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第七章 天竜国編
第25話 目覚め
しおりを挟む史郎は、竜王に光る神樹の最期を伝えた。
それを聞いても竜王様は悲しそうな様子は見せなかった
『偉大な存在は我らを守っておる』
そういう謎めいた言葉をもらしただけだった。
俺と点ちゃんは、真竜廟から出て、「枯れクズ」があった平原に、光る神樹から頂いた透明な球を埋めた。
深さの指定がなかったので、少しずつ深さを変えて埋める。
仕事が終わると、急いで真竜廟へ戻る。なぜなら、今日は最初の卵をかえす予定だからだ。
俺が竜王の部屋に入ると、すでにみんなは青いドーナツ型の「ゆりかご」近くに集まっていた。コルナは「宝の湯」から出てきた竜王様を魔術で乾かしている。
竜王様は、おそらく儀式の前に身を清められたのだろう。
『かたじけないのお。
そういう繊細な魔術は苦手での』
竜王様にお礼を言われ、コルナが照れている。
『さて、みなの者、ここまでの手伝い大儀であった。
今から、生誕の儀をとりおこなう』
竜王様は、その巨体を「ゆりかご」のごく近くまで持っていった。
多言語理解の指輪でも翻訳されない不思議な音の連なりが念話を通して入ってくる。竜王様の右手が青い光をまとった。
それは、「ゆりかご」が発している光と同じもののようだ。
竜王様の右手がゆっくり青いチューブの中に入っていく。
引きだされた竜王様の手には黒い卵が掴まれていた。あらかじめ用意してあった、円形のクッションの上にそっと卵が載せられる。
竜王様は、同じことを三度繰りかえした。
生誕の儀が終わると、よほどエネルギーを遣ったのか、竜王様が大きな息をついたように見えた。彼は、俺達に指示を与えると、部屋の隅に行き、巨体を横たえると動かなくなった。
俺達人族と天竜族数名は、丸い形をしたクッションの周りに集まった。オレンジ色のクッションに触れてみると、ほんのり暖かい。
なにか、懐かしくなるような暖かさだ。
そうして、三十分ほど経った頃、小さな音を立てて卵の一つにひびが入った。先ほどからしていたカリカリという音が大きくなる。
卵から大きなかけらが落ちると、中から黒い赤ちゃん竜が顔を出した。
体長30cm余りの赤ちゃん竜は、必死に卵の縁を乗りこえると、よちよち歩いてルルの前に来た。つぶらな目でルルをじっと見ている。
ルルを母親だと認識したようだ。いわゆるインプリント(刷りこみ)というやつだ。これは竜王様の指示で行っている。きっと彼なりの考えがあるのだろう。
二体目の竜は、コルナの前に、三体目の竜はコリーダの前に来た。
三人は、竜王様が用意していた液体を少しずつ赤ちゃん竜に飲ませている。
ワタのようなものに含ませた液体を口にくわえさせるのだ。間違って、赤ちゃん竜がワタを飲みこまないようにと注意を受けていたので、三人とも緊張した顔をしている。
いつもは、騒ぐ子供達、ナル、メル、イオも真剣な顔で静かに見守っている。
三体の赤ちゃん竜は、ゲップをすると、それぞれの「母親」に擦りよった。
三人が、赤ちゃん竜を抱いてやると、すぐに寝息を立てだした。
子供達が近よって見ている。すごく触りたそうだが、我慢しているのが分かる。竜王様からは、三日したら子竜に触ってもよいという許可が出ているので、それまでの辛抱だ。
俺は、母親役三人のためにコケットを三つ出す。ルル達が赤ちゃん竜を抱えたままそこに横たわる。
ここからが大変だ。母親役が寝がえりを打たないように、絶えず見守らなければならない。赤ちゃん竜が押しつぶされちゃうからね。
俺達は、母親役一人に二人ずつ見張りをつけ、その見張り役は三交代制にした。幸い、アーティファクトの中に、時計に似たものがあったのでそれを使う。
点ちゃんによると、その世界に合わせて文字盤の針が一日に一周するらしい。どうやって、その世界の一日を感知しているのか、まさに不思議な道具だ。
母親役の三人より見張り役の方が大変で、昼夜関係なく、母親役がコケットに横たわるたび、神経をすり減らしていた。
竜王様が言っていた通り、三日目になると、赤ちゃん竜が自分でその辺をちょこちょこ歩きはじめた。体が一回り大きくなった赤ちゃん竜は、体表も硬くなってきた。
竜王様の指示で、見張り役が解放される。解放された俺達と天竜は、交代で休みながら赤ちゃん竜の世話を始めた。
これは、最初の三日間とは違い、すごく楽しかった。とにかく赤ちゃん竜がかわいいのだ。キュウキュウと鳴きながら、よちよちと自分の母親役を追いかける。
「宝の湯」で、赤ちゃん竜の身体を洗うのは、人気の仕事だ。まだ浴槽には入れられないので、シャワー用のアーティファクトで洗ってやる。
暖かいお湯が気持ちいいのか赤ちゃん竜は目を細める。時にはそのまま寝てしまうこともある。赤ちゃん竜の気持ちよさそうな顔には、本当に癒される。だから、みんなこの仕事をしたがった。
赤ちゃん竜は一週間ほどで、体長が50cm近くなった。
ポルが遊び相手をしているとき、赤ちゃん竜に10mほど飛ばされるということがあった。物理防御(弱)の加護があってこれだ。
天竜の若者も飛ばされていたのでポルが非力というより、古代竜が強いのだろう。
赤ちゃん竜が遊ぶときには、俺、リーヴァスさん、ナル、メルの誰かが付いていることにした。
三週間すると、赤ちゃん竜は1mほどになり、「赤ちゃん」と言うには大きすぎるサイズになった。ただ、母親役に対しては、いまだに甘えていて、いつでも後ろをついて歩いている。
それぞれの母親役が話す言葉もなんとなく理解しているようだ。多言語理解の指輪も着けていないわけだから、ルルの竜はアリストで使われている言葉を、コルナの竜は獣人の言葉を、コリーダの竜はエルフの言葉を理解していることになる。
竜王様とは、竜の言葉で念話しているようだから、三体ともすでにバイリンガルだ。
赤ちゃん竜の世話がひと段落ついたので、史郎は、三週間前に森に埋めた光の玉がどうなったか見に行くことにした。
-----------------------------------------------------------------------
『(@ O @) なんじゃ、こりゃー!』
点ちゃんの決まり文句が出るのも当たり前だ。ほんの三週間前に玉を埋めた場所には、10mはあろうかという「光る木」が生えていた。
しかも、小さいながら、根元に近いところに、顔のようなものがある。これって神樹様だよね。
俺と点ちゃんは、他の四か所も見てまわったが、全て神樹様が生えていた。光る球は、光る神樹様の種だったんだね。
史郎は、すっくとそびえたつ光る神樹の姿に励まされるような気がするのだった。
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