夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

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第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は

第76話 楽しむ事で味方に就けろ

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【前回】後処理までしっかり愉しんだ
第76話 楽しむ事で味方に就けろ

――苦手意識は学問の敵だ。

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「良し、次だ次。いやぁ、楽しくなってきた。」
「……楽しそうで何よりだ。」
「どぉ~したルシウス、随分と疲れてるようだなぁ?」
「そんな楽しそうな顔で言う辺り、ちゃんと分かってると思うんだが……? はぁ。でも、本当に心臓に悪かったぞ。あんな危ない物を放たせるとか……。」
「んふふ。でもその危険性を正しく理解出来たのは良い機会だったろう? 見ている限り、この学校も他の学校と変わらなそうだしなぁ。」
「他の学校?」
「怠惰にも、自分に実力がない事を理由にこうして学人に学ばせる責務と、学人の好奇心を邪魔しない責務と、そして何よりその好奇心に寄り添い支え導く責務を疎かにして学人に勉学的ストレスを与える学校もどきって事だよ。」
「……先生は時々はっきり物を言い過ぎだと思うんだが。」
「そうやって甘やかした結果、口を噤む事ばかり憶えて成長もせず、理解もせず、自覚もせず、取り返しのつかない結果に自ら足を突っ込む臆病者が増えると思うんだがなぁ?」
「……。」
「ふっつ~に言い返されへんカウンター来てもうたやん。」
「せんせ、楽しそう。」
「ガキを弄ぶのは楽しい。」
「やっぱり鬼畜だ……。」

 でも正直な話、あんなにも即席で。しかもあれだけ未熟者であったこいつらが組むには十分過ぎる程の精度であり、かつ完成度ではあった。
 あまり正面きって褒めると調子に乗るのでそうも行かないものの、それでもその結果自体はかなり優秀というに等しい。いずれこいつらに渡す予定の通知表でも見てせいぜい騒いでもらうとしよう。

「さぁ、トルニア。次はお前の番だ。」
「は、はいっ! “同時に種類の重複しない10本以上の武器の召喚とそれを使って剣の舞”……ですよね。」
「あぁ。お前達がどう思うかなんては俺にとってそれこそどうでも良い話ではあるが、一応は例に倣って応用の範囲内。何もお前達がどう頑張っても乗り越えられないような問題を持ってきた訳じゃないんだ、せいぜい頑張ってくれ。」
「……お、ん。頑張ってくる。」

 緊張……ねぇ。ありゃあ時間掛かるな。

 セディルズに話した呼吸の仕方によって魔法の扱い易さが大きく変わるという話。あれは当然、呼吸を管理している自律神経に接続されている全ての機能によって影響される。
 その中でもあらゆる計算を越え、あらゆる難関を越え、そして何より時にとんでもない結果を生み出す感情。それによっても魔法という物はその効果を変える。
 例えば、何かに酷く恐怖している場合には火力が異常なほどに上がってしまって制御が出来なかったり、場合によっては魔力が尽きるまで暴発してしまう事もある。逆にああやって緊張していればその感情を魔法に読まれてしまい、魔法の発動すらもままならなくなってしまう。
 それでも何度か深呼吸を繰り返す事で最低限、魔法を使えるようになったらしい。
 運動場の中央に立ち、深々とした深呼吸を何度も繰り返しながらも失いつつあった集中力を取り戻し。その傍ら、その周囲でただの砂から立派な20種類の、形状の重複しない剣の生成に成功している。
 それに気付いていないのか、それとも単に納得がいかないのか。既に規定値である10本の倍の数以上の剣を生成しているというのに更なる高みを目指して辿り着いたのは30本。
 しかし、ここまで来ると今度は30種類もの全く違う造形物のイメージを固定するだけでも膨大な魔力だけでなく集中力を要する。結果、少しでも動かそうとすれば全てのバランスが崩れる。
 折角多種多様で個性的な形状をしていた剣達は己が形を忘れ、さらさらと崩れて運動場へと還る。

「くっそ……!」
「トルニア、アドバイスをやろう。」
「あ、アドバイス?」
「“造形を楽しめ”。魔法という物はお前が思っている以上に精神との結びつきが強い。……そうも緊張し、義務感に囚われていれば何も成功せんぞ。」
「で、でも」
「これは通過点。通過点でしかないんだ、トルニア。楽しければあっという間に過ぎ去っていくだけの、あまりにも価値のない通過点。それに、だ。これは普段、俺がお前達に行っている授業と変わらない事に何故気付けない?」
「かわら……へん。」
「俺がお前達に課題を出して、それをお前達が解き、物にする。それを今回は学校の試験という形で行っているだけで、本質としては何も変わっていない。」
「たし……かに。何も、なんも変わってへん。」
「なら失敗するのは普通だ。何せ、俺が出す課題をお前達が1度で制覇出来た事などないのだから。なら当然、惜しいのも普通だ。俺がお前達に簡単な課題を出す訳がない。それでもお前達の地頭とセンス、そして何より知識から編み出されたその魔法式が“それなりに”優秀である事を示しているのだって何もおかしくない。……実際、お前達は散々俺を驚かせてきただろう。まぁこの程度で驚きはせんが、それでもお前達が十分努力した結果、そこまで苦しまずとも俺の授業に着いてこれている。」
「……。」

 全く、やれやれ。

「まだアドバイスが欲しいのか、この贅沢者め。今お前の目の前で、お前の為だけに色々と助言してやっているこの俺はこの国で上から数えた方が早く。そして何より、本来であればお前達には到底1対1で話が出来るような立場の者ではない。……そんな奴にアドバイスを貰ってるんだ、これ以上俺を退屈させるな。」
「た、退屈させるなって……。いやまぁ確かに本来やったら全然届かへんとこに居るレベルの人ではあるけど……。」
「あ~つまんねぇなぁ~。そろそろ飽きてきたし、どっか行くのもありかな~。」
「んなっ、じょ、上等じゃぁ!! 試験時間内に楽しませたるからそこで見とけ!!」

 ふんっ、ちょんろ。


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第77話 いつの日か、その剣は届くだろうか」

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