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第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
第29話 全てを手放すにはまだ早すぎる
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【前回】魔暴走で死にかけるティア
第29話 全てを手放すにはまだ早すぎる
――だからまだ、諦めないで。
❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖
……暗い。
一度は抵抗を辞めてしまう程、疲労と絶望のあまりにただ苦しみが終わる時を待つ事しか出来なかった苦しみや痛みがなくなり、やっと楽になれたと言うのに瞼を持ち上げて確認出来る世界はただの暗がりだけ。
深海のように静かで、時折雪のような小さな粉が降り注ぐ落ち着いた空間。
ぐったりと重たい体は俺の意思に反して指1本ですらも動かさせてはくれず、下に沈んでいっているのか。それとも意外にも上へと浮上しているのか。はたまた、行く宛てがないのだからただそこに留まっているだけなのかですらも不明なまま不毛にも時間が流れていくだけだ。
別に神様なんて無形の長物であり、それをしっかりとした根拠で説明出来ないような存在を信じている訳ではないが、それでもまさか死後の世界がこんなにも寂しい物ではないと思いたい。
こんなにも静かで、こんなにも呆然と体も、意識も漂わせる事しか出来ない世界など面白くも何ともない。
試しに声を出そうとするも音にならないまま、こぽこぽと口元から溢れた酸素が水泡となって泡沫に消える。
光源ですらもないこの暗闇の中、不思議にもキラキラと輝く水面らしき所へと消えていく。
その姿が、酷く自分のように見えて何とも言えない気持ちとなってしまう。
どれだけ強がろうと、どれだけ何処かの輪の中に入れてもらおうとも結局俺はいつだって独り。似た境遇も、近しい関係も、気軽に過去を話し合える相手ですらも存在しない。
それからも、無駄だと分かっていながらも同じ動作を繰り返した所で結局は何も変わらない。
自分で何かを探そうともせず、ただひたすらに自分以外の何かが影響を及ぼしてくれる事を待つだけの、生産性の欠片すらも感じさせてくれない無駄な一時を謳歌しているだけだ。
結局俺は、最期まで独りなんだ。
あの戦争で、死んでたはずなんだから当然なんだ。
陛下が助けてくれたのは、神様とやらの最後の残酷な慰めだったんだ。
なら、最期にこんなに寂しくて辛い想いをするくらいなら、最初から何もせずにあのまま死なせてくれれば良かったのに。
陛下達の厚意を。
陛下達の愛情を。
陛下達の親切を。
陛下達の配慮を。
陛下達の信頼を。
――― その全てを今、無駄にする。
軍人でありながら生に縋りつくのも大恥じだ。それならいっその事、このまま息を
止めようとして、背後から何かに服を引かれ、反動で振り返れば蒼い鱗を身に纏い、仮にドラゴンだとしてもかなりの巨体な竜と。全く同じ大きさの、今度は紅色の竜が傍におり、すりすりと甘えてきているのが確認出来る。
でも、俺はもうこのまま命を手放そうとしている身だ。
彼らに構う気も、このままみっともなく生に縋る気も
≪怖がらないで。……お願い、僕達を拒まないで。君はまだ死んでないよ。だからお願い、まだ諦めちゃ駄目だよ。≫
≪頼む、そう簡単に死のうとしないでくれ。君はまだ出来る事も、俺達とやってほしい事もまだまだたくさんあるんだ。だから頼む、その為の支援は俺達が全力で行う。……だから、そうも容易に幕を引こうとしないでくれ。≫
俺はまだ……生きてる?
【うん、まだ生きてるよ。でもこのまま砂の中に沈んじゃったら君は死んじゃうんだ。このずっとずっと下にね、海底があるんだよ。……でも、ここで君が諦めちゃったら煉掟様の願いも、君の大切な人達の願いも、そして君の未来でさえも、全てが閉ざされちゃうんだ。】
【突然こんな事を言われて困惑するのも、俺達を疑いたくなる気持ちも分かってる。でもどうか、信じてくれ。俺達は君を助けたくて、救いたいだけなんだ。……だからどうか、俺達を受け入れてくれ。】
【外の世界は怖いと思う。外の世界は辛いと思う。……君は特に、世界の悪い面ばかりを見てきたから、特に外が嫌いだとは思う。でもどうか、後一度だけ僕達にチャンスを頂戴?】
【確かに外の世界は恐ろしい。……だが、決して悪い事ばかりじゃなかったはずだ。良い事もあったはずだ。……大丈夫。大丈夫だ。これからは俺達もお前を護る。お前の命が絶えようともその傍に寄り添い、その身を護り、その命を愛し、その魂を保護し続けよう。……だからどうか、怯えないでくれ。大丈夫、大丈夫だから。もし仮に今が大丈夫でなかったとしても、必ず俺達が大丈夫にして見せるから。】
その言葉がじんわりと体に沈み込むのように続けられ、何度も繰り返されている内に。何度も優しい声を掛けられている内に意識が段々と揺らぎ始めてくる。
でもそれはこれまでのように、強制的に途絶えるような物では断じてなく、自然と発生した睡魔に導かれて安眠へ落ちるような眠りだ。
2匹の竜に支えられ、包まれて。……抗う事なく眠りに落ちた。
❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖
――次回「第30話 死の淵から目覚めて」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマークやスタンプで応援いただけると嬉しいです。
感想なども励みになります。
今後とも『夜に煌めく炉は蒼銀で』をよろしくお願いいたします。
第29話 全てを手放すにはまだ早すぎる
――だからまだ、諦めないで。
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……暗い。
一度は抵抗を辞めてしまう程、疲労と絶望のあまりにただ苦しみが終わる時を待つ事しか出来なかった苦しみや痛みがなくなり、やっと楽になれたと言うのに瞼を持ち上げて確認出来る世界はただの暗がりだけ。
深海のように静かで、時折雪のような小さな粉が降り注ぐ落ち着いた空間。
ぐったりと重たい体は俺の意思に反して指1本ですらも動かさせてはくれず、下に沈んでいっているのか。それとも意外にも上へと浮上しているのか。はたまた、行く宛てがないのだからただそこに留まっているだけなのかですらも不明なまま不毛にも時間が流れていくだけだ。
別に神様なんて無形の長物であり、それをしっかりとした根拠で説明出来ないような存在を信じている訳ではないが、それでもまさか死後の世界がこんなにも寂しい物ではないと思いたい。
こんなにも静かで、こんなにも呆然と体も、意識も漂わせる事しか出来ない世界など面白くも何ともない。
試しに声を出そうとするも音にならないまま、こぽこぽと口元から溢れた酸素が水泡となって泡沫に消える。
光源ですらもないこの暗闇の中、不思議にもキラキラと輝く水面らしき所へと消えていく。
その姿が、酷く自分のように見えて何とも言えない気持ちとなってしまう。
どれだけ強がろうと、どれだけ何処かの輪の中に入れてもらおうとも結局俺はいつだって独り。似た境遇も、近しい関係も、気軽に過去を話し合える相手ですらも存在しない。
それからも、無駄だと分かっていながらも同じ動作を繰り返した所で結局は何も変わらない。
自分で何かを探そうともせず、ただひたすらに自分以外の何かが影響を及ぼしてくれる事を待つだけの、生産性の欠片すらも感じさせてくれない無駄な一時を謳歌しているだけだ。
結局俺は、最期まで独りなんだ。
あの戦争で、死んでたはずなんだから当然なんだ。
陛下が助けてくれたのは、神様とやらの最後の残酷な慰めだったんだ。
なら、最期にこんなに寂しくて辛い想いをするくらいなら、最初から何もせずにあのまま死なせてくれれば良かったのに。
陛下達の厚意を。
陛下達の愛情を。
陛下達の親切を。
陛下達の配慮を。
陛下達の信頼を。
――― その全てを今、無駄にする。
軍人でありながら生に縋りつくのも大恥じだ。それならいっその事、このまま息を
止めようとして、背後から何かに服を引かれ、反動で振り返れば蒼い鱗を身に纏い、仮にドラゴンだとしてもかなりの巨体な竜と。全く同じ大きさの、今度は紅色の竜が傍におり、すりすりと甘えてきているのが確認出来る。
でも、俺はもうこのまま命を手放そうとしている身だ。
彼らに構う気も、このままみっともなく生に縋る気も
≪怖がらないで。……お願い、僕達を拒まないで。君はまだ死んでないよ。だからお願い、まだ諦めちゃ駄目だよ。≫
≪頼む、そう簡単に死のうとしないでくれ。君はまだ出来る事も、俺達とやってほしい事もまだまだたくさんあるんだ。だから頼む、その為の支援は俺達が全力で行う。……だから、そうも容易に幕を引こうとしないでくれ。≫
俺はまだ……生きてる?
【うん、まだ生きてるよ。でもこのまま砂の中に沈んじゃったら君は死んじゃうんだ。このずっとずっと下にね、海底があるんだよ。……でも、ここで君が諦めちゃったら煉掟様の願いも、君の大切な人達の願いも、そして君の未来でさえも、全てが閉ざされちゃうんだ。】
【突然こんな事を言われて困惑するのも、俺達を疑いたくなる気持ちも分かってる。でもどうか、信じてくれ。俺達は君を助けたくて、救いたいだけなんだ。……だからどうか、俺達を受け入れてくれ。】
【外の世界は怖いと思う。外の世界は辛いと思う。……君は特に、世界の悪い面ばかりを見てきたから、特に外が嫌いだとは思う。でもどうか、後一度だけ僕達にチャンスを頂戴?】
【確かに外の世界は恐ろしい。……だが、決して悪い事ばかりじゃなかったはずだ。良い事もあったはずだ。……大丈夫。大丈夫だ。これからは俺達もお前を護る。お前の命が絶えようともその傍に寄り添い、その身を護り、その命を愛し、その魂を保護し続けよう。……だからどうか、怯えないでくれ。大丈夫、大丈夫だから。もし仮に今が大丈夫でなかったとしても、必ず俺達が大丈夫にして見せるから。】
その言葉がじんわりと体に沈み込むのように続けられ、何度も繰り返されている内に。何度も優しい声を掛けられている内に意識が段々と揺らぎ始めてくる。
でもそれはこれまでのように、強制的に途絶えるような物では断じてなく、自然と発生した睡魔に導かれて安眠へ落ちるような眠りだ。
2匹の竜に支えられ、包まれて。……抗う事なく眠りに落ちた。
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