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2.義兄と私
しおりを挟む…その経緯はこんな感じなのである。
広田奈緒26歳。
8歳の時に母を亡くし、某電力会社勤務の父に育てられた。前職はアパレル企業の社長秘書。現在は工業機械製造販売会社の秘書課に在籍。数年前の自分だったら、『特筆すべき点は何も無い』と言っただろう。
…だが、有る。
今の私には特筆すべき点が山盛りで有る。
まずは1年前に婚約破棄した。
お相手は元勤務先の会社の得意先でもある、そこそこ大きな会社の社長令息だ。こんな私なんぞに一目惚れしたとかで、両社長を巻き込んで攻め込まれ。四方八方を埋め尽くされて逃げ道を無くし、『得意先を失うことになるかもしれない』等と普段は威厳たっぷりな社長に泣きつかれ、脳みそバーンした私は承諾したのである。
…結婚を。
交際ではなく、結婚というところがミソだ。相手のことをまったく知らない状態で結婚って。いま思えばまったく無謀なことをしたが、当時の私は本当におバカさんだったのだ。
その婚約者は可もなく不可もなくという、
まあハッキリ言えば平凡な容姿で。
パッと見は穏やかそうなのに、これが全然。余程甘やかされて育ったのだろう。気に入らないことが有ると癇癪を起こし、人や物に当たりまくった。外食先でウエイターにスーツを汚された時は、そのウエイターにメインディッシュを頭からぶっ掛けた挙句、土下座させるような男だ。
とにかくいつでもどこでも、平気で声を荒げていた。付き合い始めの頃はとても優しかったのだが、徐々にその本性を現し。残念ながら気付いた頃には既に遅く、式場まで予約してしまっていたのである。
好きでも無いし、尊敬も出来ない。こんな人となぜ結婚しなければならないのか。夜も眠れないほど嘆き苦しみ。結婚してしまえばこの苦痛が一生続くのかと、また泣き崩れて。激しい葛藤の末、父に相談したのは挙式2週間前のことだ。
一人娘だったせいもあるのだろうが、望まない結婚をさせるワケにはいかないと父が矢面に立ち。婚約者の家で破談に向けての話し合いを延々と続けて。本人はもちろん、その親からも罵倒され。2人揃って畳に額を擦りつけ、ようやく承諾を得たはいいが、500万円もの慰謝料を請求されてしまい。
相場より高額であることは知っていたが、これ以上ことを荒立てたくないという理由で即座に要求を呑み、父に立て替えて貰った。就職を機に1人暮らししていた私はさほど貯金が無い上に、この件で退職を余儀なくされたため都内の実家へと移り住むこととなるのだが、ここでもまた事件が起きるのだ。
いつの間にか父が結婚相談所に登録しており、そこで再婚相手を見つけて既に同居していたことが判明。相手もバツイチで一人息子がいるのだと。
そう、その“一人息子”が辰野室長である。
もちろん、義兄がたまたま同じ職場にいたとか、そんなドラマチックな展開では無い。そして最初から彼が同居していたワケでも無い。両家顔合わせを兼ねた食事会で、秘書経験者だと伝えたところスカウトされ。父にお金を返済しなければならない私が早急に再就職を決めたくてその話に乗り。職場でだけ顔を合わせる予定だったはずが、とある事情で同居することになったのだ。
キーワードは“潔癖症”である。
先に父のことを説明しておくと本当に私と血が繋がっているのか疑いたくなるほど、神経質かつ潔癖症な人で。世の中、上手い具合に出来ているらしく、母は恐ろしく大らかで雑な人間だったと聞く。
そりゃそうか。
もし両親が2人とも神経質だったら、子供は神経質のエリートとして育てられ逃げ場が無くて大変だ。いや、我が家の場合はその母が夭折したので、いつしか私自身が“雑で大らか”部門を担い。狂ったようにあちこち掃除しまくる父に、ブレーキをかけるのも私の役割となっていた。
そんな父が結婚相談所なんぞに登録したのは、私が婚約した際に自分の将来を改めて考えたら急に怖くなったとかで。突然死はまだ良いとして、心筋梗塞やクモ膜下などで倒れて発見が遅れ、半身不随になれば周囲に迷惑を掛けてしまうと。周囲に迷惑を掛けないためにも再婚…という答えに辿り着いたと言うのだ。そして父は秘密裡に行動した結果、ポム●ムプリン似の可愛いお相手を見つけ、同居までしていたのである。
それを引っ越し直前に知らされたショックときたら…。
婚約破棄でバタバタしていた私を気遣い、どうしても言えなかったと父は説明したが、本当は自信が無かったのだろう。神経質な自分に付き合える女性なんて、そうそういないと分かっていたから。ところが意外や意外、ポム●ムプリンは健闘し、上手に父を操縦した挙句に呆気なく入籍。
なんてことは無い。
ポム●ムプリン…もう面倒なので義母と呼ぶが、この義母の前夫も神経質な男性だったそうで、しかも一人息子もその血を受け継ぎ神経質だと。だから神経質な男性には慣れていたのである。
そうして始まった3人での新生活は
なんだかんだ言って実に快適だった。
…あの男が来るまでは。
辰野豊が我が家に訪れたのは、本当に突然で。
しかも、引っ越しトラックと同時だった。
そう、彼はいきなり同居すると言ったのだ。
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