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第八章 地球訪問編

第33話 同窓会2

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 同窓会が終わり、俺が店を出る時、小西に袖を引っぱられた。

 辺りはもうすっかり暗くなっている。街灯の明りが道を照らしていた。
 瞬間移動担当の俺が連れていかれているので、加藤、畑山さん、舞子も後からついてきている。

 他の同級生から見えないところまで来ると、小西は頭を深く下げた。

「坊野君、みんな、本当にごめんなさい」

「どうして小西が謝るんだ?」

「みんな、君たち四人に話しかけなかったでしょ」

「……」

「特に、白神の馬鹿が失礼なこと言ってごめんね。
 みんな、特に白神はね、あなたたちが、うらやましいの」

「うらやましい?」

「あなたたちが、自由気ままに生きているのを見るのが辛いのよ」

「なんで?」

「白神の実家は酒屋でしょ。 
 彼は卒業したら、そこを継ぐの」

「それで、なんで俺たちがうらやましくなるんだ?」

 加藤が、彼らしい質問をする。

「彼も、他のみんなも、閉塞感があるのよ。
 たとえ大学進学したって、結局は二年ほどで就職活動でしょ。
 未来が見えてるの」

「見えてたら、安心できていいじゃないか」

 加藤が呆れを含んだ声で言う。

「自由が無いのよっ!」

 小西の大きな声に、加藤がびくっとする。

「決められたレールの上、決められた終着駅。
 あんたたちを見てると、自分がみじめになるの」

「いい加減になさい!」

 畑山さんが、ピシャリと言うと、今度は小西がびくっとした。

「あんた、こいつらが、どんだけの事をして今ここにいるか、分かってんの?」

 小西が首を左右に振る。

「こいつらはね、何度も死ぬような目に遭って、それを乗りこえて自分の力で生きぬいてきたの。
 ぬるま湯でぬくぬくしている人間が、偉そうに言わないでくれる」

 最後の方、女王様の威厳が、ちょっと入っちゃったな。
 小西がブルブル震えだした。

「畑山さん、みんなは、異世界転移するって事がどういうことか、分かってないんだよ。
 その辺にしておこう。
 小西、申しわけないが、はっきり言って、俺は今日ここに来るべきじゃなかったって感じてる。
 他の皆も多分、似たり寄ったりだろう。
 もう俺たちの事は、忘れた方がいいな」

 その時、物陰から誰かが飛びだすと、俺に殴りかかった。
 余りに遅い攻撃なので、避けてもよかったのだが、俺はつっ立ったままでいた。

 カン

 俺の頬に触れた拳が、小さな金属音をあげ弾かれる。
 地面に倒れ、腕を抱えているのは、白神だった。

「ター君!」

 小西が、白神に駆けよる。

「あなた、死にたいの?
 史郎君は、あなたが殴りかかる間に百回は、殺すことができるんだよ」

 舞子が冷たい声で告げる。
 大人しい舞子しか知らない二人が、凍りついた。

「史郎君、こんど攻撃を受けたら、何をしてもいいよ」

 凍りついていた二人が、ガタガタ震えだす。

「憎かった」

 小さな声が聞こえる。

「えっ?」

「お前らが、憎かったんだっ!」

 地面に横たわった白神が、手首を押さえたまま叫ぶ。

「俺は学校を卒業すれば、家を継ぐ。
 朝から酒瓶を自転車に積んで、街中を走りまわるんだ。
 雨の日も、雪の日も、毎日だぞ」

 彼はそこで、大きく息を吐いた。

「それなのに、お前らは何だ!
 勇者だと! 
 冒険者だと!
 好き勝手に生きてるじゃねえか!」

 舞子が、屈みこんで白神の目を正面から見る。

「人気のない森の中、物音ひとつしない」

 舞子の静かな声が、薄暗い路地に響いた。

「自分がどこにいるかも、家族に再び会えるかどうかも分からない。
 お金もない、靴も無い、食べる物も水も無い」

 舞子はそこで言葉を切ると、微笑んだ。

「あなたには、それが想像できる?」

 白神は、それに沈黙で答えた。
 彼は頭の中で、自分がそうなったらどう感じるか、疑似体験しているのだろう。

「それが、私たちが異世界転移した最初の光景。
 あなたに耐えられるなら、やってみるといいわ。
 史郎君なら、あなたを異世界に転移できるから」

 しばらく黙っていた白神が、クビを横に振ると立ちあがった。

「いや、俺が間違ってた。
 この通り、許してくれ」

 白神が深々と頭を下げる。 
 その横で、小西も一緒に頭を下げていた。

 パンパン

 手を叩く音がして、林先生が現れる。

「先生! 
 見てたんですか。
 それなら何とかしれくれたらよかったのに」

 俺が文句を言う。

「ははは、若い者は若い者同士の方がいいだろう。
 現に、渡辺は場をおさめたじゃないか。
 俺にあれを求められても無理だぞ、ははは」

 先生は、舞子に近づくと、その頭を優しく撫でた。

「お前、向こうでずい分苦労したんだなあ」

「先生……」

 舞子の目から大粒の涙がぽろぽろこぼれた。
 俺が点収納からハンカチを出す。
 舞子の背中を撫でながら、涙を拭いてやる。

「白神、小西、分かっただろう。
 自由なんてのは、その辺に転がってるもんじゃないんだよ。
 歯を食いしばって、前に進んで自分でつかむしかないんだ」

 林先生の言葉に、二人は、顔を見合わせている。

「俺はな、この春から異世界科で新しい仕事ができてワクワクしてるんだ。
 お前たち四人のおかげだよ。
 せっかく生まれてきたんだ。 
 死ぬまで楽しんでやるぜ」

 そう言うと、林先生はニヤリと笑った。

「加藤、畑山、渡辺、坊野! 
 お前らには、絶対負けん。
 見てろよ」

 ま、林先生らしい落ちだな。

「いい年した先生に、俺が負けるわけないでしょうが」

 言いかえしてやる。

「言ったな。
 じゃ、次に会ったとき、どっちが余計に楽しんだかで勝負だ!」

「いいですよ、受けてたちましょう」

 ついさっきまで、感心した顔をしていた白神と小西が呆れかえっている。
 俺と先生は、拳を合わせると、二人ともニヤリと笑った。

「はー、男ってどうしてこうも単純かねえ」

 畑山さんが、おばさんモードに入っている。
 舞子が、白神の手首に触れる。ぼんやり光っているのは治癒魔術だ。

「なんだ?
 痛くないぞ」

 白神が、自分の手に見入っている。

「白神」

 畑山さんが、静かに声を掛ける。

「なに?」

「舞子が手を治したこと、秘密だから」

「あ、ああ」

「その秘密漏れたら、あんた必ず殺すから」

「ひひいっ」

「返事は、『はい』」

「ひゃひ」

 あちゃー、首相よりひどいなこりゃ。

『(*'▽') 女王様、ぱねー』

 だね、点ちゃん。

 こうして、故郷の夜は更けていくのだった。
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