405 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第16話 奴隷と闘士7
しおりを挟む俺は、見上げるほどの敵に驚いていた。
ただ、ゴブリンキングや竜王様と戦ったことがある俺としては、相手の大きさで気おくれすることはない。
それより相手の戦闘力が問題だった。
ゴライアスという名の敵は、二メートル近い曲刀を左右の手に持っている。
それが振りまわされたら、相手はすだれのように切りきざまれるだろう。
よく見ると、ゴライアスは、その巨体に似合わず、優し気な顔だちをしていた。彼は本来戦闘を好まぬ大人しい性格なのかもしれない。その首には太く大きな奴隷用の首輪が着けられていた。
俺が半歩右足を引き、半身になっただけで、巨人は、ビクッとからだを震わせる。その目には、まぎれもなく恐怖があった。
「初めッ!」
審判の旗が振られる。
大男は、右手の巨大な曲刀を振りかぶると、やけくそのような表情でそれを叩きつけてきた。
俺の眼は、今回も、その剣の動きを、スローモーションのように捕えた。
ぎりぎりのところで、巨大な刀をかわす。
曲刀は、地面に深々と食いこんだ。
ゴライアスは、初めの攻撃が外れたのに、なぜかほっとした顔をしている。
俺は地面に先が埋まった剣に両手を添えると、それを持ちあげた。ゴライアスの右手は一時的に動きを封じてある。
剣先が空に向くように持つと、点魔法の『打ちあげ花火』を発動する。
巨大な剣は空高く上昇すると、巨大なエメラルド色の火球となり花開いた。
おお、この剣、どんな材質か知らないが、花火にぴったりだな。
ゴライアスは、呆然としている。
俺が両手を出すと、彼は左手に掴んでいた巨大な剣を、魅入られたように渡してきた。
再び、巨大な美しい花火が空中に咲く。
会場が鎮まりかえる中、貴族席の皇女だけが、キャッキャと喜んでいた。
両手を地面に着き、うなだれたゴライアスを見て、審判が判定を下す。
「勝者、シロー!」
音が無い会場が一転、爆発したような歓声に包まれた。
◇
神託武闘後、ゴライアスは、彼の『ご主人様』により、街はずれの荒野に連れてこられた。
「このクズ野郎!
大枚はたいて手に入れたのに、肝心な時にあのザマはなんだ!」
「で、でも、ボク……」
ゴライアスの声は、巨大な身体に似ず、少年のそれだった。
「この罰は受けてもらうぞ!」
男の顔が邪悪に歪む。
彼が呪文を唱えると、ゴライアスの顔が次第に赤くなる。
奴隷の首輪が締まっているのだ。
「く、苦し……」
ゴライアスの顔色が、赤から青に変わる。
「苦しめ!
苦しめっ!
ハハハハハハ!」
男が高笑いしたとたん、彼は自分の首に圧迫を感じた。
「くけっ、な、なんだっ」
手で触れてみると、輪っかのようなものが、首を一周している。
それは、まるで、奴隷の首輪だった。
「お前が他人に対し攻撃的な感情を抱くたび、その首輪は締まるぞ。
せいぜい、死ぬまで他人に優しくするんだな」
少年の声だ。氷のようなその声を聞いた途端、男は意識を失った。
ゴライアスは、『ご主人様』が倒れた後、武闘場で対戦した相手が目の前に突然現れ驚いていた。
「き、君は?」
「ああ、俺はシロー。
お前は、ゴライアスだな」
「うん、ボク、ゴライアス」
「お前は、もう自由だ。
どこへでも好きに行け」
「……そうしたいけど首輪があるからできないの」
「首輪って、それの事か?」
ゴライアスは、いつの間にか自分の足元に落ちている、黒い首輪を信じられないという顔で見ていた。
首筋に触ると、いつもそこにあった首輪がなくなっている。
「あれ?
これって、ボクの首輪?」
「そうだよ」
「これ、外してくれたの君かい?」
「ああ、そうだよ」
「あ、ありがとう!」
ゴライアスは、よほど嬉しかったのだろう、座りこんでわんわん泣きだしてしまった。
「じゃ、元気でな」
シローは、そう言うと立ちさろうとした。
「ま、待って!」
ゴライアスが、泣きそうな声を出す。
「ボ、ボクを置いていかないで」
「だけど、俺はこれからいろいろやることがあるから、お前を連れてはいけないんだ」
「お仕事があるなら、ボクもお手伝いするから、お願いだから連れていって」
「お前、故郷はどこだ?」
「分からないの。
気がついたら、この人がいたの」
ゴライアスは、気を失い足元に伸びている初老のドワーフを指さした。
「……しょうがないな。
とりあえず、しばらく外に出られないが、それでもいいか?」
「うんっ!」
こうして、巨人ゴライアスは、史郎と行動を共にすることになった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる