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空知音

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第十章 奴隷世界スレッジ編

第11話 奴隷と闘士2

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 闘士になると決めた俺と加藤は、宿舎に案内された。宿舎は思ったより立派で、家具も揃っており、一人ずつに部屋があった。
 驚いたことに、簡素だが入浴施設まである。

 大人しそうなドワーフが歩いていたので、話かけてみる。彼も身長は小学生くらいしかないが、顔つきは大人だった。

「こんにちは。
 新しく闘士となった者で、シローといいます」

「ああ、そうか。
 私は薬師のロギスだ。
 怪我をしたら、私のところに来てくれ」

「ところで、ここは、スレッジという世界で間違いないですね?」

「ああ、そうだ」

「スレッジには大きな大陸が二つあると聞いたことがありますが」

「お前たち、もしかして、稀人か?」

「ええ、まあ」

「稀人が来るのは久しぶりだな。
 この世界には、人族が住むヒュッパス大陸と、ドワーフ族が住むメルゲン大陸がある。
 ここは、メルゲン大陸の中央辺りにあるダレンシアという町だ」
 
「そうですか。
 ところで、闘士には、竜人もいると聞いたのですが」

「ああ、凄いだろう。
 まあ、竜人の闘士『竜闘士』は、ほぼ全員が王都にいるがな」

「なぜです?」

「戦闘力が高い竜人は、王族や貴族が囲いこむからな」

「女子供の竜人も王都ですか?」

「ああ、闘士にできないから、高級奴隷となるな」

「高級奴隷?」

「ああ、自由はないが、生活は平民レベルが保証される奴隷だ」

「俺が王都に行くにはどうすればいいですか?」

 薬師ロギスは訝し気な顔で俺を見たが、結局、答えてくれた。
 
「……武闘場で結果を残せば、それが貴族の目に留まり王都に行けるが、そんな闘士は稀だな」

 彼は、俺たち二人を推しはかるように見た。

「そんな大それたことは考えず、まず生き残ることだけ考えた方がいいと思うぞ」

 ロギスはそれだけ言うと、立ちさった。

 ◇

 翌日は、雨が降ったせいか、誰も俺たちを呼びに来なかった。 

 俺と加藤は、これからの計画をじっくり念話で打ちあわせる。
 この町に入る前から透明化してある白猫は、竜人の痕跡を追うため、そのまま街に出してある。

『じゃ、とりあえず、闘士として有名になればいいんだな』

『ああ、お互いにそれを目指そう』

 俺たちが、そういったまわりくどい手段を選んだのは、捕えられた竜人が、すでに王都に運ばれており、彼ら全ての所在をつかむには、いかに点ちゃんといえども時間がかかるからだ。
 昨夜のうちに、この大陸内の大きな町全てに、上空から点をばら撒いておいた。点を付けた人が誰かと接触すると、その人にも点が付くという設定をしてある。
 さすがに、この大陸全ての住人に点が付けば、竜人の居場所を特定できるに違いない。

 俺と加藤は、いつ始まるとも分からぬ戦いに備え、早めに寝床に就いた。

 ◇

 次の日、俺と加藤に、さっそく武闘場からの呼びだしがあった。
 武闘場までの案内は、一昨日会った、ネリルという若い役人がした。
 薬師のロギスも同行する。

 武闘場は、街のまん中にある円形の建物で、イタリアのコロッセオそっくりだ。こういうものは、どこの世界でも同じ形になるらしい。

 石造りの建物へは一階部分にある小さな木戸から入った。
 ロウソクの灯りが揺れる通路は薄暗く、卵が腐ったような匂いがした。
 選手控室は、思ったより広く、教室くらいはある。そこに、人族やドワーフ族の男たちがいた。

 上半身裸になっているのは、おそらく規則でそうなっているのだろう。体に多くの古傷がついた者もおり、そういう人物は、人々から敬われているように見えた。

 俺と加藤も服を脱がされ、ズボンに何か隠していないか調べられた。
 周囲の男は、贅肉はついていないが筋肉質ではない俺の体と、それよりさらにほっそりした加藤の身体を馬鹿にしたような目で眺めていた。

 やがて係の者が入ってくると、二人の男を外へ連れていく。
 どうやら、武闘が始まったらしい。
 開いた戸口から、会場の歓声が聞こえてくる。
 
 しばらくして、係員が戻ってくると、俺を指さした。
 同時に指さされた男は人族で、かなり大柄な男だった。
 豊かな茶色の髪と長く伸ばしたもみあげが特徴的だった。

 俺とその男は、戸口から出ていく係員の後をついていく。途中の廊下で一度立ちどまる。
 そこには、壁に数多くの武器が掛けてあった。
 斧、槍など大きなものから、おそらく拳につけるだろう金属製のナックルまで様々なものがある。
 杖やワンドもあるから、魔術を使って戦ってもよいのだろう。
 盾など防具は置いていなかった。

 男は長剣を選び、俺は特に何も選ばなかった。
 係の男が呆れている。
 俺の対戦相手は、ニヤリと笑った。

 狭いドアを潜り、武闘場へ出る。
 そこは、かなり広い円形のスペースだった。
 それは、中学の社会科授業で見た、スペインの闘牛場そっくりだった。
 
 観客席は、後ろの座席からでも戦いがよく見えるよう傾斜がついている。
 そこに人々が座っている。満員で空席は無かった。
 観客席からの歓声は、うるさいほどだ。
 客席は、ドワーフと人族が分かれて座っている。ドワーフが八割ほどで、残りが人族のようだった。

 係員は、俺と対戦者の二人を中央の開始線まで連れていくと、ある方向へ礼をした。
 そちらは、かなり余裕をもって人々が座っており、場所によっては、屋根が設けられているところもある。おそらく、この街の支配階級が座っているのだろう。

 五メートルほど離れた開始線に立つ俺と対戦者が、互いに向きあうと、場内の歓声がさらに高まった。
 竜王様の加護を受けてから、遠くのものがよく見えるようになった俺は、興奮した人々が口から飛ばすツバまではっきり見えた。

「人族シロー、人族ルードナの武闘を開始する」

 大声でそう告げた係員が、腰の後ろから何かの絵が描かれた旗を出すと、それを大きく振った。
 俺と対戦者の、命を懸けた戦いが始まった。
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