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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第44話 草原でボード遊び -点ちゃん4号登場ー

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 竜闘が終わって三日が経った。

 今日までお店が休みなので、史郎達はみんなで草原にボード遊びに来た。
 皆と言っても、リーヴァスさん、ミミ、ポルは、ラズロー邸で剣の稽古である。ネアさんも、お世話係として、そちらに参加した。
 今日は、イオもこちらに来ている。リニアもナルやメルの話を聞いて興味を持ったようで、参加を希望した。

 先生役は、コルナだ。

 「初めての人は、シローにボードを作ってもらってください。
 崖に近づかないよう、気をつけて滑りましょう」

 「「はーい!」」

 イオ、リニア、コリーダのために初心者用ボードを出す。これは、バランスが取りやすく、スピードが出ないように作ってある。加藤は、通常のボードである。
 初心者が落ちないように、崖の少し手前にポールも立てておいた。

 「で、何であんたがここにいるの?」

 驚いたことに、白竜の若様、ジェラードが来ていた。しかも、先日、食事処で会った三人の護衛つきである。
 何よりも、彼らは、自分達の足でここまで来たのが凄い。昼前のこの時間に間にあわせようと思ったら、都を暗いうちに出立したに違いない。

 「いや、一昨日、お宅にお邪魔したときに、今日の事を小耳にはさんでね。
 それと、会いたい人もいたし……」

 ジェラードの目が、コルナにボードを習っているコリーダを追っている。全く、油断ならない男である。
 大体、会合の翌日、彼がイオの家を訪れたのも、ポータル解放後の異世界との交易で大きな役割を担いそうなポンポコ商会と正式に交渉するためである。
 とにかく、そつがない男である。

 新しい四竜社の頭には、彼が就任すると思っていたが、それをラズローに任せて自分は補佐役に回っている。
 どう見ても、ただ者ではない。

 「ああ、そうそう。
  会合があった日の夜、さっそく黒竜族の刺客が襲ってきたよ。
  君が言った通りだった。
  これ、本当に役に立った。
  ありがとう」

 ジェラードは、小型のパレットを俺に手渡した。
 念話のことは、彼に知られたく無かったので、文字情報で教えることにしたのだ。

 「しかし、それ、どうなってるの? 
  凄く便利だね」

 俺は、黙ってパレットを腰のポーチに突っこむ。

 「ところで……。
  私にも、あれを出してもらえないか?」

 彼が、練習中のコルナ達の方を親指で差す。

 ボードは、原則家族かパーティーメンバーだけにしか渡さないのだが、この場合は仕方あるまい。
 俺は、ため息をつくと、長身の彼用にやや大きな初心者用ボードを出してやった。

 「ありがとう! 
  頼りになるね、君は」

 見えすいたお世辞でも、様になっているのが小憎らしい。彼はボードを手にすると、いそいそとコルナ達の方へ向かった。

 点ちゃんからの情報で、彼の護衛達が小さな傷を負っていると知っていたので、俺は三人に治癒魔術をかけておいた。
 恐らく、「終の森」を通る時ではなく、黒竜族から襲撃を受けた時に負った怪我であろう。つまり、この三人は、見かけより遥かに凄腕だということになる。
 護衛の一人、背が高い方の女性が、治療の礼をした後、話しかけてくる。

 「ああ見えて、若様はあなたの事をとても評価してらっしゃるのですよ」

 「彼は、昔からああなんですか?」

 「そうですね。
  白竜族の長であったお父様が竜闘で敗れてから、少し変わられたかも知れません」

 彼の父も、毒にやられたのかもしれない。

 「彼のお父上は?」

 「竜闘のお怪我が元で……」

 なるほど、若くして一族を背負って立つことになったのか。身に負った不幸を感じさせない、彼の涼し気なまなざしを思うと、並外れたパーソナリティが分かる。

 「若様、あのように楽し気に……。
  お館様が亡くなられてから、初めて見ました」

 白竜族の女性は、涙を浮かべてボード練習中のジェラードを眺めていた。

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 史郎は、護衛役の三人にも初心者用ボードを作ってやった。三人とも、ボードを脇に抱えると、すぐにジェラードの所に走っていった。

 人望もあるんだよね、奴は。リア充め。

 『相変わらずですね、ご主人様は。
  それより、例のヤツ、出しましょうよ』

 点ちゃんが言っているのは、竜闘前の空き時間に作った乗り物の事である。
 そうだね。乗ってみるかな。

 『わーい!』

 史郎は、点収納から、点ちゃん4号を出した。

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 点ちゃん4号は、大型バイクを模して作ってある。

 細かい意匠はまだ改良中だが、つやがある漆黒仕上げである。
 バイクのタイヤ代わりに、前後に、地面と水平になるように厚めのボードが着いている。ボードは楕円形をしており、前側が広く、後ろが狭い涙型である。
 そこから伸びた、太いフレームが、大きなボディを支えている。
 ハンドルは、優美な曲線を描いており、俺がこだわった所だ。

 技術的には、ボードとフレームの接合部分に一番苦労した。直接融合してしまえばいいのだが、そうすると、接合部に遊びが無くなって操作性が落ちる。
 可動式にするため、様々なモデルを試した上、完成した。製作時間の9割は、この部分を作るのに掛かった。
 外から見ると、フレームとボードの接合部が球形に近くなっている。

 これから試乗して、少しずつ改良していく予定だ。
 後ろのシートにもう一人、乗れるようにしてあるが、ナルとメルの事を考えて、サイドカーを設計中である。

 「また、変なの作ったね、お兄ちゃん」

 生徒達に自主練習させておいて、コルナがこちらを見にきた。

 「やっぱり、変に見えるの?」

 「うん。
  馬に似てるように見えるけど、何これ?」

 「乗り物だよ。
  今は調整中だから、それが済んだら乗せてあげるね?」

 「えっ? 
  運転してもいいの?」

 「あー、これはちょっと無理かな。
  その内、みんなが乗れるのも作る予定だから」

 「なーんだ、自分で運転できないのか」

 基本的に、このバイク型4号は、点ちゃんと俺が協力して運転する前提で作ってある。加速と停止は点ちゃんの仕事で、進行方向変更が俺の仕事である。だから、今のところ、他の人が運転できない仕様だ。

 コルナは、残念そうに練習場へ戻っていった。

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 じゃ、点ちゃん行くよ。

 俺は、4号にまたがる。シート部分には、エルファリアの『緑苔』を使った。ここも、これからの改良点で、もう少し硬いクッションにする予定だ。

 点ちゃん4号は、音も無くゆっくり滑りだした。
 草原を渡る風が気持ちいい。自分自身が風になったようである。
 
 最初は、低速運転でいろいろ試す。急カーブを切ったり、急停止をしてみる。

 思った以上に、乗り心地がいい。俺は嬉しくなってきて、少しスピードを出すことにした。
スピードアップをイメージすると、それだけで速度が上がる。高速でも、車体は安定しているようだ。
 俺は、調子に乗って、さらにスピードアップをイメージした。

 『ひゃっほーっ!』

 点ちゃんもスイッチが入ったな。
 おや、コントロールが利かない。
 あ! 点ちゃんが、運転してるな。

 そう思った瞬間、車体が崖から飛びだした。

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 史郎は、バイク型の点ちゃん4号に乗ったまま空中を飛んでいた。

 前回、ボードで飛んだ時は、怖くて目が開けられなかった。しかし、今回は、座ってハンドルを握っているせいか、それほど怖くない。いや、むしろ爽快である。
 空を飛ぶ浮遊感、そして着地。

 着地時にボードの様な衝撃が無いのは、重力付与を点ちゃんが上手く使っているからだろう。
 厚いクッションの上に降りるような体感がある。

 これはいいな。

 俺は、点ちゃんから方向転換のコントロールを返してもらい、自分から崖に突っこんでいく。

 史郎と点ちゃんは、一気に階段状台地を駆けおりるのだった。

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 史郎は、上の台地に帰るときに、崖の駆けあがりを試してみる事にした。

 さすがに、崖がオーバーハングになっている場所は避けた。
 低速で、崖に近づき、ぶつかる直前に、前のボードを持ちあげる。ウイリーの要領だ。
ボードが崖に近づくと、「付与 重力」を使い、重力方向を崖に向ける。

 お、上がってる!

 4号は、やすやすと、最初の崖を登りきり、宙に飛びだす。着地すると、勢いよく次の崖に突っこむ。
 再び崖を駆けのぼる。

 うはっ! これは、楽しい!

 『わーい!』

 点ちゃんも、喜んでいるようだ。

 史郎と点ちゃんは、階段状台地の逆走を、思いっきり楽しんだ。

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 史郎が、点ちゃん4号をボード練習場横に止めると、練習していたコリーダ達だけでなく、ルルやナル、メルも集まってきた。

 当然のように、まず加藤が食いつく。

 「おい! 
  なんだこりゃっ!」

 娘達は、目をキラキラさせて4号を見ている。

 「パーパ! 
  何、これっ?」

 「なんか、凄い」

 ルルも興味深々である。

 「シロー、これは何ですか?」

 「新しい乗り物だよ。
  今は俺しか運転できないけど、その内に皆のも作るからね」

 「「わーい!」」
 「やったぜ!」

 俺は、ナルとメルを後ろに乗せて、それぞれ1週ずつ練習場の周りを回った。二人は喜んでくれたが、やはり自分で操作するボードの方が楽しいのだろう。すぐに、ルルと一緒に、崖ジャンプをしに行った。

 俺は、機体の微調整を済ませると、点収納に仕舞った。
 皆のボード練習を見に行く。

 加藤、イオ、リニア、コリーダ組では、コリーダが一番上手い。

 ボードを乗りこなすにのに力は関係ないので、加藤は思ったより苦戦しているようだ。
 イオは、低速の運転なら、かなり上手い。ただ、スピードを出すのは怖いようだ。
 リニアは、片手が無いせいか、バランスが取りにくいようで苦戦している。彼女が嫌がらなければ、そのうち舞子に頼んで腕を治してもらおう。

 ふと、横を見ると、ジェラードが長身を棒立ちにして呆然としている。先ほど言葉を交わした護衛の女性に尋ねる。

 「彼は、一体、どうしたんです?」

 「そ、それが……」

 女性が向けた視線の先には、コリーダがいた。

 「コリーダさんが、シローさんの奥方だと聞いてから、あの状態です」

 あちゃー、本気でコリーダの事、好きになっちゃったのか。

 「若様も、ウブでいらっしゃいますから……」

 ウブ?

 「つかぬことをお尋ねしますが、ジェラードって何歳ですか?」

 「少し前に、20歳になられました」

 ええっ! あれで20歳……。いや~、末恐ろしいというか、何というか。これから、多くの女性を泣かせるんだろうね。今日は、女性に泣かされちゃったみたいだけど。

 『やれやれ。ご主人様は、なんかダメですねぇ』

 えっ? 点ちゃん、それは無いでしょ。


 今日も点ちゃんに呆れられる、史郎だった。
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