夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

文字の大きさ
190 / 192
第二章幕間:色褪せた記憶 在りし日の悲劇

第55話 まるで私の出せない本音が形を成したようで

しおりを挟む
【前回】幼い頃のツリーハウスの事を思い出した
第55話 まるで私の出せない本音が形を成したようで

――痛かった。

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖


 今日は、急いで古い書庫から傷付けられると困る本をツリーハウスに逃がし、まだ読んでない本も運び込む作業で半日以上を要した。その後はただひたすらに数週間の食糧を慌てて用意する事になった。
 昨日、あまりにも量が多過ぎて獲物を捌くだけで夜になってしまった事から不要な物を売りに行けなかった為、朝一番で市場に行ったら明日から近くにある帝国の人が来るらしいという話を聞いた。その国は……極悪非道で名高いアルドレディア帝国。
 最近出来た新興国らしいが、それでもその悪名は高く。私達煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティのような稀少一族や稀少種族を率先して襲い、その悉くを絶滅に追い込んでいるらしい。


 そんな帝国が、明日この里の様子を見に来る。


 だから、その中でも特に特別な存在である私を狙う可能性がある為、なるたけ安くするから必要な物を早急に買い込んで早く隠れ場所を見つけるようにと言われてその通りにした。なるべく結界の外に出なくて良いように干し肉を作る為、大量の塩と水を買い込んで急ぎ食糧を用意した。
 他にも良くない話を聞いた。アルドレディア帝国の来訪に伴い、長老達はまだ適正年齢に達していない私に煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティの巫女が代々継ぎ続ける事を定められているとある燐獣を継承させる為の儀式を急いでいるらしく、今日の夜にでもそれが行われるらしい。だから、夜までにやりたい事は済ませておくようにと。
 それはつまり、長老達はもしアルドレディア帝国から来た人達が煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティに敵対する場合、私を兵器として利用する前提であるという事。それが分かっていたからか、店長さんの表情はかなり辛そうだった。
 血縁者に引き続き、長老達にも鉢合わせしないように十分注意しながら荷物をツリーハウスへ詰め込んで。食糧の準備も整えた後、意を決して無防備に里へ戻った。
 結果は分かり切っていた。直ぐに長老達に発見されてその御付きに捕まえられ、強制的に着替えさせられて急ぎ儀式を始められた。……でも、これで良かった。
 私が里へ戻ったのは全て、力を得る為。適正年齢であろうとなかろうと、そんな事はどうでも良く、ただ力をくれるというからそれを貰いに行った。ただ、それだけの事。



 もしそれで、この里が亡びたって。



 月落の里にある最も古い建物、お社。そこで神官や長老達が儀式を始めて、祝詞を詠えば夜が更に深くなり、何もしていないのにお社の中がまるで夜の中に居るような景色に包まれて―――あいつが現れた。
 煉掟と呼ばれる、古来より煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティと共に生き、煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティと共に戦い、煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティと共に死ぬと言われる煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティの古文書に名を連ねる中でも最も古く、最も力があるとされる燐獣。
 巫女になろうと、儀式を行おうと煉掟に気に入られる事がなければ煉掟を継ぐ事は出来ない。それ故、緊張しながらも舐められない為に目を逸らさずにいれば見初められ、体の中へ入ってきた。


 そこからが、大変だった。


 煉掟の体の殆どが私の中に入り込んだ頃、夜の中となった部屋の中央からもう1つ。もう1体知らない燐獣らしき物が現れてそれが煉掟の尾を追うように体の中に入ってきて、その激痛で煉掟共々苦しんだ。
 全身を劈き、蝕み、体の中を全て破壊するような耐え難い痛み。叫び、身を捩り、その化け物が完全に私の体に入り込んだ頃には限界で床に倒れ、ひたすら吐血を繰り返し、それでも痛みは治まらない。
 意識が飛びそうな中、私の悲鳴なのか。それとも煉掟の苦悶の声なのかの区別もつかない中、知らない声が聴こえた。
 私が可哀想だと。こんなに私が苦しんでるのに、何で誰も助けてくれなかったんだろうねと。元は自分達が望んで産み落とした命なのに、自分の思い通りにならないからと随分腐っていると、私を憐れむように。同時に私に味方するように話しかけつつ、私に纏わり着いて抱き込んで雁字搦めにして耳元で囁いてくるような声と気配。

【貴方を傷付ける存在に、遠慮なんて要らないよ。復讐の仕方、私が教えてあげる。】

 私の中で煉掟が叫ぶような声がしたが、それも直ぐに謎の存在によって掻き消され。私の自我ですらも蝕む勢いで体を動かされ、魔力を使われ続けた。
 まずは、周りに居た神官達。何処からともなく現れた薔薇の荊のような物が絡みつき、締め付けて拘束したかと思えばその肉に棘を食い込ませて苦しめて。最終、その間に首に絡みついた荊がその体を持ち上げて窒息死させた。
 長老に関してはもっと酷く、恐らく私の記憶を見たんだろう。地面に四つん這いになるようにしてしゃがませたかと思えば服越しに、鞭のように荊を揮って背中を何度も何度も傷付け、鞭打ちだけで死に至らしめた。……私が何度も、何度も試練や訓練中に鞭で打たれたように。
 結局、部屋に居た人達は皆、それぞれ私が過去にされた事のあるやり方で文字通り復讐した。苦しめて、傷付けて、私がされた事をただ長く繰り返して殺した。
 その後もただただ同じ事が繰り返され、気付けば煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティは私と。そしてアルドレディア帝国の軍勢の双方から滅ぼされる事になった。
 惜しむらくは、私の血縁者は皆、既にアルドレディア帝国の軍勢に殺されて私の手で殺す事が叶わなかった事だろうか。それでも、多くを私の手で……謎の声に導かれるまま、言われるままに殺した。
 その頃にはもう、煉掟の声は全く聴こえなくなっていた。いや、聴こえてはいたが聞こうとはしなかった。私の中に居るもう1体の何かの声しか聞く気になれず、ただただ私の道を塞ぐ全てを殺して。私に縋ってくる人も殺した。多分、煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティだったはず。でも私は殺した。


 私が助けを求めた時には助けてくれなかったのに。
 私が救われたかった時には何もしてくれなかったのに。
 私が苦しんでいる時に楽しんでいた癖に。
 私が悲鳴を挙げても笑っていた癖に。


 だからただ、言われるがままに殺した。最早今、まさにこの景色を見ているのが私なのか。本当に私があの人達を殺したのかの区別もつかないぐらいに頭も意識もぼーっとし、膨大な魔力が大量消費されていくのを感じていた所で―――光に会った。
 顔1つ認識出来ない程に意識が揺らぐ中、10人にも満たない少数部隊と会った。誰も彼も戦闘し易い恰好をしていて、アルドレディア帝国の人でも。煌星の夜想曲キュイ ヘーリ ソリシティでもなく、だから攻撃を辞めようとして……呼吸が引き攣る程、酷い頭痛に苛まれて頭を抱えて座り込んだ。
 また、私の中から私に纏わり着く何かが言う。この人達も殺さなければならないと、1人でも逃せば追ってくるから私は永遠に苦しむ羽目になると、外で生きるとはそういう事だとそう言われ、強制的に魔力が大量消費される。
 地面や空間のあちこちから一切の規則性もなく現れた荊があの人達を殺そうと牙を剥く。鞭のように揮えど、捕縛しようと忍び寄っても、薙ぎ払うように大きく揮われてもあの人達には届かない。
 その中で、大柄の軍人らしいがっしりとした年配の男性が恐らくあの中で一番偉いだろうと思われる人を護っていて。私の中の何かがそっちへ狙いを定めると同時にほぼ零距離に同じく年配ではあれど妖艶な雰囲気を醸し出す女性が私の左肩へ包むように手を置いたのを最後に私の中の魔力が大気中に飛散し、強い睡魔に襲われた。
 魔力がない所為か、それともこの人が何かをしたのか。つい先程まで私の中で騒いでいた煉掟の声も、謎の声もなくなり。がくり、と膝から崩れ落ちれば肩だけではなく腰にも腕を回され、生まれて初めての人肌に。自分以外の温度に包まれながら気を失った。


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第56話 惜しむらくは」

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマークやスタンプで応援いただけると嬉しいです。
感想なども励みになります。

今後とも『夜に煌めく炉は蒼銀で』をよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

処理中です...