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4.部屋での秘めごと
しおりを挟む「は…い?」
返事が疑問形になったのは、行き先が豊さんの部屋だったからで。ずっと入室禁止と言われていたソコが、いきなり解禁になったことに驚いたのだ。取り敢えず豊さんに続き、彼の部屋へと足を踏み入れる。
ファサッ、…ストン。
驚いて声も出なかった。なぜなら目の前のその人が、きゅ、急に部屋着を脱ぎ始めたのである。
>奈緒ってオットリしてるから。
>そうそう、どんなことにも動じないよね~、
>冷静沈着を絵に描いたみたいな女だわ。
昔から周囲の人々にそう言われ続けた私だが、さすがにこれは驚き、無言のままで固まった。しかし当の本人はどこ吹く風だ。彼は部屋着である薄手トレーナーとインナーを脱いだかと思うと、それを丁寧に畳み。スウェットパンツは穿いたままで正座する。
な、なにコレ?
コレなに???
どうやらそこそこ鍛えているらしく、私の目線は、ほどよい感じの胸筋に釘付けだ。しかしココで恥じらったフリをしておかないと何を言われるか分からないと考え直し、必死で喉元辺りに視線を固定するよう努力したのに。
やはり好奇心には勝てず。
ついウッカリ、頭頂部を下げてしまうのである。…そう、視線ではなく眼球自体を下げたワケだ。
照れるわあ、殿方の乳首が目の前に。
いつの間にか気付けばガン見状態。
そう、立派な痴女の誕生である。
「すまん、これを背中に塗ってくれ」
意識がトリップしていたので、豊さんの声が幻のように思えた。それを察したのか、彼はもう一度繰り返す。
「この軟膏を背中に塗ってくれないか?」
「うえっ、は?!ナンコー??」
そしてようやく説明を受ける。
豊さんは軽いアトピー体質なのだそうで。一年中ではなく、冬限定で発症するはずが、今回は転居して環境が変わったせいか、春であるにも関わらず症状が出てしまったと。
「どうやら副作用が懸念される薬らしく、塗り過ぎ防止の為、1回の診察で医師が処方してくれる量が異常に少ないんだよ。しかもこの軟膏、伸びが悪いというかさ、薄く塗ろうにも背中だから、手が届かなくて。今までは母に頼んでいたがその母も今はいない。申し訳ないが奈緒さん、頼む」
相変わらず、上から目線の『頼む』だが、まるで日焼け止めを塗られる人みたくベッドに横たわるその姿は、妙に可愛い。
…萌え。
確かにちっとも伸びない軟膏をひたすら背中に塗っていると、太腿横にダラリと置かれていた両腕が突然動き、スウェットとボクサーパンツをクイッと下ろし始めた。
「な、なにをうッ…」
「ついでにこの辺りも頼む」
引き締まったシミひとつないヒップは、男性下着のモデルになれそうなほどだ。やだこれ鼻血でそう。セ、セクシーだよ豊さん。
>踊り子には手を出さないでください…。
遠くでストリップショーのアナウンスが響く。もちろん、私の脳内でだけ聞こえる声である。
「美尻ですね」
「ああ、そうかもしれないな」
心臓バクバクでこめかみの血管切れそうなのに、私は努めて冷静に振る舞う。どうやら豊さんも私を意識しているようで、エクボが出来るほどお尻を引き締めていた。
…萌え。
こうして誰にも言えない秘密の時間が、このあと毎日続くのである。
「あ、広田さん、来客予定が変更になったから。早急に応接室を片付けておいてくれないか?」
「はい、かしこまりました」
…うん、プリンちゃん。
心の中で勝手にそう呼ぶ。
だってあのお尻。
エクボが出来るまで引き締めていたソレが、最近では私に心を許してプリンプリンしている。あんなものを見せられてしまうと、どんなにコキ使われようとどんなに無理難題を言われようと全部許せてしまうから不思議だ。
人間とはそういう風に出来ているに違いない。
なんだかんだ言って、
人肌に触れると嬉しいのだ。
それが例え心の通い合っていない相手でも、この手に触れているだけで誰よりも身近な存在だと勘違いしてしまいそうになる。自慢じゃないが私の軟膏塗りテクは、日々、進化を遂げており。
「…あ、そこが凄く気持ちいいな。もっと揉んでくれ」
「はいっ、かしこまりました」
今では軽くマッサージまで加え好評を得ている。
レッツエンジョイ奴隷生活!!
ビバ!イケメン神経質男!!!
たぶん、一人暮らしから4人での生活になって、話し相手がいることの楽しさを知り。それが2人になっても手放したくないのだろう…誰かと一緒に暮らすということを。
「なあ、奈緒さん」
「はい、何でしょうか?」
「キミはイヤじゃないんだろうか」
「はい、何がでしょうか?」
普段、強気に見える豊さんも、徐々に本心を見せてくれるようになった。それはこうして、自宅で軟膏を塗っている時に曝け出されることが多いように感じる。やはり人は、他人に尻を見せるとついウッカリ心も見せてしまうのかもしれない。
「だから…その、俺はすごく面倒臭い男で。キツイことばかり言うから、一緒にいても楽しくないだろう?会社でも自宅でも心安らぐヒマが無くて、本当は逃げ出したいと思っていないか?」
…萌え。
その顔は枕に埋めているが、
きっと照れて真っ赤だろう。
「いいえ、全然。私はご存知のとおり、図太い神経の持ち主です。どんなに無茶を言っても挫けませんからね。遠慮せず、私には甘えてくださいな」
「…う…ああ……とう」
蚊の鳴くような声で呟かれた『ありがとう』の言葉に身悶えする私。そしてついウッカリ、禁断の質問をしてしまう。
「あの、豊さんってココに来る前は1人暮らしでしたよね?その時はどうやって軟膏を塗っていたんです?」
「ああ、彼女に頼んでいたよ」
右から左に流れた言葉が、物凄い勢いで戻って来た。
彼女彼女彼女彼女…。
神経質なこの人に、いるワケが無いと勝手に思い込んでいたその存在に、今さら驚く。
…そっか、彼女いるんだ。
ナゼかショックを受けている自分自身に、これまた驚きまくっていた。
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