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26.知らなかったよ
しおりを挟む今は亡き王妃様のドレスをお借りして向かった先は、国王陛下の私室。
普通の人がおいそれとは入れない空間だけに、聞かれたくない話をするにはもってこいの場所ってことなんだろうけど。
うー、緊張する。
下手すりゃ王太子殿下の部屋に行った時より緊張してるかも。
あの時はただひたすら、どうやってあの場を切り抜けるかってことに全力を傾けてたから、緊張するっていうより完全にテンパってたって感じのほうが強かったと思う。
今はちょっと落ち着いて現状が理解出来てる分、国王陛下のプライベート空間に完全部外者の私が足を踏み入れることがどんなに異例で畏れ多いことか、よーく認識出来ている。
国王陛下も騎士団長もさっきは笑顔を見せてくれたけど、あれが私を油断させて懐柔する為の罠じゃないとは言い切れないから尚更。
既にその息子達がさっき似たような手口使ってたしね……。気をつけないと。
そんな事を考えつつ侍女長さんの先導で部屋に入ると、豪華ながらも落ち着いた雰囲気のある広めの部屋には、既に国王陛下と王太子殿下の姿があった。
中央に置かれたソファーセットに向かい合う形で座っている親子。その斜め後ろにはそれぞれ騎士団長とライオネルが控えている。
夜も更けた時間に、国王陛下と王太子殿下っていうこの国のトップツーを待たせてしまっていたという現実を改めて思い知らされ、小心者の私は早くも申し訳なさで土下座したくなってきた。
でも王妃様のドレスでそんな真似は出来ないよね……。
「バンフィールド辺境伯夫人をお連れ致しました」
「ご苦労だった。呼ぶまで下がっていてくれ」
「かしこまりました」
侍女長さんはさっきまでの『ユリアーネ様熱』などどこにもないような涼しい顔で去っていく。
入れ替わるように二人の前に出ることになった私は、すかさず頭を下げながらカーテシーをした。
緊張で膝がプルプルしてるけど、ドレスで隠されてるから気付かれていないと信じたい。
「バンフィールド辺境伯夫人、いや実情を考えるとメリンダ嬢と呼んだほうがいいか。ここは普段俺しか使ってない部屋だ。うるさい人間もいないから楽にしてくれていい」
『俺』という部分を強調してあくまでもプライベートな時間だと主張する国王陛下に、私は内心苦笑いしつつ頭を上げた。
その途端、不機嫌そうな顔をした王太子殿下とバッチリ目があった。その後ろにいるライオネルは国王陛下の前だからか護衛としてこの場にいるからなのか無表情を装ってはいるものの、その目に浮かんだ好奇心の色が隠しきれていない。
さっきは随分大人びてるなって思ってたけど、こういうところを見ると、まだ大人になりきれてない感じがして微笑ましい。
うん。おかげでっていうのもおかしいけど、二人を見たら大分落ち着いたわ。
心の中で若者二人に感謝しつつ国王陛下に視線を戻すと、陛下の後ろに控えていた騎士団長が私の方へと歩み寄り手を差し伸べてきた。
???
頭の中にハテナマークしか浮かばない。
もしかして部屋に入る前の身体検査とか?
なんて思っていたら。
「席まで案内しよう」
エスコートという文化に全く馴染みのなかった私に、すかさずさり気ないフォローが入った。
おぉう。こちらに恥をかかせないスマートな気遣い。これが大人の余裕ってやつか。
「その姿を見ていると、ハリス子爵夫人を思い出す。王妃様だけでなく私の妻もハリス子爵夫人──当時のオルドリッジ伯爵令嬢に憧れて、その象徴ともいえる深い青色のドレスを作らせていた。妻も彼女の娘である君が青色のドレスを着ている姿を見たら喜ぶだろうな」
王妃様だけでなく騎士団長の奥様までお母様のファンだったのか……。
ホントにスゴい影響力だな、『ユリアーネ様』。
会ったら喜ぶどころかガッカリされそうだなと思いつつも下手なことは言えないので、とりあえず笑顔で「ありがとうございます」とだけ答えておいた。社交辞令だってわかってるから他に言いようがないしね。
愛想笑いを張り付けたまま騎士団長の手にそっと手を載せ、しずしずと歩き出す。
距離にして僅か数歩。到着した場所は国王陛下と王太子殿下の横側。そこに用意されていた一人がけの椅子に座れということらしい。
どっちかと一緒に座るってことにならなくて心底良かったと思うけど、王族と同じテーブルに着くことに変わりはなく、恐縮せずにはいられない。
さあどうぞって感じでさっと椅子を引かれても、そこに座ることに躊躇しちゃうよね? いっそ立ったままでもいいのでは?
なんて思っていたら。
「馬子にも衣装と言ってやりたいところだが、少しは見られるようになったじゃないか。さっきの破廉恥極まりない格好より百倍マシだな」
王太子殿下から、褒めてるんだか貶してるんだかわからないお言葉をいただいた。
さすがは日本の乙女ゲーム。異世界でしかも完全に外国人の見た目の王子様から『馬子にも衣装』なんていう言葉が出てくるなんて……。
しかも。
「さっさと座ったらどうかな? こういう場面で女性を立たせたままにしておけるほど、僕らは傲慢でも無神経でもないんだけど」
すっごい嫌そうな顔をしながらも、気遣いらしきものを見せる王太子殿下に、微妙な気持ちにさせられた。
王太子殿下ってただの女嫌いじゃなくてツンデレ要素もあったんだね……。
ストーリーなんてほぼスキップしてたから知らなかったよ……。
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