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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第9話 魔獣の森
しおりを挟む史郎とポルは、森の手前で、無数の何かによる攻撃を受けていた。
俺、ポル、竜人の女に張ったシールドはびくともしないが、精神的に気分のいいものではない。シールドに弾かれ、地上に落ちたものを見ると、握りこぶしよりも大きな蜂だった。
尻の先から出ている針が濡れているところを見ると、毒を持っているに違いない。
透明なシールドがべっとり毒で塗られるほど、しつこく攻撃を受けた。
30分ほどすると、さすがに彼らも諦めたのか、再び少し離れて黒いボールになった。
追いかけられても困るので、点魔法の箱で一網打尽にする。
うへーっ。捕まえたけど、これどうしよう。ある程度進んだところで箱から解放すればいいか。
ポルが、足元に落ちて動かなかなくなった蜂を恐る恐る靴先でつついている。
この辺は、まだまだ以前の彼のようだ。
「じゃ、森に入ってみるかな」
俺の合図で、森の中に踏みこむ。
木々は比較的背が高く、その間隔も広い。森の中なのに、意外なほど遠くまで見通せた。
蜂の襲撃に備えて、三人ともシールドで作ったスーツのようなものを着ている。透明だから、見えないけどね。
次に襲ってきた魔獣は、黒い毛を生やし、小型の熊のような体形をしていた。遠方でこちらを見つけたのだろう。森の中をこちらに突進してくる。
万に一つも友好的な魔獣であることを考えて、こちらから先制攻撃はしない。まず、シールドを張って受けとめた。
シールドは、魔獣がケガをしないように斜めに張ってある。
ブヒッ
かなりな勢いでシールドに突っこんだ魔獣が、自分の勢いで跳ねとばされる。空中で3回転ほどして、ドスンと体側から地面に落ちた。
首を左右に振りながらブヒブヒ鳴いてる。近くで見ると、1mくらいの体長で、四つ足歩行する魔獣のようだ。全身を、黒光りする体毛が覆っている。
目つきを見ても、友好的な魔獣とは言えないね。
これも点魔法の箱詰めにする。この魔獣も後で開放することにしよう。
やれやれ、どうも俺達はこの森に歓迎されていないようだ。
史郎達は、さらに森の奥に進んでいった。
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陽が翳りかけたころ、史郎達は三度目の襲撃を受けた。
今度は、多数の魔獣が群れで襲ってきた。
形はシカに似ているが、鋭い角と、なによりその口から見える牙が肉食であることを示している。シールドに、角や牙が当たる、カンカンという音がする。
群れは20頭くらいで、一際大きな個体が一頭いる。
ためしに、そいつを点魔法の箱に入れ、その箱に透明化の魔術を掛けてみた。群れは、一瞬で統制を失い、ばらばらになった。お互いに噛みつきあってる奴らもいる。
俺達は、もう少し進んでからその日のキャンプを張ることにした。
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キャンプ道具もあるのだが、この森の魔獣の凶暴性を考えると、少し無理がある。
夜行性の魔獣のことも考えて、小型の「土の家」を作ることにした。
一部屋と風呂場という間取りにした。
外が見えるように、窓の代わりにシールドを張る。天井に細かい網目状のシールドを設置し、これに風魔術を付与することで空気を取りいれる。網付きの排気孔は、風呂場の床から30cmくらいの所に設けた。
「ふわ~、森の中なのに、こんなに贅沢していいのでしょうか」
ポルが呆れている。彼が、昔住んでいたケーナイの家は、そりゃひどかったからね。
俺は、コケットを二つ出した。
「あっ、コケットだ! やったー!」
ポルが踊りだした。まあ、気持ちは分かるけどね。
土魔術で地面を少し上げ、そこにキャンプ用マットを敷いて竜人の女を寝かせる。
ポルがさっそく世話に掛かる。彼は、お母さんや多くの獣人の世話をしてきたから慣れたものである。
俺が今まで行った世界には、米が無いので、穀物を水に溶いたポーリッジ(お粥)を作る。点魔法のコンロを出し、穀物を入れた水を火にかける。
それが沸騰したら、チーズを溶かし、塩と薬草茶をほんの一つまみ入れる。少し多めに作る。余った分は、明朝のスープにすればよい。
「いい匂い! お腹ペコペコです」
ポルは、俺からお椀とスプーンを受け取ると、まず竜人の女に食べさせる。女は、まだ少し熱があるが、なんとか命を長らえたようだ。
俺達がポーリッジを食べ終えたころを見計らって、女が声を掛けてくる。
「なぜ、殺さない」
「まあ、気分だな」
俺が適当に答える。
「私は、お前達を誘拐し、命も狙ったんだぞ」
「ああ、誘拐はともかく、お前では俺達の命をどうこうできないからな」
「お前は、人族が竜人に勝てると思ってるのか?」
「自分の姿を見ろ。それから、つべこべ言わず、さっさと寝ろ。
いつまでも、俺達の世話になろうと思うなよ」
俺は、いつになく冷たい口調で言っておく。案の定、女は怒りに歪んだ顔をしている。怒りは、生きる気力を生むだろう。
「ああ、ポル。そっちの部屋はお風呂だから、先に入っておいで」
「ええっ! こんなところでお風呂に入れるの!? やったー!」
「お湯が沸くまで待ってから入るんだよ」
「はーい!」
女と俺だけになったので、知りたかったことを尋ねておく。
「獣人世界やパンゲア世界には竜人が沢山いるのか?」
女は少しためらっていたが、意を決したように話しはじめた。
「ああ。故郷のドラゴニアを追われた者が少なからずいる」
「ドラゴニア?」
「私達が今いる、この世界だ」
「この世界には、他にも竜人がいるのか?」
「ああ、沢山な」
「なぜ、宝玉を狙った」
「あの宝玉は、私達の唯一の希望なんだ。
この世界へのポータルが無い以上、私達がこの世界に帰るにはあれしかない」
「しかし、お前は、獣人世界にいたではないか」
「ふふふ。一方通行のポータルならあるのさ」
女は自嘲気味な笑いを浮かべた。
「なぜ、お前はそれを潜った?」
「潜ったのではない。潜らされたのだ。それこそ最も過酷な罰、『追放』だ」
なるほど、異世界追放を罰としているのか。元の世界に帰れないとなると、かなり厳しいな。
「異世界で、普通に暮らせばいいではないか」
「お前は、私達の事情を知らないな。竜人が捕まると、どこかに連れていかれて帰ってこないんだ」
「捕まえるのは、人族ではないか?」
「ああ、そうだ。あとドワーフ族だな」
学園都市世界だな。この女は、学園都市が変わったのを知らないから無理もない。しかし、ドワーフか。俺はまだ、出会ったことはないが、なぜドワーフが関わっているのか。
史郎は新たな謎について考えを巡らせたかったが、あっという間に眠りに落ちてしまった。
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