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第二章 獣人世界グレイル編
第5話 最初の依頼
しおりを挟むパーティー名の登録が終わり、史郎は一人で掲示板の前にいた。
ミミとポルナレフは、一緒に買い物に行っている。
さて、どれにするか。
最初はやはり、採集依頼だと思うのだが・・
ただ、ここは自分が知る土地ではないから、単なる採集が思わぬ危険を招きかねない。
なにせ、こちらには冒険者に成りたてホヤホヤの二人がいるのだ。
「悩んでるな」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると、ギルマスのアンデだった。
「ええ。 初心者がいるから、採集依頼がいいと思うのですが・・」
「そうだな。 だが、お前がいることを考えると、これでもいいと思うぞ」
毛深い指が向かう先は、討伐依頼のコーナーだった。
その一番下が、お勧めらしい。
貼ってある位置からして、最も難易度が低い討伐依頼の様だ。
討伐内容 沼スライムの駆除
必要討伐数 10匹以上
場所 ケーナイ北東の湖沼地域
報酬 魔石1つにつき50銅貨
期限 水の月まで
魔石というのは、モンスターが体内に持つ、石の様な物である。
「これだと、鉄ランクにしては、報酬も悪くないぞ」
ふむ、確かにそうだが・・
「水の月って、いつになります?」
「今からだと、二か月後だな」
期間は十分あると。
「どうして、条件が良いこの討伐が残ってるんですか」
依頼の紙は、少し陽に焼け黄色くなっていた。
「気が付いたか。 湖沼地域は、足元が悪く、衣装や装備が汚れやすい。
下手したら、そういったもののメンテナンスで、報酬が全部消えちまうからな。
だが、まあ、お前ならうまくやるだろう」
金ランクの信用は、絶大ですね。
まあ、いいですけど。
「では、この依頼をパーティーで受けます」
「ポンポコリンだったな? あはははは」
アンデは、笑いながら去っていった。
ひょっとすると、関係改善には、いい名前かもしれないな。
笑ってくれるから。
でも、絶対にいつか名前を変えてやる。
そう心に誓う史郎であった。
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ミミとポルナレフが帰ってくると、史郎は彼の部屋で依頼の説明をした。
二人とも、小学校に入学したての生徒が先生を見るような顔をして聞いている。
まあ、耳を貸さないよりはいいけどね。
こういったことをおろそかにすると、命に関わることもあるから。
「二人は、武器と防具、どんなものを持ってるの?」
テーブルの上に出てきたのは、残念としか言いようがないものだった。
ミミの防具は革製の鎧で、物は良さそうだが、古すぎてあちこちガタがきている。
サイズも明らかに大きい。
冒険者だったお母さんから、もらった物だそうだ。
ポルナレフの方は、さらにひどかった。
布に申し訳程度に皮を縫い付けた、鎧とも服ともいえないものだった。
どうやら、お金が無いから自分で作ったらしい。
武器は、二人とも持っていなかった。
俺はため息をつくと、パーティーとして最初の活動を宣言した。
「まず、武器と防具をそろえよう」
------------------------------------------------------------
史郎たち三人は、防具屋に行った。
防具屋は、ギルドから、それほど遠くないところにあった。
大通りをはさんで、先日の武器屋の真向かいになる。
革と金属の匂いが混ざった店内に入ると、二人は物珍しそうに棚を見て回っている。
若い犬人の店員に、ミミの革鎧の直しを頼んでみる。
銀貨3枚でやってくれるというので、そのままお願いする。
ポルナレフの革鎧、小型の盾、二人分の防水グローブと防水ブーツも買う。
メンテナンス用の油など、こまごまと買っていると、合わせて銀貨20枚にもなった。
元いた世界の感覚だと、およそ20万円ということになる。
どう見ても、今回の依頼が黒字になることは無いな。
だがまあ、命にかかわるところには、お金を惜しまない方針だからいいか。
こうして、彼らは防具屋を後にした。
-----------------------------------------------------------------
次は、武器屋である。
店のオヤジは今日も不愛想かな、と思ったけれど、意外なことに普通に話しかけてきた。
「ああ、あんたか。 今日は何にする?」
「この二人の武器を、頼みたいんですが」
餅は餅屋。 ここは、専門家の助言を仰いだ方がいいだろう。
「あんたらが、例のパーティーか」
オヤジは、くすっと笑った。
笑うと意外にかわいい。
しかし、このパーティー名すごいな。
このオヤジを、笑わすとは。
ポンポコリンの名は、すでにギルドの外まで広まっていた。
「あんたら、戦闘スタイルとかあるかい?」
オヤジが、二人に話しかけている。
「えと、特にありません」
「噛みつきとひっかきなら得意だよ」
まあ、ミミは猫人だからね。
「そういう意味の戦闘スタイルじゃないんだが・・」
オヤジは二人にいろいろな武器を持たせ、それを振らせて、その感触を聞いていた。
一時間近く掛かったろうか。
やっと、二人の武器が決まった。
ポルナレフは短剣、ミミはカギ爪である。
これで、しめて銀貨20枚である。
さすがに、ポルナレフは気になるらしい。
「稼げるようになったら、必ず返しますから」
そう言ってきた。
そんな必要は無いのだが、それが彼の冒険者としてのモチベーションを高めるなら、それもいいか。
そう思い、黙っておいた。
ミミは買ってもらって当然、という風だった。
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討伐に向けて、食べものを準備する。
これは、八百屋と乾物屋で、ミミが見繕った。
さすが、食堂の娘である。
店の人が知り合いということもあって、短時間で良いものを安く仕入れることができた。
買い物の帰りに、ポルナレフの家に立ち寄る。
それは、家というより、壊れかけの馬小屋と言った方がよいもので、見かねた俺がルームシェアを申し出る。
彼は、しきりに恐縮したが、どうしても首を縦に振らなかった。
史郎は、出発前の3日間自分の部屋に泊まることを約束させた。
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二日後、ポルナレフが史郎の部屋にやって来た。
ギルドから野営用のベッドを借り、部屋に置いた。
「こんな贅沢して、いいんでしょうか」
彼は、部屋に来てから事あるごとに、そう言っている。
まあ、あの家と較べたら、どんな所でも豪華だろうね。
ポルナレフは目を輝かせて、イキイキしている。
足りないからこそ、足りた時の有難味が分かるんだなあ。
史郎は、しみじみそう思うのだった。
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出発前日の夕方は、ワンニャン亭で食事をした。
いつもは給仕役のミミも、今日はテーブルに着いている。
「では、旅の安全を願って」
俺の合図で乾杯する。
ミミのお母さんが料理を運んできたから、気がかりなことを尋ねてみる。
「ミミさんが冒険者になるのは、ご心配ではありませんか?」
「ええ、それは少しは心配ですが、あの子も、もう成人していますし。
まあ、言って聞くような子でもないですから」
さすが、お母さん。 娘のことを、よく分かっていらっしゃる。
「私自身、冒険者をしていたこともありますから。
あの子のためにも、一度外の世界を見せるのもいいかと思ってますよ」
「はあ、そうですか」
「ご迷惑をおかけすることも多いでしょう。
くれぐれも、この子の事、よろしくお願いします」
それは、既に散々迷惑を被っていますがね。
「わかりました。 できる限りのことはします。
今回は、それほど危険な仕事でもありませんから」
ミミの事だから、両親からの許可なく行動を起こしたかもしれない、と心配していた。
しかし、そこはきちんとしていたようだ。
これで、後顧の憂いなく出発できるな。
こうして、パーティ・ポンポコリンは、出発の日を待つのであった。
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