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21.おのれ辰野豊!!
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数日後。
「いったいどうなってるんだ、秘書課は?!今世紀最大の寿ラッシュじゃないかッ」
早速、婚約を公にしたのだが、社長の第一声が先の言葉である。一応、秘書課にも朝礼らしきものが有り、それぞれ持ち回りで3分間スピーチをするのだ。本日のスピーチは豊さんで、まだ発表は早いという私の制止も聞かずにそれは堂々と宣言したのである。
「えー、私ごとでは御座いますが、先般、同課の広田奈緒さんと婚約が整いまして。既に同居しておりますので取り急ぎご報告まで」
いやいや、同居っつうか、婚約前から一緒に住んでたし。そこんとこ、そんな風に言っちゃうワケ?ま、別にいいけど…と思いながら、私は社長を始めとする重役陣に会釈しまくる。
寿退社した前任のエリザさん、
次期社長と結婚間近な千秋ちゃん、
彼氏と婚約中の真理恵さん。
これで秘書課の独身は残り3人だったのに、私と豊さんが婚約すると残りは京香さんのみ。この気まずさをどうしてくれよう。女同士って難しいからねー。日頃、仲良しこよしで付き合っていても、いつそれが変わるかなんて誰にも分からないし。ましてや京香さんは最年長で現在、彼氏すらいないのだ。
胸中、察します。もし、自分がその立場だったとしたら絶対に震えちゃう。ここは刺激しないように、なるべく普段と変わりない態度でいくぞ!…と意気込んだのに。
「奈緒!ちょっといいか?」
「たっ、辰野室長?!どうして名前呼びで…」
「アッハッハ!もう公表してしまったんだし、隠す必要も無いかと思ってな」
「い、いいえッ。仕事とプライベートは分けていただかないと」
「そんなツレないことを言うのは止めてくれ」
「あまり浮かれていると足元を掬われますよ」
この調子でどんなに忠告しても豊さんはダメで。京香さんの冷たい視線に耐え切れず、私はあからさまに彼を避けるようになり。すると、千秋さんや真理恵さん、そして私の新婚旅行のための長期休暇対策として、ピンチヒッターを育成せよと専務が言い出し。なんと受付から羽村さんがやって来た。そう、交流会にて最後まで豊さんに食らいついた猛者である。
一旦、豊さんを斬り捨てたはずの彼女なのだが、なぜか毎日行動を共にしていくうち明らかにラブい雰囲気になっていくのだ…。
「辰野室長!おはようございます。昨日、指示を受けたリスケですが、朝一番に行ないました。残念ながら先方の希望日時と異なる為、再調整したいのでお時間宜しいですか?」
「おはよう、羽村さん。もちろんいいとも。ではその資料を持って、ミーティングルームに行こう!」
甲高い声でキャピキャピしていたはずの彼女は、仮初の姿だったらしく。業務中は落ち着いた声で話せることが判明。しかも予想外に仕事も出来るし、責任感も有る。気付けば秘書課の全員と打ち解けていて、わずか2週間で古株の如き佇まいである。
この私ですら、豊さんと砕けた会話をする迄に半年ほど時間を要したと言うのに。それを羽村さんは3日で達成した。…たぶん最短新記録だと思う。しかも婚約者の私の目の前で、豊さんを食事に誘ったりベタベタ触ったりする。こ、これは闘いを挑まれているのだろうかと内心ドギマギしていると、意外な事実が判明。
「えっと、ごめんなさい奈緒さん」
「はあ、何に対する謝罪ですか?」
「私もう黙っていられません」
「だから何を?」
豊さんは朝から社長に同行していて、不在。給湯室で女子トークをしていても叱る人がいないので伸び伸び喋っていたのだが、そこで羽村さんが打ち明け出す。
「実は辰野室長から頼まれていまして」
「室長から??」
その依頼内容は意外と言うか、らしいと言うか。“広田奈緒さんの前で自分とイチャイチャして、彼女に嫉妬させて欲しい”というものだった。
「お願いですから、ヤキモチを妬いてください。私もうこれ以上、“婚約者がいる男に手を出す非常識な女”だと思われるのはイヤなんですっ」
「おのれ辰野豊!!自分達の色恋沙汰に他所様を巻き込むとはっ!分かったわ、羽村さん。今まで本当にごめんね。何やってんだか、あの男!!まったくもう」
「いえ、あの、でも、誤解しないでください。最初は室長から恋愛相談を受けて、私の方からヤキモチ大作戦を提案したんですよ。それが目論見違いで、奈緒さんの反応が薄かっただけと言うか。あの、私からお願いするのも変ですが、もっと…その、室長に構ってあげてください…」
思わず私の頬が真っ赤に染まる。32歳の成人男性が、25歳のキャピキャピギャルに恋愛相談って。何してくれてんだ、辰村豊よ。確かに職場では冷たくあしらったし、自宅では両親が未だに滞在中なのでそこそこ距離を保って接しているのだが。
ちくしょ、悩んでいたのか。
…まったくもって可愛いな。
ニヤニヤが止まらない私は、終業後に豊さんをデートに誘い。彼が嫌がりそうな場所へ連れて行くのである。
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