clean freak に恋をして

ももくり

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7.別居話だったはずなのに

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 ……
 一度関係すると後はなし崩しで、どちらから誘うでも無く幾度も体を重ね。そうこうしているうちに、父から一度こちらに戻って来ると連絡が入った。

「うわあ、お土産、何でしょう?1週間もこっちに泊まられたら、私たちの関係がバレちゃうかもしれませんね。あ、でも、いっそ伝えてしまいますか?うふふ、私は全然構いませんよ」
 
 だって仕方無いではないか。私の常識ではセックス=恋人同士の行為で。てっきり真剣に付き合っているとばかり思っていたのに。残念ながら彼の返事は冷たいものだった。
 
「…は?伝えられるワケないだろ?それ、本気で言ってるのか??」
「え…っと、ハイ…じゃなくて、いいえ」
 
 そっか。
 
 身内に手を出すなんて、余程の覚悟があったに違いないと勝手に解釈してしまっていた。でも、そんな上等な考えじゃなくて。単に手近で便利だから、私を抱いただけなのだ。よく考えたら、好きとも何とも言われてなくて、いつでもどこでも安定の塩対応で。
 
 これで付き合ってると思い込むとか、
 私って、相当イタイ女だよね。
 
「奈緒さん、今の話をちゃんと聞いていたか?」
「今の?ごめんなさい、聞いていませんでした」
 
「はあ?!な、なんで聞いてないんだよッ。ったく、本当は聞いてたんだろ?!俺はもう二度と言わないからな!!」
「え、あ…ご、ごめんなさい」
 
 悩んでいる最中に何かモゴモゴ言っていたが、聴き取り難かったのだから仕方ない。そしてそれを聞かなかったことで、この人を怒らせてしまったようだ。
 
「本当に、何をやってもまだまだ半人前だな。そんなだから放っておけないんだよ。ったくもう、面倒臭い女だな」
「はい、誠に申し訳ございません」
 
 なんだかもう、何もかもが嫌になっていた。
 
 これほど尽くしても、この人にとって私は疎ましい存在でしかなくて。抱き人形程度としか思われていないことに。徐々に打ち解けているつもりだった。…そして、もしかして愛されてるかもなんて期待したのに。
 
 やはり現実は厳しいようだ。
 
「ええっ?!な、奈緒さん??どうして泣いているんだ。お腹でも痛いのか?」
「な、何でも無いですっ。お願いだからもう放っておいてくださいっ」
 
「いや、だから先程も言っただろ?俺はキミを放っておけないのだと」
「そこを頑張って突き放してくださいよっ」
 
「それが出来たら世話無いって」
「もっと冷酷にならないと生きていけませんよ」
 
「俺はこれで十分、冷酷だと思っているんだが」
「そ、それはそうですけど」
 
「いや、それは奈緒さん以外に対してで、キミにはかなり優しく接していたつもりだぞ」
「ぜ、全然、優しくないですよぉ」
 
 ボトンボトンと涙が零れ落ちる。それを自分の部屋着でグイグイ拭きながら、豊さんはひたすら困った顔をしていた。それを見ながら私は決心するのだ。もうこれ以上、一緒に住むことは出来ない。この家を早く出て行こう…と。しかし、残念ながら1人暮らしを始めるにも、ネカフェやホテルで宿泊するにも、先立つものが必要だ。
 
 その先立つものが私には無いのである。
 
「あ…そっか…」
「何が『そっか』なんだ?」
 
 いつも通りの朝の風景。いわゆる卓袱台でいかにも日本人の朝ご飯を黙々と食べながら私はその思いつきを伝えた。
 
「もう豊さんのマンションは改装済ですよね?」
「ああ、そうだが」
 
「もう住める状態なのに、豊さんは精神衛生面で納得出来ずココにいる」
「だからそれがどうした」
 
「だったら私、そこに住んじゃダメですか?もちろん水道光熱費は払いますし、家賃も、あの、家族価格でサービスしていただけるととっても嬉しいですっ」
「……」
 
 えっと、あの、どうして??
 そんなこの世の終わりみたいな顔を。
 
「やっぱり奈緒さんも同じなのか…」
「は?同じというのは、誰とでしょうか?」
 
「絶対にダメだ!あのマンションは貸さないッ。どんなに面倒だろうが、このまま俺と一緒に暮らして貰うからな!!」
「ええっ、で、でもっ。ずっとこのままでいられるワケ無いですし…」
 
 これほどまでに抵抗されるとは思ってなくて、驚きながらも少しだけ喜んでいる自分がいた。
 
「…あの、もしかして将来、恋人が出来た時に血の繋がらない兄と妹が2人きりで1つ屋根の下に暮らしていたと知ったら、疑われますよ」
「……」
 
 む、無言??
 
 ていうか疑われるもクソも無い。実際にそういうことをしておきながら、何を言っているのだろうか私ってば。
 
「えっと、もう近所では変な噂が立ってまして。先日、向かいとお隣のオバさんたちがですね、『あの背の高い男の人、お婿さんかと思っていたら再婚相手の息子さんなんですってよ!年頃の男女を2人きりで暮らさせるなんて、親はいったい何を考えているのかしら』とかなんとか私に聞こえるように言ってました」
 
 ボロボロボロ…。豊さんの箸から豪快に落ちていく納豆の粒たち。ああ、それ掃除するの、きっと私なんだろうな。そんな悲しい想いでその塊を見つめていると、彼は呆けたような表情で私を眺め出す。

「そうか、そうだよな。世間一般ではそう思われてしまうのか。それは申し訳ないことをした」
「いえ、分かっていただければ良いのです」
 
 ここで一気に、別居話を進めようとしたのに。納豆ベタベタの親指で眼鏡フレームを持ち上げ、豊さんは斜め上なことを言い出すのだ。
 
「うん、そうだな、結婚してしまおう。それが一番の解決方法だと俺は思う」
 
 
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