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第二章幕間:色褪せた記憶 在りし日の悲劇
第55話 まるで私の出せない本音が形を成したようで
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【前回】幼い頃のツリーハウスの事を思い出した
第55話 まるで私の出せない本音が形を成したようで
――痛かった。
❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖
今日は、急いで古い書庫から傷付けられると困る本をツリーハウスに逃がし、まだ読んでない本も運び込む作業で半日以上を要した。その後はただひたすらに数週間の食糧を慌てて用意する事になった。
昨日、あまりにも量が多過ぎて獲物を捌くだけで夜になってしまった事から不要な物を売りに行けなかった為、朝一番で市場に行ったら明日から近くにある帝国の人が来るらしいという話を聞いた。その国は……極悪非道で名高いアルドレディア帝国。
最近出来た新興国らしいが、それでもその悪名は高く。私達煌星の夜想曲のような稀少一族や稀少種族を率先して襲い、その悉くを絶滅に追い込んでいるらしい。
そんな帝国が、明日この里の様子を見に来る。
だから、その中でも特に特別な存在である私を狙う可能性がある為、なるたけ安くするから必要な物を早急に買い込んで早く隠れ場所を見つけるようにと言われてその通りにした。なるべく結界の外に出なくて良いように干し肉を作る為、大量の塩と水を買い込んで急ぎ食糧を用意した。
他にも良くない話を聞いた。アルドレディア帝国の来訪に伴い、長老達はまだ適正年齢に達していない私に煌星の夜想曲の巫女が代々継ぎ続ける事を定められているとある燐獣を継承させる為の儀式を急いでいるらしく、今日の夜にでもそれが行われるらしい。だから、夜までにやりたい事は済ませておくようにと。
それはつまり、長老達はもしアルドレディア帝国から来た人達が煌星の夜想曲に敵対する場合、私を兵器として利用する前提であるという事。それが分かっていたからか、店長さんの表情はかなり辛そうだった。
血縁者に引き続き、長老達にも鉢合わせしないように十分注意しながら荷物をツリーハウスへ詰め込んで。食糧の準備も整えた後、意を決して無防備に里へ戻った。
結果は分かり切っていた。直ぐに長老達に発見されてその御付きに捕まえられ、強制的に着替えさせられて急ぎ儀式を始められた。……でも、これで良かった。
私が里へ戻ったのは全て、力を得る為。適正年齢であろうとなかろうと、そんな事はどうでも良く、ただ力をくれるというからそれを貰いに行った。ただ、それだけの事。
もしそれで、この里が亡びたって。
月落の里にある最も古い建物、お社。そこで神官や長老達が儀式を始めて、祝詞を詠えば夜が更に深くなり、何もしていないのにお社の中がまるで夜の中に居るような景色に包まれて―――あいつが現れた。
煉掟と呼ばれる、古来より煌星の夜想曲と共に生き、煌星の夜想曲と共に戦い、煌星の夜想曲と共に死ぬと言われる煌星の夜想曲の古文書に名を連ねる中でも最も古く、最も力があるとされる燐獣。
巫女になろうと、儀式を行おうと煉掟に気に入られる事がなければ煉掟を継ぐ事は出来ない。それ故、緊張しながらも舐められない為に目を逸らさずにいれば見初められ、体の中へ入ってきた。
そこからが、大変だった。
煉掟の体の殆どが私の中に入り込んだ頃、夜の中となった部屋の中央からもう1つ。もう1体知らない燐獣らしき物が現れてそれが煉掟の尾を追うように体の中に入ってきて、その激痛で煉掟共々苦しんだ。
全身を劈き、蝕み、体の中を全て破壊するような耐え難い痛み。叫び、身を捩り、その化け物が完全に私の体に入り込んだ頃には限界で床に倒れ、ひたすら吐血を繰り返し、それでも痛みは治まらない。
意識が飛びそうな中、私の悲鳴なのか。それとも煉掟の苦悶の声なのかの区別もつかない中、知らない声が聴こえた。
私が可哀想だと。こんなに私が苦しんでるのに、何で誰も助けてくれなかったんだろうねと。元は自分達が望んで産み落とした命なのに、自分の思い通りにならないからと随分腐っていると、私を憐れむように。同時に私に味方するように話しかけつつ、私に纏わり着いて抱き込んで雁字搦めにして耳元で囁いてくるような声と気配。
【貴方を傷付ける存在に、遠慮なんて要らないよ。復讐の仕方、私が教えてあげる。】
私の中で煉掟が叫ぶような声がしたが、それも直ぐに謎の存在によって掻き消され。私の自我ですらも蝕む勢いで体を動かされ、魔力を使われ続けた。
まずは、周りに居た神官達。何処からともなく現れた薔薇の荊のような物が絡みつき、締め付けて拘束したかと思えばその肉に棘を食い込ませて苦しめて。最終、その間に首に絡みついた荊がその体を持ち上げて窒息死させた。
長老に関してはもっと酷く、恐らく私の記憶を見たんだろう。地面に四つん這いになるようにしてしゃがませたかと思えば服越しに、鞭のように荊を揮って背中を何度も何度も傷付け、鞭打ちだけで死に至らしめた。……私が何度も、何度も試練や訓練中に鞭で打たれたように。
結局、部屋に居た人達は皆、それぞれ私が過去にされた事のあるやり方で文字通り復讐した。苦しめて、傷付けて、私がされた事をただ長く繰り返して殺した。
その後もただただ同じ事が繰り返され、気付けば煌星の夜想曲は私と。そしてアルドレディア帝国の軍勢の双方から滅ぼされる事になった。
惜しむらくは、私の血縁者は皆、既にアルドレディア帝国の軍勢に殺されて私の手で殺す事が叶わなかった事だろうか。それでも、多くを私の手で……謎の声に導かれるまま、言われるままに殺した。
その頃にはもう、煉掟の声は全く聴こえなくなっていた。いや、聴こえてはいたが聞こうとはしなかった。私の中に居るもう1体の何かの声しか聞く気になれず、ただただ私の道を塞ぐ全てを殺して。私に縋ってくる人も殺した。多分、煌星の夜想曲だったはず。でも私は殺した。
私が助けを求めた時には助けてくれなかったのに。
私が救われたかった時には何もしてくれなかったのに。
私が苦しんでいる時に楽しんでいた癖に。
私が悲鳴を挙げても笑っていた癖に。
だからただ、言われるがままに殺した。最早今、まさにこの景色を見ているのが私なのか。本当に私があの人達を殺したのかの区別もつかないぐらいに頭も意識もぼーっとし、膨大な魔力が大量消費されていくのを感じていた所で―――光に会った。
顔1つ認識出来ない程に意識が揺らぐ中、10人にも満たない少数部隊と会った。誰も彼も戦闘し易い恰好をしていて、アルドレディア帝国の人でも。煌星の夜想曲でもなく、だから攻撃を辞めようとして……呼吸が引き攣る程、酷い頭痛に苛まれて頭を抱えて座り込んだ。
また、私の中から私に纏わり着く何かが言う。この人達も殺さなければならないと、1人でも逃せば追ってくるから私は永遠に苦しむ羽目になると、外で生きるとはそういう事だとそう言われ、強制的に魔力が大量消費される。
地面や空間のあちこちから一切の規則性もなく現れた荊があの人達を殺そうと牙を剥く。鞭のように揮えど、捕縛しようと忍び寄っても、薙ぎ払うように大きく揮われてもあの人達には届かない。
その中で、大柄の軍人らしいがっしりとした年配の男性が恐らくあの中で一番偉いだろうと思われる人を護っていて。私の中の何かがそっちへ狙いを定めると同時にほぼ零距離に同じく年配ではあれど妖艶な雰囲気を醸し出す女性が私の左肩へ包むように手を置いたのを最後に私の中の魔力が大気中に飛散し、強い睡魔に襲われた。
魔力がない所為か、それともこの人が何かをしたのか。つい先程まで私の中で騒いでいた煉掟の声も、謎の声もなくなり。がくり、と膝から崩れ落ちれば肩だけではなく腰にも腕を回され、生まれて初めての人肌に。自分以外の温度に包まれながら気を失った。
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――次回「第56話 惜しむらくは」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマークやスタンプで応援いただけると嬉しいです。
感想なども励みになります。
今後とも『夜に煌めく炉は蒼銀で』をよろしくお願いいたします。
第55話 まるで私の出せない本音が形を成したようで
――痛かった。
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最近出来た新興国らしいが、それでもその悪名は高く。私達煌星の夜想曲のような稀少一族や稀少種族を率先して襲い、その悉くを絶滅に追い込んでいるらしい。
そんな帝国が、明日この里の様子を見に来る。
だから、その中でも特に特別な存在である私を狙う可能性がある為、なるたけ安くするから必要な物を早急に買い込んで早く隠れ場所を見つけるようにと言われてその通りにした。なるべく結界の外に出なくて良いように干し肉を作る為、大量の塩と水を買い込んで急ぎ食糧を用意した。
他にも良くない話を聞いた。アルドレディア帝国の来訪に伴い、長老達はまだ適正年齢に達していない私に煌星の夜想曲の巫女が代々継ぎ続ける事を定められているとある燐獣を継承させる為の儀式を急いでいるらしく、今日の夜にでもそれが行われるらしい。だから、夜までにやりたい事は済ませておくようにと。
それはつまり、長老達はもしアルドレディア帝国から来た人達が煌星の夜想曲に敵対する場合、私を兵器として利用する前提であるという事。それが分かっていたからか、店長さんの表情はかなり辛そうだった。
血縁者に引き続き、長老達にも鉢合わせしないように十分注意しながら荷物をツリーハウスへ詰め込んで。食糧の準備も整えた後、意を決して無防備に里へ戻った。
結果は分かり切っていた。直ぐに長老達に発見されてその御付きに捕まえられ、強制的に着替えさせられて急ぎ儀式を始められた。……でも、これで良かった。
私が里へ戻ったのは全て、力を得る為。適正年齢であろうとなかろうと、そんな事はどうでも良く、ただ力をくれるというからそれを貰いに行った。ただ、それだけの事。
もしそれで、この里が亡びたって。
月落の里にある最も古い建物、お社。そこで神官や長老達が儀式を始めて、祝詞を詠えば夜が更に深くなり、何もしていないのにお社の中がまるで夜の中に居るような景色に包まれて―――あいつが現れた。
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煉掟の体の殆どが私の中に入り込んだ頃、夜の中となった部屋の中央からもう1つ。もう1体知らない燐獣らしき物が現れてそれが煉掟の尾を追うように体の中に入ってきて、その激痛で煉掟共々苦しんだ。
全身を劈き、蝕み、体の中を全て破壊するような耐え難い痛み。叫び、身を捩り、その化け物が完全に私の体に入り込んだ頃には限界で床に倒れ、ひたすら吐血を繰り返し、それでも痛みは治まらない。
意識が飛びそうな中、私の悲鳴なのか。それとも煉掟の苦悶の声なのかの区別もつかない中、知らない声が聴こえた。
私が可哀想だと。こんなに私が苦しんでるのに、何で誰も助けてくれなかったんだろうねと。元は自分達が望んで産み落とした命なのに、自分の思い通りにならないからと随分腐っていると、私を憐れむように。同時に私に味方するように話しかけつつ、私に纏わり着いて抱き込んで雁字搦めにして耳元で囁いてくるような声と気配。
【貴方を傷付ける存在に、遠慮なんて要らないよ。復讐の仕方、私が教えてあげる。】
私の中で煉掟が叫ぶような声がしたが、それも直ぐに謎の存在によって掻き消され。私の自我ですらも蝕む勢いで体を動かされ、魔力を使われ続けた。
まずは、周りに居た神官達。何処からともなく現れた薔薇の荊のような物が絡みつき、締め付けて拘束したかと思えばその肉に棘を食い込ませて苦しめて。最終、その間に首に絡みついた荊がその体を持ち上げて窒息死させた。
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結局、部屋に居た人達は皆、それぞれ私が過去にされた事のあるやり方で文字通り復讐した。苦しめて、傷付けて、私がされた事をただ長く繰り返して殺した。
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私が助けを求めた時には助けてくれなかったのに。
私が救われたかった時には何もしてくれなかったのに。
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私が悲鳴を挙げても笑っていた癖に。
だからただ、言われるがままに殺した。最早今、まさにこの景色を見ているのが私なのか。本当に私があの人達を殺したのかの区別もつかないぐらいに頭も意識もぼーっとし、膨大な魔力が大量消費されていくのを感じていた所で―――光に会った。
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また、私の中から私に纏わり着く何かが言う。この人達も殺さなければならないと、1人でも逃せば追ってくるから私は永遠に苦しむ羽目になると、外で生きるとはそういう事だとそう言われ、強制的に魔力が大量消費される。
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