしてくれよ。頼む」


俺が軽く頭を下げてそう頼むと、颯真は渋々という感じではあったがなんとか承知してくれた。


「……わかった」

「サンキュ。 その代わり、この部屋にいる時は今までどおりで頼む。素の俺でいられんのは颯真の前でだけだからさ」


ニッコリ笑ってそう言いながら軽くウィンクして見せると、颯真は少し驚いた表情になり、何故か不自然に視線を逸らされてしまった。


その時颯真がボソリと何かを言った気がしたが、本当に小さな呟きだったため、残念ながら俺の耳には届かなかった。
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