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第二章 獣人世界グレイル編

第40話 新しい家族

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コルナは、じきに史郎の家に馴染んだ。


ナルとメルはコルナが大好きで、庭を一緒に駆けまわったり、モフモフをさせてもらったりしている。
「こーねー」「こーねー」(コルナお姉ちゃん)と言いながらまとわりつく。

子供部屋を覗くと、二人がコルナに抱き着くようにして昼寝していることもある。

そんな時、いつもは子供達と寝ているじーじ(リーヴァス)が少し寂しそうである。

ミミとポルはギルドに宿泊しているので、小さな依頼を次々とこなしているようだ。
ときには、ハピィフェローの討伐に付いて行ったりしている。
迷惑を掛けて無いといいけどね。

聖女が家に遊びに来て、キツネやゴリさんが失神するという、お決まりの光景も見られた。


帰って来て、二週間が経とうとしていた。

夕食を終え、コルナを含めた全員がそろっている席で、俺は学園都市世界へ行くことを告げた。

最初から分かっていたことだったので、ルルは落ち着いて話を聞いてくれた。

納得できなかったのは、ナルとメルである。

一度俺が長いこと家を空けたからだろう。

二人は、泣いて嫌がった。

俺は二人が泣き止むまで抱いてやり、友達を助けるために行くのだと説明した。

なかなか納得しない二人に、ルルが近寄ってきた。

「パーパは、いつもおうちに帰ってくるでしょ。
マンマと一緒に待とうね」

そう言うと、娘たちを抱き寄せた。

ナルとメルは、やっと泣き止んでくれた。

「リーヴァスさん。 また三人、いや四人をお任せすることになりますが・・」

俺は、リーヴァスさんにも旅に出ることを伝えた。

「ルルも納得していることです。 
後はお任せを」

リーヴァスさんは、変わらず頼もしかった。

またも力を借りることになり、お礼の言葉にも困った。

「家をお願いします。 
なるべく早く、帰ってきます」


史郎は、ただただ頭を下げるのだった。

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「さて、この世界から学園都市世界へのポータルはどこかな?」

コルナが、ギルドでもらった地図を広げている。

「ここがこの国だから、その隣国、このマスケドニアだよ」

俺が地図を指して説明する。

「ふーん、近いの?」

「陸路を歩いて、二三日。 
船だと一二日かな」

「じゃ、すぐね」

コルナの三角耳が、ピクピクしている。
もしや・・・

「あのー、コルナさん」

「何?」

「まさか、一緒に行くなどと・・」

「行くに決まってるでしょ」

勘弁して下さい。 
ミミとポルの世話だけで、もう手いっぱいです。

「あのー、ちょっとそれは無理かと・・」

「あのね。 もう、ルルとも約束したの」

いつの間にか、「ルルさん」から「ルル」に、呼び方が変わっている。

「や、約束って、何を?」

「シローが浮気しないように見張るって」

ええーっ!  俺の浮気が前提ですか。


とんでもなく大変な旅になりそうな予感がする、史郎だった。

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出発前日には、ミミとポルが史郎の家族に挨拶に来た。


いつの間にか、コルナが家族として振舞っているので、二人は驚いていた。

まあ、向こうでは狐人族の族長であり、獣人会議の議長まで務めた偉い子だからね。

ナルとメルは、ポルを大きなお人形か何かと思っているらしく、やたらと体のあちこちを、触りまくっている。
ポルが尻尾を触られて、くすぐったがると、二人してしっぽを狙っている。

逃げるポルの後ろをナルとメルがぐるぐる回る、という光景が見られたが、狸人がドラゴンに勝てるわけがない。

疲れ果てて、きゅ~っとうつ伏せになったポルの上に二人で座って、キャッキャッとしっぽで遊んでいた。

ミミは、リーヴァスさんをキラキラうっとりした目で見ていた。

まあ、彼がモテるのは分かるが、年の差有りすぎだろう。


ミミとポルが、とりあえず家族に受け入れられて、史郎はほっとした。

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史郎はルルを庭に呼ぶと、点ちゃん1号で空高くまで上がった。


点ちゃん1号は、透明モードにしてある。

「ルル・・」

「シローさん・・」

「帰ったとき、家の玄関で君を見て本当に驚いたよ。 
ルルは、どんどん綺麗になっていくね」

「えっ・・」

ルルは、真っ赤になって俯いてしまった。

「本当は、それをずっと見ていたいよ」

「・・・」

俺は、ルルをぎゅっと抱きしめる。

この瞬間のために、必ずここへ戻ってくる。



二人を照らす月の光は、いつもより少しだけ眩しかった。
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