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第二章 獣人世界グレイル編
第18話 聖女捜索
しおりを挟む史郎は、城内に用意されている部屋に戻った。
俺は、さっそくポルに尋ねてみる。
「ポル。 みんなは、どうして『聖女』という言葉に、あんな反応をしたんだ?」
「ああ、獣人にとって、聖女は特別な存在なんですよ」
かつて、この大陸の中央に森があり、そこに神獣が棲んでいたこと。
その神獣を中心に、各部族がまとまっていたこと。
森が消え神獣が去るとき、聖女に仕え、そして守るようにと、言い残したこと。
そういうことを、ポルは教えてくれた。
狐人族が、獣人の中で高い地位を占めるのも、かつて神獣の世話を直接していたからだそうだ。
もし、聖女が現れると、まとまるはずがない獣人が一つになる可能性があるのか。
俺は、聖女の問題が思った以上にデリケートであると気付いた。
下手をしたら、政治的な混乱に巻き込まれかねない。
舞子を探すのは、時間との勝負になるだろう。
点ちゃんが、いてくれたなら。
史郎は、今更のように思うのであった。
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「聖女探索に協力したいと?」
「ああ。 聖女も人族だろう。
捜索隊に、俺も入れてほしい」
俺とアンデは、城の外のひらけた場所で聖女の話をしていた。
情報が漏れないように、用心したわけだ。
「だがな・・猿人の背後に人族の影がある、という噂は知っているよな」
「ああ、会議でも、その話題が出たからな」
「その噂が無ければ、真っ先に、金ランクのお前に声をかけるんだが・・」
「聖女のことに関しては、ミス一つ許されないということか」
「まあ、そんなところだ。
それより、お前、どうして聖女にこだわるんだ」
俺は、前いた世界で起こったことを、大まかに話すことにした。
それを聞いたアンデは、なぜ俺が聖女にこだわるか、納得してくれたようだ。
「つまり、その聖女が、お前の友人である可能性があるんだな」
「ああ、そういうことだ」
「ふむ。 女王陛下からの手紙にも、その件について書いてあったな」
畑山女史、グッジョブ。
「よし、事が聖女に関することだから、今回は俺が捜索隊を率いよう。
それなら俺の責任で、お前を捜索に加わらせることができるからな」
「すまない。 いや、ありがとう」
「まあ、お前には今回の事を含め、働いてもらってるからな。
協力は惜しまんぞ」
「感謝する」
俺はそう言うと、アンデの大きな手をぐっと握った。
「ということなら、急いだほうがいいな。
明日朝には、こちらを発とう」
「悪いな」
「いや。 聖女は、俺たちにとっても特別なんだ。
お前のことが無くても一緒さ」
アンデは微笑むと、去っていった。
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翌日は、早朝の出立となった。
ミミは、お土産を買う時間がないだの、観光ができないだの、不平を言っていた。
まあ、俺は彼女が昨日会議の後で、ちゃっかり買い物に励んだのを知っていた。
ポルは俺の顔を見て、「元気になりましたね」と、嬉しそうだった。
まあね。 あれだけ落ち込めば、さぞかし二人も心配したことだろう。
「心配かけて、済まなかったな」
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帰り道は雨も降らず、予定より一日早くケーナイの町へ帰りついた。
俺は二人を休ませ、すぐにアンデと捜索隊の人選に取り掛かった。
今回、ミミとポルは、大陸南部への斥候を補助する役割が与えられている。
物資の調達や補給をする仕事である。
まあ、後方支援するだけだから、特に危険もないはずだ。
報酬も非常にいいから、二人とも喜んでいる。
帰って来て3日後には、捜索隊が組まれた。
30人の大部隊である。
聖女捜索に対する、犬人族の意気込みが分かる。
捜索隊が出来た日のうちにミーティングを行い、二日後には出発となった。
目的地は、湖沼地帯の北に広がる山岳地帯である。
山岳地帯には、犬人族、猫人族の隠里がある。
まず、そこを捜索することになっている。
問題は、雨季を迎えた湖沼地帯が、巨大な湖の様になっていることである。
かつて、スライム討伐に向かった道を今回も進む。
以前、周囲に沼地や池が見えてきた場所まで来ると、そこには、すでに広大な水面が広がっていた。
比較的近くを生活圏にしている犬人族は、さすがに、これに対処する術を持っていた。
皮を張り合わせた、地球で言うカヌーのようなものを組み立て、それに乗り込む。
オールを使って進むのも、カヌーと同じである。
日本で、小型のカヤックを使っていた俺は、すぐこの舟になじんだ。
時々、水面に波紋が生じるのは、水中に生息している生き物だろう。
大きな波紋が見えると、爆竹のようなものに火をつけ、水面で爆発させながら進んでいく。
水の中に棲む魔獣が、音に敏感なことを利用した魔除けらしい。
二時間ほどすると、山並みが前方に広がった。
それほど高い山々ではないが、水面に映る山の姿が青い空に映え、とても美しかった。
任務がなければ、ずっと見ていたい景色だ。
しばらく漕ぐと、半分水没した木々が現れるようになった。
無事、対岸に着く。
カヌー型の船を畳み、山歩きに備える。
いつ聖女が見つかるかわからないから、20日程度の捜索を予定している。
そのため、各自が背負う荷物は、かなりの重さになった。
平均20kgは、あるだろう。
ここからは、十人ずつ、3班に分かれて山道を進む。
東西に広がる山岳地帯を、東部、中央部、西部と分けて、それぞれの地域を一班ずつが担当する。
俺は、アンデと同じ班に組み込まれ、中央部を捜索することになった。
しかし、もし、ここで舞子が見つかれば、スライム討伐のとき、かなり彼女の近くまで来ていたことになる。
それ以前に、舞子に付けた点が活きていたら、簡単に見つかっただろう。
史郎は、消えた点ちゃんのことを思い、寂しくなった。
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史郎と同じ班には、あのキャンピーがいた。
大の字、いや、太の字が似合う、あの犬人の若者である。
俺が金ランクと知ったからか、それとも苦も無く二度もやっつけられたからか、オドオドと俺の方を見てくる。
他の隊員と同じように接すると、少し安心したようだった。
3日目までは、何の成果もなく過ぎた。
4日目の午後、小さな猫人族の集落を見つける。
小屋というより、あばら家を寄せ集めたような集落は、生き抜くのにぎりぎりの生活を思わせた。
長は、中年の女性で、片目に革の眼帯をしていた。
「聖女? ここにはいないが、西の方にある犬人族の村で、高貴な方が匿われてるって話はあるぞ」
「本当か?」
「まあ、確かなことではないがな。
その話を聞いてきた者を呼んでやろう」
「助かる。 ありがとう」
アンデと彼女は、顔見知りの様だった。
やってきた猫人族の青年に訊くと、森の中で西に住む犬人に出会ったとき、話題に出たらしい。
聖女には、体の半分が黒い従者がいると聞いたそうだ。
これは、舞子に間違いない。
従者とされているのは、コウモリ男だろう。
しかし、なぜ彼が従者として見られているか。
それは、情報が少なすぎて判断がつかない。
彼が、舞子を無理やり従わせている場合もある。
俺は、むしろ、その可能性が高いだろうと考えていた。
それなら、なおさら急いで舞子を見つける必要がある。
既に暗くなっていたので、この日は、猫人族の集落の隅に場所を借り、テントを張って寝た。
次の日。 見張り役が、西方の空に赤い煙が細く立ち昇るのを見つけた。
これは、各班に渡されている連絡用の道具で、聖女を見つけた班が使うようになっていたものだ。
急いでテントを畳むと、猫人の長に挨拶をして村を後にする。
皆の足取りが軽い。
やはり、いるかいないか分からない目標を探すのは、負担になっていたのだろう。
西に向かう途中で、キャンピーの姿が消えた。
恐らく、はぐれたのだろうということで、聖女を確認してから捜索することになった。
まったく、いつでも手間を掛けさせる男である。
5時間ほど歩くと、集落が見えてきた。
集落の中央辺りから、赤い煙が立ち昇っている。
猫人族の集落に比べ、かなり大きい。
集落に近づくと、西部探索を割り当てられたギルドメンバーが走ってきた。
「聖女様を見つけました!」
アンデに、報告している。
表情が明るい。
それは、任務成功のせいだけではないようだ。
史郎は、改めて獣人族における聖女の立場に気付くのだった。
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