たぶんきっと大丈夫

ももくり

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6.恋しちゃったみたい

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 翌朝。

 聞き慣れない生活音のせいで目覚めた私は、ブラウスとスカートを身に着けてからリビングへ向かう。

「おはよう、華」
「おはよう、須賀さん」

 一瞬重なった視線を素早く逸らし、彼は怒涛の如く謝罪の言葉を口にする。

「ごめん、本当にごめん、なんかもう俺もトシなのかな?こんなことは今まで無かったんだけど、自分としてはほんの少し眠るつもりで、でもまあ結果的には一晩眠りこけたワケなんだけど、とにかく反省してる。すっごくすっごく反省してる。迷惑かけて誠に申し訳ない!」
「もういいよ、過ぎたことなんだし。それより郷田さんにきちんと御礼言ってね」

「は?郷田って、誰?」
「ショットバーにいたバーテンさんで、ここに私達を泊めてくれたの」

「バーテン?バーテンがなんで客を泊めたりするんだよ」
「さあ?でも本人曰く、自分も酔って色々と周囲から助けて貰うことが多いから、今度は助ける側に回りたいとか何とか言ってたけど…」

「そんな理由で?」
「そんな理由で」

「いやあ、そうじゃないだろ。目的は華じゃないのか?まさかお前、何もされてないだろうな」
「残念ながら、されてない」

「『残念ながら』って、そいつ…もしやイケメンなのか?」
「べらぼうに好みの顔」

 ここでガチャリとドアの開く音がして、続けて足音が近づいたかと思うと、須賀さんの背後からニョキリと郷田さんが顔を出す。

「おはよ~、よく眠れたかい、2人とも」
「ぅわああっ、吃驚したあッ!あ、貴方が郷田さんですか?この度は迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたッ」

 須賀さんってば、驚きながらも目が郷田さんの顔面に釘付けだし。

 そして郷田さんの方は須賀さんを華麗にスルーして、私の両頬をその手で包む。

「あー、もしかして化粧したまま寝ちゃったの?可哀想に、気持ち悪かったでしょ?洗面所に行けばクレンジングも洗顔も、あとは基礎化粧品も揃ってるから使うといいよ」
「ありがとうございます」

 って、ツッコミどころ満載なんですけど。

 男性の一人暮らしでソレが揃ってるってことは、付き合っている彼女がいるという意味でしょ?いくら成り行きとは言え、私なんかを泊めて大丈夫なのかな?

「ところで、そろそろ名前を教えて欲しいんだけど」
「え」

 そう言えば私、名乗ってない!これほどお世話になっておきながら、自己紹介すらしていなかっただなんて、なんたる無礼!!

「俺の名前は郷田武志ゴウダ タケシ。ジャイアンの本名と同じだと指摘されるのは、もういい加減飽き飽きしてるから言わないでくれると嬉しい」
「はい、えと…じゃあ、改めまして私は中島華ナカジマ ハナです」

 >俺は須賀龍といいます。

 素早くカットインしてきた須賀さんに興味が無いのは丸わかりで、一瞬だけ彼に愛想笑いを向けた郷田さんはスグに私の方へと視線を戻した。

「年齢は幾つ?俺はね、今年32になるの」
「27歳です。そして彼氏はいません」

 訊かれてもいないのにそう答えたのは、サービスのつもりか、それとも売り込みたかったのか、自分でもよく分からない。

「俺も今、彼女いないよ」
「うっ」

 激しく色気ムンムンな郷田さんの表情に思わず唸ってしまう私。

 >おーい、もしかして俺、見えてませんか?
 >透明人間にでもなっちゃったかな、アハハ。

 須賀さんの自虐ギャグに肩を竦めるポーズで反応してみせながらも、見詰め合うことを止めない私達。

 ダメ!
 ダメだってば!

 分かってるでしょ?
 こんな男に惚れたら、絶対自滅する。

 …そう、母さんみたいに。

「くうう。華ちゃん、本当にメチャクチャ可愛いな」
「ありがとうございます、よくそう言われます!」

 抗っても抗っても惹かれてしまう。

 何か目に見えない強烈な力で背中を押されている…そんな錯覚をしてしまいそうになるほど、私は郷田さんに惹かれているらしく。

 最早それは、誰にも止められそうに無かった。
 
 
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