夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

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第一章幕間:夏休み 相応しき器に想いを込めて

第128話 何事も無駄にならないように

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【前回】生徒達に釣りを経験させた
第128話 何事も無駄にならないように

――全ては微妙に結びついているから。

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖


「大漁大漁♪ セバルズ、今日の夕食に出してくれ。」
「畏まりました、グレイブ様。ちなみに、どの料理法が良いか等のご希望はございますか?」
「ない。強いて言うならそれぞれ一番美味しい食べ方が出来るようにしてくれればそれで良い。これでもお前達を信じてるんでな。」
「光栄です、グレイブ様。」
「前々から色々おかしいとは思ってたが……あれはやっぱり異常だな。」
「や……な。ほんまに、色々異常やわ。」
「俺が楽しむ為にやってる事であって、お前らまで好きにならなければならんもんじゃないんだから別に良いだろ。」
「それは違う。」
「うん。それとはまた別問題。」
「んな訳あるか。」

 結果は大漁。まぁ、分かっていた事ではあった。
 元々戮海老というのはそれなりに。良い感じに身が乗っている事から大抵の魚には御馳走として認識出来ている為、当然ながら入れ食い状態となる。
 その結果、喰いっぱぐれた魚達が渋々ながらもガキ共が釣竿の先に垂らす練り餌に喰いついたり。食べたりする訳だが、そうなると今度は釣り師の実力不足で逃げられた。
 まぁ元々この戮海老に釣られてやってきた魚達だ、ただのルーキーが釣れる訳がない。
 しかし、それを分かっていたのか賢いセディルズ、ディール、リシェラは俺から離れた所で釣りをしていたのもあってそれなりの釣果ではあるらしい。まぁそれでも20匹にも満たないそうだが、それでも初めてにしては良くやったと言えるだろう。

「つ、釣りって難しいのね……。」
「う、うん……。」
「まぁでもそこの3人は結構良い線いってたと思うぞ。セディルズはともかく、釣りっていうのは水面を観測・観察する機会もそれなりに多いだろうからな。お前の得意な水魔法を更に拡張する為の良い学びがあるだろうよ。」
「た、確かに……! せんせ、僕しばらく釣りしてても良い?」
「良いには良いが、今日はここまでにしておけ。にしても……3時間釣って15匹か。やっぱり筋が良いな。次からの釣りは少し、応用で釣り糸の気配を感知したりするのを意識してみたらどうだ。」
「意識……?」
「あぁ。当然ながら、魚は水の中に居る。しかしその前提が大切な訳だ。」
「何事も、まずは初心から。」
「あぁそうだ。」
「そういえば師匠、師匠って何がどうなって釣りに嵌ったの?」
「イルグに教えてもらった。……当時の俺は読書に目がなくてな。どんな本もまずは目を通さなければ気が済まなくて、ずっと王城内に幾つもある書庫を回っては全ての蔵書を読み切らんとしている所でイルグが提案したんだ。“全ての学問や技術に関連するとある基礎技術を鍛えながら読書も楽しめる遊びに興味はないか?”ってな。そんな都合の良い物がある訳ないと思ってはいたんだが……割とそう蹴散らせる物でもなくてな。」
「どうして釣りがそんなに万能なの?」
「まず、釣りに魚が掛かるまでの時間を読書で潰せるから時間の使い方について学ぶ良い機会になる。2つ、魚が引っ掛かるまでは読書に集中していても良いが、いざって時に魚が掛かったと気付けるように多少、周囲に常に気を配らなければならない。3つ、確実に釣る為に知識、筋力、観察力、集中力、そして感覚を鍛えなければならず、同時にそれらを鍛える事が出来る。4つ、水辺というのは意外にも色んな生き物や色んな生態系が間近で見られる環境でな、実際に本で読んだ物を体験するにはかなり丁度良い環境だった。特にセディルズなら俺の真似が出来るかもしれんが……元々水っていうのは無形であるが故にどんな形にもなれるし、あらゆる形を奪う事が出来る。その性質を利用して、実際に本で読んだ物を魔法で作ってみたり。色々楽しんだもんだ。」
「水で……。」
「あぁ。少なくともセディルズ、お前には釣りの才があるのは分かった。ならこれからも時々やれば良い。向こうへ帰ってしまう前に、なるべく多く……な。」
「う、うん!」
「後は……そうだな。4つ目にも起因するんだが、俺はお前達も知っての通り色んな生き物に好かれる。だから俺が釣った魚を食べたがったのもそうだろうし、単に俺に懐いてくれたのもそうだが色んな生き物が寄ってきてくれてな。そいつらを観察したり、戯れたり、生態を自分で調査した気になっては自分が研究者にでもなったように錯覚して色々楽しんだ。」
「え、かわよ。」
「先生、そういうあざとい事をするから俺達みたいなのに好かれるんだぞ。」
「はいはい。」
「本気だって言ってるだろうが!」 「本気やって言うてるやん!」
「へいへい。」
「お言葉ですがグレイブ様、最後の楽しみ方はグレイブ様にしか出来ないかと。」
「いやいや、もしかすると」
「ありえません。」

 そこまで断言しなくても良いだろうに……。……さて。

「お魚達とのダンスは大変楽しゅうございましたでしょうか、お坊ちゃま?」
「それが教員の言う事か!!」 「それが教員の言う事なんか!!」
「は? この期に及んで出てくる言葉がそれか? 今の俺は“七漣星として”ここに来てるんだ。それでもトルニアとセディルズの保護者には変わりないだろうが、教師としての俺はここに居ない。それこそ、全力で遊ばせてもらうさ。」
「ねぇ、せんせ。せんせが釣った魚……というか、ここで獲れた魚の殆どを見た事ないんだけど、食べても大丈夫なの……?」
「そりゃぁこの海域は色んな海の魚が流れ込むし、何なら俺が釣ると分かって余計なお節介をしてる奴も居るだろうからな。お前らが普通に生活してりゃあ一生見る事の出来ない魚ぐらいうようよ居てもおかしくないだろうよ。……まぁでも安心しろ。うちの特務執事《サーヴァント・バトラー》と特務侍女《サーヴァント・メイド》達の腕と目は確かだ。」
「し、師匠。こ、この魚達のな、名前って分かるんですか……?」
「……いや、流石に分からん。生憎と生物学は俺の担当じゃない。」
「誰やったら詳しいん?」
「生物学は……確か、ギルガだな。普段は無口でクールな奴だが、生物学とか地学とかになるとあいつは驚く程よく喋るからな。そういう純粋な知識が欲しいならあいつを頼れ。……まぁ、あいつがこっちに来るのか、お前らと接する事があるのかは分からんが。」

 ……そういえば。

「ホワイズの料理は世界中のシェフが教えを請いに来るレベルだったか。」
「俺も教えを請うた時期がありました。」
「……ふふ。逆にスパルタ過ぎて後悔した奴か。」
「えぇ……。そのお陰で学ぶ事も、得る事も多くはありましたが。」


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第129話 いつか、この時を乗り越えられる日を待ち望んで」

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