ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第十二章 放浪編

第13話 銀仮面と少年

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 銀仮面は、いきなりとてつもないお願いをしてきた。

「この世界を破壊してほしい」
 
 当然、俺の言うことは決まっている。

「無理でしょ」

「えっ!?」

「この世界壊しちゃったら、俺も死にますよね」

 全く、この銀仮面、気は確かか?

「ああ、申し訳ない。
 言葉を省きすぎた。
 この世界の文明を破壊してほしい」

 いやいや、あいかわらず難易度が激高なんですが……。

「召喚者は、特別な力を授かるのであろう?」

「いやいやいや、文明を破壊する力って、普通ナイナイ!」

「そうなのか?」

「ええと、あなたの知っている召喚者というのは……」

「お前一人だが」
  
「ですよね~。
 いくら覚醒したって、そんな力は手に入りませんよ」

「ぐうっ……だ、だめですか……」

 あれ?
 今、この人、一瞬丁寧な言葉使ったけど? 
 
「召喚された者がどうなるかは知りませんが、確かに転移したとき覚醒する人はいますね」

 正確に言えば転移した後、『水盤の儀』などの儀式をした後で覚醒するんだけど、こんなに怪しい人物にそういった情報は洩らせないよね。

「お前は、覚醒する可能性は無いのか?」

「たぶん無いと思います」

 すでに二回も覚醒してるから、三回目は無いだろう。
 ただ、その情報をこいつに話す必要は無い。

 俺の言葉を聞いた銀仮面は、ローブに包まれた頭部を両手で押さえ、テーブルの上につっ伏してしまった。
 なんか、茶色のスライムが、べちょっとなった感じだな。
 そこへ例の少年が、木製のボウルを両手で掲げて現れた。

「お師匠様っ!
 どうなすったんです!?」

 慌てた彼はボウルをテーブルの上に置くと、銀仮面の背中を撫でている。
 
「おいっ!
 お前、何かしただろう!」

 少年は俺の方を、緑色の目できっと睨みつけた。
 ブロンドの髪を持つ彼は、恐らく十歳くらいだろう。白い肌は、日焼けで少し赤くなっている。羽織った灰色のローブは、あちこちがほつれ、泥のようなもので汚れていた。

「何にもしてないよ」

 少年はテーブルを回りこむと、握りこぶしで俺を殴ろうとした。
 その手が、俺に当たる寸前に停まる。
 点魔法を使って、手を固定したのだ。
 俺を殴っちゃうと、『物理攻撃無効』の加護で、ケガをするかもしれないからね。

「な、なんだっ!?
 動けない!」

 俺は少年の身体を、縦に三回転ほどさせてから、そっと切り株の椅子に座らせた。
 空中でぐるぐる回ったせいか、少年は目を白黒させている。

「その子には手を出さないでっ!」 

 そう叫んだ銀仮面を見ると、右手に銃らしきものが握られていた。
 俺が指を鳴らすと、一瞬でそれが俺の手に移った。

「なっ!
 どういうことっ!?」

 棒立ちになった銀仮面が、そんな声を漏らす。

「勝手に人を召喚しておいて、この扱いはないんじゃないか」

 ドサリ

 あれ、銀仮面が腰を地面に落としてるよ。
 おや、少年は、震えながら……おしっこ漏らしちゃったか。
 なんで!?

『(*'▽')つ ご主人様、マジ顔禁止ー!』
「ミーッ!」(禁止ーっ!)

 えっ、あ、そうか。俺、さっきちょっと腹立ててたな。

『へ(u ω u)へ やれやれ、ご主人様は、これだからね、ブランちゃん』
「ミミミィー」(困ったものです)

 ◇

 なにが間違っていたのか?
 私は、召喚した青年の姿を見てそう思った。
 のんびりした表情、冴えない服装、何の武器も持っていない。
 小さな白い獣を連れていたが、それもただの愛玩動物のようだった。
 伝説通り黒髪なのだが、どう見ても勇者ではない。
 これで、計画に使えるのだろうか?
 
 案の定こちらの頼みを拒絶した青年を連れ、隠し小屋まで歩く。
 これからどうすればいいのか。
 何の能力もない青年を、自分の計画に巻きこんでいいのだろうか?
 いや、この計画だけは何があっても成しとげなければならない。
 私の命に替えても。

「おいっ!
 お前、何かしただろう!」

 タムが、召喚者に突っかかった。
 
「何にもしてないよ」

 青年は茫洋とした顔を変えず、そう言った。
 
 彼に殴りかかったタムの身体が空中でくるくる回った。
 私は心臓が鷲掴みにされるような恐怖を感じた。
 麻酔銃を出し、青年に狙いを定める。

 引き金を引こうとしたが、それは出来なかった。
 なぜか麻酔銃が青年の手に移っていたからだ。

「なっ!
 どういうことっ!?」

 一体、何が起こったのか?

「勝手に人を召喚しておいて、この扱いはないんじゃないか」
 
 静かにそう言った、青年の顔を見た私は、彼の平凡な顔が、恐ろしいほど美しく変わったことに気づいた。
 その美しさは、人のものとは思えなかった。
 私は何を召喚してしまったの?
 神? それとも、悪魔?

 思わずのけぞった私は、椅子から滑りおちた。
 ひ、ひいいっ!

 白い獣の鳴き声を最後に、私は意識を失った。

 ◇

「着替えておいで」

 俺は少年に声を掛け、地面に倒れ動かなくなった銀仮面を抱えあげた。
 一度、小屋から出て、隣にある扉を足で押す。中は薄暗く狭い部屋で、ベッドが一つ置かれていた。
 先ほどの部屋は床が無く、地面がむき出しだったが、こちらは板敷になっている。
 俺は冒険者ブーツのまま板敷に上がり、ベッドに銀仮面を下ろした。
 仮面を取ろうと手を伸ばすが、結局それはしないでおいた。
 
 扉を閉め、隣の部屋に戻る。
 少年は切り株の椅子に座ったまま、まだ震えていた。

 ナルとメルの着替えとして点収納に入れてある、ジーンズを出してやる。
 体格からいって娘たちと同じくらいだから、着れないことはないだろう。

「これに着替えるといい」

 少年は放っておいて、ポンポコ商会の焼きたてクッキーをテーブルの上に出し、蜂蜜をかける。その横に、お茶が入ったカップを並べる。 
 
「これ、食べていいよ」

 そう言いのこし、俺は小屋から外に出た。
 そこをとり囲んでいる木立を抜ける。

 森の中は木々の香りで気持ちよく、小鳥のものだろう鳴き声が耳に優しかった。
 とりあえず、一服しようか。

 低めのテーブルを出し、その上にエルファリアのお茶が入ったカップを置く。
 テーブルの横にコケットを並べ、そこに横たわる。
 木漏れ日の下、木々の「声」を聞きながら体を伸ばすと、まるで天国にいるような気分になる。
 ブランは俺のお腹に跳びのってくると、すぐに丸くなった。
 おへその辺りにブランの重さと温かさを感じると、次第に眠くなってくる。

『( ̄ー ̄) 知らない世界に来て、まずすることが昼寝って……』  

 点ちゃんのそんな声が聞こえたが、俺はそのまま眠りに落ちた。
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