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第十一章 ポータルズ列伝

プリンスの騎士編 第13話 騎士の帰還

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 ダンジョンで例の事件があった二日後、『プリンスの騎士』五人は、アリストの町へ繰りだし、市場(いちば)で買い物をしていた。

 白騎士はアリストの郷土料理に興味をもったらしく、大量の食材を買いこんでいる。

「ねえ、素敵なお兄さん、これ、三つで銅貨五枚でしょ。
 十個買うから銅貨十枚に負けて~」

「し、仕方ねえな。
 この歳になって『お兄ちゃん』なんて言われちゃ、負けるしかねえじゃねえか」

 野菜を売っている痩せたお爺さんが、苦笑いしながらカゴに入れた商品を手渡す。 
 
「カゴ代は?」

「負けといてやるよ」

「やったーっ!」

 白騎士にキスされ、老人が頬を染めたのは見ものだった。

 ◇

「「カ~ワイ~!」」

 指輪やブローチなど、身に着ける小物を売っている店先では、黄緑騎士の二人が声を上げていた。
 テーブルの上に並んだ木彫の小物は、素朴だが味のあるものが多い。 

「そ、そうかな?」

 店主の若い男性が頬を緩める。この店で売っている品物は、全て彼のお手製だ。

「ところで、その髪どめ、凄くいいね。 
 見せてもらえるかな?」

 商売柄、店主はいいところに目をつける。緑騎士が右の髪どめを外し、それを手渡す。

「ほう、魔獣のデザインか。
 斬新だな」

「ううん、それって猫っていう動物だよ」

「ねこ?」

「うん、ニャンニャンだよ」

 これは黄騎士。

「そっか、ニャンニャンか……。
 これ、ウチの商品半分と、交換してもらえないか?」

「ええっ!?
 そんな……いいの?」

「あんたら、迷い人だろう。
 異世界の品は、高く売れるのさ」

「じゃ、私もこれ上げる」

 黄騎士も片方の髪留めを渡す。

「おう、色違いかい!
 こりゃいい!
 ほれ、この商品、二人で全部持っていきな!」

「「わーい!」」

 二人の髪留めを参考に売りだした『ニャンニャン髪留め』でこの若い店主が大儲けするのだが、それはまた別の話。

 ◇

 見かけによらず、かわいい置物や動物に目が無い黒騎士は、素焼きの置物を売っている店に来ている。
 
「素敵!」

「ありがとうね、綺麗な黒髪のお嬢さん。
 あんた、迷い人かい?」

 黒騎士の言葉に、店主のおばあさんがそう尋ねた。

「はい、そうです」

「おおっ!
 息子が世話になってる方も、迷い人でね。
 シローさんって、有名な冒険者なんだけど。
 なぜか息子のことを『ゴリ』って呼んで、可愛がってくれてるんだ」

「えっ!?
 シローは、私たちのリーダー(社長)!」

「ええっ!?
 そうなのかい。
 あんたたちの(パーティ)リーダーかい」

 お互いに微妙な誤解はあったが、二人は意気投合したようだ。

「あんた、お金はいくら持ってる?」

 ダンジョンの件で報奨金としてもらったお金を、黒騎士はテーブルに並べた。
 
「ほうっ!
 あんた、お金持ちだね。
 じゃ、これだけもらっとこう」

 彼女は、黒騎士が並べたお金の半分ほどを手にした。

「この店に置いてある品物は全部持ってかえんな」

「ありがとう!
 でも、持てない」

「ははは、あんたシローさんの知りあいなんだろ。
 あの人に頼めばいいよ」

「それもそう!」

 黒騎士は、シローが無尽蔵にものを収納できるのを思いだした。
 彼女は地球に帰り、この店で手に入れた品物から自分の気に入ったものを除き、『ポンポコ商会』からオークションに出すことになる。
 それらの品物は、どれも一千万円以上の値が付くことになる。

 ◇

 桃騎士は、シローから紹介された魔道具屋に来ている。
 彼女は、本物の魔法杖が欲しかったのだ。

 しかし、小型の杖であるワンドも大きな杖も、実用一点張りの物が多く。装飾が付いているものでも、「カワイイ」が基準である桃騎士の審美眼を満たすものはなかった。
 仕方なくローブを手にとる。
 小さなローブが並んだ棚には、色とりどりの装飾が付いた可愛いものもあった。
 
「これ、いくらです?」

 彼女は、手の込んだ白いレースで襟や袖が縁どられた、淡いピンクのローブを手にしている。
 職人気質らしい、気難しい顔をした中年の店主が口を開く。

「金貨十枚です」

「ええっ!?」

 それを聞いた桃騎士が、地声で悲鳴を上げる。
 なぜなら、その金額が日本円で約一千万円だと分かったからだ。 
 物価については地球世界で予習してきている。
 金貨一枚がおよそ百万円の価値がある。
 ダンジョンの一件で多額の報酬をもらったが、それでは全然足りない。

「この店にあるローブは、魔術で祝福してあるものだけですからな。
 祝福が付与されていないものでしたら、衣服店に行けば、同じようなものが安く手に入りますよ」

 おじさん店主が、慰めるように言う。   
 しかし、桃騎士はどうしてもそのローブが欲しかった。
 悔しい顔でローブを眺めている彼女に、もう一人だけいた客が話しかけた。

「失礼ですが……」

「えっ? 
 はい、何でしょう」

 黒いローブを着た上品な紳士に話しかけられ、桃騎士が戸惑う。

「その服装、その髪。
 失礼ですが、あなたは迷い人ではありませんかな?」    

「え、ええ。
 そうですが。

「私、隣国から来たノテンと言う者ですが、その杖と服装なら、金貨二十枚で買いとらせていただきましょう」

「えっ!?」

 まさか、ウニフロで買った子供服(子供用というのはみんなに内緒)と、百均で買ったビニール製のおもちゃが二千万円?

「どうですかな?」

「え、ええ、そちらがそれでよろしければ」

 こうして桃騎士は、念願の可愛いピンクローブを手に入れることになる。
 店主も紳士も、最後までそれが安眠の祝福がついた、貴族の子供用寝間着だと告げることはなかった。

 このノテンという名の紳士、隣国にある魔術学院の学長で、桃騎士のハート杖を学園まで持ち帰ることになる。調べてもその材質も魔術的機能も分からない杖は、『謎の異世界杖』として学園のシンボルとなり、学園のマークも元の凝った意匠のものから、ピンクのハートへと変わることになるのだった。

 ◇

 アリスト城の噴水がある中庭には、女王陛下、プリンス翔太、シローの三人と、これから地球世界へ帰る『プリンスの騎士』五人がいた。
 騎士たちが一人一人、女王陛下に別れの挨拶をしているとき、白騎士がシローに尋ねた。

「シローちゃん、あたし、どうも腑に落ちない事があるのよね」

 白騎士は、いつになく真面目な顔でシローを見つめている。

「なんですか?」

「ダンジョンの外で、最後の戦いがあった時、あなたたちが助けに来てくれたでしょう?」

「ええ、それが何か?」

「兄貴(マック)が、『星の卵』の三人をギルドへ報告に向かわせたのだけど、どうみても、彼らがギルドに着くより、あんたたちが来た方が早かったのよね」

「え、ええ?
 そ、そんなことありましたかね?」

「あなた、点ちゃんに、私たち見張らせてなかった?」

「ぜ、全然(ギク)っ!」

「……まあいいわ。
 それより、例の件は終わったの?」

「ええ、終わりましたよ」

 例の件というのは、お土産全てにポンポコ印のマークをつけることだ。
 
「じゃ、準備はいいかな」

 シローの言葉で、五人の騎士が翔太の周囲に集まる。
 翔太は、一人一人と握手した。

「みんな、気をつけて帰ってね。
 その内、また、こちらの世界に来るといいよ」

「プリンスー、また来るわ~!」
「「プリンス、またねー!」」
「元気で!」
「愛の魔法がクルクルしゅぽーん♪」

 シローと五人の騎士が姿を消す。
 後に女王陛下、プリンス翔太が残された。  
 実の姉弟でもある二人が、打ちとけた様子で話しはじめる。

「お姉ちゃん、だけど、あれって最後まで言わなくてよかったの?」

「言わなくていいのよ、あんな事」 
 
 彼らが話しているのは、シローが騎士たちにつけた魔法の『点』で、ダンジョンの一件を一部始終見ていたことだ。
 だから、思わぬ事態が起きたとき、絶好のタイミングでシローたち三人が救援に駆けつけられたのだ。
 ちなみに、女王陛下はアリスト城の『王の間』に、貴族や隣国の王、軍師、勇者まで招き、壁に貼ったスクリーンで冒険鑑賞をしていたのだ。冒険者たちがギルドを出発してから『古の洞窟』で起きたことまで、プライバシーに関する部分を除き、彼らから見られていたことになる。テレビなどの娯楽がないこの世界では、それは大変な衝撃をもって受けとめられた。鑑賞していた人々の歓声は、城を揺るがすほどだった。

「そうだね、言わぬが花だね」

 翔太が微笑みながら小声で言う。
 森から巨大な白ウサギが二匹、跳びだしてくる。
 ウサギを撫でながら、二人は姉弟水入らずの時間を過ごすのだった。
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