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<零>
その3
しおりを挟む…ん??待てよ。
『世襲制』『跡取り』『タテワキ』って、
う、うえええええっ??!!
こ、この人もしかして、
天下の帯刀グループの御曹司??!!
はいはい、先生ッ。
いま気付きましたッ。
ようやく事情を把握しましたッ。
「特にここ3か月は地獄だったよ。冗談抜きで毎日見合い話を持って来られて。いきなり相手を連れて来たことも有ったな。俺の貴重な時間を平気で奪うんだ、あの母は」
「そ、それは大変でしたね」
惚れ惚れとするような憂い顔で課長は海よりも深く頷いた。
「とにかく1度でも結婚しておけば、それで満足するはずだ。先程も言ったように1年でいいから。後は性格の不一致とでも適当に理由を付けて、離婚してしまおう。
俺は母からの攻撃を躱す為に、
お前は弟の学費を稼ぐ為に。
…な?どっちも損はしないじゃないか」
「えっと、フリだけですよね?まさか本当に入籍するワケじゃ…」
「ウチの母の恐ろしさは追々知って貰うが、フリだけではきっと見破られる」
「ええっ?!だって結婚ですよ??籍ってそんな気軽に入れたり出したりして良いものなんですか?」
「…この場合、背に腹は代えられんだろう。俺だって1000万円も支払うんだから、相応の代価を払って貰わないとフェアじゃない」
「ということは、偽装とは言ってもほぼ本格的な結婚生活を送るんですね?」
「そんなの当たり前だろう。ウチの母を侮るな」
「ぷぷっ。どんだけお母さんが怖いんですか?」
「…俺はな、母似なんだよッ。だからあの人の行動が手に取るように分かる」
ということは、お母さまも粘着質で神経質で威圧的で猜疑心だらけの人間なんですね??
「そ、それは確かに怖いかも…」
「今まで結婚のケの字も匂わせていなかった息子が、突然結婚なんかしてみろ。婚姻届は役所に提出するまでを自分もしくは他の誰かに依頼して最後まで見届けるだろうし、新婚家庭にも何度でも突撃してくるぞ。特にお前は嘘が苦手そうだからな。なるべくリアルに振る舞えるようにしないと」
リアルって…。
「そんなワケで夜の相手もして貰うから」
「セ、セセ…ごにょ…スも、ですかッ?!」
「当たり前だろう?新婚早々、浮気なんぞしているのがバレたら俺の社会的地位も危うくなるからな」
「そ、そんな~、無茶過ぎますよ」
「アホか。27歳のヤリたい盛りの男だぞ?1年間もセルフだけで我慢出来るか、ボケ。そこんとこも込みでの1000万円だ。…さあ、どうする。早く返事しろ」
私は課長が苦手だ。なぜならこの人はとても冷たい。例えば仕事に関する説明などでも、普通だったら相手に理解して貰おうと思い、分かり易く説明するではないか。なのに、課長は違う。情報を小出しにし、それを元に考えろと言う。そして間違うと容赦なく、正解するまで何度でもやらせるのだ。
確かに自己判断力は培われるが、大抵の人は最初の段階で挫ける。だから課長の周囲には、私みたいにワケアリでメンタル極強の社員か、叩き上げでガツガツしたオジサン社員か、体育会系のド根性社員しかいない。
この人はどうやら私生活でも同様の手法らしく、後出しジャンケンみたいにして少しずつ情報を追加してくる。
「…何度も言うがな、副業は禁止だから。この店は必ず辞めて貰うぞ。お前がもし服務規律に違反すると、上司である俺まで監督不行き届きで罰せられる。どうしてもと言うなら、ウチの会社を退職しろ」
「そ、そんなあ~」
「情けない声を出すな。別にいいだろ?俺と暮らせば生活費も浮くぞ。それに自分で言うのも何だがな、俺みたいな男と結婚すればお前に対する周囲の評価も上がるだろう。…違うか?」
結婚すれば大金が手に入り、生活もラクになる。もし断れば、仕事を失って暮らしに困る。しかも、本来ならば高嶺の花であるこの男と結婚出来ると言う付加価値まで付いてくると。
ちくしょ、選択の余地なんて無いじゃないか。
「…分かりました、結婚します」
「だと思った」
きいいいいいっ。
何なのその態度ッ!!
「最後に1つだけ教えてください」
「なんだ?」
「どうして…その、私なんでしょうか?」
「そんなの決まってるだろう、お前は俺のことを嫌ってる。他の女にこの話を持ち掛けて、本気で好きになられても面倒なだけだからな」
敗北感に襲われ、下唇を噛み締めていると課長は爽やかにこう言う。
「おい、お前はもう俺のモノなんだから自分で傷なんかつけたりするな。では後ほど簡単な契約書を作成しておくから必ず熟読しておくように。俺は横井社長との商談に戻る」
「え、あ、はい。お疲れ様でした」
『じゃ』と右手を軽く上げ、振り返りもせずに彼は去って行く。
後に残された私は途方に暮れた気分で
ただただ歯ぎしりするしかなかった…。
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