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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第5話 初めの四人
しおりを挟む大いに盛りあがったハウスウォーミング・パーティの後、畑山、舞子、史郎、加藤の四人は、「くつろぎの家」屋上に来ていた。
俺達は、あずま屋のテーブルを囲んで座り、お茶を飲んでいる。あずま屋は夜露に濡れないように、シールドで覆っておいた。
テーブルの上に立ててあるロウソクの灯りが俺達四人を照らしていた。
「しかし、あのおにぎり、美味しかったなあ」
畑山さんが言っているのは、先日俺が地球世界から持ちかえった、加藤の母親からのお土産である。
「私も食べたかったな~」
あの時、舞子は獣人世界にいたからね。
「かあちゃんも、もう少し沢山にぎってくれてたら良かったのに」
おいおい、加藤。お前が10個も食べたからだろう。お陰で、俺は一つしか食べられなかったぞ。
「それより、ボー(史郎)。お前、ルルさんがいるのにあの超絶美人なエルフさんはないだろう」
「いや、あれはエルフ王が、無理やりにだな……」
「女性に気が多いのは、加藤だけかと思ってたのに、ボーまでねえ。
コルナさんも一緒に住んでるんでしょ?」
「史郎君、何でそんなことに……」
舞子が絶望の表情を浮かべている。
「いや、俺は、まだ何もしてないからな」
三人がギロッと俺の方を向いた。
「そ、それより、これ作っといたぞ」
点ちゃんシートの端を100枚ほど張りあわせ、本のようにぴらぴらめくれるようにしたものに、地球世界で撮った点ちゃん写真を貼りつけておいた。
写真はシートの上に置くだけで、ぴたっとくっつく。
三人が、写真をのぞきこんだ。
「あっ、林先生だ。なんだか以前より老けてない?」
「俺達がいなくなって、心配でずい分白髪が増えたらしいよ」
「これは、舞子の家だよね」
「うん。空の上から撮ったものだね。この掃除してる人、お父さんだと思う」
「この男の子は?」
「ああ、弟の翔太ね」
「えっ。写真で見たことあるけど、すごく大きくなったのね」
「もう、小学5年生だから」
「へえ、この和服の人は?」
「ああ、それは畑山さんのお父さんだ」
「なんか、貫禄あるな」
まあ、あり過ぎて困ったけどね。
「うわあ、加藤のお母さん! 変わらないなあ」
俺は三人に、地球であったことを話してやった。地球から帰ってすぐ、瞬間移動で加藤と畑山を訪れたのだが、その時はお土産と各家族からのメッセージを渡すだけで、すぐ帰ったからね。
「そんなことがあったの。翔太を助けてくれてありがとう」
畑山さんが、珍しくしおらしいことを言った。
「あと、お菓子とこれありがとう」
畑山は、ドレスの手元をめくった。俺が買って来たアクセサリーが手首に巻きついている。
「史郎君、私には?」
「もちろん、舞子にも買ってあるよ」
「嬉しい! ありがとう」
アクセサリーが入った箱とチョコレート、それから舞子の両親から託された手紙を渡した。
「ボー。あんたの魔法レベルが上がれば、異世界転移が出来るようになるんじゃない?」
「畑山さん、それは俺も考えてるんだけど……。簡単ではないはず。
なんせ、今回の一時帰国は、聖樹様のお力添えあってのことだから」
「ボー、聖樹様って誰だ?」
史郎は、三人にエルファリアであったことをかいつまんで話した。
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「はーっ! あんた、エルフの世界でそんなことしてたの。よく生きてたわね」
畑山さんは、呆れ顔である。
「まあね。ダークエルフの『メテオ』とか、点ちゃんがいなかったらどうしようもなかったな」
「しかし、無数の魔獣に二万の兵士、巨大魔術に100匹のグリフォンか。よく何とかなったな」
加藤が感心したように言う。
「ああ、俺一人じゃなくて、ナルやメルが活躍したからな」
「えっ! あんな小さな子が? ボー、あんたまさか、あんな子供を戦場に連れていってないわよね?」
畑山さんは、二人がドラゴンだって知らないからね。
「ちょっとだけ姿を現して、すぐに瞬間移動させたよ。ルルもサポートしてたし」
「まあ、無茶をさせてなければいいんだけど」
「史郎君、あのエルフの女性は?」
舞子は、コリーダの事が気になるようだ。ジト目で、こちらを見てくる。
「コリーダだね。彼女は、モリーネの姉だよ」
「え? でも、肌の色が……」
「そうなんだ。そのことで、城で居づらくなっていてね」
「なるほど、それで連れだしたって訳か。でも、モリーネさんの姉ってことは、王女様だろうが」
こういう時、加藤は、鋭い突っこみを見せるね。
「ああ、そうだよ」
「雷神の孫娘に獣人会議元議長、それにエルフの姫様か。お前ん家の女性陣すげえな」
言われてみれば、そうだな。
「史郎君、コルナとモフモフするくらいはいいけど、コリーダさんに変な事しないでよ」
舞子が釘をさしてくる。
「分かってるよ、舞子」
「それならいいけど」
「それより、二人とも言ってたもの持ってきた?」
言ってたものっていうのは、水着の事である。
「持って来たわよ。でも、こんなもの、どうするの?」
俺は女性二人を連れて、屋上の反対側にある、あずま屋に連れていった。
「ボー、これってもしかして……」
「まあ、とにかく体験してみてよ。二人が最初に使うから、感想を聞かせてほしいんだ」
点魔法で覆っていた、お椀の覆いを外す。畑山と舞子が歓声を上げる。
「じゃ、こちら側からは見えないようにしとくから、ゆっくりしてよ」
二人は、俺の声も聞かず、いそいそと用意を始めた。
あずま屋の中には、かなり大きなジャグジーバスがあった。
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史郎は二人の入浴を準備すると、反対側のあずま屋に戻った。
「あれなんだい?」
「そのうち、お前とミツさんにも体験してもらうさ。何かは言わないから、そのとき驚いてくれ」
「まーいいか。それより、何か他にも話があるんじゃないのか」
加藤は、時々妙に鋭いことがある。
恩賞の宝玉の話と、最近訪れた予期せぬ訪問者の話をする。
「やっかいなことに巻きこまれそうだな」
「そうなんだ。お前達の手を借りるかもしれない」
「お前には、世話になってるからな。かあちゃんのおにぎり持ってきてもらったし」
おいおい、手伝ってくれる理由は、おにぎりか。
「今日は、来てよかったよ。この世界に転移した、初めの四人が集まれたからな」
「初めの四人か。確かにな」
「次も何かあったら呼んでくれ。ミツが地球のお菓子に夢中なんだ」
おにぎりの次は、お菓子と。
シールドを消してくれという畑山の声が、あずま屋から聞こえる。俺と加藤が、地球の点ちゃんアルバムをゆっくり見おえるくらい時間が経っていた。
「ボー! あれ、お城にも作れない? もー、気持ちよかった~」
「うん。すごく気持ちよかったね」
とりあえず、二人には好評のようである。
「何か改良するところはないかな?」
「そうね。頭を載せる枕のようなものがあるといいかも」
さすが、お風呂のスペシャリスト、畑山女王である。俺は、さっそく点ちゃんノートに彼女のアドバイスを記録しておいた。
改めて、畑山さん、舞子の二人にも宝玉を巡る事件について話しておく。
「私は国の事があるから、あまり力にはなれないと思うけど、できることはするからね」
「私の力が必要になったら、いつでも言ってね」
畑山と舞子も、協力を約束してくれた。
史郎は、不安な気持ちが拭いさられるような思いだった。
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