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空知音

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第二章 獣人世界グレイル編

第28話 獣人の誇り

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湖沼地帯の南に広がる草原には、一夜城ならぬ、一夜町が作られていた。
史郎は、捕えてきた猿人を、「土の町」と呼んでいるこの場所に住まわせていた。


ここは犬人族領と猫人族領の間にあるので、この二つの部族によって、食べ物などの補給がなされていた。

こうしている間にも、点ちゃんによって、次々と土の家が建てられていく。

決まった形の家を建てるだけなら、点一つにつき、一つの家を建てられることが分かってからは、建築スピードが急に上がった。

すでに、100以上の家が建てられ、今もどんどん数が増えていた。

山岳地帯で、すでに土の家を見ていたアンデでさえ、呆れて口をポカーンと開けていた。

「まあ、点ちゃんも張り切ってるから、いいんじゃないかな」

当の史郎は、のんびりしたものである。

「アンデ。 じゃ、今日も行ってくるから、後任せたよ」

「あ、ああ。 もう、好きにしてくれ」

俺は点ちゃんで作った飛行機、点ちゃん1号に乗り込んで上空に上がる。

「お兄ちゃん、今日は空中デートだね」

「何言ってるの!  史郎君、もっとこっちに来て」

なぜか、コルナと舞子まで着いて来ている。

聖女が同行すると言った時には、さすがに各方面から猛反対があった。

しかし、鶴の一声ならぬ、聖女の一声であっさりそれを退け、彼女は任務に参加することになった。

「ふぁ~」

眠そうなのは、ミミである。
今回の任務は、一応パーティー・ポンポコリンの指名依頼ということになっている。

俺の指示で、舞子が指名依頼を出した。

聖女依頼の任務だから、これには全部族がすすんで協力している。

「銅ランク初の任務です。 緊張します」

これは、ポルである。

コネカ村での生き残りの発見や狐人族領への旅を経て、ミミとポルは共に銅ランクとなっていた。


史郎は、昨日「土の町」であったことを思い出していた。

-----------------------------------------------------------------

猿人の捕獲は、最初史郎一人で行った。


点ちゃん1号で飛んでいき、空中から点をばら撒くだけなので人手はいらない。

それは、最初に猿人を土の町へ降ろした時に起きた。

自分の家族や親戚、友人や恋人を猿人に奪われた獣人達が、武器を持って集まって来たのだ。
もちろん、復讐のためである。

ブルブル震える猿人達が血走った目の獣人たちに取り囲まれ、数秒後には血が舞うだろうと思われた時だった。

囲みを破り、ポルを連れた俺が猿人達の前に立った。

「お前たち、この子が何族か分かるか?」

「・・・」

俺は一番体格がいい男を猿人の集団から点魔法で吊り上げ、目の前に下ろした。

「もう一度聞く。 この子が何族か、分かるか?」

「た、狸人族です」

猿人の男が、俯いたまま答える。

「狸人族は、もうほとんどいないらしいな。 なぜだ?」

俺は、静かな声で尋ねた。

さっきまで騒いでいた獣人たちも、水を打ったようにシーンとなっている。

「・・・」

「答えろ」

俺は低くした声で、再度問う。

「さ、猿人族が、ほ、滅ぼしました」

言葉の最後で、猿人の男は膝から崩れ落ちた。

俺が点魔法でやったのではない。

「なら、お前たちが同じ目に遭っても文句はないな」

「・・・」

「答えろ!」

俺は、裂帛(れっぱく)の気合で言葉をぶつける。

男は下半身から湯気を立てながら、やっと応えた。

「ゆ、許して。 許してくだ「馬鹿なことを言うな! そんなことが通用するかっ!」

俺が謝罪の言葉を途中でぶった切ると、周囲の獣人からも同意する声が上がった。

「許すもんか!」

「あの子を返して!!」

「私のお母さんはどこ!!」

俺は奴の胸倉をつかみ、こう言った。

「ふざけるな!  許してもらえるとでも思ってたのか!」

そして、俺は周囲に集まっている獣人たちを見回した。

「こいつらの命をどうするか、この狸人族の少年に決めてもらおうと思うが、どうだろう。
反対する者は?」

「それでいいぞ!」

「少年に任せる」

「いいわ。 あなたに任せる!」

皆、狸人族の悲劇をよく知る者たちである。
自分たち以上の体験を潜り抜けた、この小さな少年に全てを託すのに、否は無かった。

全員が、黙って狸人の少年、ポルナレフの言葉を待った。

彼は俯いて、しばらくじっと考えているようだった。

そして、とうとう口を開いた。

「僕は・・僕は・・この人たちが許せません」

群衆から同意の声が上がる。

「しかし、殺そうとも思っていません」

「なんでだ!!」

「どうしてよっ!」

「殺すと言ってくれっ!」

ポルは、静かに続けた。

「僕もそうしたいと、何度思ったか知れません。
しかし、この人たちが人族に命令されて行動していたのも事実です。
もし、今、この人たちを殺したなら、僕も彼らの後ろにいた人族と同じになります」

ポルは、そこで言葉を切った。

「僕は、父さん母さんの血を受け継いだ、誇りある狸人族です。 
そのようなことをした人族と同じになることは、断じてできない!」

少年の言葉は、キリのように突き刺さった。
猿人たちの心にも。
他の獣人たちの心にも。

「それでいいのか、ポル」

「これでいいんです」

ポルはそう言うと、ニコッと笑った。

俺は彼の頭を撫でると、周囲を見回した。

さっきまで、血を求めて我を失っていた獣人たちの目に、落ち着きが戻っている。

「そうだ! 俺たちは、誇りある獣人だ!」

「あなたの言う通りよ」

「獣人の誇りを汚(けが)すわけにはいかんな」

「そうね。 あの子に恥ずかしくないように、獣人として立派に生きなければ」

武器を持った獣人たちは、まるで憑きものが落ちたかのように、静かにその場を去っていった。

まだ震えている猿人たちの中から、一人の老人が進み出た。

「誇り高き狸人族の少年よ。 
貴方の名前を、教えていただけないだろうか」

ポルは俺の方を見た。

俺が頷くと、彼は堂々と自己紹介した。

「私の名前は、ポルナレフ。 
神獣様の御言葉を守る、狸人族です」

猿人の老人は、こう言った。

「私は、まだ自分の名前を名乗れません。 
自分たちの恥辱にまみれた行いで、我が一族の誇りは地に落ちてしまった。
だが、それを取り戻せる日まで、貴方にお仕えしたい」

老人は言葉を続けた。

「本当なら、聖女様にお仕えすべきなのでしょうが、我らにその資格はありますまい。
どうか、貴方に我々を導いて頂きたい」

老人が平伏すると、他の猿人もそろって平伏した。

俺は、大人たちの行為がまだ理解できず、うろうろしている猿人の子供たちを呼んで、お菓子を振舞った。

身軽な子供たちは、俺の体をジャングルジムのように使い、遊んでいた。


ポルを彼らの前に連れて来たとき、こうなることが分かっていたかというと、そうではない。

ただ、獣人たちの問題は獣人たちが解決すべきだと思っていた。

そして、ポルならば彼らに何か与えられるだろうという予感はしていた。



こうして、ポルナレフは猿人達を率いることになった。
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