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第18話 来訪者②
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「ここだよ」
マンションの前で立ち止まり、智也は指をさす。健太はそれをじっと見つめた。
「意外といいところに住んでるんだな」
「なんだよ。その意外ってのは」
智也は口角を上げる。
「お賃金沢山貰えてるんだなと思って」
健太はニヤケ顔になる。
「やらしいこと言うなよ」
「お賃金に反応してんのかよ。小学生かっての。そういうところも童貞っぽいな」
「だからなんで童貞認定したがるんだよ。ほら、行くぞ」
エントランスを通り抜け、エレベーターに乗る。そして五階で降りた後、通路を歩いた先にある玄関ドアに手を掛けた。
「ただいまー」
智也は挨拶をしながら玄関ドアを開ける。
「お前今は一人暮らしだろ」
健太の指摘に、智也は心臓が飛び出る思いがした。
「いや、なんというか、最近物騒だろ。男だって一人暮らしとなると色々と危ない目に合うだろうし」
我ながら無理やりだ。智也は冷や汗をかく。
「なんだそれ。俺はてっきり純ってやつの生霊に挨拶したのかと思ったぜ」
「なんで生霊なんだよっ」
智也は大声を上げる。思いのほか大音量だったらしく、健太は怖気付いた。
「あー、すまんすまん。そんなに純ってやつに嫌な思いさせられたんだな」
智也は唯ならぬ形相になっている。それを見て健太は茶化したことを詫びた。
「こっちこそ、急にデカい声出して悪かったよ。俺は大丈夫だ」
申し訳なさそうにしている健太を見る。この様子から純はまだ家にいるということはバレていないようだ。智也はホッと胸を撫で下ろした。
「とにかく、中に入って」
先に智也が靴を脱ぎ、家に上がる。健太がそれに続いた。
「『男やもめに蛆がわく』って言うけど、結構綺麗じゃねぇか」
健太は関心しながら、リビングを見回していた。
「なんだよさっきから失礼だな。それと男やもめでもないし」
「そりゃそうだ。結婚もしてないしな。俺には愛美ちゃんがいるけど」
「やっぱり失礼なことしか言ってねぇ」
智也は悪態をつく。
「そういやお前には美咲ちゃんが……と、この話は酒飲みながらしようか」
「他人の彼女を酒の肴にすんじゃねぇ」
「まぁまぁ、落ち着いて。智也くんはソファーに座って待っててよ。俺が今ツマミを用意するから。今からキッチン使わせていただきます」
「いつからうちの家主になったんだ。ここは俺ん家だ」
智也の声を無視して、健太はキッチンに入っていく。脇にクーラーボックスを抱えて。シンクの前に立つと、シンク下収納を開けたり閉めたりしている。
傍若無人に振る舞う健太を、智也は背後から見ていた。
「他人の家のキッチンは勝手がわからんな。おーい、智也くん」
健太が呼びかける。
「だから勝手に戸棚の開け閉めとかすんじゃねぇよっ」
「今から取っておきのツマミを作ってやろってのに、なんだその言い草は。それにしても、調理器具が必要最低限しかないこと」
健太は口を尖らせる。
「いちいちうるせぇんだよお前は」
「そういうこと言うなら、智也の分は作ってあげないぞ」
健太は振り返ると、頬を膨らませた。
「お前がやっても可愛くねぇからなそれ」
頬を膨らませる健太を、智也は冷静に突っ込む。
「まずは包丁とまな板、お借りしまーす」
シンク下から包丁とまな板を取り出す。続いてクーラーボックスを開け、ちくわを出す。
それをまな板の上に乗せ、適当な大きさに切る。
「なんか切れ味悪いな。普段から料理してないのバレバレだぜ。そんなだからモテないんだよ」
健太はちくわを小分けにしていく。
「なんでいちいち俺の悪口言わないと気がすまないんだお前は」
「でも、料理出来た方がモテるのは事実でしょうよ。そして俺は、そんな事態を想定済みだ」
健太はどこからともなくナイフシャープナーを取り出した。
「そんなもんまで持ってきたのか」
「ほんとはマイ包丁持ってきたかったんだけどね。でも、さすがに刃物持ち歩くのはどうかと思って。下手したら職質されちまう」
話しながら、シャープナーで包丁を研ぐ。
「包丁研ぐのってめんどくせぇのかと思ってたけど、それだったら簡単でいいな」
智也は関心したように見る。
「シャープナーの存在も知らないとは。だからモテないんですよ」
「だから関係ないっての」
ムスッとする智也を尻目に、健太は研ぎ続ける。
「もういいかな」
研ぎ終えた包丁を、水道水で洗い流す。
「次はチーズを切ります。本当はチーズナイフがあるとよかったんだが」
クーラーボックスからチーズを取り出し、包丁で等分していく。切ったチーズを、ちくわの中に入れていった。
「チーズちくわか。これ結構美味いよな」
「ところがどっこい。ただのチーズちくわじゃありません」
またもクーラーボックスを開ける。ここから出てきたのは、ベーコンだった。
ベーコンを適当な大きさに切ると、それをちくわに巻いた。
「フライパン貸して」
健太が尋ねたので、智也はフライパンの置き場を説明する。
「これか」
説明された場所から、フライパンを取り出すと、火をかけた。その上にベーコンを巻いたちくわを乗せていく。ベーコンを焼く音がする。あとから香ばしい匂いが漂ってきた。
「これは美味そうだ」
「ベーコンにチーズだからな。絶対に美味いやつだ。尚カロリーは」
このあとも、健太は調理を続ける。智也はというと、健太が器具や調味料の場所を聞いてきたとき場所を教えるくらいで、それ以外の時はスマホをいじっていた。
マンションの前で立ち止まり、智也は指をさす。健太はそれをじっと見つめた。
「意外といいところに住んでるんだな」
「なんだよ。その意外ってのは」
智也は口角を上げる。
「お賃金沢山貰えてるんだなと思って」
健太はニヤケ顔になる。
「やらしいこと言うなよ」
「お賃金に反応してんのかよ。小学生かっての。そういうところも童貞っぽいな」
「だからなんで童貞認定したがるんだよ。ほら、行くぞ」
エントランスを通り抜け、エレベーターに乗る。そして五階で降りた後、通路を歩いた先にある玄関ドアに手を掛けた。
「ただいまー」
智也は挨拶をしながら玄関ドアを開ける。
「お前今は一人暮らしだろ」
健太の指摘に、智也は心臓が飛び出る思いがした。
「いや、なんというか、最近物騒だろ。男だって一人暮らしとなると色々と危ない目に合うだろうし」
我ながら無理やりだ。智也は冷や汗をかく。
「なんだそれ。俺はてっきり純ってやつの生霊に挨拶したのかと思ったぜ」
「なんで生霊なんだよっ」
智也は大声を上げる。思いのほか大音量だったらしく、健太は怖気付いた。
「あー、すまんすまん。そんなに純ってやつに嫌な思いさせられたんだな」
智也は唯ならぬ形相になっている。それを見て健太は茶化したことを詫びた。
「こっちこそ、急にデカい声出して悪かったよ。俺は大丈夫だ」
申し訳なさそうにしている健太を見る。この様子から純はまだ家にいるということはバレていないようだ。智也はホッと胸を撫で下ろした。
「とにかく、中に入って」
先に智也が靴を脱ぎ、家に上がる。健太がそれに続いた。
「『男やもめに蛆がわく』って言うけど、結構綺麗じゃねぇか」
健太は関心しながら、リビングを見回していた。
「なんだよさっきから失礼だな。それと男やもめでもないし」
「そりゃそうだ。結婚もしてないしな。俺には愛美ちゃんがいるけど」
「やっぱり失礼なことしか言ってねぇ」
智也は悪態をつく。
「そういやお前には美咲ちゃんが……と、この話は酒飲みながらしようか」
「他人の彼女を酒の肴にすんじゃねぇ」
「まぁまぁ、落ち着いて。智也くんはソファーに座って待っててよ。俺が今ツマミを用意するから。今からキッチン使わせていただきます」
「いつからうちの家主になったんだ。ここは俺ん家だ」
智也の声を無視して、健太はキッチンに入っていく。脇にクーラーボックスを抱えて。シンクの前に立つと、シンク下収納を開けたり閉めたりしている。
傍若無人に振る舞う健太を、智也は背後から見ていた。
「他人の家のキッチンは勝手がわからんな。おーい、智也くん」
健太が呼びかける。
「だから勝手に戸棚の開け閉めとかすんじゃねぇよっ」
「今から取っておきのツマミを作ってやろってのに、なんだその言い草は。それにしても、調理器具が必要最低限しかないこと」
健太は口を尖らせる。
「いちいちうるせぇんだよお前は」
「そういうこと言うなら、智也の分は作ってあげないぞ」
健太は振り返ると、頬を膨らませた。
「お前がやっても可愛くねぇからなそれ」
頬を膨らませる健太を、智也は冷静に突っ込む。
「まずは包丁とまな板、お借りしまーす」
シンク下から包丁とまな板を取り出す。続いてクーラーボックスを開け、ちくわを出す。
それをまな板の上に乗せ、適当な大きさに切る。
「なんか切れ味悪いな。普段から料理してないのバレバレだぜ。そんなだからモテないんだよ」
健太はちくわを小分けにしていく。
「なんでいちいち俺の悪口言わないと気がすまないんだお前は」
「でも、料理出来た方がモテるのは事実でしょうよ。そして俺は、そんな事態を想定済みだ」
健太はどこからともなくナイフシャープナーを取り出した。
「そんなもんまで持ってきたのか」
「ほんとはマイ包丁持ってきたかったんだけどね。でも、さすがに刃物持ち歩くのはどうかと思って。下手したら職質されちまう」
話しながら、シャープナーで包丁を研ぐ。
「包丁研ぐのってめんどくせぇのかと思ってたけど、それだったら簡単でいいな」
智也は関心したように見る。
「シャープナーの存在も知らないとは。だからモテないんですよ」
「だから関係ないっての」
ムスッとする智也を尻目に、健太は研ぎ続ける。
「もういいかな」
研ぎ終えた包丁を、水道水で洗い流す。
「次はチーズを切ります。本当はチーズナイフがあるとよかったんだが」
クーラーボックスからチーズを取り出し、包丁で等分していく。切ったチーズを、ちくわの中に入れていった。
「チーズちくわか。これ結構美味いよな」
「ところがどっこい。ただのチーズちくわじゃありません」
またもクーラーボックスを開ける。ここから出てきたのは、ベーコンだった。
ベーコンを適当な大きさに切ると、それをちくわに巻いた。
「フライパン貸して」
健太が尋ねたので、智也はフライパンの置き場を説明する。
「これか」
説明された場所から、フライパンを取り出すと、火をかけた。その上にベーコンを巻いたちくわを乗せていく。ベーコンを焼く音がする。あとから香ばしい匂いが漂ってきた。
「これは美味そうだ」
「ベーコンにチーズだからな。絶対に美味いやつだ。尚カロリーは」
このあとも、健太は調理を続ける。智也はというと、健太が器具や調味料の場所を聞いてきたとき場所を教えるくらいで、それ以外の時はスマホをいじっていた。
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