セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

36.呼び出しされました!

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佐伯と遭遇した日の放課後、俺は担任の東條に呼び出され、転校初日に訪れたことのある東條の持ち部屋へと来ていた。


転校初日は色々ありすぎて気付かなかったというか、疑問にも思っていなかったのだが、なんとこの部屋は東條が個人的に使っている部屋なんだそうだ。

さすがはお坊っちゃま学校というべきか……。

教科担当単位の準備室も勿論あるのだが、希望すれば個人の準備室も使わせてもらえるらしい。


椅子に座ったまま不機嫌そうな表情を隠そうともしない東條に、元々良くない俺の機嫌はダダ下がりだ。

正直言って、もう二度と東條と二人きりにはなりたくないと思っていた俺としては、こんなとこに来るくらいなら他人の目がある職員室のほうがありがたかったのだが、ヤツの口から告げられた用件を聞いて、非常に不本意ではあるが俺はここが個室であることを感謝することとなってしまった。


「単刀直入に言う。お前、生徒会の仕事を手伝う気あるか?」

「……は?」


予想外の用件に驚き、不覚にもそう言ったまましばらく固まってしまった俺を東條が怪訝そうな顔で見ている。


即答できないからって別に悩んでいるわけじゃない。

返事はもちろん『NO』一択だが、どんな意図があってそういう話を打診されたのかが気になっただけだ。


──確かここの生徒会って人気投票で決まるんじゃなかったっけ?

……もしかして新手の嫌がらせか?


そんな事を考えながら内心首を傾げていると、東條は俺が何かを疑問に思っていることを感じ取ったらしく、ものすごく面倒臭そうに捕捉説明してくれた。


「……今お前に打診してるのは生徒会役員補佐というもので、生徒会役員じゃない。あくまでも生徒会の仕事の手伝いをするだけの役割だ。 役員補佐は役員からの推薦があれば、なんの取り柄もなくてもなれる役職だ。アイツらはお気楽に過ごしているように見えてなかなか忙しい。猫の手も借りたいってのも嘘じゃないんだろうが……。
──全く面倒なこと思い付いてくれる」


東條は大袈裟にため息を吐くと、眼鏡越しに馬鹿にしたような視線を送ってきた。

暗にお前みたいなのがなれるわけがないと鼻で笑われたのも気分が悪いが、まだ何にもしていないにも関わらず、東條にも役員にも無能扱いされているらしいことが無性に腹が立つ。


かといって、俺の実力見せてやる!!……という気には間違ってもならないので、ここはきっぱりと断ることにする。


「やりません。お断りです」


普通なら『お断りします』と言うところだろうが、俺はあえて強い拒絶を表すために、こういう言い方を選んだ。

侮られて悔しい気持ちはあるが、アイツらに実力を示したいという気持ちよりも、関わり合いになりたくないという気持ちが圧勝した結果だ。

ただでさえアイツらのせいで悪目立ちしてる俺がそんなとこに出入りするようになったら、本格的に制裁対象として面倒なことになる姿が目に浮かぶ。

そしてそうなった場合、元凶である生徒会役員達の助けは全くといっていいほど期待できないだろう。

──全く最悪な連中だ。


そこで俺はようやく昼間佐伯が言っていた強行手段というのはおそらくこの事なのだろうと気付いたのだが、それと同時に、こんな厄介事を当然のように引き受けると思っているアイツらは、相当自信過剰でおめでたいヤツらなのだと別の意味で感心してしまった。

アホな役員達に半ば呆れ返りながら、もうすっかり話が終わった気になっていた俺は、目の前の東條からの了承と退出の言葉を待っていたのだが。


「まあ、当然だろうな。お前がこの話を受けたとして、誰も本来の役割を期待してない以上、こんな話をすること自体無意味だ」


退出の許可どころか、俺の導火線に火を着ける一言を言ってくれたのだった。

さすがにアタマにきてしまった俺は、我慢できずについ嫌味とも取れる言葉を口にしてしまう。


「無意味だと思ったんなら、最初から俺に聞く必要なかったんじゃないですか? むしろ本来の役割以外のことで余計な気をまわさないないよう、先生からも一言言っていただいてもいいと思うんですが」


酷く抑揚のない声で、『わかってんなら聞くんじゃねぇよ。むしろ仕事そっちのけでバカなことしてるヤツらを注意しろ!!』と遠回しに言ってみた。

その言葉を聞いた東條は軽く目を眇めながら、俺を見た。

真意が伝わらなくともちっとも構わないと思っていたのだが、この様子ではどうやらしっかり伝わっているらしい。


「……どうやらお前が厄介事起こしたせいでこういう面倒な話になってるのが全くわかってないみたいだな。──初日に言ったよな?『ここで圭吾に迷惑かけるような真似したらただじゃおかねぇぞ』って。……忘れたとは言わせねぇぞ?」


段々と教師らしからぬ荒い口調になっていく東條からは、あきらかに俺への苛立ちが見てとれた。

眼鏡の奥からは随分と物騒な視線が飛んでくるが、俺は少しも怯むことなく、東條をしっかりと見返した。


──コイツホントに教師かよ? いくら圭吾さんが大事だからって、生徒を恫喝とか恥ずかしくねぇのかな……。


俺は内心やり場のない怒りを感じながら、一回でもコイツに身体を許したあの日の自分を殴りたい衝動に駆られ、思わず拳を握りしめる。

そんな俺を見て何を思ったのかは知らないが、東條の顔つきは益々剣呑ものへと変わっていった。


しばし無言で対峙していた俺達だったが、いつまでもそうしている訳にもいかないので、その緊張状態を俺から崩していくことにした。

先に視線を外してから、すっかり硬くなっていた肩の力を抜く。

そうすることで熱くなり始めていた自分に、少しだけ冷静さが戻ってきた。


──自業自得とはいえ、俺ってホント見る目ないよなぁ。これが初体験の相手とは……。


そう思いながら内心ため息を吐く。

どうやらそういうとこに関しては、母親の血をしっかり受け継いでいたらしい。

そう思った途端、なんだか妙に笑えてきた。


自分の中にある血の威力を妙なタイミングで確認することとなった俺は、この不毛な時間に決着つけてさっさと帰ることに決めた。


……でも言いたいことは言うけどな。


「俺が、いつ、圭吾さんに迷惑かけたって?
──どんだけ圭吾さんの事が大事か知らねぇけど、こっちが色目使ったわけじゃねぇのに、そんな言いがかりつけられても困るんだよ。」


一気にそこまで言うと、俺は一旦言葉を区切って軽く息を吐く。

そうして少し昂ってしまった気持ちを落ち着かせてから、改めていち生徒として担任教師である東條と向き合った。


俺の言葉を聞いた東條は、何故か面食らったような顔をしているが、もう知ったこっちゃない。


「とにかくこの話は先生のほうから、断っていただけますか?俺は全くやる気はないので。 話がそれだけでしたら、失礼します」


言いたい事だけさっさと言うと、俺は軽く頭を下げてから扉に向かって歩き出す。


その時。

コンコンというノックと共に、聞き覚えのある声が扉の向こうから聞こえてきた。


「東條先生。朝比奈ですが、今よろしいでしょうか?」


最悪な人物の登場に、俺は思わず頭を抱えたくなってしまった。
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