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空知音

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第一章 冒険者世界アリスト編

第17話 ドラゴンが棲む山

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いよいよ、山頂へ向けて出発する日が来た。


予定では、今日中にドラゴンを討伐して、山を下りることになっている。
ただ、万一に備えて、山でのキャンプにも対応できるよう準備している。

どうも、「討伐に行ったけど、ドラゴンちゃんは、お留守でした」は、通用しないらしい。

昨夜ブレットたちと、シチュエーション別の安全対策を行ったが、ドラゴンが空を飛べるということがやっかいで、結局は各自が臨機応変に対処するしかないらしい。

とにかく生き残ること。 
それをみんなで確認し合った。

山に霧がかかる早朝は避け、昼前の出発となった。
山頂までは、1時間ほどで着くらしい。

山道は、やはり、雨の影響でかなりぬかるんでいた。
途中、二匹のロバ型生物が、荷物ごと谷底へ消えた。

この山は、火山活動があるのか、木が一本も生えていない。
だから、バランスを崩したら最後、谷底までつるべ落としである。

山頂が近づくと、そこかしこに何かの骨が散らばるようになった。
ドラゴンの食事跡かもしれない。

先頭を歩いていた騎士たちから、ゆっくり進むようにと指示が出る。
どうやらドラゴンの棲み処は、すぐそこらしい。

ルルが手を握ってくる。
この温かさだけは、絶対に守る。

行進が止まった。
先頭は、すでにドラゴンを視認しているらしい。

-----------------------------------------------------------------------------

空が突然翳ると、突風が吹きつけた。


見上げると、信じられないほど大きな影が、空を覆っている。

「でたーっ!!」

「うわーっっっ」

ほんの5mほど前で、バランスを崩した隊列が谷底へ落ちていく。

バサッバサッという音がする。
ドラゴンは、上空でホバリングしているらしい。

弓隊から弓矢が飛んでいくが、ドラゴンの翅が引き起こす風で、明後日の方に落ちていく。

魔術隊は、精神集中できていないようで、時々チョロチョロと青い光が飛んでいくが、ドラゴンにダメージを与えた様子はない。

上空が晴れたと思ったら、ドラゴンはあっという間に飛び去って行った。

みんな、泥で汚れるのもかまわず、地面にへたり込んでいる。
まあね。 どうみても命拾いしてるもんね。

ドラゴンがその気なら、すでにみんな生きてないよ。

----------------------------------------------------------------------------------------------

後ろから伝令が来て、山を少し下ったところにある平坦地に、キャンプを張るらしい。

よろめきながら降りていく隊列は、どうみても敗残者の姿である。

ルルは、強く俺の手を握ると、前方に向かった。
ギルド関係者と連絡を取るとのこと。

平坦地へ着くと、ほとんどの人が、崩れるようにしゃがみこんだ。
横になって、体を震わせている者もいる。

今ならブレットが、「銀ランクだからドラゴンにはかなわない」って言ってた意味がよく分かる。

というか、これってランク関係なくない? 
こっちがどんなに強くても、無理があるだろ。

数人がよろめきながら、タープテントを設置している。
まあね、この状態じゃ、まともなテント設営も難しいからね。
雨露しのげたら十分だと思わないと。

ギルド関係者が、たむろしているところに向かう。
どうやらギルドメンバーは、自分が最後だったらしい。

「そろったな。 あれがドラゴンだ。 
特に強力な、特殊個体に当たったようだ」

えーっ!  ただでさえ勝てそうにないのに、特殊個体かよ。
絶望的だな、こりゃ。

「今日は、ここで野営して、明日もう一度攻撃を試みる。
今日は、無理にでも休んでおけよ」

マックが話し終えても、みんな、じっと動かない。

「俺がテント張りましょうか。 
割と慣れてるんで」

「お、そうか。 なら頼めるか。 
ほかの者は、座るなりなんなり、休んでおけ。 
テントに入ったら、すぐに寝ろよ」

ヨレヨレのギルド職員から、テントを受け取ると、さっさと設営を始める。

大型のテントは、複数人いたほうが組み立てやすいが、慣れると一人でも設営できる。

「随分手馴れてるな」

「ブレットか。 まあ、故郷じゃ、随分やってたからな」

くつろぎを求めて、年間50日以上キャンプしてたからな。

「それより、ドラゴンって、全部あんなに大きいの?」

「いや、あいつは特に大きいな。 
あんなに大きいのは、見たことないぞ」

「やっぱり、大きいほど強いの?」

「まあ、そうだな。 
小さくても、特殊個体なら、ありえないぐらい強いらしい」

「らしい?」

「ああ、ドラゴンの特殊個体に出会って、その後も生きてる冒険者は稀(まれ)だからな」

「なるほど」

ていうことは、でかい上に特殊個体って、どうしようもないじゃん。

「まあ、なんとかなるだろう。
俺たちが、討伐するわけじゃないからな」

ブレットは俺の肩をポンと叩くと、食事の用意に去っていった。

そうだった。 加藤がやばいぞ。

何の方策もなく、夜を迎えた。

泥のように眠るみんなを、起こさないように外に出る。

雲間から、美しい星空が出ていた。
この世界には、地球で見るよりやや小さな月が一つある。

もちろん地球と同じ星座は見当(みあ)たらないが。


それにしても、星空は綺麗だなあ、どの世界でも。

-----------------------------------------------------------------------------------------------

そこらへんをぶらぶらしていると、影の中から人が現れた。


「あのー。 シローさんですか」

「あ、はい。 そうですが」

俺の名前を知ってるってことは、ギルド関係者だと思うんだが、こんな人いたかな。
暗くてよく顔が見えないから、はっきりしないけど。

「ちょっとお話があるのですが、ここではなんですから、こちらに来てもらってもいいですか」

まあ、ここで話してたら、テントの人たちが、目を覚ますかもしれないからね。

「ええ、いいですよ」

女性についていくと、どうも崖に近づいているように思える。

「あー、もうこの辺でいいと思いますよ。 
テントからも十分離れたし」

「そうですか」

女性は、急に振り向くと抱き着いてきた。

え!?  なに?  このイベント。

ちょっと喜んだのは、許してほしい。
なぜなら・・。

いきなりすごい力で抱えあげられ、足が宙に浮く。

女性は崖から身を投げた。



俺を抱えたまま。
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