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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第14話 濡れ衣
しおりを挟む黒竜族族長ビギは、四竜社の入る建物で、竜闘の計画を練っていた。
もう長いこと、竜闘が開かれていない。彼が覚えている限り、最長の期間のはずである。そろそろ開催しないと、その筋の不満が収まらないだろう。
そこへ、事務を担当する赤竜族の若者が入ってきた。
「会長、青竜族の役所から連絡です」
「何だ?」
「黒竜族の女が森で保護されたようなのですが、リニアという追放者の疑いがあります」
リニアだと! 本当にあの女なら、都合が悪い。すぐに対処すべきだろう。
「竜兵を十人送り、すぐこちらに護送しろ」
「じゅ、十人ですか」
「そうだ。そのとき、しゃべれぬよう猿ぐつわをするのを忘れるな」
「はい。分かりました」
「あと……」
「なんだ?」
「その女を連れてきたのが、迷い人のようなのです」
「迷い人か」
これは、竜闘のネタに使えそうだな。
「どんな奴らだ?」
「人族と、獣人のようです。どちらも少年だということでした」
少年か。材料としては不足だが、何とかなるだろう。
「よし。連れてこい」
気が短い彼を恐れるように、青年は、そそくさと部屋を出ていった。
思わぬところから竜闘のきっかけが舞いこんで、ビギはほくそ笑んでいた。
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史郎達は、豪華な部屋でくつろいでいた。
エルフの国ほどではないが、クッションやソファーの弾力はなかなかのものである。
俺はテーブルに点ちゃん収納から、お菓子やジュースを出して、並べていた。ポルが、さっそく手を伸ばしている。
黒竜族の女は、すっかり顔色も良くなり、ソファーに座っている。
「リニアさん、あなたも遠慮なくどうぞ」
「ありがとう」
初めはほとんど口を利かなかった彼女も、少しずつ会話するようになってきた。
俺は、かねてから聞きたかったことを尋ねることにした。
「答えにくいなら答えなくてもいいけど、あなたはどうして追放なんていう目にあったんです?」
ジュースを飲みかけていた彼女の手が止まる。答えようかどうしようか、迷っているようだ。
「そうですね。私を連れていることで、あなた方にご迷惑がかかるかもしれません。
話しておいた方がいいでしょう」
彼女は、暗い顔で話しはじめた。
「父は、四竜社というこの国の中央組織で書類仕事をしていました。
あるとき、上司から大切な話がある、と言われたそうです」
なるほど、その中央組織が四種族を束ねている訳か。
「父の上司は、組織上層部の汚職に気がついたそうです。
それを告発しようとしたやさき、彼は殺されてしまいました。
その場には、父の竜刀が落ちていました。
父は、その事で『終の森』へ送られました」
リニアは、悲痛な顔をしている。
「父が、彼を殺せるはずが無いのです!
なぜなら、事件があった夜、病気で寝込んだ私の看病をずっとしていたんですから」
「あなたは、それを訴えたんですね?」
俺にも、おおよその筋が見えてきた。
「ええ、何度も。その結果、私も殺害に関わっていたと濡れ衣を着せられて、追放処分となりました」
なるほどねえ。どこの世界にも似た話はあるもんだ。
「濡れ衣を着せたのが誰か、分かってるの?」
「恐らく、黒竜族族長のビギという男だと思います。
父が連れていかれた時も、私の時も、彼の息が掛かっている竜兵が現れましたから」
「そのビギという男は、どんな立場なんです」
「四竜社の頭です」
なるほど。国家元首のような立場にある者の汚職に触れてしまったのか。
「あなたが再び捕まれば、どうなるのかな?」
「再び追放になるか、恐らく今回は、『終の森』送りでしょう」
「俺達にも迷惑が掛かると言っていたが?」
「ええ。奴らはあなたにも何か仕掛けてくるに違いありません。
こうして、私があなたに事情を話さなくても、話したという判断で行動を取るに違いないのです」
それはそうだろう。
「あなた達がすべき事は、私をここに残して逃げだすことです。
しかし、ポータルがどこにあるか分かりませんから、逃げだすことに意味があるかどうか……」
「リニアは、追放の時、ポータルを使ったのだろう?」
「ええ。でも、その時は眠り薬を嗅がされた状態でした」
なるほどねえ。用心深い奴らだ。
その時、ノックの音がして、先ほどのハゲおじさんが入ってきた。
「あなた方に会いたいという人が来ておる。会ってもらえるか?」
俺は、リニアと視線を合わせた。なるほど、彼女もビギという男の関係者が来たと思ってるな。
「いいですよ」
俺は、気安く返事をした。リニアがちょっと驚いた顔をしている。ハゲおじさんは、ホッとした顔をした。
「では、こちらに来てくれ」
俺達三人は、階下に降りていく。リニアも、自分で歩いている。
1階のホールに降りると、テーブルに着いている人々が、ジロっとこちらを見る。彼らも俺の匂い攻撃を受けちゃったからね。
ドアの一つを潜ると、そこは中庭のような場所だった。広さは、野球場の内野部分くらいだろうか。
おじさんは、自分の服をくんくん嗅いでいる。
「まだ、匂いが付いているような気がするんじゃ」
そう言うと、こちらを恨めしそうに見る。
彼は、庭の中央に置いたベンチまで、俺達を案内した。
「ここに座って待っておれ」
そう言いすてると、早足に姿を消してしまった。
俺達は、それほど待つ必要は無かった。なぜなら、彼の姿が見えなくなると同時に、庭の四方から武装した竜人が現れたからだ。
「ビギの手勢です!」
リニアが、小声で素早く伝えてくる。
史郎達は、あっという間に、十人ほどの竜人兵士に取りかこまれてしまった。
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