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第二章 獣人世界グレイル編
第7話 高級食材
しおりを挟むケーナイの町に帰るとすぐ、史郎はギルドで湖沼地帯の状況を報告した。
それを聞いた受付のお姉さんは、すぐにギルマスにそれを報告すると、壁に貼ってあった湖沼地帯方面の依頼を全部回収した。
正しい判断である。
とりあえず、調査隊を送り込むことになるだろう。
俺は思ったより多くなった、討伐依頼対象である水の魔石をカウンターに出した。
「水の魔石54個で、銀貨27枚となります。 さすがですね」
受付のお姉さんが、褒めてくれる。
「あと、この魔石もあるんですが」
俺が拳大の魔石をドンとカウンターに置くと、後ろに並んでた冒険者から一斉にうなり声が聞こえた。
「すげえ!」
「でっけえな。 何から取れたのかな」
「黄色い魔石なんて、初めて見たぜ」
お姉さんも、目を丸くしていた。
「へえ、珍しいですね。 私も、見たの2回目ですよ。
これは、お湯の魔石です」
「お湯?」
「水ではなく、お湯が出るんです」
へーって、もしかしてそれって・・・お風呂!
お風呂に入れるかもしれない。
「売ると、最低でも金貨3枚になりますが、どうしますか?」
300万か・・
しかし、お風呂の誘惑には勝てないね。
「では、今は売らないでおきます」
「分かりました。 他に素材なんかは、ありませんか?」
俺が、何か言う前に、ミミが袖を引っ張った。
口に指を立てて、首を左右に振っている。
「あー、もうこれだけです。 ありがとう」
俺たちは、とりあえずギルド二階の俺の部屋に集まった。
テーブルの周りに座る。
俺は銀貨27枚を出して、それを9枚ずつに分けた。
ミミとポルの前に、それを押し出す。
「え? こ、こんなに・・もらってもいいんですか」
「いい訳ないじゃない。 装備は何から何まで、シローが用意したんだから」
えっ? ミミさん、ここに来て常識発言ですか・・
まあ、いいけど。
「今回は、パーティーリーダーの判断で3等分した。
遠慮なく受け取ってくれ」
二人は少し躊躇したが、銀貨を受け取ってくれた。
懐が温かくなったせいか、二人ともニコニコしている。
ポルのふさふさしっぽと、ミミのにょろにょろ尻尾が、ブンブン振られている。
「そうそう、ミミ。 なんで、素材の事を秘密にしたの?」
俺は、気になっていたことを尋ねた。
「あの食材は、ギルドなんかで売ると、買い叩かれるの。
なんせ、特別な処理しないと食べられないからね」
「ということは、それを知ってる人がいるんだね?」
「うん! 父さんが知ってるよ」
ミミが胸を張る。
なんか、最初の突貫少女のイメージが、少しずつ変わってきている気がする。
「分かった。 じゃ、お店に行こうか」
「うん。 すぐ行こう!」
ミミが俺の手を引っ張る。 まあ、こういうところは変わらないね。
史郎とポルは、ミミに引きずられるように、ワンニャン亭に向かうのだった。
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「ただいまー!」
ミミが、元気よくお店に入っていく。
「討伐依頼、うまくいったようね」
ミミママが、エプロン姿で微笑んでいる。
「ママとパパを驚かせる、お土産があるよ」
「まあ、なにかしら」
「キッチンに入ってもいい?」
「ああ、何か食材を取ってきてくれたのね。 何かしら。
いいわよ、どうぞ入って。
あなたー、ミミが帰ってきたわよー」
ミミパパが、奥から出てくる前に、ミミが俺の手を引っ張って、キッチンまで入ってしまった。
そこには恰幅のいい犬人族の男が、いわゆるシェフスタイルで立っていた。
「おう、ミミ。 お帰り」
ミミが駆け寄ると、ぐっと抱えあげた。
頬を擦り付ける。
「あーっ! じょりじょりするから、それは止めてって言ってるでしょ」
さすがは、ミミパパ。 強引である。
「それより、今日は、いいお土産があるの」
ミミが俺の方を見て、金属製のテーブルの上をポンポンと叩く。
ここに、出せってことだな。
俺は腰のポーチに触れる格好をすると、でかスライムが入った点を解放した。
ズンッ
机の上一杯にスライムが現れるが、金属製の机はびくともしない。
「まあっ!」 「おおっ!」
ママとパパの歓声が上がる。
「おう。 こりゃ、立派なゴールデン・スライムだな」
「でしょ。 私が、ママの弓で仕留めたのよ」
「ミミ、やったわね」
頭を撫でられて、ミミは目を細めて、ゴロゴロ喉を鳴らしている。
ちょっと、モフラー心を刺激する光景である。
「こりゃ、腕がなるぜ。 おい、ママ、今日は閉店にしといてくれ」
「はい、あなた」
おい。 それでいいのか、この店は。
そう思ったが、二人は既に、自分の仕事に向かってしまっている。
まあ、ここは任せてしまうか。
ミミが、俺とポルをお客用のテーブルに座らせる。
「ちょっと待っててね」
そう言うと、再びキッチンに入っていった。
きっと、ミミパパの手伝いをするのだろう。
-------------------------------------------------------------
しばらくすると、前菜が出て来た。
マティーニ用のグラスに、薄く切られ、縮れた何かが入っている。
フォークですくって、口に入れてみる。
くにゅくにゅした食感に、酸味のあるソースが合わさり食欲が増す。
絶妙の前菜である。
次に、スープが出る。
オニオンスープのような透明なスープに、1cmくらいのクルトンっぽいものが浮いている。
スープは、見た目とは異なり、濃厚な味がする。
クルトンは香ばしく揚げられており、外はカリカリ、中はチーズのようにしっとりしている。
紛れもない、美味である。
そして、いよいよ大きな平皿に乗った、ステーキの登場である。
1cmくらいの厚さのお肉である。
ナイフで切って、口に運ぶ。
驚きが、口の中に広がる。
ステーキだと思っていたものは、どちらかというとマツタケのような食感であった。
そして、その味。
深く豊かな味わいが、舌を震わせる。
少し、チーズに似ているかもしれない。
お皿の上は、あっという間に空になった。
ポルも、空になったお皿を見つめて、残念そうにしている。
もっと、食べたかったんだね。 育ち盛りだもん。
最後に出てきたのは、デザート。 プルプルのゼリーだった。
今まで出てきた食事が全部、前菜に過ぎなくなる。
そんなインパクトがあった。
熟した果物のような風味と香り、そして、なによりそのツルン、プルンとした食感。
舌の上でふるふるしていたかと思うと、優しい後味を残して淡雪のように溶けて消える。
紛れもなく、人生最高の一品であった。
------------------------------------------------------------
出されたお茶を飲み、食後の余韻に浸っていると、ミミパパが出てきた。
「料理は、どうだった?」
「もう、信じられないくらい美味しかったです」
これはポル。
「今まで食べたものの中で、一番うまかったですよ」
俺も賛同する。
「お前たちが今食べたのは、ゴールデン・スライムの料理だぜ」
え! あれが?
「全部ですか?」
「ああ、全部だ」
「前菜や、スープに入ってたクルトンっぽい奴も?」
「ああ、全部だ。 ステーキも、デザートもな」
「でも、全然食感が違いましたよ」
「ゴールデン・スライムはな、下処理と、調理法によって、まったく違った食感が出るんだ。
なによりすごいのは、風味まで変化することでな。
入手の困難さも手伝って、幻の食材って言われてるのさ」
「へえー、それほど凄いものだったんですね。
しかし、どうやって、それほどの調理法を身に着けたんです?」
「昔、湖沼地帯に住んでる賢者と知り合ってな。
その方から、レシピを教えてもらったんだ」
「はー、しかし、これだけ美味しいと、さぞ高価なんでしょうね」
「ああ、王族の婚礼などに使われるのが普通だからな。
目ん玉が飛び出るような値段になるぞ」
「ふわー、そんな値段なんですか」
「そうだぜ、ポン太。 お前たちが食ったので、まあ、金貨1枚はするな」
「えええっ!!」
美味しいわけである。
100万円の食事とはね。
しかし、賢者、半端ないな。
どうやったら、あれだけの調理法に、たどり着くんだ。
スライムマニアか?
「まあ、お前たちからもらったもんだ。
ただみたいなものだから、明日から町の皆に振舞うさ」
え? いつの間にか上げちゃったことになってる。
まあ、ミミが仕留めたんだから、いいけどね。
俺たち3人は討伐成功の乾杯をして、それぞれの寝床に帰った。
ワンニャン亭は次の日から物凄い人が押しかけた。
しばらく史郎たちは、食事に行くことが出来なかった。
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