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25.真似出来ない
しおりを挟むその後も延々と侍女長さん(確認済)の『ユリアーネ様って素敵』談義は続き、ここに来た当初の目的を忘れそうになった頃。
「やはりユリアーネ様のご息女様。髪のお色こそ違いますが、お顔立ちはよく似てらっしゃいますわ。ユリアーネ様がデビュタントの時に着ていらしたものと同じ深い青色のドレスがよくお似合いですこと」
漸く正気に戻った侍女長さんに半ば強引に押し切られる形で、結局王妃様のドレスを着る羽目になっていた。
膝の上の辺りから裾にかけて大輪の薔薇が咲いているかのように幾重にも重なったフリルが広がっていくというデザインのマーメイドドレスは、上半身が手首までレースで覆われてるために肌の露出こそ少ないものの、体型がバッチリわかるものだった。
……素敵よね。このデザイン。
着るのが私じゃなければもっと素敵。
大人っぽさと清楚さを兼ね備えたこのドレスは、ため息が出るほど美しい。
だけど地味子の私じゃ、このドレスの魅力を活かしきれてないことが悔やまれる。
ドレスを着るにしてももっと違うデザインのほうが……とも思ったけど、もう余計なことを言ってられるような時間的余裕も心の余裕もなかったために、されるがままになった結果、侍女長さんイチオシのドレスを着ることになったわけですが。
「……お褒めいただき光栄デス」
お母様を基準に物事が進んでいくことに、つい遠い目になってしまう。
侍女長さんの目には、私はお母様に似てるように映ってるみたいだけど、たぶんっていうか確実に性格はまるで違うと思うから、そんな期待に満ちた目で見られても困る。
私には他人を持ち上げといて貶めるテクニックも、弱味を握って辱める行動力もありませんよー。
「素晴らしいですわ」と言いながら満面の笑みを見せる侍女長さんは、私の目の輝きが段々と失われていってることに気付いていない。
ご満足いただけたようで何よりです。
私のライフは着々とゼロに近付いてますが。
だったら断固断るべきだったんじゃないかって?
いや、ね。私だって絶対に譲らないつもりで、自分の主張を口にしたよ?
でもその度に何故か『ユリアーネ様がいかに素晴らしかったか』っていう方向に話が流れていき、挙げ句に『ユリアーネ様にご恩返しが出来なかった分、ご息女様に……』とかなんとか言われ続け、もうこっちの要望を聞き入れてもらうために繰り返し根気強く説得することに疲れちゃったんだよね……。
自分の意思をしっかり持つのも大事だけれど、早いうちに長い物に巻かれるのも大事なことだと実感したひと時でした。
そしてあれよあれよという間にドレス選びが終わり、彼女の手によって支度が整えられていったわけですが。
プロの仕事ってスゴいわぁー。
さっきまでこのドレスを着るのが私だってことに申し訳なさと不安しか感じていなかったけど、今鏡に映った自分の姿を初めて見て、リアルに『これが私……?』状態。
短時間でまるで別人のような仕上がりです。
すごいなぁ。どうやったんだろう。
目元はキリッとしながらもパッチリしてるし、唇の厚さや肌の質感ってこんなに簡単に変えられるもんなの? って感じ。
前世じゃオシャレよりゲーム優先で、メイクなんて必要最小限しかしてこなかったし、今回の人生じゃそんなものにお金をかける余裕もなかった私からしたら、神レベルの妙技だ。
まるで一端の貴族令嬢のような自分の姿をしげしげと眺めていると、満足そうな顔をした侍女長さんが私の後ろから鏡を覗き込む。
「あの当時、皆が憧れのユリアーネ様と同じ色のドレスを手に入れようと必死でした。同世代の貴族令嬢なら一度は必ずこの深い青色のドレスを誂えようと試みたものです」
私の姿を見ながら懐かしそうに当時を語る姿に、私はなんとコメントしていいのかわからなかった。
この世界のデビュタントのドレスは形こそAラインという暗黙のルールがあるものの、色はあまり奇抜な色じゃなければ自分の好みのものを選んでいいらしい。
そうは言っても、白、ピンク、黄色、水色、若草色っていう初々しさを感じさせる淡い色を選ぶのが常識だと思われていたところに、深海のような濃い青色のドレスで颯爽と登場したお母様は、大いに会場を沸かせた上にその年の話題を独占した。
それまでの固定概念を覆す色選びとデビュタントとは思えない堂々たる姿に、周りの女性達は益々お母様への憧れを強めたそうな。
…………。
私が今着てるのは王妃様のドレス。
それがお母様のデビュタントのドレスと同じ色。
その世代なら一着は持ってた。
とくれば、王妃様もお母様の影響を受けたってことだよね?
なんということでしょう……。
どんだけ影響力のある人だったのよ。お母様……。立派なインフルエンサーじゃん。
前世だったら間違いなくSNSとかで大量の『いいね』を貰ってるタイプの人だったってことでしょ?
しかも型にはまらず、自分で流行を生み出すってカリスマモデルか何かですか?
聞けば聞くほど、自分の記憶の中のお母様とかけ離れた人になっていくし、私とは人としての種類が違うと断言出来る。
そんな人の面影とか求められても困るんですが……。
とりあえず笑って誤魔化しつつ、心を平静に保ちながらライフを回復しとこう。
すっごい気力体力削られた感があるけど、なんたってこれからが本番だから。
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