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20.だから、いいんです
しおりを挟む…えっと、なんだか不穏な空気が漂っている。さすがの父も戦意喪失した様子でガックリと肩を落とし、お義母さんは申し訳なさそうにこう言った。
「奈緒さん、こんな変わり者で本当にいいの?本当に後悔しない??返品は利かないのよ??やだもう、せっかく母さんが褒めたのに台無し」
そんなボヤキを聞き流し、豊さんは東吾を威嚇し始める。
「…というワケで、そこのキミ。その昔、お義父さんに『別れろ』と言われて即OKしたそうだが、その時点でもう失格だな。努力もせずにスグ諦めるような男には、大事な娘を任せられないというものだ。どうせまた、奈緒さんと復縁を希望したのも奈緒さんに家事や犬の世話を押し付けて、自分は仕事だと嘘を吐いて遊び歩こうと思った…という感じじゃないのか?切れていない女が数人いることは調査済だぞ」
「はっ、はあ?!女?そ、そんなワケ無いだろッ」
動揺しまくりの東吾に豊さんはニヤリと微笑む。
「俺の情報収集能力を舐めないで頂きたい。瀬尾東吾、西山産業営業部勤務。社内では総務部の高坂明美と交際2年、社外では東部商事の丸山明日香と交際半年、奈緒さんをそのハーレムに加える気か?残念ながらそうはさせないがな!!」
鼻高々な豊さんに向かって私だけが拍手を送り、父と義母は複雑な表情を浮かべていた。たぶん、計算尽くなのだと思う。自分の評価を上げる為にワザワザここで、東吾の悪行を晒したに決まっている。単純な父のことだ。きっと『女にだらしなくて娘を軽んじている男』よりも『浮気はせずに娘を大切にしてくれる男』の方を気に入るに違いない。
「…ゴホン。えーっと、豊くん?許そっかな。その、奈緒との結婚」
「おとうさん!!それは本当ですか?!」
「キミに『おとうさん』と呼ばれる謂れは無…」
そう言い掛けて父はハッと気づく。
「有るよな…。もう義理の息子だ。クソッ残念。このやり取りに少しだけ憧れていたのに」
「どうぞどうぞ。俺は別に気にしませんので」
「じゃあ、仕切り直してもう一回言わせて貰う。お前に『おとうさん』と呼ばれる謂れは無い!」
「あ、はいっ、失礼しましたッ」
2人とも棒読み。なんだかシラッとした空気が流れたその時、東吾が帰ると言い出し、立ち上がった。玄関の鍵を閉めるために見送ろうとすると、豊さんも一緒について来る。努めて平然を装っていた東吾だが、最後の最後にこう言った。
「じゃあな、奈緒!そいつとお幸せにッ。でも、俺がお前の初めての男だという事実は、変えようが無いんだけどな!アハハハ」
嵐が去った後、豊さんは無言で奥へと消え。それから豪快に塩を撒きまくる。
バッサーッ、バッサーッ。
「あの~、豊さん。それを掃除するの、私だと思うのでそろそろ勘弁してくれないですかね?」
「え?ああ、もうちょっとで終わるから大丈夫」
大丈夫じゃないし。全然、大丈夫じゃないし。父の靴が塩まみれになっているから、綺麗にしないと後で大騒ぎするに決まってるし。
日付が変わりそうな時間帯に、ひたすら玄関掃除を始める私。事情を察したお義母さんも手伝ってくれて、最終的には玄関で一家勢揃い状態に。
「奈緒さん、冗談抜きで御礼を言わせて。本当に豊を選んでくれて、有難う」
「いえ、あの、選んだのでは無く、選んで貰ったというかですね…」
「こんな風にあのバカ息子のことだから、家事ばかり増やしてコキ使われると思うけど。どうか勘弁してやってね」
「いいんですよ。だって…」
その後は恥ずかしくて言えなかった。だって豊さんは私を奴隷だと思っていなくて、天使か女神だと思っているのですから。だから、いいんです。女なんて単純だから、そう思ってくれているだけで、家事だって何だって頑張れるんですよ…と。
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