29 / 40
29.便利だったよね……
しおりを挟む記憶の奥底から『悪魔の証明』なんて尤もらしい名前のついたものを引っ張りだしてきたものの、言ってることは所詮は屁理屈。要は強引に押し切って何となく納得させたもの勝ちってこと。
だから私もその手法で是非とも前世があるということを信じてもらって、詳しく説明しなくても済むようにしたいと思ってるんだけど。
さて、まずは。
「皆様は前世などというものは、存在しないものであるとお考えなのでしょうか?」
ここでないと言われたらそのまま『じゃあ前世などというものがないことを証明して下さい』と続ければいい。
なんて思っていたら。
「いや、ないとは思っていない」
国王陛下から即座に言葉が返ってきた。
あれ!? 最初でもう前世を肯定するような発言されちゃったんだけど……。ここからどうすればいいわけ!?
「──でしたら、何故証明せよと仰るのでしょう? そもそも私の話を聞いたところで、信用するかしないかは皆様方のお気持ちひとつで変わるものだと思いますが」
初っ端から予定が狂ってしまったが為にちょっと動揺が隠せなかったかもしれないけど、上手く切り返せたと思う。
だけどここからどうしよう……。
「なるほど。メリンダ嬢は最初から我々が君の話を信じていないことを前提にしていたんだね」
そうそう。そのとおりです。
「荒唐無稽な話だと一笑に付されても仕方ないことだと承知しておりますので」
「では証明ではなく、ただそれを信じたいがために話を聞きたいのだと言ったら?」
「文化も発展具合も違う世界の話を私自身が皆様方に理解していただけるよう上手く説明出来る自信はございませんが、お望みとあらば知っている事を全てお話させていただきます」
「なるほどな。捉えようによっては、君という存在こそが前世というものがあることの証明にもなるわけか」
そこまで言ってないけど、なんだかいい感じの流れになってきたから黙っておこう。
「君の前世は平民だという話だけれど、君が暮らしていたところはどのような政治体制だったんだ? 王はいたのか?」
「私の住んでいた国に王という存在はおりませんでした。皇族と呼ばれるこの世界での王家のような存在の方々はいらっしゃいましたが、その役割は国の象徴であり、国政に関わることはありません。政治は選挙という自分達の代表者を決める投票によって選ばれた者達が、国会という大きな会議場のような場で話し合いながらすすめるといった感じでしょうか。それらは全て憲法という国の基本的な国家体制など様々な決定に関する根拠のようなものを纏めた法律に基づいて行われます」
ザックリなんてもんじゃなく曖昧過ぎる知識で説明したけど、たぶんこの場に同郷の人がいたらツッコミどころ満載だと思う。
正直政治経済の授業苦手だったし、毎日普通に過ごしてて、国会だの政治だの憲法だのに興味持って深堀りしてまでその存在意義を考えたことなんてなかったし。
わかんないことがあれば、すぐにググッと調べておけば解決してたしね。ホントに便利だったよね……。
「王はいないと? では貴族は?」
「かつて貴族という身分はございましたし、この国と同じように身分制度もございました。しかし私の生きていた時代には廃止されて久しく、国民は全て法のもとに平等という扱いになっていたと記憶しております。そうは言っても貧富の差はございましたし、上流階級というものも存在していたと思われます。庶民でごく普通の家庭に育った私には縁のない世界でしたので、その辺りの説明は出来かねます」
「なるほど。興味深いな。一度じっくりとその話を深堀りして聞いてみたいが」
いえいえ。授業で習った朧げな知識を尤もらしく聞こえるようにサラッと言っただけですから。聞かれても答えられないこと多数だと思います。っていうか興味持つのやめてください。
それよりも、納得していただけたのなら、早く本題お願いします。
って言えたらいいよねー。
「前世が平民だというわりには、しっかりと自分の国の政治制度を理解しているのは何故だ? 専門的な知識を得る為に学んだ経験が?」
まだ続くのか……。
「教育水準の違いだと思います。私のいた国では六歳頃からの九年間、子供達は学校へ通わなければなりません。それは国民の権利であり義務です。そこでは読み書き計算の他、歴史や政治経済、外国語など様々な事を学びます。私の場合はその期間が終わっても高等学校や高等教育機関でより多くの事を学びましたが、政治制度のことを専門的に学んだわけではありません」
だからね。次いこう、次。
なのに。
「その世界にはどのくらいの国が存在するんだ? 他の国も同じような政治体制なのか?」
今度は王太子殿下が興味津々といった感じで話に加わった。
「……あちらの世界には百九十カ国以上もの国があり、政治体制は国によって様々です。王制が残っている国もあれば大統領という国民によって選ばれた国の代表者が強い権限を持つ国もございました。いずれにしてもこちらの世界とは違うことも多いので、ご興味がおありでしたらまた別の機会にお話しさせていただくということでいかがでしょうか?」
このままじゃいつまで経っても本題にたどり着きそうにないので、強制終了とさせていただきますよ。
私の問いかけに王太子殿下が微妙な表情をしてるけど、気付かないふりしとこ。
20
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる