328 / 607
第八章 地球訪問編
第39話 大統領との会見
しおりを挟むハーディ卿からの情報で仕事が大幅に減った俺は、予定の五日前には会見に向けた準備を終え、異世界に残してきた家族へのお土産を買ったり、一度行きたかったジャズの名店を訪れたりしていた。
ニューヨークは、おもちゃ箱のような街で、興味があることをしていると、時間があっという間に過ぎていく。
いつの間にかハーディ卿が大統領と会見する日がやってきた。
俺はいつも通り早く起き、エルファリアのお茶、ポンポコ商会ドラゴニア支店のクッキーと蜂蜜で朝食を終えると、セントラルパークを散策した。
会見は今日の夕食として行われる。
本当は、ハーディ卿と大統領の会見なんだけどね。
昼は、カキが有名な店で舌鼓を打った。値段は驚くほど高かったけど。
昼食後は、身を整えるため入浴する。
点ちゃん1号の風呂は温泉風呂だから、外が寒いときの入浴は特に気持ちがいい。
入浴の後、コケットで少しまどろむと、すでに夕暮れが迫っていた。
昼間、既に配置しておいた点に瞬間移動する。
点は会見が予定されているホテルの屋上に設置しておいた。
ハーディ卿によると、最上階のスイートルームが会見の場所だそうだ。
最上階の各部屋に点を送り、調べていく。
明らかに他と様子が違う部屋を見つけた。
おそらくSPだろう。手にハンドワイパーのようなものを持った男が数人、それで壁や床を撫でている。
きっと盗聴器や爆発物を調べているのだろう。
目的の部屋が分かったので、点ちゃん1号に戻りゴロゴロする。
白猫と遊んでいると、点ちゃんから連絡が来た。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、ハーディさんが来たよー』
ありがとう、点ちゃん。
設置した点からはハーディ卿がドアから入ってきた映像が送られてくる。彼は、SPに案内され、奥の部屋に入る。
その部屋は、中央に丸テーブルが備えつけられており、白いテーブルクロスの上には、ナイフやフォークが準備されていた。
入り口から見て奥側の席にハーディ卿を座らせると、そのSPは壁際に控えた。
それほど時間をおかず、四人のSPに囲まれた人物が部屋に入ってくる。
それは紛れもなく、アメリカ大統領トーマスだった。
ハーディ卿が立ちあがり、テーブル越しに二人が握手する。
SPは二名が部屋にとどまり、残る二名が部屋の入り口を固めた。
「ジョン、久しぶりだな。
今日は、政党への寄付金の件という事だが……」
大統領が、いきなり用件から入る。
分刻みのスケジュールをこなすことで、自然に身につけたスタイルなのだろう。
二人はファーストネームで呼びあう仲らしい。
お互いが座ったところで、ハーディ卿が口を開く。
「サム、久しぶりです。
その寄付金ですが、取りやめようかと考えています」
大統領の顔色が変わる。
「おい!
忙しい私を、そんなことで呼びだしたのか!?」
「そんなことが、何を原因としているかによりますな」
ハーディ卿は、アメリカ人が議会で宣誓するように片手を上げる。
これは二つ決めておいた合図の一つだ。
落ちついた暗めの色で統一されていた壁の一面が白く変わる。
そこには、五人の若者が道を歩く映像が映しだされた。
「これは何だっ!」
「大統領、お国の大事ですぞ。
落ちつきなさい」
「なんでこんなものが、国の……」
そこで画面に変化が現れた、静止画面になったかと思うと、画面の端から破線が点々と引かれ、一人の少女の側頭部辺りで止まった。
「この少女は、このホテルからほど近い路上で、十日前に狙撃されました」
「なっ!
しかし、そのことがどうして国の事と関係してくる」
「この五人をよく見てください」
「うーん、見たところ東洋系のようだが、ああ、この一人だけいる白人の少女は見覚えがある気がするぞ」
「娘のエミリーですよ」
「そ、そうか。
で、残りの四人は?」
「最近、国の上層部がおこなった極秘会議があったはずですが」
「お前、なぜそれを知ってる!」
「そんなことは、今はよろしい。
そこでの議題は?」
「トップシークレットをこんな所で話すと思うか?」
「では、私が話してさしあげましょう。
異世界からの帰還者に関することですな」
「ど、どうやって、それを!」
「こういう立場にいますと、自分から何もしなくても、情報は集まってくるものでしてな。
もう一度、画面をよく見てごらんなさい」
ハーディ卿は、席を立ち、スクリーンの前に行くと、茶色い布を巻いた俺の頭を指した。
「変わった帽子……いや、布か。
ま、待てよ、もしかして、この四人……」
「やっと気づきましたね、大統領。
そう、異世界からの帰還者ですよ」
「それにしても、一体誰が、彼らを狙撃など……」
「それは、すぐに分かりますよ」
ハーディ卿が両手を上げると、二人の前に俺が現れた。
「お、お前は、帰還者!」
「初めまして大統領閣下。
シローと言います」
大統領が、四方を見回す。四人いるSPは、なぜかピクリとも動かない。
ただ、全員がまっ青な顔で脂汗を流していた。
「どうやって……」
「それは、能力に関することなので、お話しできません。
それより、ここに映っている狙撃をおこなった犯人が知りたくはありませんか?」
「なにっ!?
犯人が分かっているのか?」
「ええ、俺が確保しています」
「一体誰がこんなことをした?」
「お国の兵隊さんですよ」
「なっ、なにっ!?
そんなはずはない!
軍部には不干渉を徹底してあるはずだぞ」
「まあ、それでも起きてしまったのが今回の事件です」
「な、なんということだ……。
しかし、実行犯が軍部の人間だという証拠でもあるのか?」
俺が指を鳴らすと、部屋の片隅に裸の男たちが積みあげられた。
彼らは、意識はあるが動けないようにしてある。
見苦しいので、腰に布を巻かせている。
「この一番上の男、カーティス中佐が、事件の首謀者です。
愛国者として、今回の行動をとったらしいですよ」
「そ、そうか。
こいつらは、こちらに引きわたしてもらえるんだろうな?」
「ええ、ご自由に。
ところで、俺たちを攻撃したらどうなるかは、ご存知ですよね」
「ま、待てっ!
それは知っている!
希望は何でもかなえるっ!
頼むから考えなおしてくれっ!」
トーマス大統領が、まっ青になり、ぶるぶる震えだした。
日本の首相官邸で何が起きたか、彼が知っているのは明らかだね。
「まあ、今回はそれなりの代償をもらいますから、あなたには何もしませんがね」
俺が手をゆっくり上げる。
指を鳴らすと、大統領がビクッと震えた。
「今回は、この程度にしておきましょう。
次はありませんよ」
「一体何をした?」
大統領の懐にある通信機が振動する。
それは、緊急時にのみ使用する、特別な無線機だ。
「なんだ」
大統領は、通信機から聞こえる声を途中まで聞いて息をのむ。
「そ、そんな馬鹿な……」
ハーディ卿が問いかける。
「大統領、一体何があったのです」
「我が国の核兵器が……」
動転している大統領は、思わず機密を口にしてしまい、慌てて黙りこんだ。
「なぜだ……。
いったい、どうやって……」
「日本政府に伝えたことを、あなたにも伝えますよ。
我々並びにその関係者への調査、攻撃が行われた場合、あなた方を消去します。
何かするなら、その覚悟で。
政府関係者以外の者が、そういう行動を取っても同様です。
よくよく、自称『愛国者』を見張ることです」
俺は、部屋の隅に放りだされている軍人に近づいた。全員の顔が青くなる。
「お前らは、殺さないでおく。
その方が、苦しむからな。
自分が何を引きおこしたか、大統領の口から直接聞くがいい」
俺は、それだけ言うと、大統領に向きなおった。
「大統領、くれぐれも言っておきますが、ハーディ卿はもちろん、彼の関係者も俺の友人です。
彼らに何かあっても同様の結果になりますよ」
大統領は、首をガクガク縦に振った。
「そうそう、この映像の後、エミリーも狙撃を受けました。
これは、貸しにしておきますから」
「な、なんという事だ」
「じゃ、我々は、これにて失礼します」
俺は、ハーディ卿を連れ、彼の家に瞬間移動した。
動けるようになると、SPが裸の男たちを拘束にかかった。
しかし、彼らがそうする前に、忌々し気に吐きすてながら、大統領が裸の男たちを蹴りとばしていた。
「お前ら、どうしてくれる!
何が愛国者だ!
この最悪の国賊どもめっ。
お前らの軽はずみな行動で、この国の核兵器の八割が消えうせたんだぞ!
この〇〇〇〇野郎!」
大統領らしからぬ四文字言葉で罵られた男たちは、すでに動けるようになっているのに一言も発することができなかった。
◇
俺が、核兵器の配置場所を知った方法?
ハーディ卿から教えてもらったのは、陸空海三軍のトップの名前と住所だった。
俺は、彼らの所を訪れ、彼らが寝ている間に白猫に頼んで頭の中の記憶をコピーしてもらった。
その記憶から核兵器の配置場所を読み取ったというわけ。
後は、その場所の上空から点をばらまくだけだった。
『(?ω?) どうして、こんな役にも立たない、危ないモノ作ったのー?』
まあ、点ちゃんが言う通りなんだよね。
人間って、愚かな生き物なんだよ。
『(?ω?) うーん、よく分かんない』
点ちゃん、分からなくていいんだよ。それが、当たり前の思考だから。
こうして、ハーディ卿からの招待状に端を発した一連の出来事は幕を閉じた。
俺は、日本に帰るのに、まだ飛んでない太平洋の上を西回りに帰ることにした。
「太平洋を見下ろしながら入る風呂は、きっと最高だろうなあ」
世界一二の大国を揺るがせた当人は、至ってのんびりしたものだった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる