テイル・オブ・アナセマス~姫騎士唐突に伝説の剣を手に入れるが何故か世界滅亡の危機が発生する~

奈々野圭

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第28話 ドラフォン①

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  ――フラム領。ドラフォン。

「ハーマン様! 大変です!」
 兵士の一人が慌てて執務室に飛び込んできた。ハーマンの前に転げるようにして、膝をつく。

「どうした?」
「たった今、入った情報によりますと……」

 カレドニゥスの隣国ドラフォンは、突如、謎の巨大生物の襲来を受けた。我が物顔で街中に入り込み、暴れ回っている。

「巨大生物だと? そんなもの一体どこから……」

「わかりません……我々がいつものように見回りをしていたところ、突如、西の方から現れて……」

「それで?」
「はい、突然こちらに向かってきたのです」

「戦況はどうなっている?」
「ありったけの弓を射て、討伐を試みました。如何せん巨体であるが故、足止めさえできず……」

「くそっ!」
 部屋に打撃音が響く。ハーマンは、怒りと焦りから、机を叩きつけたのだ。

「とにかく今は住民の避難を優先しましょう」
「あぁ、そうだな。すぐに街の者に知らせろ」

 兵士の提案を受け、ハーマンは、即時に命令を下した。兵士は「承知しました」と言ったあと、部屋を後にした。


 ――カレドニゥス。

 馬がパカラッパカラッと足音を立てながら、全速力でかけている。カレドニゥス城の前に来ると、馬は止まった。

「クラウディオ様。先程、馬が走ってきました。どうやらフラム家のもののようです」

「フラム家……? というと、ドラフォンから来たということか。わざわざカレドニゥスにやってきたということは、何かあったに違いない。通せ」

「かしこまりました」

 クラウディオの命で、執事は玄関の前にいる人物を中に招いた。

「突然の来訪、失礼いたします。私はフラム家ハーマン卿の使いのものです。大至急お伝えしたいことがございまして――」

 ――巨大生物の襲撃。使者の口から伝えられたその出来事は、その場を騒然とさせた。

「……もしかして、その巨大生物というのは、緑色でずんぐりむっくりしてて、長い爪を持っていなかったか?」
 クラウディオは尋ねる。

「えぇ。そうですが……。どうしてそれを!?」

 使者は驚きの色を見せる。彼は見た光景をありのままに語っていた。

 しかし、目の当たりにしたにも関わらず、どうにも荒唐無稽感が否めない。そのせいか、語っている当人でさえ、現実味を持つことができなかったからである。

「やはりそうなのか。実は先日、カレドニゥスにも緑色の怪物が現れたのだ。それも、巨大な」

「その話はハーマン卿から伺いました。カレドニゥス、そして、エメラーダ夫人の生まれ故郷であるラプソディアでも、そのようなことがあったと」

「成程。だから、わざわざブケンツァ家に使いを寄越した、ということですね」
 クラウディオは顎に手を当て、考え込む。

「はい」
 使者は返事をしたのだが、声がどこか震えている。

「では、誰が怪物を倒したのか、そのことも存じておられる、と」
 クラウディオは質問を重ねた。口には笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。

「はい……」
 クラウディオから冷ややかなもの感じ取った使者は、背筋を凍らせた。

「まさかとは思いますが。「ドラフォンにエメラーダを遣わせ」ということではない、ですよね?」

 それを聞いた使者は、床の上に屈み、両手を床につける。そのうえ、頭を床に着けた。

「無茶を承知の上です! 最早エメラーダ夫人……エメラーダ様に頼るしかありません!」

「頭を上げてください」

「クラウディオ卿!これはドラフォンの存続に関わることです!」

 クラウディオは頭を上げさせようするが、使者は床の上に頭をつけたまま、嘆願した。
 使者に、ここまでのことをさせるとは。ドラフォンには打つ手がないということだろう。

「承知致しました。ブケンツァ家から、兵と、そしてエメラーダを派遣致しましょう」

「ありがとうございます!!」
 使者は頭を上げた。


***

 ――翌日。
 巨大生物を退治して欲しいという要請を受けたブケンツァ家は、精鋭の兵を差し向ける。兵士たちは、ドラフォンへ向けて歩き出した。

「で、エメラーダ様も行くことになったと」
 マックスもまた護衛として、フォレシアとヘッジと共に、エメラーダについて行く。
 エメラーダは、ドラフォンの使者と共に、馬に乗っている。

「力を求められているのです。私が行かないわけにはいかないでしょう」
 エメラーダは凛とした表情を見せた。

「それにしても、クラウディオ様もよくやりますね。これを機に他国に恩を売ってやろうと」
 マックスは嫌味ったらしく言う。

「……そんなことを考える人ではありませんよ。あの方は。ただ純粋に困っているから、助けの手を差し伸べたのです」
 エメラーダは反論した。

「マックスちゃん、辛辣だよねぇ」
 ヘッジは苦笑いをする。

「フンッ。俺は事実を述べたまでだ」
 マックスは鼻を鳴らした。

「だいたい、困ってる奴に手を差し伸べると言うなら、わざわざ伴侶を危険な目に合わせるのか。オマケに、自分は安全なところに引っ込んでると来てる」

「いい加減にしろ。エメラーダ様が困っているではないか」
 不満気な物言いをするマックスだったが、フォレシアはそれを制した。

「……お前の言いたいことも、わからんではないがな」
 マックスに耳打ちするように、小声で付け足した。

「ところで、ドラフォンはどうなっているのでしょう?」
 エメラーダは隣に並んでいる使者に話しかける。

「怪物が出てからというもの、街は静まり返ってしまいました。破壊された建物も少なくありません。幸い、怪物が現れたのは一度だけです。なので、復旧は進んでいますが……」
 使者は沈痛な面持ちになる。

「そうですか……」
 一度だけとはいえ、大損害だ。使者が沈痛になるのもむべなるかな。エメラーダの顔も、悲しげなものになる。

「一刻も早く、ドラフォンに向かわなければなりませんね」
 エメラーダは馬の手綱を強く握った。


 ――エメラーダ一行は、ドラフォンに到着する。着いたのは、夕方だ。

 日が傾きかけているものの、外はまだ明るい。それにも関わらず街はひっそりとしていた。
 所々、瓦礫の山が見える。怪物は街に爪痕を残していた。

「エメラーダ殿、ようこそおいでくださった」
 ドラフォンの領主であるハーマンが出迎えた。

「ハーマン卿自らお迎えして頂けるとは。恐悦至極きょうえつしごくに存じます」
 エメラーダは会釈をする。

「いえ、当然のこと。我が国の窮状をお救い下さるために、いらっしゃってくれたのだから」

 ハーマンは、エメラーダ一行を城へと案内する。城の広間に通されたエメラーダたちは、椅子に腰掛けた。

「早速、本題に入らせていただく」
 ハーマンの口調は、重々しいものだった。

「昨月、突如、市街に怪物が現れた。ひとしきり暴れたあと、街を離れたのだ。やつは、何をするでもない。だが、あの図体だ。ただ歩くだけでも、損害が計り知れない」

 ハーマンの口調と共に、その場の空気も重たいものになる。

「怪物は、どこから現れたのでしょうか?」
 エメラーダは疑問を口にした。

「そこなのだ。怪物が去った後、我々は足取りを追った。奇妙なことに、市街地を離れた途端、ぱったりと痕跡が途絶えている。やつは正しく『突如』現れたのだ」

「そんなことが……」

 怪物が突如、現れる。これこそが、時空の歪みのなせる技ということか。
 だが、これに関しては、エメラーダでさえよく分からないのだ。馬鹿正直に「時空の歪みが発生している」というと、話が余計拗れてしまいかねない。

「怪物は、どうしたのですか?」
 エメラーダは、話を進める。

「怪物は、それ以来姿を表さぬ。しかし、また現れないという保証は、どこにもない……面目ない、エメラーダ殿」
 ハーマンは、頭を下げた。

「頭をおあげ下さい。ハーマン卿」
 エメラーダは、ハーマンの頭を上げさせようとする。

 突如姿を現し、そして消え去った怪物。誰も手立てを講じることができなかった。その場は沈黙に包まれる。空気は、ますます重たくなる――

「ハーマン様!」
 沈黙を破るように、扉を叩く音が聞こえてきた。ハーマンの部下の一人だろう。ハーマンを呼ぶ声が聞こえる。

「なんだ?」
 ハーマンは部下を呼び入れる。

「ハーマン様! 大変です!!」
 部下は息を切らせて入ってきた。

「どうしたというのだ? 何があった」
 ハーマンは、部下のただならぬ様子に、怪しげな表情を見せる。

「怪物が……」
 怪物という単語が出た瞬間、部屋の中がざわついた。

「怪物だと!? どこに現れたのだ!」
 ハーマンは大声で叫ぶ。

「街の中に、森の中に、畑に……」
 報告する部下の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

「どういうことなのだ!? やつは、仲間を連れてきたというのか!」
 ハーマンの声は、震えていた。

「皆様、窓の方を見てください」

 エメラーダは、窓を指し示す。一同の目は、窓に注がれる。
 窓から見える風景は、奇怪な植物に埋め尽くされていた。
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