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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第8話 竜人の世界
しおりを挟む史郎が現れたところは、草原だった。
俺の足元には動かないポルと、切りおとされた右手の付け根を押さえてうめく、猫人の姿があった。
とりあえず、猫人のベルトを利用して、腕の止血を試みる。上手くいかないので、点ちゃんシートで上腕部を覆った。部分的に締めつけると、やっと出血が止まる。
大量の血を失ったからだろう。猫人は、気息奄々の状態だ。
一応、治癒魔術を付加した点を傷口に着けておく。ただ、失われた血はどうにもならないから、命がもつかどうかは微妙なところである。
パンと両手を合わせると、猫人の偽装がはがれ、俺の家に来た竜人の女になった。
やはり、こいつだったか。
ポルにも治癒魔術の点を付けてみる。
「うう、こ、ここはどこ?」
彼は目を覚まし、眩しそうな顔できょろきょろしている。どうやら無事のようだ。
「ポル、しっかりしろ。俺達は、ポータルで飛ばされたんだ」
「シローさん! 来てくれたんですね!」
「まあ、お前がさらわれたのは、俺のせいでもあるからな」
俺は彼に、アリストと「竜の顎」で起こった事を伝えた。
「すみません。気をつけるように忠告を受けていたのに……」
「気にするな。お前をさらったのは、こいつだな?」
俺は、猫人に扮した犯人の写真を見せた。
「あ、この人です! この人がシローさんの使いだって言ったんです」
「今、そこに横たわってるやつがこの猫人だよ」
「えっ!? でも、この人は、女……。あっ、モーフィリンですね?」
「ああ、間違いない。今まで、仲間の気配は無かったが、油断はできない。
この世界がどこかも分からないしな」
「シローさんでも、分からないんですか」
「ああ。予想してる世界はあるけどね」
「どこですか?」
「竜人の世界だ」
「竜人っていったら、伝承の中に出てくる、あの竜人ですか?」
「そうだ。その女の顔をよく見てみろ」
ポルが、すでに気を失っている女にかがみこんでいる。
「ほ、ホントだ……。顔に鱗がある」
「とにかく、ここがどんなところか調べてみるか」
史郎は、点ちゃん一号機を出し、倒れている女を抱えてそれに乗りこんだ。
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女を床に横たえた史郎は、点ちゃん1号機を空に上げた。
大陸全体が見えるところまで上昇する。
空から見ると、この世界は二つの比較的小さな大陸と広大な海から出来ていた。二つの大陸は、ヒトデがのたくったような複雑な形をしている。
ポータルが、海の上や山岳地帯に開かなかったのは、運が良かった。平野らしきところは、とても少なそうだからね。
広い海洋の上に巨大な雲の渦巻きが見える。あれは、きっと台風だな。
最初に現れた平原に戻る。ポルは、俺の冒険者用の服に着替えさせた。少し大きいが、この際仕方がない。
点収納にそれなりの蓄えはあるが、まずは食べ物と飲み水の確保が先だろう。
俺達がいる草原は、台地のようになっており、いくつかの台地が階段状に繋がっている。一番低い台地より下には、森が広がっている。
史郎とポルは、竜人の女をボードに載せ、それを引きながら歩いて森に向かうことにした。
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竜人の女、リニアは、自分が予想した通りに事が運ばなかったことに落胆することもできなかった。
右手を失い、流れ出た血が体力を奪っており、何か考えようとしても発熱からくる頭痛にうめき声が上がるだけだった。
私の作戦は完璧だったはず。最悪でも、ポータルでこちらに来るだけの準備はしていた。
竜の顎に仕掛けた爆弾が、崖を崩す。それに相手が対処する間に、ポータルに触れればよいだけだった。しかし、なぜか落下するはずであった岩の塊は、一瞬で姿を消してしまった。しかも、手に入れたはずの宝玉は、右手と共に失われてしまった。
いったい何が起きたのか?
無念なのは、自分の失敗により、自分だけでなく、自分の行動を支えてくれた仲間達の長年の夢が砕けちることだった。
彼女が獣人世界あるいはパンゲア世界の冒険者やギルドに詳しければ、相手が黒鉄の冒険者というだけで、もっと警戒したはずである。
しかし、人族が竜人に勝てるはずがないという驕りが、彼女の目を曇らせた。彼女が失血によって気を失ったのは、かえって良かったかもしれない。
目が覚めれば厳しい現実が彼女を責めさいなむのだから。
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史郎達は、台地を次々と降り、あと少しで森にたどり着くところまで来ていた。
最後の台地から森へ降りる斜面には、泉が湧いているところがあり、そこで水の補給ができた。後は、食料の確保である。
空遠く、鳥らしきものが見えたから、この森にも生き物はいるはずである。
ポルは、久々の冒険で意気揚々としている。エルファリアでの体験で、少し自信を持ったようだ。彼は、もう自信なくオドオドしていた頃の彼ではない。
俺は、目をキラキラさせて歩いている彼を見て、少し安心していた。何としても彼と一緒に元の世界に帰らなければならない。
森に入る直前に、お客さんがやって来た。何か小さな生物の群れが、空中で黒いボールのように集まっている。
ボールの直径は、2mくらいはあるだろう。ブーンという低い羽音がする。
その黒いボールは、大きく膨れあがると、あっという間に史郎達を飲みこんでいた。
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