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第二章 獣人世界グレイル編
第27話 狩るもの、狩られるもの
しおりを挟む時の島南部にある、猿人族の町。
コンクリート造りだろうか。
北部では見られぬ、直線を多用した建物が立ち並んでおり、もし、史郎がそれを見たなら、日本の都市に近いと思っただろう。
その町の一室で、一人の人族の女性が、頭を抱えている姿が見られた。
ソネルは当惑していた。
この地のフィールドワークは、今まで順調すぎるほど順調だった。
彼女は、他の二人と違い、研究職には興味が無かった。
彼女の夢は、学園の上級教師として生徒を教えることだった。
下級教師の薄給は、彼女のプライドが許さなかった。
このフィールドワークは、彼女に上級教師としての道を約束するはずだった。
しかし、三日前、モーゼス教授からの定時連絡が途絶えた。
その後、連絡が無い。
事あるごとにデートの誘いをしてきた、いけ好かないミゼットも、いなくなってしまうと、少し心配である。
不気味なのは、彼らと一緒に行動していた虎人の行方も、分からなくなっていることだ。
調査班、丸ごと消えたような形である。
魔獣に襲われるなどのトラブルも考えられたが、全員からの連絡が無いのは、尋常ではない。
今、現地には虎人の調査班が入り、捜索を始めている。
「先生、こちらにいらっしゃいましたか」
若い猿人が、食事を載せたお盆を持って入ってくる。
「ああ、ゼロス。 まだ、報告は無いの?」
男は、お盆をテーブルの上に置くと、ソネルの方を向いた。
「まだ、ありません。
それより、我々が調査に入らなくてもよいのですか」
「う~ん、それがね。
本国に打診してみたけど、無理みたいなのよ」
「なぜでしょう」
「ん~、なぜだろうね。
場所が、他の獣人のテリトリーに入り込みすぎてるからかな」
「それが、どうして?」
「貴方も、そこの広場に犬人が現れたら驚くでしょ?」
「ああ、そういうことですか」
「だから、虎人を使ってみたんだけど、どうもダメだったみたいね」
「それは、猿人族と較べると、虎人族は劣りますからね」
「どうすればいいか、途方に暮れてるところなの」
その時、バタバタと足音がしたと思ったら、猿人の若者が飛び込んできた。
「大変です!」
「ゼラス! 失礼だぞ。 きちんと挨拶をしろ」
「兄者、そんなこと言ってる場合じゃない!
北東にある村が襲われた」
「なに!」
「どういうことか、説明してくれる?」
「はっ。 その村に出入りしている商人が今朝行ってみると、住人はもぬけの殻だったそうです」
「目撃者はいないの?」
「隣村の男が、空を飛んでいる人々を見たと言ってますが、まあ、酔っ払いの言うことなんで、誰も信じてはいません」
「他に、目撃者はいないの?」
「何分、夜半から早朝にかけてのことで、誰も付近にいませんでした」
「何という村です?」
「ソツ村です」
それを聞くと、すぐにゼロスと呼ばれた猿人が立ち上がった。
「何! ジ、ジーナは!?」
ゼラスは、黙り込んだまま答えない。
「な、何てことだ・・ジーナ・・」
ゼロスは、力無く床に座り込んでしまった。
「後、これは、いたずらかもしれませんが、このような手紙が置いてありました」
ゼラスは、白い大型の封筒をソネルに渡した。
獣人族の文字が読める彼女は、声に出してそれを読んだ。
「猿人族の諸君。
自分の知人、愛する人が消えた気持ちはいかがだろうか。
君たちがこれまでやってきたことを、身をもって体験してもらおう。
これは、君達がさらった獣人たちが、全て戻ってくるまで続く。
まさか、他の部族に行ったことを自分たちがされて、悲しんだり、後悔したりはしていないだろうね。
では、またどこかで」
「こ、これは一体!」
「族長には、もう知らせたの?」
「はい。 族長から、貴方に知らせるように言われました」
さらって来た獣人の多くは、既に学園都市世界へ送ってある。
今更、取り返すことなど出来るはずもない。
手紙の主が言葉通り実行できるなら、全ての猿人がいなくなるまで、これが続くことになる。
「これをどの部族が行っているか、見当は付いているの?」
「いえ。 しかし、北部は聖女によって一つにまとまりつつあるという情報があります」
「何ですって!?」
聖女が後ろにいるなら、教授たちの失踪にも理由が付く。
ぐずぐずしている場合ではない。
「すぐに、族長に会わせて」
ソネルは、これをどう本国へ連絡するか、見当もつかなかった。
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