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第十二章 放浪編

第3話 縁は異なもの味なもの(2)

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 マスケドニアでの挙式より二日前、俺たち家族と仲間の姿はサザール湖の上にあった。
 ウロコ雲が浮かぶ青空の下、点ちゃん3号、つまり、白銀のクルーザーで湖を渡っている。
 鏡のような湖面を渡る朝の微風が、肌に心地よい。

「すごい!
 気持ちいいねー、お姉ちゃん!」

「そうね、エミリー」

 久しぶりに会った舞子とエミリーが髪をなびかせ、甲板の上で微笑みあっている。
 親友の舞子と並ぶコルナも、笑顔が絶えない。

「魚っ!
 いっぱい魚がいるっ!
 リーダー、釣竿出して!」
「ミミ!
 遊びじゃないんだよ、いつも言ってるけど!」

 ミミとポルの二人は、いつも通りだ。
 
「お姉ちゃん、加藤さんに会えるの楽しみでしょ?」
「ば、馬鹿言わないで!
 誰があんなヤツのことなんか……」

 女王畑山とプリンス翔太の姉弟も平常運転だ。
 明らかに肩身が狭いという顔をしている、二人の男性に声を掛けておく。 

「ピエロッティ先生、レダさん、船酔いは大丈夫ですか?」

 点ちゃん3号は水面から少し浮いて走っているから、船酔いなどしないはずだが、形式的に尋ねておく。

「だ、大丈夫です」
「へ、平気です」

「お二人とも、ちょっと緊張していますね」

「え、ええ」
「こ、これは仕方ないかと」

 それはそうだね。女王陛下、大聖女が揃いぶみだもんね。

「イリーナ、タニアさん、大丈夫ですか?」

 今回の旅には、舞子の屋敷に同居している彼女たちも参加している。

「大丈夫だよ、シローお兄ちゃん」
「そうですよ。
 船旅って、こんなに気持ちがいいものなんですね」

 二人は、肌を撫でる風に目を細めている。

『ルル、ナルとメルはどうしてる?』

 俺はルルに念話を飛ばす。

『うふふ、シロー、ちょっと来てみてください』

 点ちゃん3号の上空に浮かせた、かなり大きな白銀の箱へ瞬間移動する。
 立方体の箱内部は、手前に白いテーブルや椅子が置いてあり、奥には枯草が敷きつめてある。
 天井は開けてあるから、そこから穏やかな日差しが入ってきて、中はポカポカしている。 
 枯草の上には、ピンクのカバ、ポポが二匹、横になっている。
 ナルとメルは、それぞれのポポが投げだした足の間に座り、そのお腹に背を着け眠っていた。
 ルルとコリーダが、そんな二人に毛布を掛けているところだった。

「朝が早かったから、眠かったのね」

 コリーダがメルの銀髪を手ですきながら微笑んでいる。
  
「ここで寝ると、夜、寝られなくなるかも」

 ルルが、ナルの頭を優しく撫でている。

「二人ともご苦労さま。
 お茶にしようよ」

 ナルとメルの寝顔を堪能した後、ルルとコリーダが丸テーブルに着いたので、点収納から急須と茶碗を出す。
 急須は南部鉄瓶だ。
 お茶を注ぎ、コリーダの前に黒い茶碗、ルルの前に白い茶碗を置く。

「どうぞ」

 ルルとコリーダが、お茶に口をつける。

「まあっ!」
「んんっ!」

「驚いた?」

 お茶の味に目を丸くした二人に、俺が尋ねる。

「このお茶、何です?」

「ルル、このお茶はね、日本の緑茶ってお茶なんだよ」

 正確には玉露だが、細かいことは置いておく。

「リョクチャ、ニホンのお茶ですか……」

 一度訪れ、ますます日本の文化に興味を持ったルルが感動している。

「お湯の温度が低いのね?
 それにまったりしてる。
 独特の渋みと甘みが癖になりそう」
  
 コーヒーが好きなコリーダのことだから、これも気に入ると思ったんだよね。

「これ、金属でできているんですね」

 急須に触れたルルが、意外そうな顔をする。
 この世界ではお湯を注ぐ道具は、そのほとんどが陶器製だからね。

「うん、黒いのはさびてるんじゃなくて、元々そういう風に作ってあるんだ」

「素敵ですね、この形。
 それに、このカップ、素晴らしいです!
 初めてです、こんなもの」

 ルルの茶碗は、重要文化財級の志野茶碗だ。

「ホントね!
 私のこの黒い茶碗も、素敵だわ。
 なんだろう、飾り気がないのに目が離せない」

 コリーダの茶碗は楽茶碗で、これも重要文化財級の一品だ。

「この前、お肉を買いに地球世界に戻ったとき、買ってきたんだよ。
 箱も用意してあるから、大事に使ってね」

「えっ!?
 これ……」
「私たちにくれるの?」

「ああ、俺からのプレゼント。
 コルナにもちゃんと買ってあるから」

「シロー、ありがとう!」
「こんな素敵なもの……ありがとう!」

 価値が分かる二人に使ってもらえるなら、茶碗も本望だろう。
 もう少し大きくなったら、ナルとメルにも、本物の茶碗を渡そう。
 
 こうして、それぞれが船旅を楽しんだ後、一行はマスケドニアの王宮に到着した。
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