63 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第6話 湖沼地域にて
しおりを挟むケーナイの町を出発して3日、史郎達は、やっと目的の湖沼地域に到達した。
乾いた草原の道を通って来たが、周囲に池や沼が見られるようになってきた。
空気も、なんだか湿っぽい。
ここに来るまで、ミミとポルは、時間があれば二人で戦闘訓練をしていた。
ああ、ポルナレフは、とっさの時に呼びにくいから、ポルって呼ぶことにした。
ミミは、相変わらず「ポン太」って呼んでるけどね。
道の真ん中に、サッカーボールくらいの、つるつるした石が落ちている。
近づくと、ぽよぽよ動いている。
どうやら、これがスライムらしい。
「よし。 じゃ、あれは、二人で倒してみようか」
既に、二人には点を付けてある。
何かあれば、点ちゃんシールドで安全を確保しよう。
ポルが短剣、ミミがカギ爪を構えて飛び出した。
ポルが振り回した剣を、スライムは意外なほど機敏に、ぽよんとかわした。
それを狙っていたミミが、カギ爪で攻撃する。
キュ・・
小さな音を立てて、スライムが動かなくなる。
近寄ると、ゼリー状の体に四本の深い溝がある。
その溝の中ほどに、道具屋で見た、水の魔石があった。
しかし、カギ爪が当たったのか、その魔石は3つに割れていた。
二人も近づいてきて、それを覗き込んでいる。
「どうやら、スライムの魔石は、体のこの辺にあるらしいね。
攻撃は、この部分を避けておこなおう」
「はい、わかりました」 「オッケー」
それからは、道を進みながら、見つかるスライムを二人がどんどん倒していった。
道を進めば進むほど、スライムが多く現れるようになってきた。
俺はこの状況に、少し違和感を覚えていた。
いくら、最も簡単な討伐と言っても、これでは簡単すぎる。
普段より、スライムの密度が高いのではないか?
その時、ブゥオーッという掃除機のような音が聞こえてきた。
『ご主人様ー、何か来るよ』
「気を付けろ!」
二人に注意を促す。
右前方の草むらを押しつぶすように、大きなモンスターが現れた。
---------------------------------------------------------------------
それは、1m50cmほどの高さがある、スライムだった。
色は、黄色だろうか。
体表のぬめりがテカっているので、金色に見える。
な、何だ、こいつは?
ポルが、向かって行こうとする。
ミミがそのしっぽを捕まえ、後ろに引っ張った。
「痛っ!」
小柄なポルは、ころんと後ろに、ひっくり返った。
「あんた、馬鹿なの! 見たことがない敵に、いきなり攻撃仕掛けるって」
珍しく、ミミが正論を放つ。
「よし。 ちょっと離れて、石をぶつけてみよう」
俺がそう言うと、二人はこちらに走って来る。
さっそく、手ごろな石を投げてみる。
ポヨヨン
大きなスライムが震えると、石は弾かれてしまった。
今まで分からなかったが、体の横から二本の細い触手のようなものが出ている。
攻撃してきた相手の攻撃をしのぐと、その手で捕まえるのだろう。
折しも、一匹のスライムが、そいつの前を横切ろうとした。
ヒュルン
触手が巻き付いた。
でかいスライムの下の方に、穴が開く。
ブゥオーッ
巻きついた、小スライムを一気に吸い込んだ。
穴は、すぐ閉じて元に戻った。
ポルが、青い顔をしている。
それはそうだろう。
彼も一歩間違えば、ああなっていたのだから。
でっかいスライムは、意外な速度で、こちらに向かってきた。
体のどこかの器官で、エサの居場所を認識しているらしい。
問題は、この場合、俺達がエサであることだ。
ミミが、腰の袋を開く。
これは、彼女がずっと大事そうに運んできたものだ。
尋ねても、それが何か教えてくれなかった。
中から出てきたのは、使い込まれた弓だった。
体と地面を使って、一瞬で弦を張ると、矢をつがえて放った。
矢は、大きな体の中心辺りに突き刺さった。
ブフォ
スライムが、ゲップのような音を出して停止する。
矢は、だんだん体に取り込まれているようだ。
二本目、三本目と、ほぼ同じ位置に矢が命中する。
スライムの色が、黄色から緑、緑から青へと変わりだした。
濃い青になり、スライムが動きを完全に止めた時には10本近くの矢が刺さっていた。
「ミミ、すごい! どうしたの、その弓?」
ポルが、称賛する。
ミミはドヤ顔になったが、説明する気はないようだ。
俺は、動かなくなった、でかスライムを調べにかかった。
ナイフで、ゼリー状の体を割いて、中を見てみる。
スライムの大事な器官は、矢が当たった辺りに集中しているらしく、そこを破壊されたから、死んでしまったのだろう。
恐らく、他の部分にどんなにダメージを与えても、奴は平気だったはずである。
「ミミ、このスライムのこと知ってたの?」
「うん。 母さんから、もしかしたら出るかもしれないからって注意された」
「これは、何だい?」
「ゴールデン・ヒュージ・スライムっていうの。
滅多にいないけど、Bランクの魔物らしいよ」
もし、他の鉄ランク冒険者がこの依頼を受けていたらと思うと、ぞっとする。
「こいつにも、魔石があるの?」
「大きいのが、あるそうよ」
俺は、ポルに手伝ってもらって、スライムの体を調べた。
すると、矢が刺さっているところから少し下に、拳大の魔石を見つけた。
魔石も、やや黄色っぽい色をしている。
「あーあ、これ用の入れ物、持って来るんだった」
ミミが、ぼやいる。
「え? どうして?」
「このスライムは、食材としてとても価値があるのよ。
でも、ご覧のとおり傷つきやすいから、専用の容器に入れなくちゃいけないの」
少し考えて、俺は能力の一端を見せることにした。
ただし、それは偽のマジックバッグとしてだが。
「ああ、俺がマジックバッグ持ってるから、それに入れて帰るよ」
「え!? マジックバッグ? さすがに金ランクね。
でも、これが全部入るの?」
「大丈夫」
俺は点ちゃんを展開して、スライムを中に入れ、さらに点に戻しておいた。
外からは、スライムが突然消えたように見えたろう。
俺は、わざとらしく、腰に付けたポーチをポンポンと叩いた。
「回収完了」
「って、どんだけ容量があるマジックバッグ持ってるの。
ありえないくらい高価でしょ、それ」
「まあね」
実は、容量制限はありません。
騙してごめんよ。
ミミは、スライムから回収した矢を丁寧に布で拭くと、矢筒の中にしまった。
そのとき、いろんな方角から、掃除機を吸うような音が聞こえ出した。
「やばい。 でっかいスライムが、大量発生してるらしい」
俺たちは、来た道を一目散に逃げ出した。
小さな沼スライムは、このでっかいスライムに追われて、逃げていたのだろう。
耳障りな音が、背後に遠ざかるのを聞きながら、かなり危ないところだったと気づいた。
こうして、最弱の魔物狩りは、Bランクという思いがけない大物と、ミミの意外な能力を引き出して終わった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる