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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第10話 真の勇者
しおりを挟む魔術学区最大の学校であるトリビーナ学園では、生徒たちの制服の色に違いが見られる。
学年で違うのではなく、成績で違うのである。
成績上位者から、黒、濃紺、青、紫、赤、オレンジ、黄色、茶色と別れている。
今、しわが寄った茶色のローブを着た少年が、学園の片隅を歩いていた。
ここは、成績下位のクラスが集まっている。
突然、後ろから背中を突き飛ばされ、少年は地面に倒れこんだ。
「おい、カトゥー。 今日も冴えないな」
せせら笑いながら言う、太った少年のローブは赤色だった。
「まったく、ウ〇コ色が似合ってるぜ、お前はよ」
「ははは、全くだ」
太った少年の取り巻き二人は、オレンジ色のローブを着ていた。
地面で四つん這いになった少年の背中を、赤ローブの少年が踏みつける。
「誰が、立っていいと言った?」
カトゥーと呼ばれた少年は、背中を踏みにじられても黙っている。
彼がこのグループに目を付けられたのは、白い肌を持つ人が多いこの世界で、彼の肌に少し色が付いていたからだ。
心狭き者が、自分と異なるものを受け入れないのは、どこの世界でも同じである。
「おい。 なんとか言ったらどうだ」
赤ローブの少年が、横腹を蹴りつけると、カトゥー少年は再び地面に転がった。
それをいいことに、オレンジローブの二人が、少年の背中を踏みつけている。
少年は何も言わず、うつ伏せたままである。
「土でも食っとくのが、お前にふさわしいな」
赤ローブが、倒れている少年の頭を、踏みつけようとした瞬間だった。
「な、なんだ!? 動かない・・」
少年の足が、空中で止まってしまった。
力を込めるが、足を下ろすことも、上げることもできない。
オレンジ色のローブの二人も、足が動かなくなってもがいている。
三人の後ろから、ゆっくり足音が近づいて来た。
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背後から、低く押し殺したような、少年の声が聞こえた。
「そいつは、お前らのようなクズが、軽々しく扱っていい男じゃない」
赤ローブたちの前に現れた少年は、学園の黒ローブを羽織っていた。
「く、黒ローブ!」
赤ローブは、少年が成績最上位クラスであると、気づかされた。
「こ、こいつ、金縁!」
オレンジの一人が指摘する。
各色の最上位3名には、銅、銀、金の縁取りがある、特別なローブが支給される。
少年のローブは、その学年で最高位であることを意味していた。
「さ、最高位・・」
赤ローブたち3人は、一気に顔が青くなる。
生徒同士でもめ事があったときは、成績上位者が正しいという前提で判定が下される。
彼らは、竜の逆鱗に触れしまったのだ。
「久しぶりだな、加藤」
史郎は、友人の腕を取って立ち上がらせた。
汚れていた加藤のローブは、一瞬にして新品同様になった。
もちろん、点ちゃんの仕事である。
「ぐえ」 「ぐえ」 「ぐえ」
カエルの合唱のような声がする。
赤ローブたち三人がうつ伏せで空中に浮いており、上下運動を始めていた。
当然、下に行ったときは、地面とキスすることになる。
三人の悲鳴が無いかのように、史郎が続けた。
「すまん。 見つけるのに、時間が掛かってしまった」
コルナから連絡を受け、加藤が受験しただろう時期に入学した生徒をしらみつぶしに調べていたら、10日もかかってしまった。
『ご主人様ー、だから言ったのに』
点ちゃん、ごめん。 点ちゃんの言う通りだった。
点ちゃんは、下位クラスから調べるよう、アドバイスしてくれた。
しかし、史郎は自分の親友への評価から、上位クラスから調べていったのだ。
よく考えると、加藤には点ちゃんがいないのだ。
最下位クラスとはいえ、よくあのトリビア問題を潜り抜けたものである。
「あれ? お前、魔術実技の試験は、どうやってクリヤしたんだ?」
加藤は、足元の小さな小石を拾うと、それを親指と中指の間に挟んだ。
いわゆる指弾の格好である。
彼が指を弾く。
チュバーン!
近くの地面に、大きな穴が開いている。
相変わらずの、勇者チートである。
「なるほどな」
俺は、友人の頭に視線を向ける。
「で、その髪はなんだ?」
加藤は黒髪ではなく、茶髪だった。
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その後、スーシェ先生が現れて、赤ローブたち三人を連れて行った。
「あなた達、成績最上位者に何かして、そのままで済むとは考えてないわよね」
先生の声は、いつもの穏やかなものではなく、つららの様だった。
その後、俺は加藤を連れて、俺専用の待機部屋「タイタニック」に来ていた。
「なんじゃこりゃー!」 『な、なんじゃこりゃー!』
加藤と点ちゃんがハモる。
いや。 でも、久しぶりに会った親友への第一声がそれってどうよ?
史郎は、部屋をもらった経緯を説明した。
「相変わらず意外性の男だぜ、ボーは」
「それより、なんで髪を染めたんだ。
勇者として行動した方が、いいんじゃないのか?」
「それだと、常に見張られることになるだろ。
アリストで、勇者がどういう立場か、よく分かっているからな」
なるほど、自由な立場で動きたかったって訳か。
「お前が何をしに来たかは、分かっている。
その線は、こちらで何とかしたぞ。
足りないのは、後、お前だけだ」
「ボー・・」
それが、どれほど大変なことか分かっている加藤は、一瞬言葉を失った。
「俺は・・まだ、帰れない」
「なぜだ?」
「俺は、獣人がこの世界でどういう目に遭ってるか、知ってしまった。
見過ごすことはできない」
こいつは、幼稚園でブーコちゃんを助けたあの時から、全く変わってない。
ずっと、真の勇者だったんだな。
俺は、なんだかそれが嬉しかった。
「よし。 じゃ、獣人たちを助けてから、さっさと帰るぞ」
「ボーはいつも簡単に言うが、どうやってやるんだ?」
「ま、何とかなるだろう。
今では、お前もいるしな」
「相変わらずだな、お前は」
『ご主人様ー、お互い様ですね』
点ちゃん、そこ突っ込むかね。
さて。 じゃ、とりあえず、みんなでミーティングするか。
あ、でも、その前に、まず腹ごしらえだな。
「じゃ、加藤。 このメニューから好きなもの好きなだけ選べ。
料理、持って来てくれるぞ」
「・・・」
久しぶりに会った友人から、呆れられる史郎であった。
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