かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その23

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 ダ、ダメダメ!
 だってこれ偽装だから。

 1年限定だと分かっていて、ナゼ本気で好きになるのかと私は自分に問いたい。それに、この人の『零が好きだ』発言は、どれもこれも偽装を隠す為のラブラブアピールなのだから。

 いいか、血迷うなよ、私。何事に於いても一生懸命になる人だからこそ、いや、手を抜くということを知らないせいで、仕方なくウチへ滞在することになっただけだ。

 本当だったら私なんぞが帯刀の家にお嫁に行けるワケが無い。

 …ん?
 でも偽装だとお嫁に行けちゃうんだよね。
 じゃあ、本当でも行けるじゃん。

 …って、ナシ!
 今の絶対にナシ!!
 変な期待をするんじゃないッ。

 という調子でしばらく寝ずに悩んでいたら、突然薄闇の中で白目が浮かび上がる。

「なんだ、起きてるのか?明日も仕事なんだからもう寝ろ」
「は、はい」

 素直に返事をして瞼を閉じると、途端にギュウギュウと抱き締められた。続けて私の髪に鼻を埋めたかと思うと、課長は思いっきり息を吸い込んで呟く。

「はあ…、本当に零はいい匂いがするなあ。もう、堪んねえ」
「ふふ、おやすみなさい、変態さん」

 余程眠いのか『おやす…』で言葉は途切れ、そのまま規則正しい寝息が聞こえてきて、それにつられ私も睡魔に襲われてしまう。

「んふ…大好きですよ、変態さん」

 思わず口をついて出たその言葉に『俺もだよ』と返事が有った気がしたけど、たぶん都合の良い夢だったのかもしれない。





 …………
「あ、課長、それはまだですってば。水切りした豆腐をこうして薄切り肉で巻いて、片栗粉をまぶして焼いた後にタレを絡めるの」
「零は、豆腐ダイスキだな」

「そんなに好きじゃないけど、こうやってお肉をかさまししてるんです」
「なるほど!賢いなお前」

 珍しく課長が早目に仕事を終えたので一緒に晩御飯など作っているのだが、何もかも豪快過ぎるのが困りもの。

「う、ああっ、何してるんですかッ」
「え?こうするとまんべんなく行き渡るだろう」

 そんなに高い位置からコショウを振ったら、後で掃除が大変なだけだし。サラダ用に洗ったレタスも、そんなに強く水を絞ったらシナシナになるよ。

 お、おお?!トマトときゅうりの種は全部取る派ですか??なんかもう食べるところが無くなりましたけど。

「さあ、次は何を手伝おうか?どんどん言いつけてくれ」
「し、白和え用にゴマをすってください。粘りが出てくるまで、永遠に」

 う、ええっ。なぜ流し台とガスコンロの間で作業するのか?そんな場所でされるとすごく邪魔なんですけど。

 せっかく手伝ってくれているので邪魔とは言えずに目で訴えてみると、課長は私から褒められると勘違いしたのか思いっきり照れている。

 てれてれ、てれてれ。

 ちくしょ、可愛いな、おい。
 なんだこの生き物。

 白和え用に水切りした豆腐を、思わず片手で粉々にクラッシュしてしまう私。その動揺を隠すために話題を変えてみた。

「そう言えばほら、課長の手配してくださったセレブ奥様御用達の料理教室、キツイですわ~」
「は?キツイとは」

「ウチの近所のスーパーでは入手出来ない食材オンパレードで、しかも味付けもハーブだらけ。あんなの家で作る気しませんよォ」
「やっぱりか。でもまあ、何事も勉強だからな。帯刀フーヅにはハーブやスパイス部門も有るし、輸入食材部門も有る。知っておいて損は無いぞ」

 そっか、端からそういう意図で通わせていて、ああいう料理を作って食べさせろという意味じゃなかったんだな。

 ふむふむと小刻みに頷く私に課長は言う。

「そういや零、あの教室の生徒達とはソリが合わないとか言ってただろ?」
「え?ああ、まあ…ちょこっとだけですけど」

 なんて言うのは嘘で、全然まったく相容れない。奴らは自分のことをお姫様だと思っていて、平民の私をことごとくネチネチ虐めてくるのだ。

>ここに置いてあった私のエプロンが無いわ!
>ええっ、やだあ。盗まれたのかしら?

>サロネーゼを目指す女性の中に、
>そんな方がいるとはとても信じられなくてよ。

>あら、でもほら。
>サロネーゼとは無縁の方が1人いらっしゃる。

 サロネーゼって何やねん。

 たまに課長が言うアレ?
(※それは「堪んねーぜ」)

 パスタソースで挽肉たっぷりのアレ?
(※それはボロネーゼ)

 お水のバイトしていた時、
 誰かがカラオケで歌ってたアレ??
(※それは『残酷な天使のテーゼ』)

 脳内で綺麗に三段落ちを決めていると、課長がすり鉢からゴマを飛び散らしながら言う。

「なんか茉莉子さんもそこに通うってさ」

「は?!だって料理なんか習う必要無いでしょ、あの家には料理人が2人もいるのに」

 段々と読めて来たぞ。きっと課長が兄嫁に頼んでくれたのだろう。…零が肩身の狭い思いをしているから、一緒に通ってやってくれと。

「もしかして嫌か?茉莉子さんと仲良くなれるし、一石二鳥だと思ったんだが」
「嫌じゃありません。私、茉莉子さん好きだし。えっと、課長…有難うございます」

 何もかもバレていることが恥ずかしいのか、はにかむその姿に思わず悶え。私は再び豆腐を崩しまくった。

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