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第七章 天竜国編
第5話 天竜の加護
しおりを挟む赤竜の騒動があった翌日、史郎達は、初日に天竜からもてなしてもらった大部屋に呼ばれていた。
今日は、数名の人化した天竜がいるだけで、部屋は飾りつけもなくがらんとしている。大きな敷物が、広げられており、全員がそこに案内された。
白髭のお爺さん姿に変わった天竜の長が、敷物に座った俺達の前に平伏する。
「モースが、お約束した通り、皆様に加護をお渡しします。
僭越ながら、この私めがその役をお引きうけします」
彼は、一度額を地面に着けると、立ちあがって呪文の詠唱に入った。
仲間の身体が、ぼんやり青く光りだす。ただ、俺とナル、メルは、変化が無い。長が、いぶかし気な顔で、俺とナル、メルを見た。
皆の光が収まると、長が俺に話しかける。
「シロー殿、あなたと真竜様には、どうしても加護がつきませなんだ。
何か、お心当たりはおありですかな?」
「ちょっと待ってください」
おーい、点ちゃん。
『(・ω・)ノ はいはーい』
パレットにスキルや加護の情報が出せるでしょ。
『(・ω・)b いつもご主人様がやってるやつですね』
あれって、他人のスキルも見ることができる?
『(^ω^) できますよー』
簡単に言ってくれるね。それって、凄い能力だよ。戦う前から敵のスキルが分かっちゃうんだから。他人のスキルは、どうやって見るの?
『(u ω u)b その人に、点さえ付ければいいんですよ』
『え?
たったそれだけ?』
『(・ω・)ノ□~* 点を着ける前に、その人専用のパレットを作っておいて、そこに情報が送られるイメージを保持した状態にしておけばいいんですよ』
とにかくやってみるか。パレットを作って、それからイメージ保持と。ルルに確認を取ってから頭の中で「加護」と念じ、パレットをタップする。
お! 出てきたな。
神樹の加護 未来予知(弱)
天竜の加護 物理防御(弱)
ああ、ルルは、以前に獣人国の神樹様から、未来予知の加護もらってたもんね。
『(・ω・)ノ ご主人様ー』
『何だい点ちゃん』
『(・ω・)ノ□ 他の人にも作るなら、パレットに名前をつけとくといいよ』
『あ、そうだね』
こうして俺は、一気に九人分のパレットを作った。皆に許可をもらって、一人一人加護を確認していく。
コリーダ、リーヴァスさんは、特別な加護を持っていることが分かった。
まず、コリーダのパレットは、次のようなものだった。
歌姫の加護 歌唱力上昇
天竜の加護 物理防御(弱)
「コリーダ」
「何? シロー」
「君の母上は、歌が上手(うま)くなかったか?」
ここで言っている「母上」は、すでに亡くなったダークエルフの義母である。
「ええ、すごく上手(じょうず)だったわ。
それが、何か?」
あることに気づいたが、あとで二人きりになったときに教えてやろう。
「うん、後でね」
リーヴァスさんの加護は、凄いの一言だった。
ジンの加護 速度増加(強)
という最初の加護に始まり、たった今もらった天竜の加護まで、数えきれないほどの加護がある。数が多いので、画面が3度スクロールした程だ。加護は、プライバシーそのものだから、詳しいことは、いつか時間があるときに尋ねよう。
ナルとメルの加護もチェックする。
古代竜の加護 物理攻撃無効
あー、やっぱり付いてるよね。
当たり前か。お母さんドラゴンが、二人を守るために付けたんだね。これも後で教えてあげよう。
自分の加護も一応確認したが、以前と変わらず、
古代竜の加護 物理攻撃無効
神樹の加護 未来予知(弱)
というものだった。
待たせた事を長に謝り、俺とナル、メルに加護が着かない理由を話す。
「な、なんと、真竜様から直接に加護を……」
長が呆れたように言う。
「それでは、なにか他のものを考えておきまする」
史郎は、長にお礼を言ってから、皆と部屋に戻った。
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まず、二つある部屋の広い方に全員入ってもらい、小さい方の部屋で一人ずつパレットを渡すことにする。
ミミとポルは、『物理防御(弱)』の加護に大喜びしていた。まあ、加護ってめったにもらえないみたいだから当然かもね。物理防御って、冒険者にぴったりの効果だし。
次に、イオに加護の事を話す。
「お兄ちゃん、よく分からないよ」
「うーん、そうだな。
誰かに、がつーんと殴られても、ぽこっくらいですむってことだよ」
「ああ、そういうこと。
なら、物凄くトクしたってことじゃない」
イオは、ニコニコして、部屋から出ていった。渡したばかりのパレットを置き忘れている。まあ、彼女には、あまり関係がない能力かもね。
次は、コルナ。
「えっ!?
物理防御の加護?
凄いじゃん。
やったー!」
とても喜んでいる。
『(u ω u)b ご主人様、これが加護をもらった時の正しい姿です。
勉強してください』
わ、分かりました、点ちゃん先生。
次に、リーヴァスさんにパレットを渡す。
「リーヴァスさん、申し訳ありません。
これを作るときに、最初と最後の加護だけ見てしまいました」
「あはは、何か気になさっている様でしたが、そんな事ですか。
お気になさらず」
リーヴァスさんは、笑って許してくれた。
次は、コリーダだ。パレットを渡し、加護の出し方を教える。彼女も、加護の内容に喜んでいた。
「私、みんなみたいに、いろんなことが出来ないから、この加護がもらえて本当に嬉しいわ」
コリーダは、自分自身のカリスマと歌の力がどれほどのものか、分かっていないようだ。
「コリーダ、君は自分の事を知らなすぎるよ。
俺は、君の歌を聞くたびに魂が震えるよ」
彼女は、俺の顔をまじまじ見た後、吹きだしてしまった。
「ぷっ、あはははは。
シロー、あなた時々、とんでもなく面白いわね」
まあ、ここは笑われておこう。
「その歌のことだけど、これ見てごらん」
俺は、彼女が今回もらった加護の上にある「歌唱力上昇」という文字を指さす。
「これが何?」
彼女は、まだ気づいてないようだ。
「これはね。
おそらく、亡くなった君のお母さんが残してくれたものだよ」
コリーダの動きがピタリと止まる。
「お母さんが?」
「ああ。
それがどういうことか分かるかい?
君のお母さんは、最初は任務で仕方なく君のお母さん役を演じていたのかもしれない。
でも、本当に君を愛していたんだよ。
君だけが彼女を愛していたんじゃなかったんだ」
話の途中から、コリーダは、涙が止まらなくなった。俺にすがりつくと、「お母さん、お母さん」と繰りかえしながら、胸に顔を埋めて泣いた。
「よかったね、コリーダ」
俺は本当に嬉しくて、彼女の背中を優しく撫でてやった。
最後は、ナルとメルだ。ルルも一緒に入ってもらう。まず、三人に加護の説明をした後、自分でパレットを操作してもらう。
「シロー、なぜ私と二人の加護が違うのですか?」
ルルの加護は、「未来予知(弱)」と「物理防御(弱)」で、ナルとメルは「物理攻撃無効」だからね。
俺は、床に三枚のパレットを並べ、その周りに三人を座らせた。
「今回、俺達がもらえたのは、この加護だけなんだ」
ルルのパレット上にある「物理攻撃(弱)」の文字を指さす。
「これを見てごらん」
三つのパレットの横に、俺の分も並べる。
「あ、パーパと私、同じ」
「うん、ここが同じー」
ナルとメルが、そこに気づいたようだ。
「パーパのこれはね、ナルとメルのお母さんにもらったものなんだ。
つまりね、ナルとメルはこの加護を、お母さんからもらったってこと」
俺は二人が泣くかなって思ったけれど、彼女達の反応は予想外のものだった。
「わーい、これお母さんからのプレゼントだね、やったー」
「やったー」
二人は、嬉しくて飛びはねている。俺とルルは、自分達が流している涙を隠すように、ナルとメルを抱きしめるのだった。
皆が待っている大きい方の部屋に俺達が入っていく。なぜか、皆から拍手が起きた。俺からみんなへのプレゼントを紹介しておこう。
「このパレットだけど、加護を見る以外にもいくつかできることがあって、その一つがメール機能だよ」
「お兄ちゃん、メールってなに?」
「手紙の事だよ、イオ。
最初に相手の名前を口に出して、ここに文字を書けば……」
俺が、「コルナ」と口に出して、パレットに指で文字を書く。
「コルナ、パレットを見てごらん」
コルナが、自分のパレットを手に取る。
「あっ、何か書いてある。
なになに、『コルナのしっぽは、モッフモフ』って、何よこれ」
コルナの顔が赤くなる。皆が笑っている。
「念話だと、相手が寝ていたら使えないでしょ。
何かしてたら、邪魔になるしね。
これだと、いつでも見られるから便利だよ」
皆の反応がどうも薄い。
「シロー、念話の方が便利では?」
ルルも、今ひとつ、メールの便利さが感じとれないようだ。
「まあ、使ってみてよ。
その内、便利だと気づくことになるよ」
俺は、ナルの名前を口にすると、画面に彼女の似顔絵を書いた。
「あっ、何これ?」
「それはね、ナルだよ」
「うわー、パーパありがと!」
「メルにもー」
「はいはい、今書くからね」
「わーい!」
上手くも何ともない俺の似顔絵は、二人に気に入ってもらえたようだ。それを見たみんなが、お互いにメールのやり取りを始めた。
「うわー、これ面白い」
食いつきがよかったのは、イオだった。やっぱり、年齢が低いと、慣れるのが早いのかな。ところが、その次に食いつきがいいのは、リーヴァスさんだった。
「おお!
これだといつでもルル達に連絡できますな」
しばらく練習していたら、皆もメールの便利さに気づいてくれたようだ。
「あー、専用ケースを作っておいたから、いつもはこれに入れておいて」
皆に、透明化の点を付与した薄手のケースを渡す。ケースの片側が開いており、そこからパレットが入れられるようになっている。
「入れちゃうと見えなくなるから、置いた場所を忘れないでね
あと、絶対に加護など大事なことを表示したままにしないこと」
「「はーい」」
「最後に、このパレットの機能は俺が別の世界に行くと使えなくなるから。
でも、使えなくなっても、捨てちゃだめだよ。俺が同じ世界に帰ってきたら、また使えるから」
「「はーい」」
みんな、生徒の乗りだね。
こうして、史郎達は、スマホもどきを手に入れることになった。
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