うろ覚え乙女ゲームの世界に転生しました!モブですらないと思ってたのに……。

みなみ ゆうき

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12.なんか、違う

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土下座したはいいけれど、何て言ってこの場を納めるか。

さっきまで色々考えていたはずなのに、頭が真っ白になってしまい、言葉が何も出てこない。
何か言わなきゃ。謝罪とか言い訳とか、どうしてここにいるのかっていう説明とか。そうは思うのに、全く言葉が思い浮かばなかった。

っていうか、この場面で私が勝手に喋り出していいのかっていうことすら判断つかないんだけど……。

この世界はわりと厳しい身分制度があるせいか、身分の高い人から先に声をかけられない限り、身分の低い者は勝手に喋り出してはいけない、なんて暗黙のルールとかがあったりする。

だから何の説明も言い訳も聞いてもらえず、問答無用で叩き出されるか、最悪手討ちにされる可能性すら出てきた。

どうしよう……。

相変わらず土下座ポーズのままひとり青くなっていると。

「とりあえず顔を上げて下さい。あなたのその態度を見る限り何か事情がありそうですし、少しお話ししましょうか」

王太子殿下が私のすぐ前に跪き、優しく声を掛けてくれた。

予想と違う反応に内心もの凄く驚きながらも、恐る恐る顔を上げる。
すると。目の前にはとびっきりの美少年スマイルを浮かべた王太子殿下。
さすがメイン攻略キャラ。顔面偏差値ハンパない。
でも何だろう……。気のせいかな……? 
眩しいほどのキラキラ王子スマイルがちょっと胡散臭く見えたんだけど。

「その体勢じゃ僕も話しづらいので、良かったらこちらに座りませんか?」

「え……?」

ベッドを指差した後、王太子殿下の手が私の前に差し伸べられる。その手をとって立つように促されていることはわかったものの、女嫌いだという設定の王子様の手をとっていいのか迷ってしまった。

王太子殿下はそんな私に益々キラキラした、むしろキラキラし過ぎて逆に威圧的にすら感じる笑顔を向ける。

なんかゾワッってした! って思ったのも束の間。

「ねぇ、さっさとしてくれる? 本来だったら問答無用で叩き出してるところを、あなたのその態度に免じてわざわざ話を聞いてあげるって言ってんのに」

これまで優しかった王太子殿下の口調が急に変わった。

え!? もしかして二重人格キャラ!? 
確かに内容うろ覚えだけど、この王子、こんな設定だったっけ!?

激しく動揺する私に、王太子殿下は私にもハッキリとわかるような黒い笑みを浮かべる。

「それとも本当に僕の相手をしてくれるつもりでここに来たの? だったら僕にも考えがあるけど」

「いえッ! 違いますッ!」

慌てて否定するも、王太子殿下は訝しむような目で私を見ていた。
そこで私は漸く、自分がどんな格好をしてこの人の前にいるのかを思い出し、土下座により少し乱れたガウンの袷せを慌てて掻き寄せる。

前世の私は栄養が足りていたにもかかわらず、肝心なところはスレンダーだったが、メリンダは六歳から十五歳までの間、全く栄養が足りてなかったにもかかわらず、ここ数年で一気に遅れを取り戻す勢いで成長し、出るとこは人並みに出て引っ込むところは引っ込んでいるという女性らしい体型になっている。

そんな体型の私がめっちゃやる気満々の格好をして、ベッドルームにいる時点で言い訳出来ない。
何を言っても説得力がない状況。
でも話を聞くって言われたって、一体何を言えばいいわけ!?

ひとりでグルグル考え込む私に、今度は打って変わって慈愛すら感じさせる微笑みを見せる王太子殿下。

そして。

「あのさぁ、こんな事言いたくないんだけど……。ここは密室で、いるのは僕とあなたの二人きり。僕のほうがあなたより遥かに身分が高い。だから僕があなたの事なんて知らないと言えば、知らないことになるんだ。だから、ちゃんとしようね」

全く穢れなんて感じさせない雰囲気で、私を消すのは簡単だとのたまった挙げ句、洗いざらい吐けと脅してくる。

たぶんゲームのメリンダは、懸命に本来の役目を果たそうと頑張った挙げ句、姿を消したんだろうな……。


それにしても。

王太子殿下って、もっと正統派ヒーローって感じの爽やかイケメンキャラだと勝手に思ってたんだけど……。

笑顔で脅すとか、イメージ違い過ぎやしませんか……?
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