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第十二章 放浪編
第29話 廃墟
しおりを挟むポータルを出たところは、石造りの狭い部屋だった。入り口から漏れてくる明かりで薄暗い石室の中が照らされている。
『枯れクズ』を出すと、俺たちが出てきたポータルが、黒い渦を巻いており、それは壁にはめ込まれた緑の石で囲ってあった。
点ちゃん、点ちゃん?
点ちゃんから応答がないのは、例のごとく、この世界への適応に時間が掛かっているからだろう。
「ミー、ミミー!」(点ちゃんは大丈夫!)
ブランは俺の中に、点ちゃんの存在を感じているらしい。
まあ、俺自身も、それは分かってるんだけどね。
まずは、外へ出てみますか?
◇
岩室から外へ出ると、短い廊下があり、それを右へ曲がってすぐ出口があった。
外へ出ると、明るい陽射しに照らされた廃墟が広がっていた。
奇妙なことに、出てきた古めかしい石造りの遺跡にくらべ、廃墟となった建物はかなり新しかった。
恐らく煉瓦を積みあげて作っただろう建物が、屋根や壁の大半を失っている。黒く焦げたような跡や、穴が開いたような跡もあるから、魔術か兵器で破壊されたのだろう。
銀さんやタムがいた『田園都市世界』から『学園都市世界』にポータルが繋がっているだろうと考えていた俺の期待は、あっさり打ちくだかれた。
建物の造りからして、ここは明らかに『学園都市世界』以外のどこかだった。
「おい、そこのお前、なにしてる?」
振りかえると、小型のボウガンに似たものをこちらに向け構えた、三人の青年が立っていた。
三人は二十才から二十五才くらいに見え、色が白いこともあり白人に近い顔立ちに見えた。そして、白人にしてはやや小ぶりなその鼻は、アリスト王国に住む人たちを思いおこさせた。
ヘルメット、服装とも、深緑色で統一されており、それはまるで軍服のように見えた。
敵意が無い事を示すため、両手を挙げてから、彼らに声を掛ける。
「こんにちは。
俺は異世界から来たんですが」
「お前、まさか、その遺跡から出てきたなんて言わないよな」
一番背が高く、年上に見える男が話しかけてくる。
「ええ、そのまさかです。
たった今、ここから出てきたんですが」
「嘘を言うなっ!
キサマ、ウエスタニアのスパイだな!」
一番小柄な、そして一番若く見える青年が叫ぶ。
「ウエスタニアって何です?」
「あくまでしらばっくれるつもりか!
これでもくらえっ!」
「馬鹿ッ、早まるな!」
年長の青年が叫んだときには、すでに遅かった。
小柄な青年が構えていた、ボウガンに似たものから黒い玉が飛びだす。
俺はその玉の動きがよく見えた。
挙げていた左手を降ろし、手のひらで黒い玉を受けとめる。
俺が持つ『物理攻撃無効』の加護に弾かれた玉は跳ねかえり、それを撃った青年のブーツに命中した。
「ぐあっ!」
黒い玉には、かなりのエネルギーが蓄えられていたようで、小柄な青年は、足と頭がさかさまになり、十メートルほどふっ飛んだ。
廃屋の壁にぶつかった青年の体は、人形のように崩れおちた。
「キサマっ!」
それを見た背が高い青年が、やはりボウガン型兵器を俺に向ける。
それまで黙って事の成りゆきを見ていた年長の青年が、その兵器を下から跳ねあげた。
「なっ、なにをっ!?」
背の高い青年が、思わずもう一人を見る。
そこには冷たい視線があった。
「しっ、失礼しました、大尉!」
どうやら「大尉」と呼ばれた青年が一番高い階級らしい。
やはり、彼らは軍隊として組織されているのだろう。
俺が聞いている言葉は、多言語理解の指輪が翻訳したものだから、実際にはいくらか違いはあるんだろうけどね。
「部下がいきなり失礼した。
私はイスタニア軍大尉ヴァルムだ。
君は、本当にこの遺跡から?」
「ええ、そうですが」
「そうか。
言い伝えによると、この遺跡の向こうには別の世界があり、そこには巨大な黒い悪魔が棲むと言われているんだ」
ああ、もしかすると、あの巨大なカニのことかな。
「かつては挑んだ者がいたらしいのだが、誰も帰ってこなかった。
ここは『黒き悪魔の遺跡』と言われている」
さっきのような武器では、あのカニには通用しないだろうからね。
「君は、どうやって悪魔に対処したのかな?」
青年の鋭い目は、俺の目から離れない。
どうやら、こいつは要注意人物らしい。
「俺がそこを通るとき、ちょうどその悪魔とやらは散歩にでも出かけていたみたいですよ」
俺の説明を聞き、しばらく黙っていた青年がこう言った。
「イスタニアへようこそ。
ただ、現在この国は、隣国と戦争中だ。
もてなしてやることはできない。
とにかく、我々についてきてほしい」
彼は、背負っていたバッグから小さなビンを取りだすと、そのキャップを外し、倒れた小柄な青年の顔に近づけた。
「ゲホッ、い、痛えっ!
な、なにがあった!?」
騒ぎだした小柄な兵士の目を、ヴァルムが覗きこんだ。
「た、大尉殿!」
「ドマラ、お前が上官の命令を聞かぬのは、これが初めてではない。
今回の事は、軍法会議にかける」
「ひ、ひいいっ!
こ、今回だけはお許しを!」
「お前からその言葉を聞くのは二度目だ。
マレン、こいつを引ったてろ!」
「はっ!」
マレンと呼ばれた長身の青年が、廃墟の壁にもたれている小柄な兵士を立たせ、彼に肩を貸した。
「引きあげるぞ。
ああ、君も一緒に来てもらえるかな?」
「分かった。
俺はシロー、冒険者だ」
「ボウケンシャか……」
ヴァルム大尉は、その言葉を知らないようだった。
三人の後を追い、俺は廃墟の中を歩きだした。
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