うろ覚え乙女ゲームの世界に転生しました!モブですらないと思ってたのに……。

みなみ ゆうき

文字の大きさ
27 / 40

27.ドレスの秘密

しおりを挟む

王太子殿下のわかりづら過ぎる気遣いを若干引きつった笑顔で受け取り、私は諦めの境地で椅子に座った。

今日は何度も『ここが正念場』って思ってきたけど、本当にこれからが正真正銘の正念場になるだろう。

なんとなく、いつまでも閉店セールをやっておきながらずっと閉店しないお店みたいになってる感もあるけど、非公式の場とはいえ陛下が同席される以上、今度こそ、本当に、ここでの対応が今後の人生を決めることになるのは間違いない。

この後の私の人生が、閉店になるのか新装開店になるのかはわかんないけどね。

「そのドレスは本当に君によく似合っているな。髪の色はハワード譲りだし雰囲気自体も一見ハリス子爵夫人とは違って見えるけど、やっぱり彼女の娘なんだと思わせるものがある。儚さの中にある凛とした美しさは親子共通のものだな」

「……畏れ入ります」

国王陛下の言葉はなんだか面映ゆい。
たぶんどころか絶対にお世辞なのはわかってても、カリスマインフルエンサーのお母様と同じところがある(しかも見た目!)と言われれば悪い気はしない。

陛下とは反対側から調子に乗るなよとばかりに冷ややかな視線が向けられてるのがわかるけど、気にしない、気にしない。

「実はそのドレスはヘンリー・バンフィールド辺境伯が生前王都にある商会に依頼して仕立てていたもので、訳あって王宮で預かっていたものだ」

「……はい?」

「他にも数点預かったものがある。全部君の為にアイツが用意したものだ」

夫が何? そして私の為って?

言われたことが理解出来ずに固まっていると。

「ヘンリーは馴染みの商会に色々と頼んでいたようでね。その頼み事のひとつが『もし依頼していたものが揃う前に自分が亡くなっていたら、それらは全て王都の屋敷ではなく王宮に納めて欲しい』というものだったんだ。もちろん俺のところにも許可を求める手紙がきていた。その直後だったよ。ヘンリーが急死したという報せが届いたのは」

国王陛下から語られる予想もしていなかった事実。

今着てるみたいな身体にフィットするタイプのドレスって着る人のサイズできっちり作られてるはずなのに、私の体型にもピッタリ合うものなんだな、ってチラッと思わなくもなかったんだよね……。
まさかの私の為に作られたドレスだったとは。

よくよく思い返してみれば、案内された場所は王妃様の衣装部屋だったけど、ドレスが王妃様のものだとは一言も言ってなかった気がする。
しかも思いがけない亡き夫からの贈り物に、不意に視界が揺れ始めた。

泣いちゃダメだ。こんなバッチリメイクで泣いてしまったら、後で大変なことになる。
泣くのもおじさまの事を考えるのも、この場を無事に乗り切ればいくらでも出来るでしょ?

そう自分に言い聞かせ、ゆっくり瞬きをすることで瞳を覆い始めた涙を散らす。

しかし。

「どういうことなのですか? それではまるで辺境伯が自分の死を予測していたかのようではないですか」

王太子殿下の指摘に涙が一気に引っこんだ。

言われてみれば色々とおかしな話だと気付く。夫の行動は私の為ではあるものの、自分がいなくなった場合を前提にして行われている。
いくら親子以上に年が離れていて、普通に考えれば夫のほうが先に亡くなる可能性が高いって言っても、自分がいなくなった後に備えるには早すぎる。

しかもすっかり失念してたけど、こういうドレスとかって注文してから出来上がってくるまでに結構な時間がかかるのよね。

夫と結婚するまでの約五年間、服飾店で働いていた経験から、こういった貴族が着るドレスは見た目シンプルでも出来上がりまでにそれなりの日数をいただいていた事を思い出す。もちろん超特急で仕上げることも出来るけど、余程の事がない限りそういった案件は引き受けないことになっていた。
それはどこも同じだって聞いたような……。

結婚してから二ヶ月あまり。
その期間でこのドレスを準備するのは不可能じゃないけれど、自分がいなくなった後の指示がしてあったことがやっぱり気にかかる。

まさか私には知らされていなかっただけで何かの病気だったとか? それだったらあんなに元気ではいられなかったはず。
現に亡くなる前日の夜、一緒に夕食を摂った際に変わった様子は見られなかった。

おかしな点といえば、夫が亡くなった時、今まで領地に近寄りもしなかったアーネストが、たまたま領地に向ってる最中だったってことくらいかも。

その事と夫がどういうつもりだったのかっていう事の関連性はわからない。
でもこれからの話次第でその辺りも明らかになる可能性はある。
国王陛下がそれに繋がる話をしてくれるかどうかはわからないけど。

「まあ、そんな訳だから余計にメリンダ嬢には知っている事を全部話してもらいたいと思っているんだ。さっき君がエドヴァルド達に話そうとしていたことも含めてね」

国王陛下の言葉にみんなの視線が私に集まる。
私は私の知らなかった真実を知るためにも、慎重に言葉を選びながら全てを話した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...