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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第20話 リーダーを追って3
しおりを挟むリーヴァスがポータルから出ると、そこは緑の草原だった。
時刻は昼頃らしく、陽が高い。
ポータルから、子供達を抱えたルル、コルナが出てくる。
ナルとメルは、目をこすっているが、ポータルを渡ったことで目が覚めたようだ。
コリーダ、ミミ、加藤も姿を現した。
「こりゃ、爽やかな場所に出たもんだ」
加藤はのんびりした声で言うと、深呼吸している。
ルルが、ナルとメルに何か話しかけている。
二人は頷くと、2mほどのドラゴンになった。
「な、なんだっ!」
初めて見た加藤が、驚いている。
力強く羽ばたくと、ナルとメルは空に舞いあがった。上空で、円を描くように飛んでいる。しばらくすると、降りてくる。二人は少女の姿に戻り、ルルに駆けよる。
「マンマ、緑の階段みたいになってて、その下に森があったよ」
「いっぱい海があったー」
「森はどっち?」
「「あっちー」」
「ならば、その方角に進んでみますかな」
リーヴァスは、皆を見まわすと、ゆっくり歩きだした。七人が後に続く。
ミミは、地面にシロー達の痕跡が無いか、探しながら歩いている。
草原は歩きやすかったが、下の段へは急な斜面になっており、降りるのに時間が掛かった。
「ここを通ったのは、間違いないですね」
ミミが、そう言ったのは、みんなが泉の横で休憩している時だった。
「この足跡はポン太ので、こっちがリーダーのです」
さすがに獣人である。こういうことをさせるとソツが無い。
皆の表情が明るくなる。猫賢者の転移に関する計算は、間違っていなかった様だ。それからは、パーティの速度が上がり、あっという間に台地の下まで来た。
いよいよ森である。
「マンマ、あれは何?」
ルルは、メルが指さす方を見た。空中に、黒いボールのようなものが浮かんでいる。
リーヴァスの表情が険しくなる。
「ミミ! ネットを!」
ミミが慌てて背中のバッグからネットを出す。
しかし、その時すでに、黒いボールが目と鼻の先まで迫っていた。
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リーヴァスが、ネットを皆の上に広げた。
「しまった!」
すでに、数匹の蜂がネットの中に入っている。
大人の拳ほどもある蜂が、大きな羽音を立てて、ナルとメルに襲いかかる。
ルルとコルナが、娘達の上にかぶさる。
「あうっ!」
コルナの悲鳴が上がる。背中に二匹の蜂が取りついている。リーヴァスが、すぐに小刀で切りはらった。ルルの背中も蜂が刺していたが、革鎧のおかげで無事だった。鎧に取りついた蜂をミミが潰す。
まっ青な顔になったコルナが倒れる。呼吸が早い。
「コルナ! しっかりして!」
ルルが、腰のポーチから青い魔石を出し、刺された背中に当てる。
青い魔石から治癒魔術の光が流れでて、コルナの身体を包んだ。
彼女の表情が次第に和らぐ。
コルナの脈を診ていたリーヴァスが頷く。
「もう大丈夫だ」
ルル、コリーダ、ミミがほっとした顔をする。
「ネットと魔石が無ければ危なかったですな」
リーヴァスが言うとおりである。ケーナイの冒険者達の配慮と聖女や女王の援助がさっそく力になってくれた。
ここで治癒魔術の使い手であるコルナに何かあれば、旅の行く先は覚束なかったろう。
「コー姉、大丈夫?」
ナルとメルが心配そうにのぞきこむ。
「二人とも無事だったのね。よかった……」
コルナは、自分があんな目に遭ったのに、ナルとメルの無事を喜んでいた。
一方、加藤だけは、ネットの外にいた。ネットが頭上に広がったとき、そこから外に出て、蜂と戦うことを選んだのだ。
剣を風車のように回転させ、黒い雲に向けて突進する。バチバチと音を立てて、蜂が弾けとぶ。5分ほど走りまわると、ほとんどの蜂が地面に落ちていた。
一匹ずつ襲いかかってくる蜂は、その都度、剣で切りはらう。
やがて、飛んでいる蜂は一匹もいなくなった。
「蜂って、こんなに動きが遅かったっけ?」
息も切らさず放った加藤の言葉を聞いて、ネットから出てきたリーヴァスもさすがに呆れ顔だった。
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リーヴァス達の旅は、順調とは言いがたいものだった。
森に入ってすぐ、シカ型の獣が襲いかかってきた。20匹以上の大きな群れである。
加藤が一番大きな個体を倒すと、群れは統率を失いバラバラになった。しかし、戦闘が終わるまでにミミとコリーダが手傷を負った。
体長が万全ではないコルナに代わって、ルルが治癒の魔石で治す。鮮やかな青色だった魔石は、度重なる使用によって、色がかなり薄くなってきた。
魔石がもう一つあるとはいえ、転移して一日と経たないうちにこれである。
リーヴァスは、厳しい状況に頭を悩ませていた。
彼と加藤だけなら何とでもなるが、ルル、コルナ、コリーダを守りながら戦わなければならない。ナルとメルがいるわけだから、さらに難易度は、はね上がる。
悪いことに、宵闇が迫っていた。
「リーヴァス様! あれを」
ミミが指さした方を見ると、森の中に見慣れた「土の家」があった。
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「『滝の前の助け舟』とは、まさにこの事ですな」
「土の家」に入ったリーヴァスは、中の安全を確認すると、椅子にどっかりと腰を降ろした。
土魔術で作ったテーブルの上には、何か文字が書いてある。
「読めないわ。ミミ、読める?」
ルルの声で、ミミが机の上にかがみこむ。
薄暗くなってきたので、コルナが明かりの魔術を唱えた。空中に光る玉が浮かぶ。
「ポン太(ポル)の字ね。蜂と魔獣に気をつけるようにって書いてるわ。ちょっと、遅かったわね」
「他に何か書いてない?」
「二人とも無事で、例の竜人を連れてるって書いてある」
「良かった。どちらに向かうか、書いてある?」
「ええ。木に印をつけてるみたい」
「じゃ、明るくなったら、確認しましょう」
「はー、ボーらしいぜ。用意がいいな」
「おじちゃん、ボーって何?」
「棒は細長い木だよね」
「お、おじちゃん?」
さすがの加藤も、ナルとメルにはタジタジだった。
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リーヴァスが、念のため、戸口にネットを張った。
加藤は、戸口の外で見はりに立つ。
ルルとコルナは、荷物の中から組みたて式のベッドを二組出した。これは、ナルとメル用である。
コリーダは、床にマットを敷く。
その間に、ミミが食事の用意を始める。
浴室に入ったリーヴァスは、水の魔石で浴槽に水を溜めている。
「おじい様、お湯の魔石がありますか?」
「いや。持っていないが、何とかなるはずだよ、ルル。少し待っておいで。先に食事を済ませるといい」
皆、彼の言葉に従って、シリアルを水に溶かした食事を始める。
「余り美味しくないわね」
「コルナ様、旅の食事はこんなものですよ」
ミミが突っこんでいる。
食後には、ルルがマジックバッグから出したお茶セットでお茶を点てた。
「「美味しい!」」
眠そうにしていた、ナルとメルが急に元気になる。子供達のためと、疲労回復のために、お茶には、たっぷり砂糖が入れてある。
リーヴァスさんが、外から帰ってきた。彼が手にした組んだ木の上に、いくつか石がある。石からは湯気が立ちのぼっている。
火の中で熱した石なのだろう。彼は、それを浴槽の端に入れた。
ジューッ
ブクブクと泡を立てながら石が沈んでいく。
リーヴァスは、皆を浴室に呼び、風呂の入り方を説明した。
ナルにはルル、メルにはコルナがつきそって入浴する。
入浴が終わると、皆が生きかえったような顔をしていた。
「あーっ! 気持ちよかった」
最後に入浴したミミが満足そうである。
「しかし、リーダーが居ないと、食事とお風呂が大変ね」
「ミミ。シローにばかり頼ってはいけませんぞ」
リーヴァスに、釘を指され、ミミがぺろりと舌を出している。
リーヴァスが、一人遅れて食事を済ませると、コルナが灯りを消す。さっき、注意されたばかりなのに、ミミが「コケットが……」とつぶやいている。
疲れていたのだろう。間もなく全員が眠りについた。
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一番に目が覚めたのは、ルルだった。
リーヴァスがいないのに気づいて、ネットを開けて外へ出る。
「おじい様」
彼は、折り畳み式の椅子の上に座り、ナイフを研いでいた。
「お早う、ルル。よく眠れたかな?」
「お休みにならなかったのですか?」
「ははは。冒険者生活が長いせいで、その辺は慣れてるんだよ」
「どうか少しでいいからお休みください」
「ああ、そうさせてもらおう。ミミにこれを渡しておくれ」
葉っぱにくるまれたものを手の上に載せられる。ずっしりした重さがある。
「これは?」
「熊型魔獣の肉だよ。深夜に、近くをうろついていたんだ」
「おじい様、ありがとうございます」
ルルは、心から感謝した。暗闇の中、一人で魔獣と戦うのは、いくら雷神とはいえ、並大抵のことではない。
リーヴァスが休んでいる間、皆は熊肉入りのスープで朝食を済ませた。
「ナル、メル。森はあとどのくらいあると思う?」
「うーん。半分くらいだと思うよ、マンマ」
「そのくらいー」
二人は、上空から見て、森の大きさはある程度頭に入っているはずである。ただ、上から見るのと、実際にその中を歩くのとでは訳が違う。
ルルは、二人の話は参考程度にしておくことにした。
それから3時間くらいすると、リーヴァスが起きてきた。
ミミに勧められた朝食を済ませると、彼は、皆に「土の家」近くの印を見つけるように指示する。
皆で10分ほど探して、印を見つけたのはメルだった。地面から1mほどの高さで、木の幹にひもが巻いてあった。
一行は、「土の家」とその木を結んだ方向に出発した。
二日目の旅は、初日と較べ、ずい分と楽だった。ひもが巻いてある木を目印に、どんどん進んでいく。
途中、シカ型魔獣が一匹、襲ってきたくらいで、後は何もなく過ぎた。
「水の匂いがする」
ミミが足を止める。
水の匂いがどんなものか、ルルには分からなかったが、さすが獣人である。
「マンマ、海!」
ナルが、左手の木立の向こうを指さす。
確かに、木々の間に海が見えている。
彼女達がバカンスを楽しんだ学園都市世界の海にくらべ、かなり色が濃い。
「海の匂いはしないわね」
コルナが不思議そうにつぶやく。
少し歩くと、海と海に挟まれた地峡にたどり着いた。
向こう岸まで、直線で100mくらいだろう。
しかし、幅が20mもないその地峡は、かなりの高さでそびえ立っていた。
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